ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

文字の大きさ
329 / 584
閑話

〈閑話〉?????

しおりを挟む

「思った通り、早めに帰ってきたな」
「ええ、やっぱり同じドレスでお茶会に出席するのが嫌だったんじゃない? 装飾品は娘に贈られてきたものを使えても、ドレスはそうはいかないもの」
「けどそれで娘も連れて帰ってくるところがあの夫人って感じだよな~」

 水の季節も一月経てば、アスヒモス子爵領に娘たちが帰ってきた。皇帝に謁見した聖女見習いはあちこちからお茶会に誘われる毎日、父親は社交の場へ招かれ、母親は娘たちのお茶会が見える場所で同じように開催される母親たちのお茶会に出席せざるを得ない。

 娘は洗礼式以降大量に贈られてきたドレスがあるため、毎回違うドレスを纏うことができる。
 首都に来てからも、祝いの手紙と共にドレスが贈られてくるので、ここから数年は着るものに困ることはないだろうというくらいだ。
 夫人としては、誰か気を使って母親の為のドレスを贈ってこいと思っていたが、送り付ける貴族とて、養女として迎え入れて家門の力にしたい者、息子の嫁にして聖属性持ちを産んで欲しいという様な者ばかり。
 母親というか、子爵家がどうなろうとどうでもいい、むしろ居なくなってくれた方が養女にしやすいと思っている者ばかりである。
 何らかの形で娘を虐待しているところを見つけることが出来れば、親切なふりをして助け出してやることができる。そうすれば養子縁組もしやすいだろう。だからこそ、娘を際立たせるような贈り物を送り付ける貴族が多いのだ。

 影たちは皇国よりも大きな国、この大陸で一番大きなメネクセス王国の元公爵、現在は娘である王妃のせいで侯爵になってしまったが、それでも権力を持つ家の陰である。
 姿を変え、時にはメイドとして、時には子供の家庭教師として、時には庭師として、城や様々な貴族の屋敷に潜り込み情報を主に渡してきたのだ。
 勿論後ろ暗い仕事も多く、国に、主に仇なす者と判断されれば粛清してきた。事故死、病死、変死、自死、心中。

 彼らにとっては主からの命令だけが絶対である。仲良くして見せても町の人間たちは只の情報源、ターゲットに嫌悪感を抱くことも同情することもない。

 戻ってきた娘が、もっとみんなと茶会をしたかったと癇癪を起してメイドたちに当たり散らしているところを見ても「あれが陛下の娘ではないことが確認できたね」という感想しか抱かない。

 そしてここでの目的は達成された。
 子爵のところにいた娘は陛下の子ではない。ただし、陛下が持っているのと同じペンダントを持っているのは確認できた。
 そしてそのペンダントは、陛下の妻であった薬師の女から奪ったものであろうことも分かった。
 娘は子爵邸から連れ出され捨てられたが生死不明。生きているとしたら隣国リズモーニにいるだろうこと。
 生存している可能性は低いだろうが、ある者からの情報により生きている可能性がほんの少しはあるという事。それが分かったらもうこの国にいる必要はない。


「さて、では私たちは一度報告をしに行かねばね」
「あ、あの俺は……」
「あ~~~~、あんたは国境門を越えられないでしょ? あんたのせいで私たちまで尋問されるとちょっと面倒なのよね」

 帰り支度をしていたら、娘が生存しているかもしれないという情報を持ってきた男が縋りつくような眼で見てくる。
 まあ確かにその情報を聞いたからにはオナカマとやらを見つけるのに協力するとは言った。
 だが同時にこいつらが共和国から指名手配されていることも分かったのだ。国境門を通る時には身分証が必要となる。もし メネクセス王国側にも指名手配の連絡が回っていていたら危険だ。こいつのギルドカードを提示すれば、同行している我らも聞き取り対象となるだろう。

「山越えさせればいいんじゃないっすか?」
「バカ、あの山を越えれるわけねえだろ」

 影の2人、マックスとハンスの言葉を聞いて顔色を悪くしているのは、私たちが対象を暗殺するのに依頼をした冒険者の一組の生き残りだ。
 私たちが皇国に到着する前に、あの対象親子の娘の足取りを調べに来た冒険者が居たらしい。
 多分陛下が依頼した冒険者だったのだろう。この男はそいつらに尋問されて娘の行方を告げた。多分死んでいると伝えたし、本人もそう思っていたらしい。
 だけどその後の冒険者たちの動きを見ていたら、どうやら探しに行くようだと気付いた。国境付近まで尾行したことで娘が生きている可能性が高いと彼らが思っていることが分かった。

 そして国境付近の町に唯一ある冒険者ギルドの出張所で自分の所属していたパーティーの生き残りがリズモーニで活動していることが分かった。
 この男が所属していたパーティーリーダーは 先日の襲撃事件で死亡、メンバーの半数以上が死亡したがこの男は生き残り、途中で逃げた3人はそのまま出国。
 パーティー名を変更されていれば分からなかったが、彼らは何故かそのままの名前で行動していたため、メンバーのこの男にも状況が分かったらしい。

 男のメンバーが現在いるのはリズモーニの辺境、サマニア村というところ。娘が流れ着いたとしたらその村にいる可能性が高いと言われたので 丁度良いと思った。
 だけどこいつを連れて国境を越えるのは悪手であることは間違いない。
 山越え……、結界……。

「ねえ、妃殿下ってこのままいけると思う?」
「急だな。まあ無理じゃねえ? 娘が生きてようが死んでようが、もう嫁は死んでるの確定だし、関わってんのボロったんだろ?」
「確かに、今の状況より良くなることはなさそうだな」
「だよね、だとしたらさ、私たちって微妙じゃない?」
「「は??」」

私は今回の依頼に関して思っていた事を2人に伝える。

「だってさ、一応閣下の娘だからって事で私たち妃殿下の依頼を受けてたじゃない? だけど今の妃殿下の状況を考えるとこれ以上指令を聞く必要もないと思うのよね。
 まあ今回の依頼に関しては、『ペンダントは見つかったけど着けてる奴は娘じゃなかった』これで終わりじゃない。『娘は子爵に殺されて捨てられた』でよくない?」
「いや、その流れたやつを探しに行くんじゃねえの?」

 マックスは意味が分からないという顔をしているけど、ハンスはどうかしら?

「だからさ、それは別に今回の依頼とは違うじゃない。」
「「????」」

 頭の中に何が詰まってるのかしら、私が言いたい事をまだよく分かってないみたい。

「妃殿下には報告書を出した時点で終了。それでいいでしょ。けど 娘を探すのは完全に私たちの独断、だって生きてるかどうかも分かんないし。だからこそ、生きてたとしたら、それを持って陛下に献上したら?」
「喜ぶんじゃないか?」
「そういう事か!」

 年嵩のハンスは気付いたようだけど、マックスは駄目ね。

「泥船にいつまでも乗っておく必要もないでしょ? とりあえず一旦は閣下に預かってもらって、頃合いを見て献上してもらえば 妃殿下は無理でも侯爵家は大丈夫でしょ」
「あ~~~、そういう事! わかったわかった!」

 ここまで言って分かったじゃないわよ、答え言ってるんだから。

「だから、その献上品を盗む必要があるって訳。勿論普通に国境門を越えさせれないでしょ?それを隠しておく場所の確保も必要だから、それをコイツに用意しておいてもらいましょうよ」

 固まったままだった男を指してそう言えば、自分を指さして「俺?」と呟いている。察しの悪い男しかいないのね、全く。

「あんた教会で世話になってたんでしょう? だったら私たちが戻る頃、そうね、火の季節の終わりには戻るわ。その時に盗み出して頂戴」

 それのお陰で町を護れるくらいなのだ、数人分を匿う事など容易だろう。それがあれば山越えもできる筈。まさか人攫いが危険な魔の山に入るなど思うはずがないのだから。

しおりを挟む
感想 109

あなたにおすすめの小説

私を裏切った夫が、後悔しているようですが知りません

藤原遊
恋愛
政略結婚として、公爵家に嫁いだ私は 愛のない夫婦関係を「仕事」だと思い、正妻の役目を果たしてきた。 夫が愛人を持つことも、 その子を屋敷に迎え入れることも、黙って受け入れてきた。 けれど―― 跡取りを、正妻の子ではなく愛人の子にする。 その言葉を、人前で軽く口にした瞬間。 私は悟ったのだ。 この家では、息子を守れないと。 元々、実家との間には 「嫡子以外の子は実家の跡取りにする」という取り決めがあった。 ならば話は簡単だ。 役目を終えた私は、離縁を選ぶ。 息子と共に、この家を去るだけ。 後悔しているようですが―― もう、私の知るところではありません。

【書籍化決定】アシュリーの願いごと

ましろ
恋愛
「まあ、本当に?」 もしかして。そう思うことはありました。 でも、まさか本当だっただなんて。 「…それならもう我慢する必要は無いわね?」 嫁いでから6年。まるで修道女が神に使えるが如くこの家に尽くしてきました。 すべては家の為であり、夫の為であり、義母の為でありました。 愛する息子すら後継者として育てるからと産まれてすぐにとりあげられてしまいました。 「でも、もう変わらなくてはね」 この事を知ったからにはもう何も我慢するつもりはありません。 だって。私には願いがあるのだから。 ✻基本ゆるふわ設定です。 気を付けていますが、誤字脱字などがある為、あとからこっそり修正することがあります。 ✻1/19、タグを2つ追加しました ✻1/27、短編から長編に変更しました ✻2/2、タグを変更しました

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

婚約者チェンジ? 義理の妹は公爵令嬢の地位もチェンジされました』 ~三日で破談、家ごと褫奪の末路です~

ふわふわ
恋愛
「お姉様の婚約者、私がいただきますわ。だって“公爵令嬢”ですもの」 義理の妹コンキュはそう言って、王太子との婚約を奪いました。 父はそれを容認し、私は静かに受け入れます。 けれど―― 公爵令嬢とは“地位”ではなく、“責任”の継承者。 王宮で礼儀も実務も拒み、「未来の王太子妃」を名乗った義妹は、わずか三日で婚約破棄。 さらに王家への不敬と統治能力の欠如が問題視され、父の監督責任が問われます。 そして下されたのは――家ごとの褫奪。 一方で私は、領地を守り、帳簿を整え、静かに家を支え続ける。 欲しがったのは肩書。 継いだのは責任。 正統は叫びません。 ただ、残るだけ。 これは、婚約を奪われた公爵令嬢が “本当に継がれるべきもの”を証明する物語。

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

侯爵家の婚約者

やまだごんた
恋愛
侯爵家の嫡男カインは、自分を見向きもしない母に、なんとか認められようと努力を続ける。 7歳の誕生日を王宮で祝ってもらっていたが、自分以外の子供を可愛がる母の姿をみて、魔力を暴走させる。 その場の全員が死を覚悟したその時、1人の少女ジルダがカインの魔力を吸収して救ってくれた。 カインが魔力を暴走させないよう、王はカインとジルダを婚約させ、定期的な魔力吸収を命じる。 家族から冷たくされていたジルダに、カインは母から愛されない自分の寂しさを重ね、よき婚約者になろうと努力する。 だが、母が死に際に枕元にジルダを呼んだのを知り、ジルダもまた自分を裏切ったのだと絶望する。 17歳になった2人は、翌年の結婚を控えていたが、関係は歪なままだった。 そんな中、カインは仕事中に魔獣に攻撃され、死にかけていたところを救ってくれたイレリアという美しい少女と出会い、心を通わせていく。 全86話+番外編の予定

取り巻き令嬢Aは覚醒いたしましたので

モンドール
恋愛
揶揄うような微笑みで少女を見つめる貴公子。それに向き合うのは、可憐さの中に少々気の強さを秘めた美少女。 貴公子の周りに集う取り巻きの令嬢たち。 ──まるでロマンス小説のワンシーンのようだわ。 ……え、もしかして、わたくしはかませ犬にもなれない取り巻き!? 公爵令嬢アリシアは、初恋の人の取り巻きA卒業を決意した。 (『小説家になろう』にも同一名義で投稿しています。)

恋は、母をやめてから始まる――正体を隠したまま、仮の婚約者になりました

あい
恋愛
両親を失ったあの日、 赤子の弟を抱いて家を出た少女がいた。 それが、アリア。 世間からは「若い母」と呼ばれながらも、 彼女は否定しなかった。 十六年間、弟を守るためだけに生きてきたから。 恋も未来も、すべて後回し。 けれど弟は成長し、ついに巣立つ。 「今度は、自分の人生を生きて」 その一言が、 止まっていた時間を動かした。 役目を終えた夜。 アリアは初めて、自分のために扉を開く。 向かった先は、婚姻仲介所。 愛を求めたわけではない。 ただ、このまま立ち止まりたくなかった。 ――けれどその名前は、 結婚を急かされていた若き当主のもとへと届く。 これは、 十六年“母”だった女性が、 もう一度“ひとりの女”として歩き出す物語。

処理中です...