ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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ヴィオの冒険

第125話 ルエメイ遺跡ダンジョン その3

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「気を付けて行ってくるんだよ、無理だと思ったら戻っておいで。
冒険者は命あっての物種なんだから、引き返すのは恥ずかしい事なんかじゃないんだからね」

今日の分のお弁当と、数日分の保存食を持たせてくれた女将さんが 私の目を見つめながら 真剣に語り掛けてくる。
そんなに心配しなくても、お父さんがいるから安全は確保されているんだけどなぁ。
でも、心配してくれるのは有難いので、私も真剣に頷きながら感謝を告げるだけにしておくけどね。

「銅ランク冒険者のヴィオさん、銀ランク上級冒険者のアルクさん、お二人でダンジョン踏破を目指し ダンジョン泊をなさるのですね。
お帰り予定は……2週後の土の日?
え?速くないですか? えっと、うちのダンジョンは全10階と階層は少ないですけど、後半は森です。1階踏破に それなりに時間がかかると思いますし、魔獣のリポップも結構早いので 最短距離を歩いたとしても それなりですが……」

「銀の上級が居るなら あのダンジョンくらい何があっても余裕でしょう? 
一応予定日の3日後、聖の日を過ぎても戻らない場合は 捜索に入ります。その際の捜索費用が30ナイルかかりますので ご注意ください」

「ああ、それで大丈夫じゃ、では行ってくる」

「いってきま~す」

他のダンジョンの時もそうだったけど、ダンジョン泊をする場合は ギルドに連絡をする必要がある。言わずに戻らなかったら 捜索されちゃうからね。
登山届と一緒だね。 大体の日程を告げて、それより+α日帰ってこなければ捜索が入るという事。

ダンジョンは 魔獣を倒すと キラキラエフェクトと共に消える。ドロップアイテムは捨て置けば スライムが消化してくれる。
それと同じで、冒険者も消える。エフェクトが出る訳ではなく、スライムが消化する方だ。
冒険者の身体、装備は そのまま放置されていればスライムが食べてしまう。
ただ不思議なことに 冒険者のタグは残されるらしい。スライムが食べたくない素材が使われているのかも知れないけど、ダンジョンで死んだ冒険者は タグだけが残るので、そのタグを見つけた人は ギルドに持って行って報告するという事だ。

初級ダンジョンでも 舐めて軽装で入った冒険者が遭難することはある。
日帰りの時は私たちもギルドに報告はしていないけど、宿にも 門番にも伝えているので、当日中に帰ってこなければ ギルドに連絡はされるだろう。
ただ、村からそれなりに距離があるダンジョンなので、旅の冒険者が 村に寄らず 勝手に入った場合、遭難しても気付いてもらえない可能性が高い。定期的に村の人が入る時に 身元不明のタグが見つかるなんてことも 珍しくはないんだって。

ダンジョンの宿泊を告げた時に心配してくれたのは 人族のお兄さんだった。初日に来た時にはいなかったからはじめましてだね。
もう一人来てくれたお姉さんは 初日におやつをくれた人。
4階までは 屑ドロップアイテムしかないから、特にギルドに寄ることはなかったけど、2日間 しっかりダンジョンで活動をしているのは 村の出入り記録から分かっているんだろう。

奥にいた職員さんも何故かカウンターに出てきていたので、行ってきますの挨拶をしたら、皆が手を振ってくれたので 手をふり返しておくよ。


「ヴィオは どこに行っても人気じゃなぁ」

「ちっちゃい子だからじゃない? 冒険者って 厳ついのとか、むさくるしいのが多いでしょう?
だからだと思う。おっきくなったら普通になると思うから、今のうちに優しさを享受しておくんだ~」

小さいのが可愛いと思うのは万国共通なんだろう。
お肉屋のマコールさんの孫だって、虎だけど3歳の小虎は超絶可愛かったし、コアラの3歳児なんて、お母さんの脚にしがみ付いたまま寝てたし、ぬいぐるみにしか見えなかった。
獣化しちゃう子供達が村の外に出るのはまだまだ先で、7歳になったらそれなりにしっかりしてくる。
その点 私はまだ5歳だし、人族だから小柄だ。
辺境に来る冒険者は地元民以外は それなりに場数を踏んだ冒険者だろう。だとしたら 私なんて 天使にしか見えない筈。
大人になれば 只の人になっちゃうんだから、今のうちにチヤホヤされて楽しむのだ。
お父さんは私の持論に 爆笑してるけど、あながち間違いではないと思うよ?



さて、1日のお休みを挟んでのダンジョン入口だ。
1階は無視だけど、2階からはまた完全リポップしているのは分かっているからね。頑張って行こう!

相変わらず1階の回廊は 遺跡としての趣が残っており とても見ごたえがある。
だけど、今日は5階まで行かないとだからね。2階の階段を目指して 若干速足で行くよ。

2階から4階までの スモールラット、ゴブリン、コボルトを倒して行く。
ドロップアイテムを拾う必要がないので、足を止めることはない。3階と4階を繋ぐ階段の途中で 行動食を食べる。
カ〇リーメイトみたいな 穀物と木の実が練り込まれた栄養食だ。口の中の水分が取られるのが難点だけど、意外と美味しいんだよね。
冒険者用品の店や ギルドの売店で販売しているんだけど、お店によって味が違うらしく、ハズレの店のは超不味いらしい。

「お父さん、この行動食って 自分でも作れないかな」

「あ~、そうじゃな、サマニア村のは美味いから買う方が便利じゃったから考えたことはなかったが、作れると思うぞ」

おお!お父さんなら 美味しいのを作れそう。
お家に帰ったら一緒に作ってみようと約束してくれたので、帰る楽しみがまた一つ出来た。


栄養食を食べ終えれば、再び討伐開始だ。
初級ダンジョンらしく、特に連携を取って襲ってくるわけでもない魔獣なので、危なげなく討伐が出来る。
これが上級ダンジョンにもなると、浅い階層から 結構危険な魔獣も出るし、そもそも階層に罠が仕掛けられていることもあるらしいからね。
全く気が抜けないというのは、上級と言われるだけあると思う。

ダンジョンにいて何が困るって、トイレと時間だ。
トイレに関しては 魔獣が居ない隅っこなんかで マントを使って目隠しをしてササッと済ませるしかない。男の人は良いけど、女の人は 脱ぐ作業があるから大変なのだ。
ラノベや 冒険者もののアニメで 冒険者の女子にスカートが結構いるのは ズボンだとお尻を出さないといけないのが理由かもしれないね。(違います)
お父さん曰く 冒険者の中には 【クリーン】をするからそのままする人もいると言うけど、そんな強者になる自信はない。

あと、ダンジョン内は時間が分からない。
太陽があるようなダンジョンだと 太陽が落ちで 夜が来るという事もあるらしいけど、それが外と同じかどうかは分からない。
今みたいな洞窟系だと 常に一定の明るさがキープされているから 全く時間は読めない。

お父さん曰く 14時頃だろうという事なので、ダンジョンに入って6時間くらい経過していることになる。
夕食には随分早いけど 5階に到着したので 野営の準備を始めよう。
4階までは石畳の通路だったけど、この5階はむき出しの岩で囲まれている。

「【アースポール】」

土魔法で 物干しざおスタイルの石組を作り、そこにテントを括りつける。
テントを入れているのは お父さんの鞄だけど、テントを張るのも、野営の支度をするのも 私一人でやる。

「ヴィオは小さいからな。まずはテントを出してから、低めのポールを作って ロープを括りつけ、その後にポールの高さを上げた方がええんじゃないか?」

お父さんが普段やっている順で ポールから作ったら、高さが高すぎて、ロープでテントを括りつけれない。足台を作ったところで お父さんからアドバイス。
先に言ってくれたらと思ったりするけど、最初から正解を教えてもらっては 私の学びにならないからね。
一度作ったポールを消して、テントにロープを括りつけて準備をする。

「【アースポール】」

私の腰くらいの高さにした竿に、テントのロープを括り付ける。やりやすい。
次は ポールに手を当てて、棒が伸びるようにと魔力を流す。
ニョキニョキと伸びて行く物干しざおは テントをピンと張れるところで 魔力を止める。

「どう?」

「うん、上出来じゃな」

ワシワシ頭を撫でてもらえる。うん、上出来だよね。
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