ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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上級ダンジョンの旅

第332話 友人の娘

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 ~〔土竜の盾〕テリュー視点~


 王都に到着した翌日、オトマンとネリアの恩師でもあるお貴族様の屋敷を訪ねた。2人がいたおかげで話はスムーズに進み、ヴィオとその家族たちが王都に年末頃来ることも教えてもらった。

 俺たちに告げられたのはそれまでの間、時々遺跡ダンジョンに付き合う事。それ以外の期間はダンジョンに行こうが自由にしていいという事だった。一応ダンジョンに行くときには、どれくらいの期間で戻ってくるのかを伝えた上で行動していたので、先生が遺跡ダンジョンに行きたいという希望を叶えることは出来ていた。

 年越しまであと一月となったある日、いつものように王都のギルドに顔を出したら先生からの呼び出しがあった。夕方近くはあったが直ぐに先生の屋敷に行けば、待ち望んでいた手紙が届いたという。

「予定通りウミユの街に到着したそうですよ。火の日には出発しますので前日は屋敷に泊って下さい。
 それから以前伝えましたが、くれぐれもあなた達からヴィオ嬢にご両親の事を伝えないようにしてください。アルク殿とお話しできる機会は設けます、それが無理なら遠目で確認するだけにしてください」
「大丈夫だ…です、こうして機会をもらえただけでもありがてえ」



 そして火の日の早朝、屋敷を出た馬車は風魔法を使って、驚くほどの速さで南部の街ウミユに到着した。
 レスもネリアも、風魔法をこんな風に使うなんて考えたことが無かったらしいが、これが使えるようになれば借り馬車でもかなり早く移動できることになる。馬車の購入など考えたことが無かったが、ちょっと考えてみてもいいかもしれない。

 早朝に出た馬車は4の鐘が鳴る前に到着した。
 先生たちはこれからヴィオたちの宿に行くそうだが、俺たちはギルドで待機だ。ヴィオと一緒に行動している家族と対面し、大丈夫だと判断されれば明日からダンジョンの遺跡を確認するために同行することになっている。数日過ごしてあっちが良ければ、ダンジョン攻略も一緒にする予定だが、6歳の子供が上級ダンジョンに入るのは、体力的に厳しいだろうとは思ってる。

 俺たちはまずその手続きをするためにギルドに入った。
 既に先生がダンジョンに入る為の許可証は、王都のギルドで入手済み。勿論1階層だけの約束だが、先生は高名な先生だけあってダンジョンに行く許可をもらうのが最初は大変だったらしい。今は必ず1階までであること、当日中に帰ってきているという実績があるので、許可証は簡単にもらえるようになったらしいけど。

「護衛依頼の仕事で明日からダンジョンに入る〔土竜の盾〕だ、手続きを頼みたい。それから待ち合わせがあるので会議室を使いたい」

 先生の許可証を提出し、会議室をおさえたいと告げれば番号の書かれた木札を渡され2階へ案内されたが、会議室で待つ時間、誰も喋らない。

 もうすぐヴィオに会える。

 けどその前に、一緒に過ごしていた家族に見極められることになる。先生に会う時は、オトマンとネリアが居たからまだ気楽だったけど、今回は違う。彼らからすれば、父親の元に連れ去ろうとしている冒険者でしかないだろう。
 実際の時間は1時間も待っていなかったようだけど、俺たちにとっては凄く長い時間だった。

 コンコンコン

「入るよ?」

 聞き慣れた先生の声で全員が顔を上げた。
 先生たちが入ってくるその後ろに、でかい2人が並んで入ってくる。似ている事を思えばこの2人は親子で、親の方がヴィオの保護者なんだろうけど。やべえ、穏やかに見えるのに圧がすげえ……。
 俺以外のメンバーも何も言われてないけど席を立ってしまったくらいだ。オトマンは珍しく尻尾が下がり先がプルプルしている。分かる気がするぞ。

「ヴィオ嬢には明日からの視察のための手続きと言って出ているからね。2人にそこまで長い時間はないから顔合わせをしてしまおう。
 アルク殿、トンガ君、彼らがメネクセス王国の陛下から依頼を受けて、ヴィオ嬢の安否確認をしに来た銀ランク上級パーティー〔土竜の盾〕ですよ。そしてこちらが皇国から流れてきたヴィオ嬢を救い出し、我が子として育てているアルク殿、そのご長男のトンガ君です」

 フィルではなく陛下からの依頼という言葉にも動揺がないって事は、この2人はヴィオの正体を知っているってことなんだな。

「はじめまして、メネクセス王国ヘイジョーの町所属〔土竜の盾〕、リーダーのテリューだ。
 俺たちに出された依頼は先生が言った通り、フィルの娘であるヴァイオレットの安否確認だ。後は個人的に、俺たち自身がヴィオが元気でやっているのかを確認したいって事だな」

 一瞬息子の方の圧が上がったが直ぐに落ち着きを取り戻したようだ。
 ふぅ、俺らも獣人が周りにいない訳じゃねえけど、魔境出身者ってこんなヤベエのしかいねえのか?そんな場所で育てられてヴィオは大丈夫なのか?

「そうか、儂はアルク、見ての通り熊獣人で、こっちは息子のトンガという。お前さんらが言うヴィオの本名がヴァイオレットというのは、村の連中でもギルマスとサブマスしか知らん。ちなみに聞くが、ヴィオの母親の名は知っておるか?」
「アイリスよ」
「――ではその母親が持っていたと思われる魔法使いの杖については知っておるか?」

 父親の質問に即座に答えたのはネリアだった。
 もう一つの質問は杖についてだが、あれを伝えても良いのか? というかあれは魔法使いの杖でいいのか?

「杖ってあれよね、無駄にキラキラ派手で使うと光る性能がおかしな……」
「じゃねえの? アイリスって弓と短剣以外の武器は持ってなかったし、杖はあれだけだろ」

 悩んでいるうちにアンたちが相談し始めたのを聞いて納得したらしい。
 もしかしてあの杖は今ヴィオが持ってるのか?

「間違いなく本人を知っている冒険者のようじゃな。
 陛下と呼ばれる相手を愛称で呼ぶほどじゃ、ヴィオの母親とも交流が深かったんじゃろう? お前さんらが捜しているヴァイオレットは、確かに儂が娘として育てておるヴィオで間違いないようじゃ」

 良かった……。本当にヴィオが生きてくれてたんだな。

 その後は何故ヴィオが皇国に行くことになったのか、それからフィルの現状を俺たちから伝え、アルクさんからは、拾ってからのヴィオの事を、トンガさんからは、ランクアップの為に帰ってきてから出会った妹としてのヴィオについて、先生からは王都の屋敷でのヴィオについてを聞かせてもらった。

「では 明日から遺跡の散策をするという事で動きましょう。私たちの宿は4階を貸切にできるようにしていますから、ヴィオさん含めアルクさん達も移動して来て下さい」
「儂らもですか?」
「ええ、その方が彼らとの接触もしやすいでしょうし、ヴィオさんには古代文字の考察を共にしたいとお伝え下されば納得してもらえるでしょう」

 先生から明日以降の予定を告げられ、アルクさん達も俺たちとヴィオを会わせることに納得してくれた。
 話だけ聞いてたらかなり破天荒な成長っぷりだけど、アイリスとフィルの子供だったらそれも仕方ないのか? あいつらも結構力業でやってたところがあったからな。

「明日ヴィオに会えるんだね」
「話を聞いてる分には確実に元気であることは間違いないけど、もう6歳になってるんだよね? 歩くのもままならなくって、ヨチヨチして地面に座り込んで雑草抜いてたヴィオが冒険者だよ? 全然想像が出来ないんだけど」

 俺もだ。まだ産まれたばっかりのクシャクシャの時も覚えてるし、言葉だって碌に喋れなかったヴィオがボアを単独で狩るとか信じられねえ。

「ん、けどアルクさんも、トンガ君もヴィオの事本当に大事に育ててるってよく分かった。先生も養子にしたかったけどアルクさんの側にいるほうがいいだろうと思って諦めたって、それだけ大事にされてるってことだよね。それは安心したけど……」

 ネリアはそれでもフィルの事が気になってるんだろう。俺も複雑な気持ちだ。けど、まずは 会ってみて、本人が今の生活をどう思ってるのかを感じてみたい。
 それで一緒にダンジョンに潜れば、お互いの事も話せるチャンスがあるかもしれない。勿論アルクさんと相談してからになるけど、俺たちと繋がりを作ってもらえれば メネクセスに来てもらえるかもしれないしな。

 まさかあんなに好戦的な少女に成長しているとは全く思ってなかったけど、うん、確実にアイリスに育てられたんだなって思ったな。
 これまでも誘拐未遂(未遂にもなってないが)に、盗賊とのエンカウント、冒険者からの絡まれなど、かなり経験をしてきているらしく、今回の街でも宿からの付け回しがあると本人が気付いていたのは驚いた。
 それを怖がるでもなく、来たら迎え撃つと言い放っているのも驚いた。
 ヴィオ、お前まだ6歳だぞ?

 勿論アルクさん達が対応するんだろうけど、絶対に大丈夫だという安心感があるからこその発言なんだろう。
 俺たちもそれくらい信頼してもらえると良いけど、ダンジョンではベテランとしていいところを見せれたらいいな。


  
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