ヒロインは始まる前に退場していました

サクラ マチコ

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閑話

〈閑話〉?????

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「あら、あいつら死んだみたいね」

ウミユの町を出た翌日の夜、腰にぶら下げていた袋に違和感を覚えて取り出せば 三つの魔石が割れていた。
これは今回の襲撃に送り込んでいた冒険者に取り付けた隷属の指輪と対になっている魔道具で、持ち主が死ねば魔石が割れるというもの。
魔道具を確認すれば四つの魔石が割れていた。

「どいつが死んだんすか?」

「さぁ、誰でも良いわ。まあ可能性が高いのは 王都から連れてきた奴らじゃない?まあ まだ十人残ってるから大丈夫でしょ。 
とりあえず 私たちはこのまま川船で北上、明日にはルパインに到着するわ。
そこからは娘を探しているふりをしながら 辺境へ向かうから 主要な町には全部寄るわよ」

自分の赤髪に白い塗料を吹き付けてから 手巾で拭き取っていく。何度か繰り返せば赤が随分優しい色になった。
これを緩やかなまとめ髪にしてフードを被れば ピンクに見える髪がちらついて見えるくらいになる。

「どう?」

「おぉ、前髪と後ろがちらっと見えるくらいだとピンクだって言われても納得するっすね。俺はこのままでいいんすか?」

陛下の瞳の色に似せるのはまず不可能だけど、お忍びで探しに行く人が分かりやすい特徴を見せる筈もない。
だからマックスには眼鏡をかけさせて 色変えをしている風に装わせた。



ウミユの町を出て一週間が過ぎた頃、魔道具全ての魔石が割れた。

「あら、どうやら全員駄目だったみたいね」

「返り討ちっすかね」

これだけ時間が掛かった事を思えば 襲撃はしたのだろう。
まさか銀ランクの六名が護衛役よろしく 合流するのは計算外だったから あの破落戸レベルで太刀打ちできなかったのは仕方がないのでしょうね。

「つーことは、ダンジョン踏破まで 戻ってこないって事っすよね。
うわぁ、ハンスのやつ 貧乏くじ引いたな。一か月くらいはかかるんだろ~?
うわぁ~、超めんどくせぇ」

全員が戻ってきてからであれば 話し合いをするのも難しいかもしれない。
であれば やはり村で待つ方がいいだろう。

「まずはグーダンで あの男と連絡を取るわよ。
あっちの協力者とのすり合わせも必要だし、ハンスにも合流するか連絡をしておかないとね」

「あ~、やっぱ一か月は待たないんすね」

当り前だ、戻ってきても話し合いが出来ないだろう相手を待つなど無駄なだけだ。
幸いグーダンの街は ダンジョンで賑わう町だから 旅の冒険者が数週間過ごしても目立つことはない。
隊長に対象を発見した事、ガードが固く 実行はまだ先になりそうだという事を連絡する。
ゲドゥには進捗の確認を、ハンスには合流するなら プレーサマ辺境伯の領都で待ち合わせる旨の手紙を書いて送る。

数日間冒険者がよく出入りする飲食店などを出入りしながら 娘を探しているという情報を流布しながら歩いたけれど ハンスからの返信がない。
必ず寄るつもりだった町は辺境伯領都と メリテントの町だったから そちらに連絡を寄こしているのかもしれない。
隊長からの手紙には いよいよ王妃の立場が危ういこと、王妃についていた影は全て引き上げたことが書いてあった。
ハンスとは連絡が取れないけど 隊長には連絡をするだろうと思い、ハンスからの連絡があれば 辺境伯領都へ移動した旨伝えて欲しいことを返信しておいた。


グーダンの街を出てからも 小さな村や町を転々として歩く。
大きな町なら数日、小さな村なら一泊だけ、そうしてあちこちで行方不明の娘を捜し歩く夫婦を演じながら プレーサマ辺境伯領都に到着した。
商業ギルドで郵便物の確認をすれば 二通届いていた。


「ここも辺境のわりに結構デカい町っすよね。
つーか 屋台のアレ、すげえ気になったんすけど、後で買いに行っていいっすか?」

広場だけでなく あちこちでとても良い匂いが漂っていた屋台の話をしているのだろう。
グーダン以降、屋台で食べる食事は初めて食べる味が増えてきており まさかこんな田舎で 王都よりも美味しいものがあるなんて驚いている。

「そうね、確かにあの匂いは気になったわ。だけど まずはこれの確認よ」

宿に戻って手紙を確認すれば ゲドゥと隊長からの二通だけだった。

「ハンスの手紙ないっすね」

流石に町を出る時には手紙を送ってるはずだと思う。
途中町はどれくらいの速さで到着するか分からないから プレーサマ領都には送ってきていると思ったんだけど……。

隊長からの手紙は 出来るだけ急いでほしいが 失敗は許されないので確実に連れ帰るようにとの事。
ゲドゥの手紙は 仕込みは終わったこと、サマニア村のギルマスたちは 元金ランク冒険者だから ギルマス会議で不在にする間を決行日にするべきとの事。
それから ウミユは踏破したらしく 首都に向かうと連絡があったとの事だった。

「なんで首都?」

「あの貴族じゃないの? ダンジョンに入る前に一緒にいたし、メネクセスの冒険者は貴族の護衛だったから返品しに行くんじゃない?」

だとしたら 戦力が減るという事だ。
それにしても魔境と呼ばれる場所のギルドマスターは金ランクだったのね。

「どうしようかしら、ギルドマスター達に見られるのは怪しまれそうよね」

「あ~、まあ確かにそうっすね。風の季節だったら 余所者も多かった分紛れ込めただろうけど 流石にこの時期は覚えられそうっす」

もしそれが原因で 会議に二人で出席しないとなれば 成功率は大幅に下がってしまうわ。
それだけは避けておきたいわね。

「一度 ゲドゥと合流する必要があるわね」

ハンスからの連絡がない事だけが 懸念事項だったけれど、こちらも期限が決められたようなもの。
ゲドゥとカイコウの町で合流することになった。


◆◇◆◇◆◇


「どうやら 村に戻ってくるのはあの親子二人だけらしいぞ」

合流したゲドゥが持ってきた情報は 非常に良いものだった。
詳細は流石に分からないようだけど、メネクセスの冒険者と 家族とみられた三人組は一緒に船でメネクセスに向かったらしい。

「これは運が向いてきたってことっすね。あのヤベエ連中がいなくて オヤジだけなら待たずに行けんじゃねえ?」

「いや、あの村の住民は 一般人を装っているが 多くが上位冒険者だそうだ。
その上 冒険者をしていない奴らもあの村で生活できるだけの力はあるという事だ。ギルマスたちがいない時を狙うのは変えない方が良いと思う」

マックスの言葉に異を唱えたのはゲドゥだった。
協力者は 今サマニア村に戻っているらしく、ギルドや子供達から聞いた情報をゲドゥに渡してくる。
既に一年あの村で生活をしている事、本人たちの戦力が非常に弱い事で 警戒されていないというのは非常に使い勝手が良い。

住民全部を相手にするのは厳しいが どうやらあの娘が村に戻ってきたら銀ランクに昇格するらしいので 祝いの席を作って眠り薬でも飲ませればいいだろう。

「あれ? 陛下の娘ってまだ洗礼前じゃなかったっけ?」

「そうだが あの子は猛冒険者登録はしていて銅ランクだ。
冒険者は銀ランクになるまで早くても一年かかるが あの子供は相当鍛えられているらしい」

「ふっ、言ったってまだ6歳児でしょ? 
余程あんたの元仲間が弱すぎたって事じゃない。
ランクを上げる条件も調べたけど、あの家族と一緒にダンジョン巡りしてるんだったら そりゃクリアできるでしょうよ。
私たちが気にする相手は あの父親役と 村の冒険者崩れどもよ。殆どが獣人なんでしょ?
獣人に効果が出やすいお酒と眠り薬を用意しましょう」

それでも言い淀んでいるゲドゥは何を恐れいているのやら。
まあ あれだけの人数を揃えてやって 一人の冒険者を襲撃したのに ほぼ壊滅状態に追い込まれたことがトラウマになっているんだろうけど、それは彼らの実力が無さ過ぎただけ。
後腐れがない破落戸が殆どだったんだから仕方がない。
まさか銀ランクだと自信満々だった冒険者が あのレベルの低さだったのには流石に驚いたけど。
だけどそんなゲドゥの下僕たちは ダンジョン巡りと称して 村を出入りしているようで、戻った時には娘の情報をそれとなく聞き出しているから 思わぬ拾い物だったという訳だ。

「あの村のガキどもは 例の子供の影響で 早くランク上げをするために 森に通ってるらしい。
多分 水の季節になれば 近場のダンジョンにも行くようになるだろうって事だ」

「あら、丁度いいじゃない。
村に行けば ギルマスとかに顔を覚えられそうだけど、外に出てくるガキにそれとなく私たちの情報を知らせればいいんじゃない?」

「あ~、ガキしかいないなら口も軽くなりそうだし 良いんじゃないっすかね」

ということで、私とマックスは 獣人に効果が出やすい眠剤を入手、ゲドゥは 娘とガキどもの情報を集めるように動き出す。
薬剤は医療国でもあるニーセルブの方が仕入れしやすいかもしれないけど、もしかしたら侯爵家のあの薬草温室にあるかもしれない。
隊長と連絡を取り合い 決行日までの準備を始めた。
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