ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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村でのひととき

第288話 ノイバウワー侯爵領地

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人通りの少ない道を選んでいるから ウインドダッシュで時短しながら進んでいる私たち。
だからこそ休憩時間に ゴブリンを見つけたり 猿におちょくられたりしてたんですけどね。
だけどお陰で6日目には お隣ノイバウワー侯爵領地に入ったようです。

ちなみに国境は国境門があって、身分確認があるので簡単に国から国への移動は出来ない。他の国はちょっと分かんないけど、リズモーニに関しては ぐるっと全部山だからね。門を作っている場所は 元々渓谷になってた場所だとか、がけ崩れがあったからそこを整備して道にしたとか、そういう場所なの。
山だから 門以外の場所からだって通ろうと思えば通れる、って思うでしょう?
まあ 私も皇国から川を下って国境越えをしている訳だから不可能ではないと思う。

ただ、山は魔素が充満している場所であり、ダンジョンでも深い場所でしかお会いできないような魔獣もお住まいでいらっしゃるわけですよ。
私たちの裏の森だって、浅い場所でヒュージボアとかブラックウルフとかなだけで、もっと奥まで行けばヤベエのがいるんですよ。
なので 余程自身を護るすべを持っている人でないと山越えは無理だという事。

で、それとは違って 領地を越えるのは特に制限はないんだよね。
町に入るには入街料とかが必要だけど、野営をしながら通過するだけなら 領地にお金を落とす必要はないってわけ。
領地境に線が引いている訳でもなければ、国を二分するような壁がある訳でもない。

だったら何で お隣の領地に入ったのが分かるのかって?

「は~~~、多いのぅ。ヴィオは魔獣だけじゃなくて 盗賊にも人気じゃったなぁ」

「モテ期かもしれないね」

プレーサマ辺境伯領地を出たところから 出るわ出るわ、盗賊がいっぱいなんですよ。
まあね、街道を通ってないから迷子になったとか思われたのかもしれないし、娘がこんなにキュートだから 攫っちゃおうって思うのかもしれないけど、悪者ホイホイが過ぎると思います。

そんなに集団って訳じゃないのがまた面倒くさい。
盗賊や野盗は 賞金首なら勿論だけど そうじゃなくても捕まえて近くの村や町に提出すれば 幾ばくかのお金がもらえる。
だけど そこまで連れていく必要がある。
彼らは罪の大きさに伴い 労役刑が科せられる。

この世界での犯罪者は、日本みたいに刑務所に入って 三食ごはんが出て 運動もして 木工作品を作ってなんて、外にいるより健康的な生活を税金でさせるような余裕はない。
よく聞く鉱山労働もダンジョンがあるから 冒険者や 一部職人が喜んで潜って採掘をしてくるので必要ない。

なので 罪の重さにもよるらしいけど 肉体労働で済む程度の人は、新しい街道を作る時の魔獣除けの魔道具設置のお手伝い(設置する間 寄ってくる魔獣と戦う)や、河川工事がまだまだ必要な場所があるらしいので、その為のお手伝い(水をせき止めた時に川底などに残った魔魚の掃討)を行うらしい。
勿論その時に命を落とす可能性はあるけど、それはそれ、君もそれまでに命を奪ってきたんでしょ?って事で終わりらしい。
思った以上にシビアだなとも思うけど、刑務所を維持するのはお金がかかるだけだもんね。

ちなみに神国には刑務所に近い施設があるらしいので 皇国にもあるらしいけど、過去の聖女様発案なのだそうです。
『産まれた時からの悪人はいない、更生は出来ます』だそうです。
ちなみにこの初代聖女様は召喚者だそうで 多分その物言いからして 日本人なんだろうなって思いました。

ああ、そうそう、肉体労働でどうにか出来ないような悪人は 死刑になるか、もっと過激なというか、大変な刑罰に処されるようだけど、死刑より大変な刑罰って何なんだろうね。


「なんで捕まえてる人がいるのに また襲ってくる人がいるのかが不思議だよね。
私たちの仲間だと思ったんだとしたら それはそれで、これだけ人数が居るのに来たの?って感じだよね」

「まあ自分らの仲間が捕まっとるから助けに来たんかもしれんなぁ」

一応 侯爵領に入ってから捕まえた人たちは 斬捨て御免で捨て置くことはせず、ちゃんと捕獲して連行しているのです。
ただ、私たちにも目的地があるので、あまりより道はしたくない。
だから 道順は近隣の村に行く道を通るのではなく 真っすぐルパイン北部の橋を目指している現在。
捕獲して歩いている盗賊も8人を超えてしまいました。

「……」「……」「……」

ああ、盗賊さん達は煩いし臭いので 【クリーン】してから口元だけ水玉を貼り付けた状態にしております。


◆◇◆◇◆◇


最初に来たのは3人組の盗賊でした。
お父さんとお昼休憩をしていると 大分前から索敵に引っ掛かっていた3人が のっそり出てきてこう言ったんです。

「おいおい、こんな人が少ない道を歩いてたら 悪い奴らに攫われるって思わなかったのか~」

「ヒャッヒャッヒャ、親父さんよぉ、死にたくなかったら そっちの娘は置いていきな」

「おおっと、さっき荷物を出してたのを見てるからな、そのマジックバッグは置いていけよ~」

ククリナイフっていうんだっけ、先っちょが丸く太くなっているナイフ。
あれを指でクルクル回しながら テロテロヤンキー歩きしながら出てくるもんだから、テンプレ展開過ぎて笑いを堪えるのが大変でした。

盗賊が出てきたらこんなセリフを言われるかもしれない!ってお父さんとシュミレーションしてたまんまなんだもん。
流石にその時は「そんな奴はおらんじゃろ、見た事ないぞ」とか言ってたお父さんも、あまりにもドンピシャな展開に 肩を震わせて笑いを堪えている。

「ヒャ~ッヒャッヒャッヒャ、怖くて泣いちゃったんでちゅかぁ~?
お父ちゃんも頼りにならなさそうでちゅね~」

「ぎゃははは!可哀想になぁ。けど大丈夫だ、お前よく見れば美人になりそうだし、運が良ければ貴族に買ってもらえるぞ?」

「…………」

二人目の奴隷宣言にお父さんから威圧の魔力が漏れちゃって 最初に声をかけてきたやつが青い顔して固まっている。
だけど下っ端っぽい二人はまだ気づいていないらしく 三下っぽいセリフを繰り返している。
しかし、本当に魔女のお婆ちゃんみたいな笑い方をする人がいるんだね。言い辛いと思うんだけどね。

大体、こんな何もない場所に 石のテーブルを出して食事をしている親子を見て おかしいと思わないのがおかしいのだ。
逃げるでもなく 椅子に座ったままの私たち親子に 何か違和感を覚えたらしい三下二人は リーダーらしき男を振り返り固まった。

「お、おい!どうした!」

「リーダー、何があった!?これなんだ?剥がれねえぞ」

真っ青な顔のまま 口元に何かを貼り付けて 白目を剥いて気絶しているのだ。
口元のナニカを剥がそうとするけど剥がれない。

「おい!お前らが何かしたのか!許さねえぞ」

「殺してやる!娘は犯してから奴隷市で親父は殺してやる!」

今更私たちのせいだと思ったらしく いきり立ってますけど状況分かってなくないですか?
振り返ろうとしても首しか振り返ることが出来ない。よく見れば自分たちとリーダーの足がいつの間にか土の中に埋まっているからだ。
ズブズブと段々沈んでいく自分達に 何が起きているのか分からず「おい!」「なんなんだよ!」と繰り返す。アホなのか?
助けて欲しいと泣き叫ぶならまだしも、その事象を起こしている相手にキレ散らかすとか 無謀すぎる。
お父さん的には 奴隷宣言をしたこの二人はギルティらしいけど、一応殺さずに連行することで話はしてたからね。

「まあ こんな奴らでも ヴィオの魔法の練習台になると思えば まあええか」

「うん、有効活用しないとね」

そう、もしそんなテンプレな盗賊が現れた時は、闇魔法の練習をしたいから 殺さずに捕まえるだけにしようと約束してたのだ。

「そしたら まずは 音の情報を無くそう。〈影よ騒音を届けよ【ノイズ】〉」

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛」

肩から上だけが土から出ただけの一人にまずは幻聴を届ける魔法をかける。耳元で何かを囁かれている感じになるようにしている。
耳を押さえたいだろうに腕も土の中だからできずに 絶叫している。
ヤバイ忘れてたね。

「【ウォーターバインド】」

リーダーと呼ばれた男の口に張り付いていたのと同じものが 二人の男の口をベタリと塞ぐ。
水糊のような粘度のある液体をガムテープで塞ぐようにと考えた魔法です。
サブマスの魔法を真似て こないだの猫娘を溺れさせた魔法を改良したくて考えました。
鼻は塞いでないので息は出来ますよ。

さて、それでも涙を流しながら 頭を振ってるから ノイズは成功しているっぽいので、隣の人には別のにしよう。
次は自分の番だと分かったらしい男は 首を振りながら涙を浮かべているけど それは調子が良くないですか?弱者には煽るだけ煽って奪い取ってたんだもんね?

「えっと、この魔法はまず寝かせなきゃだから【スリープ】からの【ナイトメア】」

睡眠と悪夢のダブルコンボです。
すうっと瞳を閉じたまま 眉間にしわを寄せ 首を振っているから早速悪夢を見ているのだろう。


「ヴィオ、1人目はどんな魔法じゃったんじゃ?」

「えっとね、恐慌状態にする魔法だよ、多分お父さんの威圧の魔力を5倍くらいに感じたと思うんだよね。ドラゴンに吠えられたくらいの感じだったんだろうと思う」

ドゥーア先生のところで学んだ闇魔法、耳元に音を届ける【ノイズ】、影を作る【シャドー】、暗闇を作る【ダーク】、静寂を齎せる【サイレント】くらいしか普段練習するのは無理だった。
他は対象にかける魔法だけど、ドゥーア先生やサブマスも練習台になるとか言ってたけど 無理だもん。

だからとても良い練習相手が見つかったのは良い機会だった。
ただ落とし穴から出した3人はプルプルしたまま動けない。
これは困ったね。
このまま捨て置いたら 確実に魔獣の餌だし、魔法がどれくらいで効果が切れるのかも検証したいし、う~ん、困ったね。
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