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Side カイル
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俺とロルフは今日も遠方へと移動し、価値の高い地下資源を手に入れるためにせっせと働いていた。
今日の作業場所は他国の人里離れた谷の底。一段上がって水のない平地部分からぽっかりと口を開けて横に広がっている、普通なら人目につくことのない洞窟の奥である。
この場所に希少な鉱物が眠っていることを教えてくれたのは、小さな土系の妖精たちだ。ロルフと一緒にいると、妖精たちがこぞって手助けをしようとしてくれるから、目に見えない土の底に眠っている鉱物を見つけるのがとても楽で、すごく助かっている。
今はもう真夜中。日付が変わって既に一時間ほど経っている。この場所で、俺たちはもう一週間ほど採掘を続けていた。
ライトの魔法を光源としているので、夜中だろうが洞窟の中だろうが、難なく楽に作業ができる。水魔法を使って土や岩を削るようにして掘り進め、見つけた価値のある鉱物――――今回はダイアモンドの原石――――を片っ端からロルフのインベントリに放り込んでいく。作業はこれの延々繰り返しだ。
妖精たちが遊び感覚で手伝ってくれるおかげで、鉱物を見つけるのも仕分けをするのも実に楽だ。短時間であっと言う間に、ロルフのインベントリには高価な鉱物が溜まっていく。
そんな感じで鉱物を集めていく内、侯爵領地下に眠る価値のある資源の採りやすいものは、とっくに掘り尽くしてしまった。
その時点で俺はかなりの資産持ちになっていたが、しかし、俺はレオを世界一幸せにするつもりである。まだまだ金が足りないと判断した俺は、周辺他領や他国にまで足を延ばし、多種多様な高価な鉱物を根こそぎ採掘しまくっていたのだった。
ロルフ曰く、俺は既に世界一の金持ちであり、俺たちの住むシャロルタ王国で例えるならば、軽く国家予算の二百年分を超える資金と同等の鉱物を持っているらしい。
日中はレオと一緒にいることが多いし、人目もあるからあまり動けず、たいていは夜中にこっそりベッドを抜け出し、寝不足と戦いながら鉱物採りに励んできた。
ロルフが単独で行くと言ってくれたけれど、レオのために金を稼ぐことを人任せにするのはどうしても嫌で、必ず俺もロルフや妖精たちと一緒に働いた。
しかし、もう十分だろう。今日で鉱物集めも終わりにしよう。これ以上の資産は必要ない。
後片付けを終え、そろそろ館に戻ろうと洞窟から外に出たところでふと空を見上げると、そこには美しい月が見えた。
その月を見ながら、俺はここ最近ずっと気になっていたことを思い出し、思わず大きなため息をついた。それに気付いたロルフが大きな体を寄せてきて、心配そうに尻尾で俺の体を撫でてくれた。
『どうした、心配事か?』
「ん……ロルフだって気付いてるだろう? レオのこと」
俺が言うと、ロルフは顔をしかめた。
『うむ。あれはなにを悩んでおるのだ。あれが悩まねばならぬことが、近頃なにかあったか?』
「それが悔しいことに、俺にも思い当たることがないんだ」
自分自身の言葉に落ち込み、俺はまた大きなため息をついた。
ここ最近ずっと俺が気になっていること。それは、しばらく前からレオの様子がおかしいということだった。
俺とロルフが契約して三年が過ぎている。
それはレオが精霊王から加護を付与されてから三年経ったということでもあり、俺の予想通り、侯爵領の農作物の取れ高は、ここ数年でうなぎ上りに増加の一途をたどっていた。
農業に頼りきりで収入の大部分をそこから得ているウチの領では、おかげで税収も増え、領民たちも生活に余裕があるため、領都の町中の雰囲気も賑やかで活気に満ちている。
そして、これも俺が予想していた通りだが、精霊王の加護を得て後、レオが身に纏う空気の質が一気に変化した。穏やかで清廉、近くにいるだけで心が癒されていくような、そんな安らぎの空気にレオは常に包まれている。
それまでレオに対して馬鹿にするような態度を取っていた領民たちは、見ていて滑稽に思えるほど露骨に態度を変えた。生き物としての本能がそうさせるのか、皆レオの傍に寄りたがり、仲が深まるよう媚びた言動を取る者も多い。いつも笑顔でにこやかにレオとの会話を弾ませ、彼の持つ特別ななにかの恩恵を自らが受けられるよう、無意識の内に行動する。
俺はそんな奴らの手の平を返したような態度を、吐き気がするような思いで見ていたが、しかし、レオの態度は少しも変わらなかった。
精霊の愛し子になる前もなった後も、領民に対するレオの態度は一切変わらない。誰にでも親切で優しく、思いやりのある態度を続けている。
俺はレオほど人間ができていない。奴らのレオに対する態度の豹変ぶりに腹を据えかねた俺は、なぜ怒らないのか、腹は立たないのかとレオに聞いてみた。
レオはなんてことのないような顔で俺に答えてくれた。
「仕方ないよ。領民の皆が思っているように、僕が出来損ないっていうのは本当のことだもの。頑張ってはいるつもりだけど、でも、結果がすべてなのも分かってる。ただ、もう少し領民たちとは仲良くなれたらいいなあとは思っていたから、今は嬉しいよ。これも精霊王様のおかげだね」
「俺は悔しいよ。皆レオの内面を知ろうともせず、ただ自分たちにとって利益がありそうだからと思ってレオと仲良くしようとしてる。俺はあいつらのそんな態度に我慢ならない!」
拳を握りしめ、俺が悔しさを隠せずにそう言うと、レオはそんな俺を一瞬だけ驚いたように見た後、とても嬉しそうに柔らかく微笑んだ。
「カイルはやっぱり正義の人だなぁ。ありがとう、僕のためにそんなに怒ってくれて。でも、気にしないで。僕はどんな理由であれ、町の人たちと仲良くなれたことは嬉しいから」
「それが俺には分からない。あんな無礼な態度を取られ続けてたんだ、レオはもっと怒っていいんだぞ?」
「だってこの町はカイルの生まれ故郷だもの。ここはカイルにとって、カローリナとの思い出の詰まった、とても大切な場所でしょう? だからここは僕にとっても大切な場所だし、この町の人たちとは、できるだけ仲良くしたいと思っているんだ」
「!!」
レオの答えに俺は衝撃を受けた。
なんてことだ。俺のためなのか。俺のために我慢してくれていたのか。貴族という高い身分にありながらも、あんなに小馬鹿にされ、嘲笑われるような屈辱的な思いをさせられてさえ、レオは俺のために、この町の連中と良い関係を築いていこうとしてくれていたのか。
たまらず俺はレオを抱きしめた。
「カイル?」
レオが不思議そうな顔をするけれど、それを無視して、俺はただただレオの小さな体を抱きしめ続けた。
もしも……もしも前世なんてものがあったとして、俺はそこで一体どんな良い事をしたんだよ。どれほどの善行を行えば、これほど誰かに想われ、愛され、大切にされる人生を送れるんだよ。
レオの優しさに胸が震えた。レオが愛し過ぎて、幸せ過ぎて、涙が出そうになってくる。
「レオが大切だ。誰よりもレオが好きだよ。俺がレオを心から大切に思っていること、絶対に忘れないでくれ」
「ありがとう、カイル。でも、カイルもあまり領民の人たちを嫌わないであげて?」
「……どうしてだ」
「ウチの領はさ、最近は違うみたいだけど、少し前まで財政がかなり大変だったみたいじゃない? でも、領主である父上はなにも手を打ってこなかった。それに父上も母上も都会が好きなのか、王都に行きっぱなしで領地に全く戻って来ようとしない」
「そうだな。俺も旦那様には一度もお会いしたことがない。奥様だって、母さんの葬儀の時に一度お会いしただけだ」
「そう、だからね、仕方がないんだよ。領主一族で唯一自分たちの傍にいる僕に恨みの気持ちを持ってしまったり、文句を言いたくなったりするのは当然なんだ。僕の悪いところを見つけて、そこを馬鹿にしてあざ笑って憂さ晴らしをするのは、領民たちの当然の権利なんだよ。だって、どうしたって僕はやっぱり貴族で、領主の息子で、領民たちの不満のはけ口になるべき存在なんだから」
そう言った後、レオは恥ずかしそうに肩をすくめ、茶化すような顔をした。
「なーんて、偉そうなこと言っちゃったけど、こういうことが分かるようになったのも、最近のことなんだよね。僕も少しは成長できてるってことかな。これも色々なことを教えてくれる先生たちのおかげだね」
はにかむレオの可愛さと尊さといったら、もう……。
レオは時々今の様に、驚くほど大人で政治的な物の考え方をすることがある。それはとても立派な考えで、そんな考え方ができるレオが出来損ないだなんてとんでもない。あんなクソ領民たちなんて死ねばいいとか考えている俺なんかより、余程人間ができているし立派だと思う。
俺は我慢できず、愛するレオの顔やら頭やらにキスしまくった。嬉しそうにされるがままになっているレオが可愛くて、俺は眩暈がしそうになってしまう。
はぁ、レオの愛らしさに殺されそうだ。そうなったら、それはそれで本望だけど。
しかし、今の話を聞く限り、レオの悩みの原因は領民たちのことではないらしい。王都の家族のことではないことは、以前に「どうでもいい」とレオ本人が言っていたことから分かっている。
では、なんだ?
なにがそんなにレオを悩ませ、悲しませているんだ?!
ここ数ヵ月、少しずつ元気がなくなっていくレオを密かに見守ってきた。それでも少し前までは、下手な演技ながらも作り笑顔を見せてくれてはいたんだ。けれど、それもほとんどなくなってきた。今では俺が話しかけた時、辛うじて笑顔と思えるような表情を、わずかに見せるのみとなっている。
いつでもどんな時でも、周囲を明るく照らすかのような、見るだけでこっちまで幸せになってくるような、そんな笑顔をいつも見せてくれていたレオ。そのレオが笑えなくなるなんて、一体なにがあったんだ。
『精霊王に助言を求めにいくか?』
頭上で輝く月を見つめながら、洞窟の入口すぐ横の岩に腰を下ろし、俺がレオに想いを馳せていると、心配そうな顔をしたロルフから声をかけられた。が、その内容に俺は思い切り顔をしかめる。
十二才の時、アイツがレオの額にキスした恨みを、俺は今も忘れていない。
機嫌悪くムッスリとした俺を見て、ロルフは大きなため息をついた。
『あの方はレオポルトの庇護者だ。加護を与えた以上、レオポルトの様子を常に見守っているはず。我らに分からぬことでも、あの方なら存じ上げているやもしれぬ』
「アイツに頼るのは癪にさわる。負けた気がして腹が立つ!」
『精霊とは人間の世の理から外れた世界の住人よ。あの方もまた然り。勝った負けたを争う対象ではなかろう? まったく、そなたも存外子供っぽいところがあるものよな』
「だって、アイツがレオにキスしたりするから悪いんだ!」
わざと子供っぽく口を尖らせた俺を、ロルフが白い目で見る。
『あれは加護の付与であろうが。それに、そなたの方がレオポルトに余程好き勝手しておろうに。しかも、本人が寝た後の意識がない時だ。あれに比べたら、精霊王がした額に口付けたことなど、たかが知れておろう?』
「俺はいいんだよ。だってレオは俺のものだし、俺はレオのものなんだから」
『ふぅ、そなたはレオポルトのことに関してのみ、まるで幼子のような振舞いをする。普段はもう少し理知的であるのに……ああ、我は間違ったか。そなたと契約を交わしたのは失敗であったか』
「~~~~ああっ、もう、分かったから皮肉はやめてくれ。精霊王に会いに行くよ。でも、今夜はもう遅いから、また日を改めよう。そろそろ館に戻らないと寝る時間がなくなってしまう」
『だったらレオポルトに悪戯などせず、さっさと鉱物堀りに出かければ良かったのだ』
「レオに触らなかったら俺が病気になる。以前に二日触らなかった時、あの時は本当にまずいことになるところだった。気を抜いたら、所構わずレオを襲ってしまいそうだったからな」
『…………。』
呆れ顔のロルフを気にもとめず、俺は大欠伸をひとつした。
「ともかく眠い。今夜はもう部屋に戻るよ。また明日な、ロルフ」
『ゆっくり休むがいい、我が主』
俺はすっかり習得した転移魔法で瞬時にレオの部屋に戻ると、身体に浄化魔法をかけて寝衣に着替え、静かにそっとベッドに上がってレオの頬にキスをした。そして、そのままレオの体を柔らかく抱きしめながら目を閉じた。
取り合えず、今夜で鉱物の採掘は終わりだ。寝不足に悩まされる日々も今夜で最後だと思うと、俺は安堵と穏やかな気持ちを胸に、レオの優しい匂いに包まれて眠りについたのだった。
あれから約一ヵ月。
俺はレオの様子を注意深く観察し続けたけど、やはりどう考えても元気がないし、回復の兆しも全く見えない。それどころか、日増しに憂いに沈んでいく様子が見て取れる。
そして、そんなレオの様子に気付いていたのは、俺だけではなかったらしい。
「なあ、カイル。坊ちゃん、ありゃあどうしたんだ? かなり前から様子がおかしいとは思ってたけど、その内に元に戻るだろうと思ってたわけよ。けど、元に戻るどころかここんとこ酷いじゃねーか。自衛団の他の仲間たちも、皆心配してたぜ?」
侍女長にお使いを頼まれて領都の町中を歩いていた時、巡回中のダンに呼び止められて、そんなことを言われた。
自衛団とは、軍を持つことを国王から許されていない各領主たちが、領地の警備や犯罪の取り締まり、商人たちが荷を運ぶために行き交う街道の巡回などを行うために雇っている私兵団のことである。
ウチの領の場合、自衛団の寮や訓練地は領主館のすぐ裏手にある。そのため、彼らは俺たちが幼い頃からの顔見知りで、今では時々、剣の訓練に参加させてもらうこともあるくらいだ。だからレオのことも、妙な噂に惑わされることなく本質を知ってくれている。彼らはこの領都において、俺が信用していいと思える数少ない仲間認定した人たちに含まれていた。
そういう人たちだからこそ、ダンもレオの不調に、早い段階から気付いていたに違いない。
他にも、領主館で働く使用人たちは、ほとんど全員がレオの様子のおかしさに気付いていた。執事のラッセと侍女長からは「原因を探れ」と直接厳命を受けているくらいだ。
先週慰問に行った孤児院でも、レオを慕っている子供たちや、その世話をしているシスターたちに、俺はレオから離されて建物の陰にこっそり連れ込まれると、散々質問された挙句に叱られてしまった。
「レオポルト様は一体どうしたのです?」
「もうずっと元気ない」
「病気? 治る?」
「カイルが一緒にいてなにやってんだよ!」
「ここんとこずっとレオの笑顔が嘘くさい。作り笑顔なのがバレバレ」
「理由分からないの? どうして?」
「カイルならどうにかできるでしょう?」
「早くなんとかしてくれよ!! 気になって夜眠れなくなりそうだよ」
許しもなくレオを愛称で呼んだクソガキの首を腕で締め上げながら、俺は皆に真面目な顔で頭を下げた。
「もう少しだけ待ってくれ。近い内に必ず原因は突き止める。必ずまたレオを元気にしてみせる。だから、もう少しだけ待ってくれないか?」
俺の真剣な表情を見て一先ず引き下がってくれたのか、クソガキの首を締め上げる俺に恐怖したのかは不明だが、取り合えず、子供たちとシスターは「もう少し待つ、カイルがんばって」と言って、俺に多くの激励の言葉をくれたのだった。
領都の中心町でも、幾人かの領民たちに同じような質問を受けたが、俺は町のヤツらのことは大嫌いだし、信用も信頼もしていない。
レオが精霊の愛し子になって以後、人が変わったように猫なで声で馴れ馴れしく接っするようになった奴らと、俺はまともな会話をするつもりもない。だから笑顔で適当にあしらったのだが……しかし、あんな奴らにさえ気づかれるほど、やはり最近のレオは普通じゃないということだ。
もうこれ以上は放っておけない。けれども俺の力ではどうにもできない。
仕方なく渋々ながらロルフを引き連れて、俺は数年ぶりに妖精の泉に出向き、精霊王に会うことにしたのだった。
妖精の泉に行くのは二度目のため、転移魔法を使って即座に行ける。俺たちは一瞬で目的地に辿り着くと、すぐに精霊王を呼び出した。
泉の上に現れた精霊王のその姿は、数年前に会った時と寸分たがわず麗しい見た目をしていた。銀色の長く美しい髪と同じく、銀色に輝く神秘的な瞳をしていて、息を飲むほど秀麗なその容姿には、普通の人間ならば無意識に平伏してしまいそうな荘厳さがある。
しかし、俺にとってレオ以上に美しい生き物はこの世に存在しないので、精霊王などに目を奪われる可能性は微塵もないのだ。いくらアイツが美しくとも、顔に表情のあまりない能面のような冷たい顔立ちになど、魅力はこれっぽちも感じない。
それに比べて笑顔が愛らしく愛くるしく、無邪気で可憐であどけないレオの方が、何百万倍も素晴らしい存在に決まっている。
もし仮に、俺にレオほど大切に想える相手がいなかったなら、精霊王のことを世界一美しい存在だと思い、崇拝の対象として跪いたかもしれない。
けれど、現実はそうじゃない。俺がレオ以外の存在に跪くなど、絶対にあり得ないのだ。
ふふん、と思わず馬鹿にしたように笑った俺を見て、すぐ目の前まで来ていた精霊王が嫌な顔をした。前回と同じく、周囲には数多くの小さな妖精たちを引き連れている。
「お久しぶりです、精霊王」
『お前、顔を合わせたのは随分久しいが、相変わらずムカつく男よな。腹の底で我の悪口でも考えておったか、小癪な顔をしおって』
「悪口は考えていた。ムカつくのはお互い様だ。俺はまだ、あなたがレオにキスしたことを許していないからな!」
『だからあれは加護の付与だと言うておろうに。……ふう、まあよい。ところで、なに用でこのような所まで参ったのだ。まあ、想像はついておるが。我が愛し子のことであろう?』
俺はここに来た理由を精霊王に話した。
数か月前からレオの様子がおかしいこと。少しずつ元気がなくなり、笑顔は作り物になっていったこと。
日々の生活の中で、レオがそのようになる理由はなにも見当たらない。もう数ヵ月したらレオは王都の学園に通うために領地を離れることになるが、その時は俺も従者見習いとして同行し、以後はレオと一緒に王都の侯爵邸で世話になることは、もう何年も前から決まっていることだ。
ずっと親しくしていた領地の皆との別離が寂しいのかとも考えたが、それが理由であそこまで憔悴するとも思えない。
「あなたになにか思い当たることがあるのなら、ぜひ教えていただきたい。あんなレオはもう見ていられない。自分の身を切られるよりも苦しくて辛い」
『精霊王よ、我からもお頼み申す。どうかこの者に助言を与えて下され。我自身、王の愛し子のことが心配でたまらぬのです』
精霊王はしばらく俺とロルフを困ったように見ていた。が、やがて口を開いた。
『カイルよ、お前は賢い。既に気付いていよう、己がこの世界そのものから愛される存在であることを』
「それは……」
『よい、思うままを申してみよ』
俺は一瞬だけ戸惑いはしたものの、素直に答えることにした。
「俺は物心ついた頃から、自分がこの世界に愛されていることに気付いてた。理屈ではなく、感覚的に」
『そうだ。お前はこの世界の創造主の愛し子として生を受けた特別な存在なのだ。言い方を変えるならば、この世界はお前が幸せになるために創造主が用意した箱庭のような世界であるとも言える』
「創造主? 神様のことか?」
『そう考えて問題はなかろう。ともかくお前はこの世界にとって、誰よりも特別な存在なのだ』
「うーん、その割に、俺は父親を持たずに育ったし、唯一の肉親だった母も幼い頃に亡くしている。俺が幸せになるための世界にしては、少し厳しすぎるんじゃないか?」
『最終的に大きな幸せを手に入れるため、その時々でお前には試練が降りかかる。それを一つずつ乗り越えていくことでお前は力を蓄えていき、いずれは大きな試練を乗り越える力を有する存在となる。結果、それに見合う大きな幸せを手に入れるのだ。それが創造主がお前に用意していた道筋で、それをレオポルトは死にかけた時に夢の中で見てしまったのだ。詳しく言うと少し違うが、簡単に言うとそういうことになる』
「死にかけた時? ――――もしかして、木から落ちた時か?!」
俺が上げた驚きの声に、精霊王が厳かに頷いた。
『加護を与えた時、我はあの子の過去を見た。死にかけたところをお前に助けられた時、レオポルトは知ったらしい。自分も創造主がお前に与えた試練の一つであることを』
「レオが俺の試練の一つ?! それはどういう……はっ、まさかとは思うけど、この先の試練で、俺はレオへの性的接触を禁じられてしまったりするのか? くっ、それはとんでもない試練だな。我慢できる気がしない!!」
拳を握りしめた俺がワナワナと震えていると、精霊王から『そんな試練があってたまるか!』と叱られた。じゃあどんな試練なんだと問えば、精霊王はこんなことを言う。
『試練の内容は言えぬ。我はそれを創造主に許されておらぬからな』
「肝心なところで使えないな」
『ふっ、なるほど、もう我の話は聞きたくないようだな、帰れ!』
「冗談だって。それで? それでレオはその後どうしたんだ」
『まったく、次にふざけたら許さんぞ! …………とにかく、試練となることがお前のためになると知りつつ、あの子はお前を愛するあまり試練となりきれなかった。代わりに愛することに徹した。あの子は自分の持てる感情のほぼ全てを、お前を愛することに使うと決めた。他人を憎んだり羨んだり、怒ったり悲しんだりする暇があれば、その時間も手間も全てお前のために使うと決めた。あの子の中にはお前に対する愛しかない。だからこそ邪念なき魂は透明で美しく、我を惹きつけてやまず加護を与える決断をさせたのだ。カイルよ、一つ面白いことを教えよう』
少し意地悪く笑う妖精王に、俺は眉を寄せてしかめっ面をした。なにを言われるのかと警戒する。
「なんだよ、なにを教えてくれるんだ?」
『本来、我が加護を与えるべき相手はお前だった。お前を一目見た時、我の愛し子となるべき存在が現れたと知れた。しかし、レオポルトの美しくも悲しいほどの無為無欲な様を、我はどうしても放ってはおけなかった。我は創造主の意に逆らった』
『それで代わりに我とカイルを契約させたのですか』
ロルフに問われ、精霊王が申し訳なさそうな顔をする。
『許せ、我の我儘でお前には苦労をかけることになった。ただし、本来その男は我が加護を受け取るべき類まれなる清廉な魂を持っておるのだ。なぜだか少し歪んでおるが……まあ、悪い人間ではあるまい? なにせ創造主の愛し子だ』
『それは確かにそうですが、ただかなり歪んではいます。悪い人間でないことは確かですが、良い人間かというと少し微妙なような……』
『まあな、歪んでおるしな、まるっきりの善人とはいかぬであろうな』
『とはいっても、悪人ではないのです。ただ歪みが酷――――』
「歪んでる歪んでるうるさいな!」
俺は苛ついて怒鳴った。
「俺のことはいい。それよりもレオだ! レオはなにを悩んでいるんだ?! そこを早く教えてくれ!」
『せっかちなことよ。しかし、悪いがこれ以上は言えぬ。これ以上話すことを我は創造主に許されておらぬ故な』
「はぁ?!????」
眉を吊り上げ、今にも暴れ出しそうなブチ切れ寸前の俺を見て、精霊王が渋々ながら少しだけ話してくれたことによると、本来の俺とレオの人生は十八才でキッパリと離れてしまうものだったらしい。それが五才からのレオの献身のおかげで、その先も一緒に暮らせる未来が開けそうになっている。けれども、それはまだ不確かなものでしかなく、創造主が設定していた本来の流れに戻ってしまう可能性が今もまだある。
その本来の流れに戻すことこそ俺のためになるのではないかと、そうレオは考えているのではないかと精霊王は言った。この先どちらの道に進むべきか、それこそがレオの悩みなのではないだろうかと。
「本来の流れに今から戻った場合、俺とレオはやっぱり十八才で別れることになるのか?」
『どうであろうな。色々と歪みが出ておる故、時期が早まる可能性もあるやもしれぬ』
「早まる? 冗談じゃない! そもそも俺はレオと離れるつもりはないし、今のままで十分幸せだ。むしろ、レオと離れたら俺は絶対に不幸になる。これは変えようのない事実だ! なあ、ロルフ、お前だってそう思うだろう?!」
『確かに、そなたはレオポルトがおらねば不幸になりそうだ。というか、死んでも我は驚かぬ』
そう言ったロルフに、俺はうんうんと頷いた。
レオがいなくなったら、きっと俺は生きていられない。
『創造主がなにを考えているのかは知らぬが、今はただ静観しているようだ。あの方は結局、お前が幸せになればそれでよいのだから。今の流れのままだろうが、元の流れに戻ろうが、それはどちらでもかまわぬらしい』
俺は今聞いた話を頭の中で整理した。改めて、俺がこれまでに自分の目で見てきて、経験してきたことを思い出してみる。
五才の頃から人が変わったようになったレオ。俺を誰よりもなによりも大切に想ってくれるレオ。両親のことをどうでもいいと断じ、町の奴らの酷い態度を気にも留めず、不器用でも要領が悪くても、不貞腐れることなくひたすら努力を続けてきたレオ。精霊の泉に行こうと言いだしたのもレオだった。加護が自分に付与された時、レオはかなり驚いた顔をしていたけど、あれは本来俺が付与されるべきものだと知っていたからなのか。
思い出してみれば、レオがこれまで自分の幸せについて、希望を口に出したことはない。いつだって俺の、俺だけの幸せを思い、俺の最良だけを考えて行動しようとする。
そして今、そうすることが俺の幸せになると信じて、レオは俺たちが袂を分かつ選択をしようとしているらしい。
「…………」
バカだな、可愛いレオ。
そんなこと俺が許すはずがないのに。
俺とレオが離れる未来なんて、そんなものの存在を俺が認める筈がないのに。
俺が幸せになるためには、レオという存在が不可欠に決まっているのにね、愛しいレオ?
底冷えしそうな冷たい笑顔を俺は自分の顔に浮かべた。
「ふっ、ふふふ、ふ、……これはもう一秒でも早く、洗いざらい吐かせないとダメだな」
『落ち着け、我が主。顔が恐ろしいことになっておるぞ!』
『ここで我から聞いた話は、知らぬことにしておくが良かろう。あの子は五才の時に知ったお前の未来について、これまで誰にも話さず、必死になって隠してきたのだ。知るとお前の運命が狂い、お前の幸せを壊すことになるやもしれぬと恐れてな。そこは気を使ってやって欲しい』
「分かってる。なにも知らないフリをして問い詰めることにするさ」
『問い詰める? ど、どうするつもりだ、お前の幸せがかかっている分、あの子もそう簡単には口を割るまい』
「ん? 知りたいか? 俺がどうやってレオに洗いざらい吐かせるつもりなのか」
俺がニヤリと笑うと、精霊王とロルフが顔を青褪めさせた。
『い、いや、これ以上は聞くまい。その方が我のために良い気がする。しかし、あまり無茶をしてやるなよ。あれは我の可愛い可愛い愛し子ぞ!』
「大丈夫だ、気持ち良くしてやるだけだから。ふふふ……」
精霊王とロルフだけでなく、周囲を飛び交う妖精たちさえもドン引いているのが見て取れる。が、そんなことはどうでもいい。
可愛いな、レオ。結局今悩んでいるのも、すべて俺のためだったんだな。
知らなかったとはいえ、これまでずっと苦しい思いを一人で背負わせて悪かった。でも、もう大丈夫だ。全部話して楽になろうな。そして、俺と二人で幸せになるんだ。
「精霊王、色々と世話になった。次はレオと二人で来る。その時には保留にしてあった願い事を叶えてもらうことにするよ」
『う、うむ、楽しみにしていよう。あの子のことを頼んだぞ』
俺とロルフは精霊王に別れを告げると、来た時と同じく、転移魔法を使って館へと戻った。
時刻はちょうどお昼時。
さて、どういう形でレオに吐かせようか。
イかせまくって「なんでもしゃべるからもう許して」か? それとも、焦らしまくって「なんでもしゃべるからお願いもうイかせて」の方がいいか?
どっちがいいか、いやどちらも捨てがたい。今日の夜が楽しみだな。
なんてことを考えていた俺は、その後すぐ、レオと一緒に食堂に向かって食事を始めたのだが……その食事の最中、レオが突然泣き出したことで、話は急展開を迎えることになるのだった。
今日の作業場所は他国の人里離れた谷の底。一段上がって水のない平地部分からぽっかりと口を開けて横に広がっている、普通なら人目につくことのない洞窟の奥である。
この場所に希少な鉱物が眠っていることを教えてくれたのは、小さな土系の妖精たちだ。ロルフと一緒にいると、妖精たちがこぞって手助けをしようとしてくれるから、目に見えない土の底に眠っている鉱物を見つけるのがとても楽で、すごく助かっている。
今はもう真夜中。日付が変わって既に一時間ほど経っている。この場所で、俺たちはもう一週間ほど採掘を続けていた。
ライトの魔法を光源としているので、夜中だろうが洞窟の中だろうが、難なく楽に作業ができる。水魔法を使って土や岩を削るようにして掘り進め、見つけた価値のある鉱物――――今回はダイアモンドの原石――――を片っ端からロルフのインベントリに放り込んでいく。作業はこれの延々繰り返しだ。
妖精たちが遊び感覚で手伝ってくれるおかげで、鉱物を見つけるのも仕分けをするのも実に楽だ。短時間であっと言う間に、ロルフのインベントリには高価な鉱物が溜まっていく。
そんな感じで鉱物を集めていく内、侯爵領地下に眠る価値のある資源の採りやすいものは、とっくに掘り尽くしてしまった。
その時点で俺はかなりの資産持ちになっていたが、しかし、俺はレオを世界一幸せにするつもりである。まだまだ金が足りないと判断した俺は、周辺他領や他国にまで足を延ばし、多種多様な高価な鉱物を根こそぎ採掘しまくっていたのだった。
ロルフ曰く、俺は既に世界一の金持ちであり、俺たちの住むシャロルタ王国で例えるならば、軽く国家予算の二百年分を超える資金と同等の鉱物を持っているらしい。
日中はレオと一緒にいることが多いし、人目もあるからあまり動けず、たいていは夜中にこっそりベッドを抜け出し、寝不足と戦いながら鉱物採りに励んできた。
ロルフが単独で行くと言ってくれたけれど、レオのために金を稼ぐことを人任せにするのはどうしても嫌で、必ず俺もロルフや妖精たちと一緒に働いた。
しかし、もう十分だろう。今日で鉱物集めも終わりにしよう。これ以上の資産は必要ない。
後片付けを終え、そろそろ館に戻ろうと洞窟から外に出たところでふと空を見上げると、そこには美しい月が見えた。
その月を見ながら、俺はここ最近ずっと気になっていたことを思い出し、思わず大きなため息をついた。それに気付いたロルフが大きな体を寄せてきて、心配そうに尻尾で俺の体を撫でてくれた。
『どうした、心配事か?』
「ん……ロルフだって気付いてるだろう? レオのこと」
俺が言うと、ロルフは顔をしかめた。
『うむ。あれはなにを悩んでおるのだ。あれが悩まねばならぬことが、近頃なにかあったか?』
「それが悔しいことに、俺にも思い当たることがないんだ」
自分自身の言葉に落ち込み、俺はまた大きなため息をついた。
ここ最近ずっと俺が気になっていること。それは、しばらく前からレオの様子がおかしいということだった。
俺とロルフが契約して三年が過ぎている。
それはレオが精霊王から加護を付与されてから三年経ったということでもあり、俺の予想通り、侯爵領の農作物の取れ高は、ここ数年でうなぎ上りに増加の一途をたどっていた。
農業に頼りきりで収入の大部分をそこから得ているウチの領では、おかげで税収も増え、領民たちも生活に余裕があるため、領都の町中の雰囲気も賑やかで活気に満ちている。
そして、これも俺が予想していた通りだが、精霊王の加護を得て後、レオが身に纏う空気の質が一気に変化した。穏やかで清廉、近くにいるだけで心が癒されていくような、そんな安らぎの空気にレオは常に包まれている。
それまでレオに対して馬鹿にするような態度を取っていた領民たちは、見ていて滑稽に思えるほど露骨に態度を変えた。生き物としての本能がそうさせるのか、皆レオの傍に寄りたがり、仲が深まるよう媚びた言動を取る者も多い。いつも笑顔でにこやかにレオとの会話を弾ませ、彼の持つ特別ななにかの恩恵を自らが受けられるよう、無意識の内に行動する。
俺はそんな奴らの手の平を返したような態度を、吐き気がするような思いで見ていたが、しかし、レオの態度は少しも変わらなかった。
精霊の愛し子になる前もなった後も、領民に対するレオの態度は一切変わらない。誰にでも親切で優しく、思いやりのある態度を続けている。
俺はレオほど人間ができていない。奴らのレオに対する態度の豹変ぶりに腹を据えかねた俺は、なぜ怒らないのか、腹は立たないのかとレオに聞いてみた。
レオはなんてことのないような顔で俺に答えてくれた。
「仕方ないよ。領民の皆が思っているように、僕が出来損ないっていうのは本当のことだもの。頑張ってはいるつもりだけど、でも、結果がすべてなのも分かってる。ただ、もう少し領民たちとは仲良くなれたらいいなあとは思っていたから、今は嬉しいよ。これも精霊王様のおかげだね」
「俺は悔しいよ。皆レオの内面を知ろうともせず、ただ自分たちにとって利益がありそうだからと思ってレオと仲良くしようとしてる。俺はあいつらのそんな態度に我慢ならない!」
拳を握りしめ、俺が悔しさを隠せずにそう言うと、レオはそんな俺を一瞬だけ驚いたように見た後、とても嬉しそうに柔らかく微笑んだ。
「カイルはやっぱり正義の人だなぁ。ありがとう、僕のためにそんなに怒ってくれて。でも、気にしないで。僕はどんな理由であれ、町の人たちと仲良くなれたことは嬉しいから」
「それが俺には分からない。あんな無礼な態度を取られ続けてたんだ、レオはもっと怒っていいんだぞ?」
「だってこの町はカイルの生まれ故郷だもの。ここはカイルにとって、カローリナとの思い出の詰まった、とても大切な場所でしょう? だからここは僕にとっても大切な場所だし、この町の人たちとは、できるだけ仲良くしたいと思っているんだ」
「!!」
レオの答えに俺は衝撃を受けた。
なんてことだ。俺のためなのか。俺のために我慢してくれていたのか。貴族という高い身分にありながらも、あんなに小馬鹿にされ、嘲笑われるような屈辱的な思いをさせられてさえ、レオは俺のために、この町の連中と良い関係を築いていこうとしてくれていたのか。
たまらず俺はレオを抱きしめた。
「カイル?」
レオが不思議そうな顔をするけれど、それを無視して、俺はただただレオの小さな体を抱きしめ続けた。
もしも……もしも前世なんてものがあったとして、俺はそこで一体どんな良い事をしたんだよ。どれほどの善行を行えば、これほど誰かに想われ、愛され、大切にされる人生を送れるんだよ。
レオの優しさに胸が震えた。レオが愛し過ぎて、幸せ過ぎて、涙が出そうになってくる。
「レオが大切だ。誰よりもレオが好きだよ。俺がレオを心から大切に思っていること、絶対に忘れないでくれ」
「ありがとう、カイル。でも、カイルもあまり領民の人たちを嫌わないであげて?」
「……どうしてだ」
「ウチの領はさ、最近は違うみたいだけど、少し前まで財政がかなり大変だったみたいじゃない? でも、領主である父上はなにも手を打ってこなかった。それに父上も母上も都会が好きなのか、王都に行きっぱなしで領地に全く戻って来ようとしない」
「そうだな。俺も旦那様には一度もお会いしたことがない。奥様だって、母さんの葬儀の時に一度お会いしただけだ」
「そう、だからね、仕方がないんだよ。領主一族で唯一自分たちの傍にいる僕に恨みの気持ちを持ってしまったり、文句を言いたくなったりするのは当然なんだ。僕の悪いところを見つけて、そこを馬鹿にしてあざ笑って憂さ晴らしをするのは、領民たちの当然の権利なんだよ。だって、どうしたって僕はやっぱり貴族で、領主の息子で、領民たちの不満のはけ口になるべき存在なんだから」
そう言った後、レオは恥ずかしそうに肩をすくめ、茶化すような顔をした。
「なーんて、偉そうなこと言っちゃったけど、こういうことが分かるようになったのも、最近のことなんだよね。僕も少しは成長できてるってことかな。これも色々なことを教えてくれる先生たちのおかげだね」
はにかむレオの可愛さと尊さといったら、もう……。
レオは時々今の様に、驚くほど大人で政治的な物の考え方をすることがある。それはとても立派な考えで、そんな考え方ができるレオが出来損ないだなんてとんでもない。あんなクソ領民たちなんて死ねばいいとか考えている俺なんかより、余程人間ができているし立派だと思う。
俺は我慢できず、愛するレオの顔やら頭やらにキスしまくった。嬉しそうにされるがままになっているレオが可愛くて、俺は眩暈がしそうになってしまう。
はぁ、レオの愛らしさに殺されそうだ。そうなったら、それはそれで本望だけど。
しかし、今の話を聞く限り、レオの悩みの原因は領民たちのことではないらしい。王都の家族のことではないことは、以前に「どうでもいい」とレオ本人が言っていたことから分かっている。
では、なんだ?
なにがそんなにレオを悩ませ、悲しませているんだ?!
ここ数ヵ月、少しずつ元気がなくなっていくレオを密かに見守ってきた。それでも少し前までは、下手な演技ながらも作り笑顔を見せてくれてはいたんだ。けれど、それもほとんどなくなってきた。今では俺が話しかけた時、辛うじて笑顔と思えるような表情を、わずかに見せるのみとなっている。
いつでもどんな時でも、周囲を明るく照らすかのような、見るだけでこっちまで幸せになってくるような、そんな笑顔をいつも見せてくれていたレオ。そのレオが笑えなくなるなんて、一体なにがあったんだ。
『精霊王に助言を求めにいくか?』
頭上で輝く月を見つめながら、洞窟の入口すぐ横の岩に腰を下ろし、俺がレオに想いを馳せていると、心配そうな顔をしたロルフから声をかけられた。が、その内容に俺は思い切り顔をしかめる。
十二才の時、アイツがレオの額にキスした恨みを、俺は今も忘れていない。
機嫌悪くムッスリとした俺を見て、ロルフは大きなため息をついた。
『あの方はレオポルトの庇護者だ。加護を与えた以上、レオポルトの様子を常に見守っているはず。我らに分からぬことでも、あの方なら存じ上げているやもしれぬ』
「アイツに頼るのは癪にさわる。負けた気がして腹が立つ!」
『精霊とは人間の世の理から外れた世界の住人よ。あの方もまた然り。勝った負けたを争う対象ではなかろう? まったく、そなたも存外子供っぽいところがあるものよな』
「だって、アイツがレオにキスしたりするから悪いんだ!」
わざと子供っぽく口を尖らせた俺を、ロルフが白い目で見る。
『あれは加護の付与であろうが。それに、そなたの方がレオポルトに余程好き勝手しておろうに。しかも、本人が寝た後の意識がない時だ。あれに比べたら、精霊王がした額に口付けたことなど、たかが知れておろう?』
「俺はいいんだよ。だってレオは俺のものだし、俺はレオのものなんだから」
『ふぅ、そなたはレオポルトのことに関してのみ、まるで幼子のような振舞いをする。普段はもう少し理知的であるのに……ああ、我は間違ったか。そなたと契約を交わしたのは失敗であったか』
「~~~~ああっ、もう、分かったから皮肉はやめてくれ。精霊王に会いに行くよ。でも、今夜はもう遅いから、また日を改めよう。そろそろ館に戻らないと寝る時間がなくなってしまう」
『だったらレオポルトに悪戯などせず、さっさと鉱物堀りに出かければ良かったのだ』
「レオに触らなかったら俺が病気になる。以前に二日触らなかった時、あの時は本当にまずいことになるところだった。気を抜いたら、所構わずレオを襲ってしまいそうだったからな」
『…………。』
呆れ顔のロルフを気にもとめず、俺は大欠伸をひとつした。
「ともかく眠い。今夜はもう部屋に戻るよ。また明日な、ロルフ」
『ゆっくり休むがいい、我が主』
俺はすっかり習得した転移魔法で瞬時にレオの部屋に戻ると、身体に浄化魔法をかけて寝衣に着替え、静かにそっとベッドに上がってレオの頬にキスをした。そして、そのままレオの体を柔らかく抱きしめながら目を閉じた。
取り合えず、今夜で鉱物の採掘は終わりだ。寝不足に悩まされる日々も今夜で最後だと思うと、俺は安堵と穏やかな気持ちを胸に、レオの優しい匂いに包まれて眠りについたのだった。
あれから約一ヵ月。
俺はレオの様子を注意深く観察し続けたけど、やはりどう考えても元気がないし、回復の兆しも全く見えない。それどころか、日増しに憂いに沈んでいく様子が見て取れる。
そして、そんなレオの様子に気付いていたのは、俺だけではなかったらしい。
「なあ、カイル。坊ちゃん、ありゃあどうしたんだ? かなり前から様子がおかしいとは思ってたけど、その内に元に戻るだろうと思ってたわけよ。けど、元に戻るどころかここんとこ酷いじゃねーか。自衛団の他の仲間たちも、皆心配してたぜ?」
侍女長にお使いを頼まれて領都の町中を歩いていた時、巡回中のダンに呼び止められて、そんなことを言われた。
自衛団とは、軍を持つことを国王から許されていない各領主たちが、領地の警備や犯罪の取り締まり、商人たちが荷を運ぶために行き交う街道の巡回などを行うために雇っている私兵団のことである。
ウチの領の場合、自衛団の寮や訓練地は領主館のすぐ裏手にある。そのため、彼らは俺たちが幼い頃からの顔見知りで、今では時々、剣の訓練に参加させてもらうこともあるくらいだ。だからレオのことも、妙な噂に惑わされることなく本質を知ってくれている。彼らはこの領都において、俺が信用していいと思える数少ない仲間認定した人たちに含まれていた。
そういう人たちだからこそ、ダンもレオの不調に、早い段階から気付いていたに違いない。
他にも、領主館で働く使用人たちは、ほとんど全員がレオの様子のおかしさに気付いていた。執事のラッセと侍女長からは「原因を探れ」と直接厳命を受けているくらいだ。
先週慰問に行った孤児院でも、レオを慕っている子供たちや、その世話をしているシスターたちに、俺はレオから離されて建物の陰にこっそり連れ込まれると、散々質問された挙句に叱られてしまった。
「レオポルト様は一体どうしたのです?」
「もうずっと元気ない」
「病気? 治る?」
「カイルが一緒にいてなにやってんだよ!」
「ここんとこずっとレオの笑顔が嘘くさい。作り笑顔なのがバレバレ」
「理由分からないの? どうして?」
「カイルならどうにかできるでしょう?」
「早くなんとかしてくれよ!! 気になって夜眠れなくなりそうだよ」
許しもなくレオを愛称で呼んだクソガキの首を腕で締め上げながら、俺は皆に真面目な顔で頭を下げた。
「もう少しだけ待ってくれ。近い内に必ず原因は突き止める。必ずまたレオを元気にしてみせる。だから、もう少しだけ待ってくれないか?」
俺の真剣な表情を見て一先ず引き下がってくれたのか、クソガキの首を締め上げる俺に恐怖したのかは不明だが、取り合えず、子供たちとシスターは「もう少し待つ、カイルがんばって」と言って、俺に多くの激励の言葉をくれたのだった。
領都の中心町でも、幾人かの領民たちに同じような質問を受けたが、俺は町のヤツらのことは大嫌いだし、信用も信頼もしていない。
レオが精霊の愛し子になって以後、人が変わったように猫なで声で馴れ馴れしく接っするようになった奴らと、俺はまともな会話をするつもりもない。だから笑顔で適当にあしらったのだが……しかし、あんな奴らにさえ気づかれるほど、やはり最近のレオは普通じゃないということだ。
もうこれ以上は放っておけない。けれども俺の力ではどうにもできない。
仕方なく渋々ながらロルフを引き連れて、俺は数年ぶりに妖精の泉に出向き、精霊王に会うことにしたのだった。
妖精の泉に行くのは二度目のため、転移魔法を使って即座に行ける。俺たちは一瞬で目的地に辿り着くと、すぐに精霊王を呼び出した。
泉の上に現れた精霊王のその姿は、数年前に会った時と寸分たがわず麗しい見た目をしていた。銀色の長く美しい髪と同じく、銀色に輝く神秘的な瞳をしていて、息を飲むほど秀麗なその容姿には、普通の人間ならば無意識に平伏してしまいそうな荘厳さがある。
しかし、俺にとってレオ以上に美しい生き物はこの世に存在しないので、精霊王などに目を奪われる可能性は微塵もないのだ。いくらアイツが美しくとも、顔に表情のあまりない能面のような冷たい顔立ちになど、魅力はこれっぽちも感じない。
それに比べて笑顔が愛らしく愛くるしく、無邪気で可憐であどけないレオの方が、何百万倍も素晴らしい存在に決まっている。
もし仮に、俺にレオほど大切に想える相手がいなかったなら、精霊王のことを世界一美しい存在だと思い、崇拝の対象として跪いたかもしれない。
けれど、現実はそうじゃない。俺がレオ以外の存在に跪くなど、絶対にあり得ないのだ。
ふふん、と思わず馬鹿にしたように笑った俺を見て、すぐ目の前まで来ていた精霊王が嫌な顔をした。前回と同じく、周囲には数多くの小さな妖精たちを引き連れている。
「お久しぶりです、精霊王」
『お前、顔を合わせたのは随分久しいが、相変わらずムカつく男よな。腹の底で我の悪口でも考えておったか、小癪な顔をしおって』
「悪口は考えていた。ムカつくのはお互い様だ。俺はまだ、あなたがレオにキスしたことを許していないからな!」
『だからあれは加護の付与だと言うておろうに。……ふう、まあよい。ところで、なに用でこのような所まで参ったのだ。まあ、想像はついておるが。我が愛し子のことであろう?』
俺はここに来た理由を精霊王に話した。
数か月前からレオの様子がおかしいこと。少しずつ元気がなくなり、笑顔は作り物になっていったこと。
日々の生活の中で、レオがそのようになる理由はなにも見当たらない。もう数ヵ月したらレオは王都の学園に通うために領地を離れることになるが、その時は俺も従者見習いとして同行し、以後はレオと一緒に王都の侯爵邸で世話になることは、もう何年も前から決まっていることだ。
ずっと親しくしていた領地の皆との別離が寂しいのかとも考えたが、それが理由であそこまで憔悴するとも思えない。
「あなたになにか思い当たることがあるのなら、ぜひ教えていただきたい。あんなレオはもう見ていられない。自分の身を切られるよりも苦しくて辛い」
『精霊王よ、我からもお頼み申す。どうかこの者に助言を与えて下され。我自身、王の愛し子のことが心配でたまらぬのです』
精霊王はしばらく俺とロルフを困ったように見ていた。が、やがて口を開いた。
『カイルよ、お前は賢い。既に気付いていよう、己がこの世界そのものから愛される存在であることを』
「それは……」
『よい、思うままを申してみよ』
俺は一瞬だけ戸惑いはしたものの、素直に答えることにした。
「俺は物心ついた頃から、自分がこの世界に愛されていることに気付いてた。理屈ではなく、感覚的に」
『そうだ。お前はこの世界の創造主の愛し子として生を受けた特別な存在なのだ。言い方を変えるならば、この世界はお前が幸せになるために創造主が用意した箱庭のような世界であるとも言える』
「創造主? 神様のことか?」
『そう考えて問題はなかろう。ともかくお前はこの世界にとって、誰よりも特別な存在なのだ』
「うーん、その割に、俺は父親を持たずに育ったし、唯一の肉親だった母も幼い頃に亡くしている。俺が幸せになるための世界にしては、少し厳しすぎるんじゃないか?」
『最終的に大きな幸せを手に入れるため、その時々でお前には試練が降りかかる。それを一つずつ乗り越えていくことでお前は力を蓄えていき、いずれは大きな試練を乗り越える力を有する存在となる。結果、それに見合う大きな幸せを手に入れるのだ。それが創造主がお前に用意していた道筋で、それをレオポルトは死にかけた時に夢の中で見てしまったのだ。詳しく言うと少し違うが、簡単に言うとそういうことになる』
「死にかけた時? ――――もしかして、木から落ちた時か?!」
俺が上げた驚きの声に、精霊王が厳かに頷いた。
『加護を与えた時、我はあの子の過去を見た。死にかけたところをお前に助けられた時、レオポルトは知ったらしい。自分も創造主がお前に与えた試練の一つであることを』
「レオが俺の試練の一つ?! それはどういう……はっ、まさかとは思うけど、この先の試練で、俺はレオへの性的接触を禁じられてしまったりするのか? くっ、それはとんでもない試練だな。我慢できる気がしない!!」
拳を握りしめた俺がワナワナと震えていると、精霊王から『そんな試練があってたまるか!』と叱られた。じゃあどんな試練なんだと問えば、精霊王はこんなことを言う。
『試練の内容は言えぬ。我はそれを創造主に許されておらぬからな』
「肝心なところで使えないな」
『ふっ、なるほど、もう我の話は聞きたくないようだな、帰れ!』
「冗談だって。それで? それでレオはその後どうしたんだ」
『まったく、次にふざけたら許さんぞ! …………とにかく、試練となることがお前のためになると知りつつ、あの子はお前を愛するあまり試練となりきれなかった。代わりに愛することに徹した。あの子は自分の持てる感情のほぼ全てを、お前を愛することに使うと決めた。他人を憎んだり羨んだり、怒ったり悲しんだりする暇があれば、その時間も手間も全てお前のために使うと決めた。あの子の中にはお前に対する愛しかない。だからこそ邪念なき魂は透明で美しく、我を惹きつけてやまず加護を与える決断をさせたのだ。カイルよ、一つ面白いことを教えよう』
少し意地悪く笑う妖精王に、俺は眉を寄せてしかめっ面をした。なにを言われるのかと警戒する。
「なんだよ、なにを教えてくれるんだ?」
『本来、我が加護を与えるべき相手はお前だった。お前を一目見た時、我の愛し子となるべき存在が現れたと知れた。しかし、レオポルトの美しくも悲しいほどの無為無欲な様を、我はどうしても放ってはおけなかった。我は創造主の意に逆らった』
『それで代わりに我とカイルを契約させたのですか』
ロルフに問われ、精霊王が申し訳なさそうな顔をする。
『許せ、我の我儘でお前には苦労をかけることになった。ただし、本来その男は我が加護を受け取るべき類まれなる清廉な魂を持っておるのだ。なぜだか少し歪んでおるが……まあ、悪い人間ではあるまい? なにせ創造主の愛し子だ』
『それは確かにそうですが、ただかなり歪んではいます。悪い人間でないことは確かですが、良い人間かというと少し微妙なような……』
『まあな、歪んでおるしな、まるっきりの善人とはいかぬであろうな』
『とはいっても、悪人ではないのです。ただ歪みが酷――――』
「歪んでる歪んでるうるさいな!」
俺は苛ついて怒鳴った。
「俺のことはいい。それよりもレオだ! レオはなにを悩んでいるんだ?! そこを早く教えてくれ!」
『せっかちなことよ。しかし、悪いがこれ以上は言えぬ。これ以上話すことを我は創造主に許されておらぬ故な』
「はぁ?!????」
眉を吊り上げ、今にも暴れ出しそうなブチ切れ寸前の俺を見て、精霊王が渋々ながら少しだけ話してくれたことによると、本来の俺とレオの人生は十八才でキッパリと離れてしまうものだったらしい。それが五才からのレオの献身のおかげで、その先も一緒に暮らせる未来が開けそうになっている。けれども、それはまだ不確かなものでしかなく、創造主が設定していた本来の流れに戻ってしまう可能性が今もまだある。
その本来の流れに戻すことこそ俺のためになるのではないかと、そうレオは考えているのではないかと精霊王は言った。この先どちらの道に進むべきか、それこそがレオの悩みなのではないだろうかと。
「本来の流れに今から戻った場合、俺とレオはやっぱり十八才で別れることになるのか?」
『どうであろうな。色々と歪みが出ておる故、時期が早まる可能性もあるやもしれぬ』
「早まる? 冗談じゃない! そもそも俺はレオと離れるつもりはないし、今のままで十分幸せだ。むしろ、レオと離れたら俺は絶対に不幸になる。これは変えようのない事実だ! なあ、ロルフ、お前だってそう思うだろう?!」
『確かに、そなたはレオポルトがおらねば不幸になりそうだ。というか、死んでも我は驚かぬ』
そう言ったロルフに、俺はうんうんと頷いた。
レオがいなくなったら、きっと俺は生きていられない。
『創造主がなにを考えているのかは知らぬが、今はただ静観しているようだ。あの方は結局、お前が幸せになればそれでよいのだから。今の流れのままだろうが、元の流れに戻ろうが、それはどちらでもかまわぬらしい』
俺は今聞いた話を頭の中で整理した。改めて、俺がこれまでに自分の目で見てきて、経験してきたことを思い出してみる。
五才の頃から人が変わったようになったレオ。俺を誰よりもなによりも大切に想ってくれるレオ。両親のことをどうでもいいと断じ、町の奴らの酷い態度を気にも留めず、不器用でも要領が悪くても、不貞腐れることなくひたすら努力を続けてきたレオ。精霊の泉に行こうと言いだしたのもレオだった。加護が自分に付与された時、レオはかなり驚いた顔をしていたけど、あれは本来俺が付与されるべきものだと知っていたからなのか。
思い出してみれば、レオがこれまで自分の幸せについて、希望を口に出したことはない。いつだって俺の、俺だけの幸せを思い、俺の最良だけを考えて行動しようとする。
そして今、そうすることが俺の幸せになると信じて、レオは俺たちが袂を分かつ選択をしようとしているらしい。
「…………」
バカだな、可愛いレオ。
そんなこと俺が許すはずがないのに。
俺とレオが離れる未来なんて、そんなものの存在を俺が認める筈がないのに。
俺が幸せになるためには、レオという存在が不可欠に決まっているのにね、愛しいレオ?
底冷えしそうな冷たい笑顔を俺は自分の顔に浮かべた。
「ふっ、ふふふ、ふ、……これはもう一秒でも早く、洗いざらい吐かせないとダメだな」
『落ち着け、我が主。顔が恐ろしいことになっておるぞ!』
『ここで我から聞いた話は、知らぬことにしておくが良かろう。あの子は五才の時に知ったお前の未来について、これまで誰にも話さず、必死になって隠してきたのだ。知るとお前の運命が狂い、お前の幸せを壊すことになるやもしれぬと恐れてな。そこは気を使ってやって欲しい』
「分かってる。なにも知らないフリをして問い詰めることにするさ」
『問い詰める? ど、どうするつもりだ、お前の幸せがかかっている分、あの子もそう簡単には口を割るまい』
「ん? 知りたいか? 俺がどうやってレオに洗いざらい吐かせるつもりなのか」
俺がニヤリと笑うと、精霊王とロルフが顔を青褪めさせた。
『い、いや、これ以上は聞くまい。その方が我のために良い気がする。しかし、あまり無茶をしてやるなよ。あれは我の可愛い可愛い愛し子ぞ!』
「大丈夫だ、気持ち良くしてやるだけだから。ふふふ……」
精霊王とロルフだけでなく、周囲を飛び交う妖精たちさえもドン引いているのが見て取れる。が、そんなことはどうでもいい。
可愛いな、レオ。結局今悩んでいるのも、すべて俺のためだったんだな。
知らなかったとはいえ、これまでずっと苦しい思いを一人で背負わせて悪かった。でも、もう大丈夫だ。全部話して楽になろうな。そして、俺と二人で幸せになるんだ。
「精霊王、色々と世話になった。次はレオと二人で来る。その時には保留にしてあった願い事を叶えてもらうことにするよ」
『う、うむ、楽しみにしていよう。あの子のことを頼んだぞ』
俺とロルフは精霊王に別れを告げると、来た時と同じく、転移魔法を使って館へと戻った。
時刻はちょうどお昼時。
さて、どういう形でレオに吐かせようか。
イかせまくって「なんでもしゃべるからもう許して」か? それとも、焦らしまくって「なんでもしゃべるからお願いもうイかせて」の方がいいか?
どっちがいいか、いやどちらも捨てがたい。今日の夜が楽しみだな。
なんてことを考えていた俺は、その後すぐ、レオと一緒に食堂に向かって食事を始めたのだが……その食事の最中、レオが突然泣き出したことで、話は急展開を迎えることになるのだった。
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