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閑話
〈閑話〉メネクセス王国 14
しおりを挟むガシャーン パリーン
「きゃあぁぁぁ」
ダン ガタガタ バーン
「へ、陛下!どうか、どうか落ち着いて下さい!」
「煩い!落ち着ける訳がないだろう!触るな!
何故、何故 アイリスが……うわぁぁぁぁぁ!」
王城の一室、国王陛下の執務室を飛び出してきたメイドは 執務室のある階に一般貴族が入り込まぬよう、廊下の入り口で警戒している近衛兵に助けを求めた。
「陛下が、陛下がご乱心でございます。お助け下さいませ」
ただ事ではないと王の執務室に駆け付けた2名の近衛兵は、室内の惨状に 思わず足が止まってしまった。
王の側には 近衛兵以外に護衛騎士が常についている。
ファイルヒェンは 元冒険者という事もあり、常に1名しか付けてはいないものの、その彼も壁に黒い布のようなもので手足を貼り付けられ動けないようだ。
執務を手伝っている文官は 部屋の隅で縮こまり、ガクガクと震えている。
部屋中に散らばっている書類は 重要なものではないのだろうか。
そしていつも部屋に飾られている花瓶は粉々になり、王が好んでいるというピンクの花も その容れ物から放り出されて散らばっている。
執務室の主である 陛下は 大きな執務机に両手をついたまま 項垂れており、その正面に立つ宰相は床に這いつくばるようにして謝罪の言葉を述べ続けている。
いったい何が起きたのだ?
陛下がこの城に戻ってこられた時、当初は 冒険者出身という事もあり、皆が乱暴者ではないか、怒らせたら何をするか分からないのではないか。その様な心配をして 戦々恐々としていたのを覚えている。
ただ、陛下は言葉こそ 平民たちが使うようなものではあっても、冷静に行動をされる方で、理不尽な怒りを他人にぶつけるような方ではなかった。
勿論 仕事をせず、自分の権利だけを主張するような貴族には、かなり厳しい沙汰を下されることはあったが、それも一度は必ず チャンスを与えてからというものだった。
今の陛下からは、威圧が溢れており、魔力も多少漏れているのだろうか、私も部屋の中に入る事が出来ないでいる。
私たちを呼びに来たメイドに仔細を確認すれば、宰相が陛下に報告があると言い、布に包まれた何かを見せたところ 急に 怒りを露わになさったという。
よく見れば 陛下の右手には 布が握りしめられている。
プルプルと震えている陛下の瞳から ボタボタと大粒の涙も見える。
慌てて駆け寄ろうとすれば、いつの間にか威圧感は消えており、陛下もズルズルと椅子に深く沈みこまれてしまった。
「陛下、申し訳ありません、わたくしの考えが足りなかったことが原因でございます。申し訳ありません、申し訳ありません」
宰相閣下が床に頭を擦り付けながら謝罪し続けているが、陛下は全く目を向けることはない。一体何が起きているのだ。
「陛下、恐れながら申し上げます。ただ今の現状は まだ外部には漏れておりませんが、ガラスの割れる音、メイドの叫び声などは、他部署にも聞こえていた可能性は高く、このままでは誰かに嗅ぎつけられる可能性もございます。
出来れば早急に原状回復を致したいのですが、よろしいでしょうか」
暴れていれば 抑えるという必要もあったかもしれないが、今この場で動いている、というか喋っているのは宰相だけだ。であれば、陛下に進言しても良いだろうか。
「……ああ、そうだな、皆を驚かせてしまった。
しばらく一人にして欲しいから 必要な書類などは持って行ってくれ。怪我をした者は 医務室に行くように」
顔を上げることはないまま陛下が仰り、壁に張り付いていた護衛騎士の黒い布も手を振るだけで解除されたらしい。王族が得意属性としている闇属性の魔法だろうか。
文官は慌てて執務机の周囲に散らばっている書類をかき集め 一礼して部屋を退出した。
メイドは割れた花瓶などの片づけをしたそうではあったが、今はその時ではないと一礼して退出した。
貼り付けになっていた護衛騎士だけは その場に留まっているが、チラリと目線だけで陛下に訴えられ 退室する。多分 屋根裏かベランダに待機するつもりだろう。
そして未だ同じ格好で謝罪を続けている宰相はどうすればよいのだろうか……。
「キミ、それを連れて出てくれないか?」
「は?え、あの……」
まさか宰相の事を言っているのか?
「今それが目に入れば 私は冷静ではいられない。詳細を確認したいが 落ち着くまで時間が欲しい。
だからそれの声が聞こえない場所で、私の目に見えない場所まで連れて出てくれ」
「はっ!宰相閣下、参りましょう」
「陛下、誠に申し訳ございません、誠に申し訳ございません……」
「宰相、参りますよ。おい、そっちを頼む」
こんなに冷たい陛下を見るのは初めてで、宰相も壊れたマリオネットのように同じ言葉を繰り返している。肩に手を置き 促しても立ち上がろうとしないため、もう一人の近衛騎士に左側を支えてもらい、二人で抱き起して 引き摺るように外に連れ出した。
扉が閉まったと同時に、机を叩き割るような音と、嗚咽が聞こえてきた。
本当に、いったい何があったというのだろうか……。
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