ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

文字の大きさ
327 / 584
村でのひととき

第291話 川を渡る

しおりを挟む

プレーサマ辺境伯領地内は 索敵範囲に人が引っかからない限り ウインドダッシュで駆け抜けたので アホみたいな速さで領地を抜けた。
だけど、ノイバウワー侯爵領地に入ったら いるわ いるわの盗賊たち。

まあダッシュで駆け抜けても良かったんだけど、ついつい闇魔法の練習台だと思って捕まえちゃったよね。お陰様で 25人も重ね掛けで練習できたから かなり上達したと思います。
悪夢はねぇ、別にこちらからこんな夢を見ろ!なんて指定はできないからね、多分本人が潜在意識なかで『怖い』『嫌だ』『体験したくない』って思った夢を見たんだと思うよ。
全員がその後 自供をサラサラしたって どんな夢を見たんだろうね。


まあけど、これ以上の練習はしないで良いでしょう?というお父さんのお願いというか 心配もあって グスコの町を出て 人気が無くなったところから再びウインドダッシュをしております。
今回は彼らで練習しておいた隠蔽を私とお父さんにかけているので、多分遠くから見た人では私たちに気付かないと思います。

そもそもスピードも出ているので、なんか通り過ぎた? いや、風じゃない?となる可能性が高いでしょう。
というか、この領地 本当に盗賊なのか野盗なのかが多い。
林や森なんかの浅い場所には必ず2~3人で周囲を伺っている人がいるのよ。ゴブリンよりも多いって大丈夫?

「お父さん、何でこんなにこの領地は盗賊が多いの?」

「まあ 儂らが通っとる道がそういう道なんじゃろうな。
グーダンからルパインまでの道中はそういうことはなかったじゃろう?」

確かに。
あの時もお兄ちゃんたちと別れて 王都に向かってお父さんと二人旅だったから、見た目の条件は今と同じだ。

「あっちはグーダンから王都行のルパインに向かう王道ルートじゃ。
人も商品も多く走るから 領主もあの道で盗賊が出るようなことはない様に 細心の注意を払っとるはずじゃ。騎士の見回りもしておるはずじゃし、魔獣除けの魔道具もしっかり整備されておったじゃろう?」

そういえば 時々道を逸れたりもしたけど 小さな魔獣以外は居なかったし 盗賊も見なかった。
今回は主要道路ではないし、そもそも 舗装もされていない場所を歩いてた。木々が少なく歩きやすいから 地元の人や目的の場所までの近道だというような人が使うだろう 程度の道。
そんな道だから 被害者が居ても気付いてもらえない、気付くのが遅くなるという事なんだろう。

そうかそうか、という事は 私たちが盗賊の巣に分け入ってしまっていたって事だね。
そりゃ申し訳ないことをしたね。
アジトに潜り込んでおいて お前誰だ?って出てきた家主を討伐しちゃったってことだもんね。

「いや、そもそも盗賊も野盗も悪い奴らじゃからな」

ああ、そうでしたね。基本を忘れるところでした。
窃盗、恐喝、強盗、強姦、ダメゼッタイ!



グスコの町を朝に出て、ほぼノンストップで走り続けて5時間程。
【索敵】で5キロ先に川が見えてきたところで風魔法を終了させる。

「ふぅ、ここまでこれば 後は人が増える場所に交差するからな。2日ほどは普通に歩くことになりそうじゃ」

十分ではないでしょうか。
普通の旅人は乗合馬車を使うか 徒歩だけで移動するから 1日に動ける距離はそう長くない。冒険者は目的があって色んな所に行くし 体力もあるから一般人よりは長く歩けるだろう。
車社会の地球人よりは この世界の人は健脚だろうけど、彼方とは違って舗装がない道、出てくる可能性がある魔獣や野盗、これらに警戒しながらとなれば やはりそこまで早く歩けるわけではない。

そう考えると 江戸時代の人たちって あの険しすぎる箱根の山ですら徒歩で行き来してたんだよね。しかも女性は着物でしょう?
もしかしたらモンペだったかもしれないけど、時代劇では 着物の裾を捌きながら歩幅を大きくすることもできず歩いてたよね。今考えると自分達への縛りを強くし過ぎじゃね?って思うよね。
あれです、RPGにある【ノロイの鎧:防御力増大だが非常に重く動きが制限される】みたいなのを あえて選んでるって感じ。

ああ、話が逸れた。
まあそういう訳で 簡単に移動が出来る訳ではないこの世界では、自分の村や町から 一生出ることなく過ごす人は珍しくなく、隣近所の町まで行き来するというのでも 簡単ではない。
商人なら それなりに動き回るけど、それでも領地を跨ぐほどとなると 護衛を雇えるくらい稼ぎがあるか サッサさんのように本人に戦闘能力があるかが必要。

なので風魔法のドーピングがあるからと言って一週間くらいで領地を跨ぐとか普通ではない。
多分私自身にドーピングをしても 流石にその短時間では無理。
何故なら足が短いから。
お父さんの脚力と足の長さがあってこそ このスピードなのだ。
まあ 馬の駆け足に並走できる人たちだもんね。あの時は馬車にだけ風魔法をかけていたので、お父さんたちはドーピング無しだったのにね。


拓けた草原で昼食を頂き、そこからは普通に歩いて川を目指す。
1時間ほどで 広い川が見えてきたけど ルパインで見たよりは細いね。

「ルパイン以下は 船で行き来できるように川幅も広げてあるからな。魔法使いが相当な人数集められたと聞いておる」

水魔法で水を堰き止める人、土魔法で川幅を広げる人と川底を深くする人、堤防というか 両端をちゃんと崩れないようにする人、そして水が減ったところに残ってしまった魔魚を倒す人などなど。
土魔法が使える人は大活躍だね。
1度に工事できるのは数キロずつで、当時は魔導学園の生徒たちもボランティアとして参加していたんだって。この工事に参加してた人たちは 軒並み土魔法のレベルが上がってそうだよね。
いや、元々得意な人しか参加しなかったのかな?
勿体ないね、絶対 得意属性に上がってくるくらい上達できるチャンスだったのに。


サマニア村にあるのと同じくらいの長さの橋を渡り 西側へ到着。
私のマップ情報にも ルパインが見えるくらいには近づいているからか 盗賊などの気配はピタリと無くなった。

「お父さん、いないね」

「ははっ、もうこっちに来たからな。流石に危険を冒してまでやらんのじゃろう」

まあそうか。ギリギリを計りながら彼らも行動してるって事なんだね。
いや、その努力が出来るなら冒険者にでもなってダンジョンに潜れよ。
いつ来るか分からないターゲットを待つより、いつだって扉を開けて待ってくれてるダンジョンの方がいいじゃん。

「そうだよ! 豊作ダンジョンで生活すれば 食べ物に困ることはないし、余った食材とかドロップアイテムを売れば 盗賊よりもちゃんとした生活が出来そうなのにね」

「ダンジョンで生活……。
プハッ!確かにそうかもしれんな。考えたこともなかったが “その日に食うものも無くて”と捕まえた相手が言う事も少なくなかったが、確かにそうじゃ。
あいつらも豊作ダンジョンであれば 食うものが無くという状況にはならんかったはずじゃな」

お父さん爆笑してます。そんな事考えたこともなかったって言うけど、ハンモック風呂もできて 水生成魔法もあれば 結構充実の生活が出来そうじゃない?
セフティーゾーンは魔獣に襲われる心配もないし、ギリギリの生活をしているのであれば 強盗目的の冒険者モドキに襲われる心配もないだろうし。

今度盗賊を捕まえた時にはそう教えてあげよう。
それまでにやってきたことが酷すぎなければ また娑婆に出てくるだろうし、そうなった時にまた悪事をしないで済むようにね。うん、良いと思う。
しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

処理中です...