ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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父娘と合同パーティー

第211話 船旅と冒険者

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グルキュルルルルル~~~~


「【ウォーターウォール】」

聞いたことがある気がする魔獣の声に 水の盾を張ってから 飛び起きた。
ジュルっ。
涎ではない、ちょっと口の端からお汁が垂れただけだ。

軟らかい足元の感触に しっかり目を開ければ お父さんが目の前にいた。ん?
お父さんと私の二人を包んでいる水の壁を確認して もう一度お父さんを見上げる。

「起きたか? 腹が減ったじゃろう、今は魔鳥もおらんし 壁は解除してええぞ」

そう言われて そういえば 今はダンジョンではなく 船旅中だった事を思い出した。
めっちゃ寝惚けてやってしまった。

「ビビった~、今の壁って ヴィオが作ったのか?」

「ちっ、その年から 既にそんな魔法が使えるとか 何なわけ?自慢なの?」

壁を解除すれば 直ぐ近くにいたらしい 〔水竜門〕のメンバーが集まってきた。
最初に喧嘩を売ってきた若手のルシアさんは この短時間でツンデレ属性の方だと判明しております。
華奢な身体つきに 童顔、しかも回復役ということで 女の子と間違われることも多かったというルシアさん、その反動で非常に悪態をつくのがお上手になったそうです。

メンバーの平均年齢が25歳の中、20歳のルシアさんは 皆の弟分という事で非常に可愛がられており、最初のあのセリフの後も メンバーから謝罪をされまくりました。
今の台詞も『小さいのに 素早く安定した魔法を行使できて凄いね』って意味らしい。
サブリーダーのシナさんが通訳してくれたことで「そんな事言ってないし、適当な事言ってんじゃねーよ」と言いながら 真っ赤な顔で立ち去ったから間違いではないようだ。
うんうん、美少年のツンデレって 萌えるね。

それはそうと お腹が空いた。
ダンジョンの夢を見るくらい ぐっすり眠ってしまったようだけど 今何時くらいなんだろう。

「大体10時くらいじゃろう、出発が早かったからな。
朝食が早かったから 時間は早いかもしれんが昼食としてええ時間じゃと思うぞ」

そっか。ダンジョンだと行動食で腹塞ぎをしているけど それも取らずに寝てたんだもんね。
ということで 昼食タイムです。
とはいえ 人目のある ここで フリーズドライのスープを準備するわけにもいかないので、お宿で作ってきた サンドイッチと ホーンラビットのから揚げです。
熱々で準備することもできるんだけど、そうしてしまうと私のマジックバッグに時間停止があることが分かるので、お父さんのリュックに入れてもらってます。
なので から揚げは冷えているんだけど、味付け濃い目で作ったので美味しく食べれました。

私は野菜と卵を挟んだサンドイッチを1つ、お父さんは ベーコンと野菜、卵を挟んだBLTサンドイッチと ヘビカツサンドを2つずつ。
サンドイッチといってるけど、食パンでサンドしているというよりはピタパンみたいなやつで作っている。
ダンジョンで お兄ちゃんたちが沢山パンを食べるので、途中から小麦を製粉して作ってたんだけど、食パンの型もないから ピタパンを作るようになったんだよね。
半分に切って 中に具材を詰めれば トルティーヤみたいに簡単に食べられるから お兄ちゃんたちも気に入ってた。

「う、美味そう……」

行動食というか 干し肉を齧りながら 見つめられても困ります。
私のマジックバッグには 食材がたっぷり入ってるけど、そんな事は言えないから 今手元にある料理はこれしかないのだ。
そういえば マコールさんのところで作った干し肉も 私はダンジョンで食べた覚えがない。保存食だから 其々が鞄に入れている筈だけど どうしてるんだろう。

「ん?夜営の見張り番の時に 皆齧っとるからなぁ、残りは少ないと思うぞ」

だそうです。
そっか、見張り番の時に 音と匂いの出るお料理をする訳にはいかないもんね、納得です。


その後も 時々 展望デッキに上がってくるお客さんはいるものの、穏やかな川の流れと 代り映えのない景色に 早々に2階の室内へ戻ってしまった。
まあ、2階の椅子は座り心地も良さそうだし 3階のベンチは硬め、しかも結構風が来るもんね。
ある意味 貸切状態の展望デッキは 運動スペースでもあるので 座りつかれた客が もっと来るかと思ったんだけど、2階のデッキを1周するだけで満足するらしく 然程上がってくる人は居なかった。

あまりにも暇すぎて 【索敵】を水中にかけてみたんだけど、船の周囲には 一定距離を置いて 魔魚が寄り付いてこないのもよく分かった。
ただ、レッドトラウトたちのような ヤバイ魔魚にはあまり効果が無いらしく、河川工事も危険すぎて ノパインより上流はそのままになっているみたい。

時々魔鳥は来るけれど、冒険者たちが弓で射落としているので 2階にいる客は 気付いていないだろう。

「ベンガルさん と ビアさんの武器は魔法武器なの? 矢に魔法がかかってるよね?」

「おぉ、分かるか? 武器自体は普通の弓矢なんだけどな、シナが魔法をかけてくれてんだ」

「シナさんが?」

サブリーダーのシナさんは魔法使いだけど 特に魔法攻撃を使っているとは思わなかったんだけど?

「海だったら 帆に風を当てて 航海のスピードを上げるとかするんだけどな、川の場合はいらないから 付与魔法してんだ」

「〈彼の武器に土の力を纏わせよ 【グラントアース】〉」

シナさんが唱えれば 二人の矢の先端に 土属性の魔力がまとわりついたのが分かる。付与魔法って初めて見たけど なんかすごいね。

「ほぉ、それだけ短い詠唱で付与魔術をする者を見るのは久しぶりじゃ」

お父さんの台詞に お父さんの冒険者時代の仲間には 付与魔術が得意な人がいたのだろうかと思いを馳せる。褒められたシナさんは嬉しそうだ。

「魔鳥の多くは風魔法に耐性のあるやつが多いからな、大抵その場合は土属性に弱いから 土属性の付与魔法を鍛えてんだ。
ヴィオも 魔法を使うんだったら 相手の苦手属性を考えて使うと良いぞ」

苦手属性か……。力圧しでやってるから あまり考えてなかったかも。
ルエメイの湖にいた ザリガニ相手には 火が効かないって事で 土を使ったけど、ゴーレムとか サンドカッターで斬れたしなぁ。
でも 先輩冒険者の助言は有難く頂きますよ、ありがとうございます。

「ふんっ、チビだし 女だし、魔法ぐらいでしか役に立てないんだから 精々 苦手属性覚えるくらいはしないと ただの寄生虫だからなっ!」

「物理攻撃が苦手でも 魔法で充分カバーできるから 頑張れってさ」

「言ってねーし、俺 そんな事 一言も言ってねーし!」

プリプリしながら また居なくなったけど、ちょっと面白くなってきてますよ。この通訳っぷり 凄いですね。お父さんも笑っちゃってるし。

そんな冒険者との楽しい時間も 船が目的地に到着したことで終了だ。
王都というだけあって いろんな場所からの船が乗りつけられるようにか 非常に広い船着き場が用意されていて、それに伴って 建物も多い。
展望デッキから眺めているだけでも 船着き場のある町から 馬車が連なって 出ていくのも見える。あれは王城のある都市に向けて走る馬車なのだろう。


「ベンガルさん、シナさん、ビアさん、ルシアさん、楽しい時間をありがとうございました。いっぱい冒険者の事も教えてくれて嬉しかったです」

「おう、まあ俺らは船の事くらいしか詳しくねーから 陸の事は別の奴らに教えてもらえ」

「親父さんとの旅、楽しめよ」

「あのまま練習を続ければ 付与魔法も直ぐに上達すると思う、お前魔法の才能あるぞ」

「ふんっ、野垂れ死にしないように 精々特訓をすることだね。もう二度と会うことはないだろうけどさっ」

「また会いたいから 練習頑張れってさ」

「言ってねー、マジで言ってねーから。シナ勝手な事ばっかり言ってんなよ、バーカバーカ」

結局船旅中は トイレに行く以外 ずっと3階で過ごした。
付与魔法は シナさんとビアさんが教えてくれたことで、何となくコツはつかめた。あとは練習あるのみである。
〔水竜門〕の皆に別れの挨拶をして、ツンデレのルシアさんは 子供のようにバカを連呼しながらどこかに行ってしまった。小学生男児か!とツッコミたいけど ああいう反応がまた 年上組にすれば可愛いんだろう。


「うちのルシアも大概だけど、ヴィオは6歳のわりにしっかりしてるなぁ。
女の子の方が精神年齢高いって言うけど 本当だな。
ルシアはあんなだから 誤解されやすいんだけど、ヴィオが 嫌わないでやってくれて嬉しいぞ。あいつ 可愛いものが好きだから ヴィオの事気に入ってたしな」

ベンガルさん、私の中身が大人だから平気なのであって 普通の6歳女児なら あの言動されたら泣いてると思いますよ。

船を下りる大きな橋を渡れば 10時間ぶりの地上だ。
固い地面に下りたことで 多少フワフワしていた事を実感する。
3階を見上げれば デッキから 手を振っている3人の姿が目に入る。大きく手を振れば 船尾の方に ルシアさんの姿も見える。こちらをジッと見ている。

「ルシアさん またね~~~~!」

大きく手を振れば ガバっと座り込んだけど、その手摺 格子状だから見えてますよ?
本人的には隠れているつもりなのか、小さく手を振ってくれたので お父さんと二人で笑ってしまった。
彼らは川船を専門とした護衛をメインにしているらしいので、また船に乗れば会えるだろう。
次に会うのがいつになるか分からないけど、あのツンデレは無くさないで欲しいなぁ。
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