ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

文字の大きさ
79 / 584
閑話

〈閑話〉ファイルヒェン・ドライ・メネクセス その2

しおりを挟む

大陸歴 576年~


学園を卒業して、冒険者としての活動を本格化した。
学園にいる間に銅ランクとなり、長期休みには リズモーニ王国にある初級から中級のダンジョンにも挑戦した。
銀ランクに上がるには、初級ダンジョンを単独踏破する必要があり、パーティーでの中級踏破も必要だったからだ。
学園で冒険者登録をしている友人たちと組んで何度か潜り、3年の頃には 辺境伯に仕送りもできるようになった。前辺境伯は 稼いだ金を自分の為に使えと言ってくれていたが、これまで育ててもらった貸しがある間は何となく気持ちが落ち着かないからと、送りつけていた。

闇属性の魔法は 学園でも特殊な扱いとなっており、基本魔法の授業では習うことがなかった。
俺自身 得意属性に記載はしなかったから、俺が闇属性を持っている事を知る学生もいなかった。

学園には大陸中から生徒が集まり、様々な種族の生徒たちと出会った。
海人族のマリアンは青い髪が美しい生徒で、暇さえあれば学園の噴水に浸かっている。
彼女の見た目は人と変わらないが、海人族の中には 魚の特徴が強い者も多いという。魚の特徴が強ければ強いほど、海から離れて生活が出来ないらしく、殆どの海人族は海のある港町や 海で生活をしているらしい。
彼女は海がなくとも生活できるようだが、やはり水に浸かっている事が至高らしく、授業のない時にはこうして噴水で過ごす。
数名の海人たちの為に 学園にはいくつか噴水や池があり、彼らはお気に入りの水場で楽しそうに過ごしている。

ドワーフ族も非常に多くて驚いた。
彼らは 成人後に気に入った場所から動くことが殆ど無いらしく、トルマーレ辺境伯には1人しかいなかった。夫婦だったのだが 奥さんが他界し、子供は学園を卒業後 共和国を旅している途中に終の棲家を決めて、帰ってくることはなかったらしい。
トルマーレ辺境伯に彼らの興味を持たせるだけの魅力がなかったのだろうと、前辺境伯が言っていたのを思い出した。

様々な種族の彼らと友誼を結び、各国から来ている人たちとも交流を持ち、大陸中を素直に冒険したいと思った。
元々は メネクセス王国や トルマーレ辺境伯に帰りたくないという理由だったのだが、そうではなく純粋に 友人たちから聞いた場所に行ってみたくなったのだ。

友人たちとパーティーを組むことも考えたが、自分の瞳について告げることが出来なかった。
学園にいる時にも、時々メネクセス王国の話は噂話で聞こえてきた。
王太子は菫色の瞳だけど、第二王子は濃紫の瞳だから、第二王子が王になることはない。
あの王家では必ず菫色の瞳を持つ者が王になるらしい。だから前王の弟たちはどう転んでも王になれなかったのだ、などだ。
地元にいる時以上に、他国にいる今の方が菫色の瞳を隠す必要性が重大になってしまったのだ。
落胤でも菫色の瞳というだけで持ち上げられてはたまらないからな。
この事実を告げてしまえば、王と関係がないけれど 友人たちに危険が迫るかもしれない。
とてもじゃないけど告げる気にはなれなかった。


そうしてダンジョンには その街でしばらく過ごして 冒険者の為人を調べ、仲良くなったらダンジョンに潜る為臨時パーティーを組む。という生活を過ごしていた。

1年ほどそうしてソロ冒険者として活動していた時に、同じくソロで活動しているアイリスと出会った。
魔法使いの彼女は出会った時には 水と木魔法を得意としていると言っていた。
学園で風魔法も使えるようになっていた俺は、自分が得意ではない魔法を使えるアイリスとソロ同士で行動することが増えた。
2歳年下の15歳のアイリスは 10歳から冒険者活動をしているらしく、既に銀ランク中級だった。
俺は当時銀ランク初級になったところだったので、年下の彼女に負けているのが悔しかった。

半年ほど 臨時でパーティーを組んでいたけど、アイリスと一緒に過ごしているととても気が楽だった。彼女は平民だというのに、学園にいた友達にも負けない程 知識があるし、なにより独創的な行動が多かった。何より、彼女自身に俺が惚れてしまったというのもある。

出会って1年目、16になったアイリスに臨時ではなくパーティーを組まないか誘ってみたら「もうパーティー組んでると思ってた」と笑われた。
正式にパーティーを組むことになったので、俺の秘密を打ち明けることにした。

「アイリス、君に伝えておくことがあるんだ。驚かないで聞いてくれるか?」

色変えの魔道具を外し、菫色の瞳を見せる。
あの船旅を終えてから、誰かに見せるのは初めてだった。

「へえ~、綺麗な色だね。隠してたの勿体ないね」

「え?それだけ?」

「ん? もっと驚いた方が良かった? 
え、え~~~~!茶色いお揃いの目だと思ってたのに違ったなんてぇぇぇ。とか?」

あまりにも普通の反応だった事に驚いたけど、なんだかホッとした。
一応メネクセス王国の王族にある色だから、王族の落胤じゃないかって言われていた事も告げたけど「色だけで難癖付けられるのは面倒だよね」と言われただけだった。

「あ~、フィルが秘密を教えてくれたなら、私も伝えておくね?
驚かないで聞いてくれる?」

さっき俺が言ったのと同じように聞いてくるので、なんでも来いと笑って答える。
いつも一つに纏めている髪留めをクルクルと解き、完全に下ろした髪は 見慣れたブラウンではなく、綺麗なピンク色だった。

「えっ?アイリスも色変えしてたのか?」

「うん、私の本当の得意属性って聖魔法なのね。
10歳の時に ギルド登録するときに職員に叫ばれてさ、危うく王城か教会に連行されるところだったんだよね。
とりあえずその国からは速攻で逃げ出したんだけど、聖魔法とピンク髪って目立つじゃない?
だから 別の二つだけを得意属性表記にして、髪色を変えて国外に出たんだよね」

聖属性だって?
髪色以上に驚きの情報が出てきたが、この1年共に過ごす時に聖属性の魔法を使っているのを見たことはないと思うのだが?

「ああ、回復を水属性っぽく見せてたけどあれ聖属性なんだよね」

更に驚きの発言に、俺は何といえばいい?アイリスの呪文は学園で学んだのとは違い、毎回微妙に違ってはいた。本人曰く「トリガーが合ってれば大丈夫でしょ?」という事だったが、本当は完全無詠唱でも魔法を使うことが出来るらしい。
一応対外的に 呪文を使っているように見せかける為に唱えていたらしい。

俺の『かもしれない』秘密の暴露よりも、本人がやばい情報だらけな事に驚いたが、暴露した本人はあっけらかんとしており、焦っていた俺がバカみたいだと思った。

「もうすぐフィルも上級になれるでしょう?銀の上級までなれば ギルドも無理な依頼はしてこないじゃない?
逆に金に上がれば貴族と関わりを持つ必要が出てくるけど、私は嫌なのね。
だから銀の上級以上に上がる気はないの。フィルは金ランクを目指さないって言ってたでしょう?だから丁度いいかなって思ったの。」

俺もランクアップの時に、金ランク以上は貴族からの指名依頼を断れなくなると聞いて、メネクセス王国に関わる可能性があるなら銀の上級までにしようとは思った。
そうか、アイリスは自分の属性の貴重性から危険性を理解していたんだな。

「だからこれからは髪色も見せて、聖属性も隠さないで良いかなって。
銀ランクの聖属性が使えるピンク髪って目立つじゃない?そうしたら下手に隠れるよりも安全かなって思ったの。巻き込むことになってゴメン。」

両手を合わせて謝ってくるアイリスに力が抜ける。
自衛の為にも冒険者とギルドを味方にすればいい。
余計な手出しはさせないように。俺は近距離が基本だけど、遠距離攻撃もできるし、魔法も火と土と風だけだけど、攻撃防御共に鍛えてきた。
ダンジョンの臨時パーティーで名を上げるならリズモーニ王国に戻るのが良いかもしれないな。

「ば~か。いいんじゃないか?銀ランクって事で周知して、臨時パーティーでバンバン回復見せつけてやればいいさ。俺はそれ以外をサポートするから。
んじゃ、パーティー名どうする?」

「ん~、じゃあ【マンジュリカ】ってのはどう?私が昔住んでた町では 菫の花をそう呼んでたの」

「なんか随分可愛い意味じゃないか?」

「でもみんな知らないでしょ? あの町は冒険者ギルドもない国だったから 出てくるような人はいないし、気付く人はいないと思うんだよね」

まあ俺も 冒険者を続けているうちに、パーティー名にドラゴンを付けるのはないなと思っていたので、マンジュリカで登録することになった。
世話になっていたギルドに二人の素顔で入ったら、一瞬周りがザワっとしたが、俺たちだと気付いて皆が近づいてきた。

「おい、フィルとアイリスかよ。誰かと思ったぞ?」

「まじだ! なんだよ二人してイメチェンか? 色変えの魔道具使ってんのか?」

「やだ~、アイリスの髪 超かわいいんだけど~。え~?コレ地毛なの?」

「フィルの目も違わねえか? お前も随分可愛い色してんじゃねえか」

時々臨時でパーティーを組むような奴らは 遠慮なく肩を叩き、大声で笑ってくる。
なんだ? 目の色を気にしてたのは俺だけなのか?可愛いってなんだよ。

「お二人ともイメージが違い過ぎて驚きました~。今日は依頼ですか?」

「ああ、今日は二人で正式にパーティーを登録しに来たんだ。」

「「「ええええ~~~~!」」」

「お~、やっとか」

「え?ってかまだ正式に組んでなかったの?」

受付嬢に目的を告げれば 数名からは驚きの声が上がり、数名からは未だだったのかと呆れの声が上がっていた。そんな風に見られてたのか?

「そういえば お二人はソロ同士でしたね。 うっかり忘れていました。
初登録は個室対応になりましたが、パーティー登録はここでも個室でも行えますが、どうされますか?」

「ん~、別にここで良いよ? フィルは?」

「俺もここで良い」

そういえば俺が登録した時は「今年から個室で登録することになったのです」って言われたな。それまでは受付窓口でやってたんだったか?
ん?そういえばアイリスは受付で属性を叫ばれたって言ってたよな。

「パーティー名はお決まりですか?」

「「【マンジュリカ】で」」

「畏まりました。それではギルドカードとギルドタグをお預かりいたします」

首から下げているタグを引っ張り出し、ギルドカードと揃えて受付に出す。
アイリスのタグは3つ穴があり、俺のはまだ2つだ。
受付嬢が機械をいじればカードとタグを戻される。
カードとタグに【マンジュリカ】の名が刻まれた。

「お二人はベテランなので今更かもしれませんがパーティーに関する注意事項は必要ですか?」

依頼を受けるにはランク差があると パーティーの平均ランクの依頼しか受けられない
依頼の報酬ポイントは全員一律となる(魔獣討伐は結果のみが報酬となる為、攻撃における功績などは加味されない)
依頼の報酬は 一律で報告者に渡されるため、分割はパーティーで行う事(それによる喧嘩はギルドが仲裁には入らない)
などの注意事項があるのはもう知っているので不要だと答える。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

処理中です...