ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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銅ランク冒険者

第91話 ケーテさんと訓練

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昨日は同じ森にもう一度訪れ、前日よりも少し奥まで入った場所で ウルフを討伐した。
茶色っぽいウルフは 野犬が大きくなったという感じで、想像していた狼っぽくはなかった。
ただ、ホーンラビットに比べれば体が大きく、旅行用の大きなキャリーケースの一回り大きいくらいのサイズだった。

ウルフの上位種、グレーウルフや ブラックウルフは 集団戦をするほどに賢いらしいけど、ウルフは単独で行動しているのが多い。
ただ、足音が聞こえると襲ってくるのはホーンラビットと同じ。
見定めた相手が(子供の)私と思って、何の準備もしないで飛び掛かってくるのは 魔獣というより獣という感じだ。

大きく口を開けて『いただきま~す』という感じで飛び掛かってくるので、空中にいる間に【エアカッター】で首チョンパだ。
3体見つけて、3体ともが 同じ攻撃だったので お父さんも呆れてた。
ウルフは肉が美味しくないという事だったので、2体目からは首チョンパをせず、昨日のファイアボールと同じくらい 小さく圧縮した【ウォーターボール】と【アースボール】で飛び上がる前の眉間にぶち込んだ。

お陰で2体目と3体目は頭の皮も素材採集で剥ぎました。
日本でマタギだった記憶はないけれど、マコールさんの肉屋での解体でも 然程忌避感がなかった私。
これも異世界転生特典なのかな? いや、記憶を探れば お母さんとの二人旅中に 魔獣の解体しているね。
見ているだけではなく、小さいのは やっていたようだ。
転生特典ではなく、お母さんの教育の賜物だったらしい。ありがとうございます。


大きな素材だったこと、単調な攻撃で勉強にならない事、魔法の効果はホーンラビットとあまり変わらなかった事で、ウルフは3体だけ解体が終わったら討伐を終了させた。


◆◇◆◇◆◇


翌日の午後、早めのお昼寝を終えてからギルドに向かう。

「ヴィオ!」

「ケーテさん!」

中の待合テーブルにケーテさん家族が揃っていた。待たせたかと思ったけど、ケーテさん達も今来たところだと言われた。

「ヴィオも討伐に行き始めたんでしょう? 大丈夫だった?」

「うん、多分ケーテさん達が一掃しちゃったっぽくて、裏の森じゃなくて 川を越えたあっちの森に行ったよ」

練習用の森には 生後間もない感じのホーンラビットしかいなかったから、初心者用ではない方の森に行った。浅瀬は然程変わらない生態だから問題なかったし、歩く練習になって良かったと言えば、テーアさんが私との対戦の為に槍での討伐練習を張り切ってやり過ぎたのだと教えてくれた。

ケーテさんのお母さん、テーアさんの武器はバスタードソード。ケーテさんの身体と同じくらいの大きな剣を背中に抱え、時に盾としても使えるという中々ヘビーな武器を使っている。
ただ、ここでの訓練の際にそれを使うのはあまりにも危険なので、槍というか 木の棒で訓練してくれているのだ。
ダンジョンなどで狭い通路の場合は槍を使っていたらしいけど、何分冒険者活動を再開したのが ケーテさんが銅ランクになった先月だからね。
感覚を取り戻すのに無双したんだろう。

「ケーテさん、ダンジョンどうだった?」

「うん、凄く不思議な場所だったわ。行ってきたのは初級ダンジョンだったんだけどね……」

聞きたかったダンジョンの話。お父さんとケーテさんのご両親が話し合いをしているうちに聞いてみる。
初級ダンジョンは、サマニア村から2日くらいの場所にあって、山の入り口に洞窟みたいな入り口があったそうだ。

「1階は 本当に洞窟でね、だけど真っ暗じゃないの。なんとなく薄明るい感じで 空気も澱んでないの。
敵はスライムだけで、水色の柔らかい水の塊みたいな敵だったわ。
透明だから中が見えるんだけど、水の真ん中に核が浮いているの。それを魔法か剣で壊せばいいんだけど、弱い魔法だと届かないし、剣も同じね」

ほうほう、この周辺にはいないというスライムは ダンジョンに行けばお会いできるのですね。
体内の核は動くらしく、弱い剣戟では水圧に負けてしまうらしく、魔法も同じ。
ケーテさんは このスライムを倒せるようになるまで、1階で修行をしたらしい。
しかも 苦労して倒しても 何にも素材は残らないらしくて、大体の冒険者は無視して通るらしい。

「さて、では訓練をはじめるか」

話し合いが終わったらしい大人たちから声がかかり、私たちは揃って下におりる。
私のランクが青銅の間は 貸切にしてもらっていたけど、討伐に出ることが出来るようになったので、今後は他の冒険者とも接する機会があるだろうから、という事で今日は貸切にしていない。
だけど誰もいない訓練場だ。週末はそれなりに訓練に来る人もいるらしいけど、流石に平日は来ないのだろう。

「さて、では誰とやる?」

ウキウキしたタディさんに聞かれるけど、私が選ぶんですか?
ケーテさんも〈選んで〉とアピールしてるし、どうしようかな。

「あなた? 選択はクジにしようと言いましたよね?」

武器保管場所から 棒を持ってきたテーアさんが 冷気を飛ばしているんですが、そんな約束していたんです?
テーアさんによって渡されたクジを引けば、布の先は緑色に染まっていた。
順に全員が引けば、2枚ずつ同じ色になっていたらしく、緑を引いたのはお父さんだった。
青がテーアさんとタディさん、赤がケーテさんとガルスさん、親子、夫婦、兄妹組になったね。

「ふっふっふ、あなたが相手であれば得物はコレでなくても良いわね」

「て、テーア?訓練だからな?槍の練習も始めたんだろう? 槍で良いんじゃないか?」

棒を投げ捨て、腰に下げているウエストポーチからバスタードソードをズルリと引き出すテーアさん。引き攣りながら後退りをしているタディさん。
夫婦の力関係が分かる感じですね。

「今のは父さんが悪いわ」

「まあ、クジの事を言わずにはじめようとしたから仕方がないよね」

兄妹はお父さんのフォローをしない事を決めたようです。

「さて、ではヴィオやるか?」

「うん!」

お父さんとの訓練は武器を使わず、徒手空拳の練習だ。お父さんは受け手だけだけど、私は身体強化をガッツリ使って打ち込むし、蹴るし、本気で行くけど 軽くあしらわれるのだ。

強化と結界をしっかりかければ、グッと沈み込んでから足元にタックルをするように潜り込む。
お父さんは大きいから、この足元にチョロチョロ来られるのを苦手としている。
払いのけるように向かってくる大きな手を躱し、膝の後ろに回り込む。
右膝の裏に掌底を打ち込めば、少しだけ前傾姿勢になっていたお父さんの身体のバランスが崩れる。さらに一撃、と思ったら 直ぐに体勢を整えられてしまい、首根っこを掴まれて投げられる。
空中でクルリと回転して 足から着地、くそう!

「今のは早かったな。掌底も強くなっとる」

嬉しそうに言うけど、全然効いてないじゃん!
背後を狙い、足の隙間を潜り、背中を駆け上がり、色んな方法で攻撃を仕掛けるけれど、悉く跳ねのけられる。じゃれつく猫を構っている感じで悔しい。

蹴りも、掌底も、殴打も、一度は必ず受けてくれる。どれくらいの強度があるのかを確認しているからね。だけど2発目は入らない。
何度も何度も投げられて、他の二組の組手が終了した時点で 私も息が切れきれである。
上手に受け身をとれずに地面を転がることもあるから、土埃で真っ白だ。
ちなみにお父さんは 開始直後と何ら変わらず、汗をちょっとかいてるくらい?

「おお、大分強くなってきておるし、なによりスピードが速くなっておる。筋力がついたな」

「ヴィオ、あの動きの早さ ルンやレンとも同じくらいじゃない?凄いわ!」

ハアハア、ゼエゼエしながら地面に大の字になって息を整えていたら お父さんが褒めてくれる。
全然当たってないのに……。でもはじめは届きもしなかったんだから成長しているって事なのかな。
そして途中から見学していたらしいケーテさんは、黒猫兄弟の素早さにも負けてないと言ってくれた。
学び舎で実際に動きをみている人にそう言ってもらえるのは嬉しい。

「今日はもう一回……は無理そうだね」

ガルスさんの一言に目を向ければ、満身創痍のタディさんと、非常に良い笑顔のテーアさん夫婦の姿。ボッコボコにやられたんですね。
私も今日はもう体力が残ってないです。

ケーテさん達は また明日からダンジョンでの修行に行って、来週の火の日に戻ってくるらしい。
しばらくはそのペースで訓練を繰り返すので、水の日の午後に訓練をしようという事になった。

今度はダンジョンの話もできるように お昼ご飯を一緒に食べましょうとお誘いもしてもらったので、今日の続きをまた教えてもらおう。
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