ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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ダンジョンと他の町 

第103話 ボス部屋挑戦

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小さなウルフが居る階の討伐を終えた翌日は 1日休日にすることになった。

「5階はゴブリンがおるからな。まあ大丈夫じゃとは思うが、人型の魔獣を倒すのは苦手とする者も多い。今日はゆっくり休んで 明日挑戦してみよう。
行けるようじゃったら そのままボス部屋に挑戦してみればええ」

2階はスライムと小さなウルフ、3階と4階は小さなウルフだけだったんだよね。数が増えただけで、上位種になるということも、サイズが大きくなるという事もなかった。
5階にはゴブリンだけだというけど、ボス部屋もその奥にあるんだよね?
ダンジョンは明日入る事になったので、今日は村でゆっくり過ごすことになった。

この村も サマニア村と同じように辺境だから、やっぱり森からは強めの魔獣が出てくるらしい。
ダンジョンの中にいる魔獣はヨワヨワだけど、森にはビッグピッグも 大きなウルフもいるみたい。
村をゆっくり見て回れば、サマニア村と同じように お肉屋さんも、八百屋さんも マッチョが多かった。
彼らもきっと森の魔獣を狩る狩人なんだろうね。
リズモーニ王国の辺境、侮れません!



1日の休暇を挟んで 4回目の洞窟ダンジョンだ。
1・2階のスライムはスルーしても問題ない。
2階以降の小さいウルフは討伐するけど、ドロップアイテムの尻尾は不要なので 放置しておく。
勝手に消えるからそのままだ。
マッピングは済んでいるので、最短距離で5階まで下りていく。

「さて、今日は初めてのゴブリン討伐じゃ。無理じゃと思ったら直ぐに戻ってくればええ」

「うん、分かった」

お父さんは50メートルくらい離れたところからついてくるようにしているので、この階でも同じようにお願いしている。
特にゴブリンは臭いらしいので、獣人のお父さんは出来れば近寄りたくないだろうしね。
私は結界鎧があるので大丈夫だ。
透過しているから見えないけど、蜘蛛の全身タイツ風で安定しているからね。マスクもかぶっている状態なので 呼吸は問題ないけど、臭いの遮断はバッチリOKなのである。
ゴミ捨て場で深呼吸した時に 吐きそうになった事を思い出し、試しで嗅いでみようなんて思わないのだ。

階段は魔獣が出ない安全エリアという事なので、一番下の階段に立ったまま 5階のマッピングをしていく。
魔力を薄っすら伸ばしていけば、いくつかの通路に子供のような人型が2~3体ずついるのが分かる。
そして 多分これがボス部屋だろう、魔力の塊のような壁があるのが分かる。
その中は全く感知できないので、別エリアとなっているのだと思う。

「お父さん、この階は全部で14体のゴブリンがいるみたい。大体2~3体ずついるから それ以上に纏まらないように気を付けるね」

「そうじゃな、それなりに離れとるようじゃから 大丈夫じゃろうが、逃げる時には方向を誤らんように気を付けるんじゃぞ」

敵がいるほうに逃げたら挟み撃ちだもんね。
大きく頷いて 第一ゴブリンがいる場所に向かう。
ノーマルゴブリンは知能が低いという事なので、きっと索敵なんかもできないだろう。
足音は極力立てずに ゴブリンがいる通路まで走り寄り、角から覗き見る。

そこには小さな全身緑色の ザ・ゴブリンという見た目の魔獣がいた。
頭に毛は無く、腰巻だけ巻いている。微妙に腹だけが出ているので、地獄絵図とかに出てくる餓鬼にも見える。でもゴブリンでいいんだよね?

この2体は武器らしきものは持っておらず、爪が長い。
あの爪で引っかかれたら そこからバイ菌が入って感染症にでもなりそうである。
「ギッギッギ」「ギャッギャ」とゴブリン同士では会話をしているように見えるけど、仲良しにも見えない。
2体のゴブリンは 背中を向けて地面を掘り始める。
ダンジョンって掘れるの?
長い爪でカリカリと地面をほじくっているのを眺めていてもどうしようもないので、攻撃することにした。

「【エアカッター】」「【ファイアボール】」

右のゴブリンにエアカッターを飛ばした後、血が噴き出すと思い直して 左のゴブリンにはファイアボールを頭に打ち込んだ。
スパンと頭が飛んで 血が噴き出すと思ったけど、キラキラしながらしゃがんだままの身体ごと消えた。
左のゴブリンも、打ち抜かれた衝撃で奥に倒れ込みながら消えた。

2体がいた場所には 茶色いハンカチのようなものだけが転がっているけど、もしやこれってさっきの腰巻か?絶対臭いじゃないか。
捨て置くこと決定という事でお父さんの元に戻る。

「大丈夫そうじゃな」

「うん、首があるから狙いやすかったね。外では耳を討伐部位で切り取るんだよね。ちょっと嫌かもだけど 多分大丈夫」

心配してくれていたお父さんだけど、ダンジョンだからという理由からか 私も特に忌避感はなく討伐できたね。人型だけど、意思疎通できる相手じゃないし、というか 人だとしても意思疎通出来ないやつもいるしね。魔獣相手と思ってれば大丈夫でした。

そしてお父さんにさっきのゴブリンの行動について質問してみたら、ダンジョンには 森エリアがあるように、木を切り倒すことが出来れば、野菜が生えている場所もあるらしい。
それを目的に潜る冒険者もいるから、掘ることも 採ることもできるんだって。
さっきのも、土の中の虫とかを食料として探していたのではないかという事だった。
破壊することは出来ないらしく、壁をぶち抜くとか、床を掘って 下の階に行くとかはできないみたいだけどね。

ダンジョン内では血しぶきが上がることもないことが分かったので、短剣でも仕留めてみた。
2体が向かってきたので、1体の首をすり抜けざまに右手の短剣で切り裂き、もう1体が腕を振り上げて引掻いて来ようとした腕を掻い潜り、左手の短剣でその腕を切り落とす。
背後に回って首を斬り落とせば 2体が消えて腰巻だけが残る。だから要らんって。

「うん、2体までじゃったら短剣でもええな。
ただ、メイジやハイが相手じゃと 武器を持つ者もおるから 魔法か鞭の方がええかもしれん」

「うん、そうだね。ゴブリンは私と同じくらいの大きさだから何とかなるけど、大きいのだとちょっと危ないかも」

小さいし、力任せに腕を振り回すだけの相手だから これだけの接近戦でも問題ないけど、まだ力が足りない私では、剣が振りぬけなければそれだけで危険だ。
今はお父さんがいてくれるし、訓練だから無茶しているけど、実践では無茶すれば死ぬだけだからね。
殺されかけたことで、この世界がゲームや物語の中ではないことは理解しているからね。
ちゃんと自力を付けて戦えるようにしておきたい。


「さて、ボス部屋じゃが、行けそうか?」

「うん、大丈夫。ゴブリン5体だったよね?」

調べによるとノーマルゴブリンが5体との事。魔法と鞭で攻撃すると告げれば お父さんもOKをしてくれた。
二人でちょっと豪華な扉に手を触れる。
ドアノブとかはないけど、明らかに他にはなかった豪華な扉は『ココがボス部屋なんです』と主張しまくっている。

あんな死にかけ体験をせずに、こんな場所に来ていたらゲーム世界だと勘違いしたかもしれないと思うほどには 違和感が凄い。
まあでもダンジョンはそんなものだと言われたから そういうモノなんだろう。
成り立ち自体も不明だし、考えても仕方がなさそうだからね。

二人で手を触れると ギギ ギギ ギギ と音を立てながら扉が開いていく。
建付けが悪そうでもないのに この音が出るなんて、これも演出なのかな?

聞いていた通り 扉が少しずつ開いていても中は見えない。
強化魔法は既にかけたままなので、バフをかけることもなく、呪文も特に準備の必要はないので ボス出現の演出をその場で待つ。

開くときはゆっくりだったのに、閉まるのは静かにスーっと閉じていく。
最後に『バタン!』と大きな音がしたのは やっぱり演出だと思う。

扉が閉じたら部屋の明りが少しずつ灯り始め、5体のゴブリンが並んでいるのが見え始めた。
何だろう、ちょっと段差じゃないけど 5体がちゃんと静かに並んでいる違和感。
さっきまで通路にいたゴブリンの方が余程自由に行動していたと思う。

彼らはケーテさん達が来て以来、ずっとこうして並んで待っていたのだろうか、それとも 扉が開く前に慌てて集まって並んでくれたのだろうか。
会話が出来ないので分からないけど、演出が終わるまで待つ必要はないと聞いていたので、攻撃してみることにした。

「【ファイアバレット】」

ギルマスに教えてもらった炎の弾である。
魔力をギュっと込めているので、一つずつは小さな弾で、それが弾けるように5方向へ飛んでいき、5体の額を打ち抜いた。

「あっ」

「ああ……」

まさか誰も避けないとは思ってなかったのに、誰も避けなかったせいで 5体が同時にキラキラ消えてしまった。
お父さんも流石に想定外だったのか 固まっている。

「と、登場演出 長すぎたしね!」

「まあ、そうじゃな」

名乗り上げとかがあった訳じゃなかったけど、明るくなるまで長かったし、どこまで明るくなるか分からなかったけど、洞窟内と同じくらいまでは待ったんだから仕方ないよね?
大きなダンジョンなんかだと、ボスを倒すと 宝箱が出てくることもあるみたいだけど、初級ダンジョンだからか、特にそう言ったサービスはなかった。
そして、大きなダンジョンだと ボス部屋の討伐後、奥の部屋に転移陣が現れることがあり、それに乗れば地上に戻れるらしい。
地上からも行けるのかと思いきや、一方通行らしくて、下りるのは自力らしい。
だから大型ダンジョンの踏破者が中々でないんだね。
絶対的に食料とか水は必要になるもん、マッピングできるだけ1回目よりもずっと早く攻略できるとは言え、時間はかかるだろうね。

まあ、でも帰りの安全が確保されるだけ良いとは思う。
死ぬ気でボスを倒して、そこまでに薬も食料も使い果たして、また同じ距離戻るとか 絶対無理だもん。
これもダンジョンの不思議のひとつなんだって。

ただ、この初級ダンジョンでは、宝箱が出ないのと同様に、転移陣も出やしない。
お父さんと二人で同じ通路を歩いて戻る。
一度外に出てからは スライムも小さいウルフも復活してたけど、戻る時には復活していない。
ボス部屋から戻る今も復活していないから何時間とか、復活までの時間が必要なのかな?
本当にダンジョンって不思議がいっぱいだ。
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