ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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はじめての上級ダンジョン

第297話 ゲルシイの森ダンジョン その3

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2階に下りて早速【索敵】を行う。
お兄ちゃんたちも全員がやっているのは あの冒険者のせいだろうか。然程時間がかからずにできたらしいので相当練習をしてきたのが分かる。

《すげえウロウロしてんな》

《まともにダンジョン攻略をする気が無いんじゃな》

上級ダンジョンらしく まだ2階なのに相当広い。そして通路が入り組んでいるからバラけて探しているのが分かる。ダンジョン探索中に見つけたら襲う というのではなく、完全に最初から強盗狙いなのがやばすぎる。
相当苛ついているだろうけど 叫んだりしていないのは 私たちに気付かれないようにという事なんだろう。確実に常習犯です。

《けどさ、ここってダンジョンじゃない? あんなにばらけてて大丈夫なのかな》

《5階まではノーマル種しか出ねえからな。それにやられるようじゃ ダンジョンに入るのを許可されねえだろ。一応あいつらも冒険者ではあるはずだぞ》

あ、そっか。このダンジョンは 銀ランク以上推奨で 深層階まで行くなら銀ランク初級以上って事だったね。人数が少ないなら中級がいないと厳しいとも言ってた。
私が許可をもらえたのも 私以外が全員銀の上級だからというのもあったと思う。

あの人たちがウロウロしているおかげで 魔獣はそちらに向かってくれている。
お陰で罠さえ避ければ 真っすぐ三階へ向かえそうだ。

「おい、居たか?」

「いねえ」

「ちっ、速すぎねえか?」

「兄貴たちが地図持ってんだろ? こないだ入ったところだし」

こちらに二人向かってくるのが分かったので 少し凹んでいる壁に5人で並び トンガお兄ちゃんが土壁を作ってくれた。
壁は無くても良いんだけど 触られたらバレるからね。
罠ダンジョンで不用意に壁に凭れかかるという人はいないと思うけど念のため。
お陰で全く気付くことなく 目の前をブチブチ文句言いながら通り過ぎて行った。クルトさんは笑いをかみ殺しております。

ばらけていた人たちがリーダーのところへ集まって行ったので 今のうちに3階の階段の近くに移動。一応話し合いを盗み聞き。

「この階を探したけど見つからねえ。魔獣の数から考えても 殆ど戦わねえで下に行ったんだろう。
3階は広い、流石に今日一日で4階に行くことはねえ筈だ。
3階を満遍なく探せ。通路で見つからねえ場合はセフティーゾーンにいる筈だ。
その場合はいつもの形で行くぞ」

「「応‼」」

ふぅん、いつものというのが碌でもない作戦だと思うけど まあいいか。

《ヴィオの言葉が現実になりそうじゃな》

《じゃあ 部屋で待ってるか》

という事で 奴らより先に下りましょう。
屑どもが言っていた通り 3階は広くて迷路だった。これは大変そうだね。

《パニックルームはないし、この階の宝箱は薬草か水袋だから取らないで良いと思うよ。なので真っすぐセフティーゾーンを目指そう。奥の方が4階に近いからこっちにいこうね》

トンガお兄ちゃんの先導で迷路を歩きます。
多分普通の人は大変だと思う。この階に罠がないのは通路自体が罠みたいなものだからだろう。
下の階に行けば迷路&罠になるらしいけどね。

迷路だけど上から俯瞰して見ている私たちには関係ない。正しい道を最短で選んで4階に近い個室に到着した。

「あれ、隠蔽きれた?」

「うん、重ね掛けしたら大丈夫だけどもういらないでしょ?
大体半日くらいは持つはずだったけど 人数が多かったからか ちょっと短かったね」

「環境も違うし 眠っておる状態の奴にかけるのと 動いておる状態の儂らにかけるのとは違うんじゃろう。魔力もいつもより使ったんじゃないか?」

「うん、気配まで消す方は慣れてないからちょっと多めだったかな」

「ええっ!?ヴィオ大丈夫?」

まだダンジョンに来て6時間ほどだけど 隠蔽が切れてしまったのはやっぱり慣れの問題だろうと思う。でもここからは見つけてもらっても良いと思ってるから重ね掛けはしないでおく。

「とりあえず飯を食うか。行動食も食っておらんから腹も減っとる。多分それもあって早めに切れたんじゃろう」

ああ、ちょっと眠いのも魔力使い過ぎたからかな。
緊張してたのもあるのかも。
スープはフリーズドライのスープをお父さんが用意してくれた。 調理は匂いで敵がきそうだからサンドイッチだ。
食べながらもウトウトし始めた私をルンガお兄ちゃんが胡坐を組んだ足の間に乗せて 後ろに倒れないようにしてくれる。
けど、背中にある温もりが余計に眠気を誘ってくる。
ヤバイヤバイ、めっちゃ迷子になってるけど 屑達が来そうなのに メインイベントを最前列で見れそうなのに、眠気が勝ちそう。

「ヴィオに無理させすぎたな、とりあえずゆっくり寝とけ。あとは俺らが片付けとくから」

食べかけのサンドイッチが手から離れていくのを感じるけど 抗えない。
頭を優しく撫でながら お腹をポンポンしないで……、ねちゃ……グ~~~~。




「寝た?」

「多分」

「ふふっ、口に食べかすついてる。可愛い~」

「こうしてっと まじで6歳児だよな」

「ほれ、テントも準備できたから ヴィオをこっちへ。ああ、ルンガは一緒にいてやってくれるか?」

「え、なんで? 俺もあいつらやるぞ?」

「ルンガ、それ外せるの?」

ふと自分を見下ろせば自分の左腕にしがみ付いてクウクウ眠っている妹の姿。完全に腕に巻き付いている。

「いつもはこれを抱しめて寝るんじゃがな」

父さんが三日月形の枕を見せてくれるけど リュックのふくらみはそれだったのか?
確かに今腕を無理やり離せば起きてしまうかもしれない。
折角いいタイミングで眠ってくれたんだから 起こしたくはない。

「は~~~、しょうがねえな。父さん、兄貴、クルト、俺の分も頼むぞ」

「ふふっ、お兄ちゃんに任せなさい」

「そうだな、妹分を守らねえとな」

「久しぶりに手加減なしで出来そうじゃな」

三者三様の返事をもらい 妹を起こさないように 父さんが張ったテントに入る。床がふかっとしていることに気付き、ヴィオの為に超快適空間を作っていることを知る。

「くっくっく、これで更に風呂かよ。父さんヤベエな」

ヴィオを起こさないように横たえようと思えば 自分も横になる必要がある。
一緒にゴロリと寝転べば コアラのように腕にしがみ付いたまま 足も絡みついてくる。

「あ~、それであの大きさの抱き枕か。これは動けねえな……」

空いてる右手で眼鏡をはずしてやり 帽子を脱がせる。
髪留めは前に見たのと違うけど、魔石がついてるから色変えの魔道具なんだろう。
二つに結んだ髪留めは 無理に外すと痛いかもしれないからそのままにしておこう。

「こんな小さいのに あれだけの魔法を使うんだもんな。そりゃ疲れるし魔力切れになるわな」

よく考えれば闇魔法を三種類かけた上に 索敵をしている。そもそも妹は 身体強化と身体を護る為の結界を常に張っている筈だ。
という事は ダンジョンに入って6時間ほどの間 6つの魔法を展開している。しかもそのうち5種類はかけっぱなしだ。

「こんな小さい体に どれだけの魔力を持ってんだ? 今回みたいなときは俺たちに護らせてくれよ」

隠蔽が無ければもっと早い時点で絡まれただろう。
返り討ちできたのは疑いないが、二組が仲間だと知らなかった時点では 後ろから来たパーティーに嵌められた可能性はある。
ギルドともグルだったし、下手したら 俺たちが捕まっていた可能性だってあった。

スヤスヤ眠る妹を優しく撫でて 起きた時にはすべてが終わっていることを願う。
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