ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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閑話

〈閑話〉ルシダニア皇国 3

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アスヒモス子爵の令嬢 エーロス・アスヒモスが洗礼式で の聖属性持ちであることが判明した。
水晶の色は 属性を表す。
木属性なら 黄色、火属性なら 赤色、土属性なら 茶色、水属性なら 青色、風属性なら 緑色、闇属性なら 黒色、そして神殿で保護すべき聖属性なら 白色の光が水晶の中に映し出される。

潜在的な魔力が高い者は 光が強く、魔力が少ない者は 色が見える程度で 光は殆ど分からない。
成人してから測定すれば それなりに光らせる者もいるが、7歳の洗礼時点では 余程元々の魔力量が多くなければ光らない。
あのように 皆が目を閉じるほどの強い光を放つ少女など、相当魔力が高い もしくは 聖属性に特化しているかだ。

どちらにせよ あそこまで聖属性に特化している少女を このままにしておくことは出来ないだろう。適性があるだけでも 定期的に 教会に来てもらう必要があるが、あそこまで 強い反応をしたのであれば それなりの教育を受けてもらう必要があるだろう。

「エドムント司教、子爵令嬢は 聖女様候補ということでしょうかね。私たちの教会から聖女が出るなんて 光栄ですね」

祭事の片づけをしながら パーヴェル司祭は嬉しそうだ。他の者たちも心なしか浮ついているように見える。
確かに、自分達の属する教会から聖女候補が出るというのは 非常に光栄なことで、本部からも その者を見出した司教として 評されることではあるが……。
あれだけの才能があると知れれば、期待もされるだろうし、もしかしたら 大人たちの いや、フーソーンのような者の手にかかってしまうかもしれない。
そう思えば 本部に連絡することもためらわれる。そんな事を考え、どうすべきかを相談すべく まずは この教会の前司教であった クローニン大司教に 相談しようと エドムントは馬車に乗った。


◆◇◆◇◆◇


「おお、エドムント司教、よく来てくれましたね。久しぶりですが 元気そうで 安心しましたよ。
さあ、まずはこちらで 休みなさい」

クローニン大司教が勤める教会は プレトー伯爵領の中心地にあり、このルシダニア皇国西部地区を纏める教会本部でもある。
私の居る アスヒモス子爵領からは 山脈から流れる川を渡る必要はありますが、馬車で1泊2日程で到着できるほどの距離にあります。

ルシダニア皇国は 横に長い国の為、西部、中央部、東部に其々本部を構えており、各部署から中央本部に情報が送られるようになっています。
東部は ニーセルブ国と接しており、あの国は薬学や 聖女に頼らない医学が盛んに学ばれています。その割に 聖属性をもって産まれてくる子供が多く、多くの子供たちがルシダニア皇国で学びたいと 留学をしているのだと聞いています。
その為、中央の次に 権力を持った人が 東部担当になると学びました。

対して西部は 西に共和国、南はリズモーニ王国となり、両国とも 獣人や 亜人が多く住まう国であり、冒険者なる職業人も多くいる野蛮な国なのだそうです。
ここから見える森は 魔の森とも呼ばれるほど 魔獣が多く生息しており、我々の聖属性結界が無ければ とてもではありませんが、西部で 生活することは出来なかったでしょう。
ですので、西部は 見捨てられた街、教会からは左遷される人間たちが行く場所だと言われているのです。

「エドムント司教、久々の長距離移動は疲れましたか? これでも飲んで 少し気を楽になさい」

「あぁ、クローニン大司教 ありがとうございます。頂きます……」

あの教会でも こうしてよく お茶を淹れてくださった。
私は洗濯や 着替えなどは 自分で出来るようになったものの、料理関係はどうしても上達しません。お茶も上手く淹れられず いつも皆に淹れてもらってばかりです。
温かいお茶は 緊張していた心も融かしてくれるようでした。

「それで 今日はどうしたのですか? 時期を考えれば 洗礼の報告かと思いましたが、洗礼の報告でしたら 手紙で良いのですから 他に何かあったのでしょう?」

「実は……」

大司教に尋ねられたので 今日の訪問目的をお伝えしました。
洗礼を迎えた子爵令嬢に 非常に強い聖属性の反応が出たと。

「そうですか、周囲が眩しく感じるほどの光となると それはかなり魔力も多いか 聖属性に特化していると考えられますね」

カタン

何かが倒れるような音がして 大司教が扉を開けて確認をしてくださいましたが、特に何かが倒れているという事はなかったようです。
私たちの教会では 隙間風でよくカタカタ音がしますが、このような大きな教会でも多少の隙間はあるのかもしれませんね。
それはそうと クローニン大司教も 私と同じ考えをもっていらして安心しました。もう一つの懸念も相談してみましょう。

「ええ、ですが 令嬢には聖属性以外にも水と木にも反応がありました。
水晶の中は三色だったのです」

「おや? であれば 眩しく光ったのも三色の光だったのですか?」

「いえ、それが不思議なことに 聖属性の白い光だけが強く輝き、他の二色は 通常の色と同じくらいだったのです。魔力が非常に高いのであれば 全ての色で光るはず。そう思って それも相談したいと思ったのです」

私の言葉に しばらく考え込んだクローニン大司教でしたが、きっと 魔力量は普通でも 聖属性に特化している事で そのような反応になったのだろうという結論となった。

「まだ7歳ですからね、貴族令嬢ですし 12歳になったら リズモーニ王国に留学することとなるでしょう。ですからそれまでの間は エドムント司教 が聖属性の使い方を教えて差し上げれば良いでしょう」

「本部への連絡はどうしましょうか」

「そうですね、通常の形で『聖属性に反応がある子女が1名あり』として報告しておきましょう。
まだ魔力の幅は伸びるでしょうし、リズモーニ王国から戻れば 嫌でも聖堂での修行が始まるのです。それまでは 親元で過ごさせてあげても良いでしょう」

おお、それは少女にとっても喜ばしい事でしょう。
やはり クローニン大司教にご相談に来ることが出来て良かったですね。


コンコンコン

「どうぞ」

相談が終わり 近況報告をしていると 客室をノックする音が響く。 招かれて入ってきたのは 若い男性でした。

「クローニン大司教、私の仕事は終わりましたので 帰ります」

「おや、もう今日はこれから出ては 随分遅くなりますよ? 明日の朝 発てばよろしいのでは?」

「いえ、急用を思い出したこともありまして、できるだけ急ぎたいのです」

「そうでしたか、ではどうぞお気をつけてお帰り下さいね、あなたに神のご加護があらんことを」

挨拶もそこそこに 出ていった若い男性は、扉を出る直前 私の方を見て 笑ったように見えましたが 知り合いでしたでしょうか?
いや、覚えがありませんね。

「あの方は……?」

そもそも 客人が来ているのに 客室に入る事や、客の姿を見て そのまま話を止めないのも どうかと思いますがね。

「ああ、すみませんね、あの方は 中央大聖堂のオベッカ・エキモフ大司教ですよ、エキモフ侯爵家の三男だったと思います」

ああ、大司教だから 私の装いを見て 会話を続けたという事でしたか。
しかも侯爵家の三男、今や平民となった私の事など その辺に生えている草のような扱いだったのでしょうね。関わりが少なくて良かったと思うしかありませんね。


何はともあれ、クローニン大司教にお話ししたことで 楽になりました。
戻り次第 アスヒモス子爵に 聖属性の練習についての連絡をしなければなりませんね。
癇癪持ちの我儘なお嬢さんと聞いてますから、どれだけ続けてもらえるか分かりませんが まあ 頑張りましょう。
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