ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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ヴィオの冒険

第126話 ルエメイ遺跡ダンジョン その4

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テントの準備を早々に終えても まだまだ時間は有る。
という事で、お父さんと二人で 湖の水棲魔獣に挑戦してみることにした。

一応 危険対策として、湖から1メートルくらい離れたところに土壁を作り、その内側から魚釣りならぬ 魔獣釣りをしてみることにしたのだ。
お父さんは 土壁の隣に立っていて、いつでも対応できるようにしているけど、私は土壁に身体が半分以上隠れるようになっていて、ここから出るのは禁止と言われている。

以前 森の川では、蔦を網にして ワサ~と獲っていた。
今回は相手が魔獣だからね。そんな危険は致しません。一本釣りで行きます。

という事で 準備するのは腰に巻いた鞭、これに魔力をスルスル流し、蔦を伸ばしてまいります。
勿論 植物のつる草ではなく、魔力で出来たつる草です。
手元だけが本物で、湖に入るのは 私の魔力で出来たつる草なので、スルスルと 入って行きます。

「便利なもんじゃなぁ。鞭なんて 冒険者で使う者は殆どおらんかったが、この使い方が知れ渡れば、使う者が増えるかもしれんな」

そのうちボンテージを着た冒険者が出てくるかもしれないね。
その場合は ボンキュッボンな女性冒険者でお願いしたいところ。

お父さんが感心している中、湖に入った鞭に 魔獣が引き寄せられて来るのが分かる。魔力の塊だもん、魔獣からしたら餌だよね。
蟹っぽいのが蔦に手をかけてきたので グイっと引き上げる。
釣りみたいに竿を振り上げなくても、自分の魔力だから自由に動くんだけど何となく気分で振り上げちゃうよね。

水の中から引き揚げられたのは 蟹ではなく、ザリガニだった。大きな爪でガッツリ蔦を挟んでおり、空に舞い上がったザリガニは 尻尾をビチビチと跳ね上げながら暴れている。

「おお、クレイフィッシュか」

「爪での攻撃に気を付ければいいんだよね。【ファイアボール】」

ザリガニとはいえ魔獣である。全長20センチくらいあるロブスターにも見える巨大ザリガニに、圧縮したファイアボールを当てる。
ジュッ

ザリガニに当たったファイアボールは 甲羅に焦げ跡を付けたものの、穴は開かなかった。
マジで?

「水棲魔獣は 水魔法を使える者も多い。魔法が使えなくても 水の魔力に包まれていると思った方がええ。つまり火魔法の効果が軽減される可能性が高いと思った方がええぞ」

マジか。
このダンジョンの資料には、水棲魔獣について詳細はなかった。 近づかなければ危険がないから、誰も近寄らないからだ。

火魔法に水魔法は効果があるのに、水魔法に火魔法は 効かないの?
あ~、なんだっけ、陰陽師の人が使うアレ、五行だっけか。“モッカドゴンスイ” とか呪文かよって思った覚えがある。
水剋火ってやつ?水は火を消すだっけか。
ここの魔法にもその法則があるんだね。

怒り狂ってハサミをブンブン振り回しているザリガニを見つめながら、もっとその辺勉強しておけば良かったと反省。
火が駄目でも 他にも魔法はあるからね。

「【エアカッター】」

首というか、胴体と頭の継ぎ目、そこに向けて風魔法を飛ばせば、ハサミを振り上げたままの恰好で キラキラと消えて行く。
残されたのは……ハサミ?
私の手の大きさ程のハサミ部分だけが落ちているけど、これをどうしろと?

「お父さん、これって何かの材料になる?」

「ん?いや、ならんじゃろうな」

ですよね。スライムもこの階にはいないから、ハサミはお父さんが拾って 湖にリリースしてくれた。
その後も 少しだけ釣りをしたんだけど、ドロップアイテムは悉く使える物が無く、魚もいたけど、倒せばキラキラ消えてしまうので食料にすることもできず、1時間くらい楽しんだところで終了した。

「うん、湖の詳細が載ってない理由も良く分かったね」

「そうじゃな、素材も微妙じゃし、近づかなければ危険もないんじゃったら スライムと同じ扱いになっても仕方ないな」

だったら 『湖の魔獣は ドロップアイテムが使えないものしかない』って書いてくれてればいいのに。
帰ったら 受付のお姉さんに言ってみよう。
同じ様に 釣りをして 食材にしようとする人が居たら可哀想だもんね。


釣りを終了した後は、ゆっくり夕食の準備。
温かいスープをたっぷり作って、明日以降も食べられるように 私のマジックバッグに入れておく。森の野営がどれくらい危険か分からないからね。
ゆっくり調理する時間が無かったら悲しいし、鍋二つ分、トマトスープと コンソメスープの2種類でつくったから、交互に食べれば飽きなくて済むね。

温かいスープで体も 心も温まり、トイレも済ませたら テントに入る。
外気温を感じない温かさでホッとする。
というか、町から町の移動中、冬になった今は結構寒い。それでも冒険者装備に温度調整が入っているし、歩いているから寒さを感じたことがない。
テントでも寒いと思ったことはなかった。

ダンジョンだから変に気合が入り過ぎていたんだろう。
冷静に対応しているつもりでも、結構やらかしているなぁ……。
そりゃお父さんも笑うはずだよ。

チラリと横を見れば 余分に買った毛布をもう一枚下に敷いて「柔らかくて寝やすいな」とか言ってるお父さんがいる。
討伐に関してとかは結構スパルタだと思うけど、こういうところは 甘やかされていると思う。
ツッコんでくれたらいいのに。
自分の凡ミスに恥ずかしくなって ゴロンと横になったお父さんの胸に飛び込む。

「おおっ!どうした?」

「何でもない。ちょっと甘えたくなっただけ」

どうしたと言いながらも しっかり抱きしめてくれるお父さんが大好きだ。絶対的な安全地帯。
胸にグリグリと頭を摺りつけていれば、背中をトントンされながら、毛布を掛けてくれる。

「そうか、今日も頑張ったからなぁ。
明日は森じゃ、今日はゆっくり眠って、早起きしような。お休みヴィオ」

おやすみと返事が出来たかな。
トントンされる気持ちよさと、お父さんの温もりに安心しすぎて覚えていないけど、明日も頑張るよ。
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