見つからない願い事と幸せの証明

鳴海

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Side カイル

05

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 まだ明るい昼間の寝室で、俺は全裸のレオの可愛いペニスを舌で舐めまわしつつ、香油をつけた指では後孔の奥の前立腺ばかりを刺激し続けていた。
 舌先でくすぐるように汁の溢れる鈴口を舐めてやると、レオは身をよじって感じまくる。

「ふあ、そこっ……あ……くすぐっ……ああっ!」

 亀頭のくびれ部分を吸ったり舐めたりして更に感じさせ、次に裏筋を舌先で上下に優しくなぞってやると、気持ちいいのだろう、ペニスが大きくビクビク跳ねる。

「……ああう、カイルッ、やあっ…」
「焦らされるの気持ちいいな、レオ」
「や、やだぁ、もっとっ……はぁ、もっとちゃんと舐めてぇ……」

 泣きそうな声でのおねだりを聞いた俺は、レオのペニスの先っぽをくちゅりと口に咥えた。途端、レオの下半身が弓なりに反りかえり、俺にペニスを突き出すような格好になる。後孔に入れた指がぎゅっと締め付けられた。

 この穴に俺のペニスを捻じ込んだら、どれだけ気持ちがいいことか。想像しただけで、トラウザーズの中では俺のペニスがガチガチに勃起してしまう。

「レオ、早く隠してること全部俺に話してくれ。俺も、俺も今すぐレオが欲しい」
「僕も欲しい、指じゃ……指じゃもう足りないよぉ、あっっ、イく……また出さないでイっちゃう! ああっ、いくっ、いくぅぅっ!!!」

 泣きながらレオは体を痙攣させ、激しく空イキした。白い体をピンクに染め、むわりと汗ばみ、苦し気に眉をしかめながら大きく目を見開いてビクビク絶頂するレオは、その顔を見るだけでイきそうになるほど淫らだ。

 それはそれで目の保養ではあるのだけれど、しかし、まだ目的は果たせていない。
 精霊王も言っていた通り、俺の幸せが掛かっているだけに、レオはそう簡単には口を割るつもりはないらしい。けれど、俺はすべて吐かせるつもりでいる。隠していること全部をしゃべりつくすまで、何度でもイかせるつもりだった。


 もうこれ以上、俺の目の前で、レオを無意識に泣かせたりするつもりはないのだから。





 それを見て驚いたのは、俺だけではなかったはずだ。

 昼時、いつもと同じように食堂で昼食を取っていると、なぜか突然レオが泣き出した。

 いや、泣き出した、というのとは少し違う。その大きな薄茶色の瞳で悲し気に俺を見つめながら、レオはただ静かに涙を流していた。
 食堂で給仕係として待機していた使用人を含め、その場にいたレオ以外のすべての人間が一斉に息を飲んだ。

 五才の時に人が変わったようになって以来、レオはいつも笑顔だった。大笑いすることもあれば、小さく噴き出すこともある。はにかむように笑うこともあれば、美しく微笑むこともあった。
 とにかく、レオを思い出す時、当たり前のように笑顔のレオが思い浮かぶくらい、いつでもレオは笑顔でいた。周囲を明るく照らすかのように、常に笑顔でいてくれたのだ。

 それがここ一年程前から、レオの様子がおかしくなった。なにかに思い悩み、悲しみにくれ、笑顔をあまり見せなくなっていった。

 そのレオが今は泣いている。静かに静かに涙を零し続けている。

 これ以上、もう見ていられなかった。


 俺は即座に立ち上がると、レオの傍に急いで歩み寄った。
 食事中に席を立つというマナー違反をした俺を、レオは不思議そうに見つめてくる。きっと、自分が泣いていることにも気付いていないのだろう。本人も気付かないところで、レオの心が悲鳴を上げているのだろうと俺は思った。
 たまらず俺はレオを両腕で強く抱きしめた。

 俺は食堂のドア付近に控えていたラッセに、食事を中断しての退室と、午後の授業の取り止めを願いでた。

「分かった。坊ちゃんを頼んだぞ」

 ラッセも俺と同じく、随分前からレオの様子のおかしさに気付き、気にかけていた内の一人である。すぐさま出された許可に、俺はレオの手を引いて食堂を出ると、そのまま二人の寝室へと足早に向かった。


 その後は、ひたすらレオを性的に責めまくった。

 いつものように乳首責めから入り、発情した体の感度を更に高めるため、体中を舐めまわし、手でも触れまくった。気がはやった分、少し雑な愛撫になった自覚はある。本当はもっと丁寧に愛してあげたいのだけれど、残念ながら今はそれどころじゃない。

「は……ああっ……や、やだ、見な、で……んんっ」

 ベッドの上、全裸のレオの下半身を持ち上げるようにして顔側に折り曲げると、その状態のまま足を大きく開かせた。日の光の差し込む明るい部屋の中で、レオのいやらしい股間部分が丸見えになる。

「嫌? 本当に? ここ、すごく綺麗な色だな。ほら、いっぱい舐めてやる」
「こっ、こんな格好、や、だぁ……み、見ないでカイル、は、はずか……ああっ!」

 俺はわざとべちゃべちゃと音を鳴らしてアナルを舐めた。舌を動かすたび、喜んでいるかのようにヒクヒクと動くすぼまりがたまらなく卑猥だ。レオのペニスはすぐに勃起して硬くなり、透明な汁をトロトロと零れさせた。

 アナルを可愛がりつつ、俺はレオの薄いピンク色の乳首も指でいじった。二つ同時にきゅっと強めに握り、少し引っ張った状態のままでクリクリとねまわす。

「あっ……あああっ……っ」

 ビクビクッとレオの体が快楽に震える。乳首が尖り、赤く色付いた。

「やぁっ……カイル……あ…んあっ!」
「まだだ、まだこれからだぞ、レオ」

 俺はレオの可愛い陰嚢の片方を口に含むと、そのまま舌でレロレロと舐めまわした。これにはレオも驚いたらしく、大きすぎる快感のあまり高く声を上げた。

「ああっ?! やっ……はああっン、それだめっ、だめぇ……」

 弄っていた乳首が石のように硬くなった。アナルを指で触れて確かめると、ぱくぱくと小さく開閉している。俺のペニスを欲しがっているのだと思うと、体が興奮で熱くなった。

 その後も言葉で責めながら、レオの感じるところをたくさん弄り、舐めまわし、なぶりまくった。
 それでも話そうとしないレオに、ペニスと陰嚢の根元を紐で縛り、射精できなくした状態で何度も何度も空イキさせた。が、やはりレオはしゃべろうとしない。

 そうまでされてさえ、俺のためにと口を開かずにいるレオに、喜びと愛しさが募っていく。しかし、今は喜んでいる場合ではない。

 仕方なく、本当は全部話した後のご褒美にするつもりだった後孔へのペニス挿入で、俺はやっとレオに全てを話させることに成功したのだった。
 とはいえ、その時も最初はなかなか話そうとせず、だから俺も必死になり、もう最後の手段だとばかりに、ありとあらゆる体位でレオを責め立てた。

 正常位に後背位、次に体を起こして片足を持ち上げた状態で後ろから責め立てた。その後は騎乗位で散々下から突き上げた後、俺のペニス先端を結腸に入れて圧迫したまま、アナルに俺の指を一本捻じ込んで前立腺も同時にグリグリ刺激した。そうしながらもう片方の手でペニスを扱いてやった時には、もう気も狂わんばかりに頭を左右に激しく振りながらレオは善がり狂っていた。

「あああ――っっ! お尻っ、お尻とおチンポが……っ!」
「どうした?」
「もう無理っ、溶けるっ、お尻とけるっ……おチンポすごくて変になるっ!!」
「そんなに泣いて、涎もたらして、はは、すごくかわいいな」
「おチンポ壊れるっ、あ、ああぁっ、せ、精子出したいっ……あっ、カイル、精子っ……はぁっ、白いの出させてぇ、……あ、ああっ!」
「だったら言え、レオ! 隠していることを全部話せ。そしたらすぐに紐をほどいてやるし、もっともっと気持ち良くしてやる」
「はぁ、はぁ……あ、話す、からぁ、もうイかせてぇ……」

 下からレオを強く突き上げることをやめて、軽く小刻みに揺さぶりながら、俺は黙ってレオの話を聞いていた。

 そこで聞いた、喘ぎ声交じりにレオが話してくれた内容は、事前に精霊王から話を聞かされていてさえ、俺を大いに驚愕させるものだった。

 レオは五才の時に木から落ちたことをキッカケに、前世の記憶を思い出したらしい。それはこことは異なる別の世界で、そこにはこの世界の未来について詳しく記された書があったらしい。それをレオは読んだことがあり、前世の記憶を思い出した際、その書の内容も一緒に思い出したという。
 その書によると、俺はこの世界の主人公的存在であり、魔法大国ヴァルトーシュの故王弟の息子ならしい。本来レオは俺を虐める悪役として、この世界に存在しているはずだった。精霊王の加護は俺が付与されるはずだった。

 その他にも、三ヵ月後に俺がどこぞの貴族の養子に入り、王都の学園に通うようになること。そこで愛する人や信頼のおける仲間たちや親友と出会うこと。学園卒業から数年後、悪政により国民を虐げているヴァルトーシュ国王と王太子を倒して反乱を成功させ、俺が次の王位につくこと。レオと俺は学園卒業を最後に、二度と会わなくなること。

 レオの覚えている予言書とも言える本の内容は、大雑把に言うと、だいたいこのようなものだった。

 予言書の内容以外では、レオが今悩んでいることについて話してくれた。それは、俺の幸せを邪魔しないために、俺から離れることを決意したことについてだった。

 俺は貴族となって王都に移住することになる。しかし、レオは王都には行かず、この領地で静かに生きていこうと決めたのだそうだ。
 けれども、本心では俺と離れたくないレオとしては寂しくて、別れが近付くにつれて悲しみが募り、少しずつ食欲が失せて元気がなくなり、笑えなくなっていったらしい。
 
 話を聞き出し、ひとまず俺は満足した。だから、俺に騎乗したままのレオに射精させてやることにした。ペニスと陰嚢の根元の紐を解いた後、何度も激しく最奥を突いて感じさせてやる。

「あっ、ああっ……奥っ、奥がすごいっ」
「すっかり奥が好きになったな、レオ。えらいぞ」
「ん……好き、奥、好き……はぁっ、もっと、うんっっ……ああっ、もっとぉ!」
「感じておねだりするレオ、すごくかわいいよ」
「あ、ああ、も、もう出るっ、出るよっ……ああっ!!」

 レオはペニスの先端から大量の精子を噴き出させた。

「んあっ……とまっ、止まらない、まだ……まだずっと出る……」

 ずっと我慢させていただけに、レオのペニスから溢れ出る精子は大量だ。その後もしばらく吐精は止まる様子がなく、トロトロと白濁を垂れ流しながら、レオは体をびくっびくっと痙攣させている。

「はぁ……あ、精子止まらない……まだずっと出て……ふぅ……きもちぃ……」

 虚ろな瞳で気持ち良さに蕩け、感じ続けているレオときたら、それはもう恐ろしいほどに淫靡かつ淫猥で、普段の無邪気なレオからは想像できないほど淫らで官能的だ。可愛くて愛しくて、頭を優しく撫でてあげたら、その刺激だけで昂り切ったレオの体は、また達したようだった。

「イくっ、ああっ、またイくっ!」
「くっ」

 入れっぱなしになっている俺のペニスが、レオが達した途端にぎゅうううっと絞られた。気持ち良さに腰が蕩けそうになってしまう。

「はは、入れてるだけなのに、すごく気持ちいい。たまらないな」

 俺の上に騎乗していたレオが、流石に疲れきったのか横に倒れそうになり、その勢いを利用して、俺は体位を騎乗位から正常位へと変えた。そのまま腰を動かし、レオの好きな奥を何度も何度も突きまくった。
 レオは泣きながら感じ続け、何度も射精と空イキを繰り返している。

「あっ、きもち……もうダメ、もう死んじゃう……んんっ、またイくぅ!」
「いっぱいイッていいぞ」
「イッてる……もうずっとイッ……あっ、またイッ……くぅあああ」
「ほら、いやらしい乳首も舐めてやる」
「あ、だめっ、そこされたらまたイく……すぐイッちゃうよぉぁああっ!!」

 その後、達し過ぎて意識が朦朧としているレオから、前世のことや予言書に書かれてあった内容について、更に詳しく洗いざらい聞き出した。

 欲しかった情報を全て手に入れた俺は、その後すぐに眠ってしまったレオの寝顔を、愛しさを込めて見つめた。甘く目を細めたまま、柔らかい頬にキスを繰り返す。
 やがて満足した俺は、しばらくゆっくり眠れるようにレオに治癒とスリープと浄化の魔法をかけると、立ち上がって素早く身支度を整えた。

「ロルフ! 話は聞いてたな」
『うむ』

 ロルフにはレオが予言書について話している間、音だけは聞くことを許可してあった。

 時刻はもうすぐ日付が変わる頃である。結局、話を聞き出した時間を含め、ほぼ半日、ずっとレオと二人でベッドに籠っていたことになる。

 ちょっとヤリすぎたかもしれない。
 レオが可愛すぎて、後半は話をさせることよりも、可愛がることを主体にして動いてしまった気がする。しかし、そうなっても仕方ないくらい、レオはエロ可愛すぎた。
 はぁ、もう本当に最高だった!

 レオを起こさないようにベッドから距離を取ると、俺は大きな窓の傍にあるソファーに腰を下ろした。水差しからグラスに水をつぎ、それで喉を潤してから、姿を現したロルフが俺の向かいに座るのを見て話しかけた。

「すぐにヴァルトーシュを壊滅させに行こうと思う。協力を頼む」
『は? いやいや、少し待て。壊滅はまずかろう。それをレオポルトが喜ぶとは到底思えぬ!』
「あの国のせいでレオは俺と別れようとしているんだぞ、そんなこと許せるか! いや、いっそこのシャルロタ王国も滅ぼすか! 俺が王女に一目惚れするとか、その王女と結婚して幸せになるとか、そんなあり得ないことをレオが言ってたしな! あ、国を滅ぼしに王都に行くついでに、これまでレオを悲しませてきた侯爵一家も殺ってしまおう!」
『落ち着け! 頼むから落ち着け!!』

 その後しばらくロルフからなだめられつつ、レオから聞いた予言書の内容を吟味し、それを俺の望む未来へと変化させるためにはどう行動すべきか、二人で一晩中話し合った。

 俺は是が非でも、今日中にはある程度のことを解決させたかった。これ以上レオを悲しませたくなかったし、なにより、俺たちが別々の人生を歩む未来を、この先ほんの少しでもレオが考えることが許せなかったからだ。

 あーじゃない、こーじゃないと色々な手段を考えていた結果、もう面倒になった俺は、少し切れ気味に叫ぶように言った。

「俺は殺された元王弟の息子で、国王に恨みを持っていて当然の存在なはずだ。だったら、俺が普通に王城に乗り込み、そこで国王と王太子を殺しても問題はないんじゃないか?! 目的は親の恨みを晴らすための仇討ちと、悪政を強いる国王を倒して正しい姿に国の在り方を戻すためだ」
『うーむ、ごちゃごちゃ裏工作するくらいなら、その方がいっそ清々しいかもしれぬな』
「城へは正面突破で門から中に堂々と入ろう。当然、門番に止められるだろうから、邪魔するやつは片っ端から潰していく」
『殺すのか』
「いや、恨みはなるべく残すべきじゃない。いずれ俺が治めることになるかもしれない国の人間たちだ。できるだけ殺さず、戦意喪失させるか、失神させるくらいでいいだろう」

 確認のため、ロルフにどのくらい強いのか尋ねてみると、超特大魔法を使えば、ヴァルトーシュの王都を一瞬にして焼け野原にするくらいのことならば、苦も無く楽々とできるのだそうだ。
 流石は聖獣だな。実に頼もしい。


 朝日が昇る頃になると、俺は寝室を出てラッセがいるであろう執務室へと向かった。そこで俺はレオから聞き出した悩みの内容を、三ヵ月後に俺との別れが来ると考えての悲しさからくるものだった、とラッセに報告した。

「レオは王都へは行かず、ここに残るそうです。旦那様にもその許可をもらっているとか。でも、なぜか俺は王都に行くと思っていたみたいで。レオが行かないのに、俺だけが王都に行くなんてありえないのに」
「…………」

 複雑な表情をしたラッセを見て、俺は気付いた。
 きっと、ラッセには前から知らされていたのだ。母のカローリナが本当は伯爵令嬢で、俺がヴァルトーシュの王族の落とし胤だということも。

 レオが言うには、俺はもうすぐどこかの貴族の養子になるらしい。貴族子息となった俺は、王都の学園に入学し、そこで多くの新しい出会いを果たすことになるとのことだ。

 ラッセには、俺が貴族の養子になることも、王都に居を移して学園に通うようになることも、既に侯爵夫人から伝えられているのだろう。だから、さっき俺が言ったことに対し、あんな複雑な顔をしたのだ。

「ラッセさん」
「なんだ?」
「レオが王都に行かないのなら、俺も王都には行きませんよ。貴族の養子になるつもりもありません。ねえ、ラッセさん? ラッセさんは俺がレオから離れると、離れられると思います?」

 何年か前に、既に俺はラッセの身長を抜いてしまっている。俺が上から見下ろしながらニヤリと笑ってみせると、ラッセは少し呆れたように肩を竦めた。

「思わんよ。この館で働く者ならば誰だって知ってるさ。お前の異常なほどの坊ちゃんへの執着をな」
「ですよね。なぜかレオだけには気付いてもらえてないんだけど。あ、でも、そんな鈍感なところもまた可愛いんですけどね。昨日なんて、隠していることを話させるために少し無茶をさせてしまったんだけど、もう本当にたまらなく可愛かったな……」
「お、おい、坊ちゃんは大丈夫だろうな!」

 焦るラッセに俺はにっこりと笑った。

「勿論ですよ。俺がレオを傷つけるわけないでしょう? でも、いつもより少し疲れさせてしまったから、今朝はゆっくり、いや少なくとも昼過ぎまでは寝かせてあげてもらえますか。目が覚めても、自分じゃ起き上がれないかもしれないから、誰かに世話をさせるようにして下さい」
「……お前はどうする。坊ちゃんの傍にいないのか?」
「俺はちょっと用があって、少し遠くまで出かけてきます。そこでやることがあるので帰りは遅くなりそうですが、まあご心配なく。それでは」
「待て」

 踵を返し、部屋を出ようとした俺は、ラッセに呼び止められて振り向いた。

「なんですか?」
「わたしを含め、この屋敷に長く勤める者は、坊ちゃんだけじゃなく、お前のことも我が子同然に大切に想っている。そのことを忘れないでくれ」
「…………」
「なにをするつもりか知らないが、気を付けろよ。坊ちゃんが寂しがるから、あまり遅くならないように努力しろ」
「――――はい、ありがとうございます」

 俺は深々頭を下げてから部屋を出た。



 寝室に戻ると、眠っているレオの額にそっとキスをした。

「なるべく早く帰るからな。待っててくれよ」

 そう言い残し、俺はロルフの背にまたがった。ロルフはすぐに転移魔法でヴァルトーシュ王都を取り囲む防御壁内側へと移動した。こんなこともあろうかと、暇があれば世界中のあらゆる場所に足を運んでおくように、ロルフには頼んでおいた。

 聖獣であるロルフに睡眠時間は不要だ。なので夜はいつも俺の命に従い、散歩と称して世界各国のあらゆる場所に足を運んでくれたようだ。
 自分一人だと風の速さで移動できるロルフである。きっと、かなりの場所に足跡を残してくれているに違いない。

 貴族教育の一環で習った周辺国家の歴史及び現状の知識により、これから俺が殺そうとしているヴァルトーシュの国王は、侵略のための戦争を推進する考えを強固に持った人物だと認識している。そういった状況ゆえに、ヴァルトーシュでは長きに渡り戦争が終わることがなく、常に纏わりつく死の影に国民は疲れ果て、心安らぐ時はなく、皆心身共に疲弊しているらしい。
 例え戦争に勝って領地を広げることができても、新しく併合された領地に暮らす人間の中に恨みは残り、本当の意味で争いは尽きることはないという。

 そのような状態でありながら、国王はまだ侵略戦争をやめようとはせず、更なる軍備拡大のため、国民から多額の税を徴収しようとしているらしい。
 王太子も、そんな愚かな政策に賛同し、父王と共に推し進めているそうだ。

「うーん、どれだけ考えても、容赦する必要性をまったく感じないな」
『…………』
「どうした、ロルフ?」
『この土地は戦いが長く続いている故に、人々の心が疲弊し、悲しみにくれている。妖精たちはそういった土地を嫌い、離れていく。ここは妖精の気配のほとんどしない寂れた土地となっておる』

 悲し気に何度か首を振ると、ロルフは厳しい目でヴァルトーシュ王都を見渡した。

『ここの土地を再生し、妖精たちの飛び交う豊かな地とするため、多少の殺生は許されることだと我は判断した』
「そうか。じゃあ、もう少し先に進もうか」
『うむ』

 俺たちが次に転移した先は城門前だ。流石のロルフも、城内にまでは足跡を残していないらしい。必要になるとは思ってなかったそうだ。

 門の警備兵に中へ入れてもらえるよう交渉したものの、ロルフの姿にかなり怯えていながらも、当然ながら中に入れてくれようとはしない。力ずくで追い返そうとしてきたから、仕方なくこちらも実力行使に出ることにした。とは言え、痛め付けるつもりはない。

「なるべく傷つけたくはない。スリープ、麻痺、硬直化の魔法を中心に邪魔する奴を排除していく」
『了解した』

 城門前の兵士たち数人を即座にスリープで眠らせると、俺たちは門内に入り、更にその奥にある城内に入るべく駆け出した。そして、その都度邪魔をしてくる人間を、あまり害のない魔法で戦闘不能にして進んでいく。

 ロルフが防御の魔法を掛けてくれたおかげで、多少の攻撃を受けても俺に害はなく、周囲にさほど注意を払わなくていいのには助かった。

 城内に入ると、さすがの広さに国王がどこにいるのか居場所が分からない。廊下ですれ違った年若い侍女に国王の居場所を尋ねたら、泣いて怯えてその場に座り込んでしまった。
 その侍女が言うには、もし教えたりしたら自分が酷い殺され方をするだけではなく、家族も惨殺されてしまう。だからどうか勘弁して欲しい、とのことだった。

 ヴァルトーシュという国は、王の恐怖政治により支配されていると聞いていたが、嘘ではないらしいと改めて思わされた。

 仕方なくその侍女を解放し、俺たちは城の中を移動しまくった。すると、ある重厚な扉の前に、普通の警備兵が数人、そして、綺麗に着飾った煌びやかな騎士が数人いて、その扉を守るかのように立ち塞がっているのが見えた。

『あれは近衛騎士ではないか。あの扉の向こうに王族がいるのだろう』
「国王と王太子がいてくれるといいけどな。ちょっと行って聞いてみようか」

 俺はごく自然に歩きながら、近衛騎士の守る扉へと近付いた。すぐに彼らから声をかけられる。

「何者だ! この奥では朝議が行われている。この廊下は現在使用禁止だ。引き返せ!」
「この奥に王様がいるんですか?」
「お前は馬鹿か。朝議と言っただろう。国王陛下を始め、王太子殿下、宰相閣下、他にも高位貴族当主の方々が集まっておいでだ。これ以上近付くようなら問答無用で斬るぞ!」

 なるほど、都合のいいことに、俺が会いたいと思っていた全員がこの扉の向こうに揃っているらしい。俺の隣に転移で移動してきたロルフが、即座に衛兵と近衛騎士を魔法で眠らせた。そして、彼らが守っていた扉を勢いよく開けた。

「無礼な、朝議の最中であるぞ! ――――?!」

 扉に一番近い席に座っていた貴族がなにか叫んでいたが、無視して部屋の中いた人間すべてに硬直化の魔法をかけた。国王、王太子、宰相、その他数人の高位貴族たちは、体が動かず声も出せず、視線だけを恐怖に染めて俺を凝視している。
 全員がきらびやかな服装を身にまとう、いかにもな感じの貴族たちで、俺よりはるか年上の者ばかりだ。

「俺の名はカイル。そこにいる国王により十六年前に殺された王弟の息子だ」

 服の内側から父の形見のペンダントを取り出すと、俺はそれを皆に見せた。それを確認した全員が驚きに目を見開く。特に国王の瞳には、先ほどまでより恐怖の色が濃くなったことが見て取れた。

「既に察しているとは思うが、俺がここに来た目的は父の復讐のためだ。が、それだけじゃない。この国は長きに渡り国王による恐怖政治に支配され、戦争を繰り返してきた。そのために虐げられ続けてきた国民たちを悪政から救いだし、この国を本来あるべき正しき姿に戻すことを俺は望んでいる。そのためにも現王を倒し、この地で生きる者皆が幸せに暮らせる国になるよう手助けしたい。それこそが俺がここに来たもう一つの目的だ」

 そこまで一気に話した俺は、隣にいるロルフの背を撫でた。

「こいつは聖獣。俺は彼の契約者だ。だから彼に命じて、今すぐこの国を滅ぼす力を持っている。しかし、できれば良い国へと生まれ変わって欲しい。それを実現するため、ここからは話し合いに入りたいワケだが……とその前に」

 皆と同じように硬直して話を聞いていた国王と王太子に、俺はスリープの魔法をかけた。二人はテーブルの上に上半身をうつ伏せて眠り込んでしまう。

 こいつらがいると、話し合いの邪魔だし、かといって目を離して逃げられると面倒だからな。取り合えず、眠らせておくことにした。その場の全員にもそう説明をする。

「ロルフからもなにか言ってやってくれ。俺の言葉だけだと、ここにいる奴らは信じないかもしれないからな」
『うむ、承知した』

 ロルフは室内に向かって、大きく威圧の気を放った。そうすることにより、自分の存在が人の世の理の外のものであることを、言外に簡潔に知らしめた。

『我は聖獣ロルフ。縁有りて、契約によりカイルを主とする者として、人間の世界に降り立っておる。主に逆らう者に我は容赦せぬ。なにより、この国に改革が必須であることは、この地に降り立ってすぐに我には分かった。お主たち、知っておるのか。今この地は妖精たちの気配がほとんどない不毛の地となっておることを。このまま放っておけば、いずれ十年以内にはこの国は滅ぶであろう。それを否とするならば、この者の言に従って国を正しき姿に改変せよ。出来ぬようならば、いっそのこと我が滅ぼしてしまおうぞ』

 ロルフの話を聞き、内容を理解したであろう室内の貴族たち全員の目が、一瞬にして冷静になったのが見て取れた。流石は国の中枢に君臨する高位貴族たちと言わざるを得ない。即座にことの重要性を理解したのだろう。

 念のため、騒いだら殺すと宣言して硬直化の魔法を解いてやると、貴族たちは一様にホッとした様子を見せたものの、誰一人として騒ぎ立てる者はいなかった。それどころか、全員が椅子から立ち上がったかと思うと、その場に跪いて俺に頭を下げたのだ。

 そして、言った。


「ヴァルトーシュの新たなる王よ。我ら一同、あなた様に永久なる忠誠を誓います」


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