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俺はいわゆる異世界転生というものをしたらしい。
思い出した記憶によると、前世の俺は地球という星の日本という国に生まれていて、高校生の時に死んだようだ。
特にこれといって突出したところのない、平凡な人間だったと思う。
生まれ変わったこの世界は、前世でいうところの中世ヨーロッパ的な世界観をもっていて、驚いたことに俺は貴族として存在していた。
ローアン伯爵家三男ディノ。十七才。
これが今の俺だ。
前世を思い出したキッカケは特にない。伯爵邸の自室でまったりお茶を飲んでいた時、なぜか突然思い出した。飲んでいたお茶を思わず吹き出しそうになるほど、本気で驚いた。
なにに驚いたかって、そりゃあ色々なことに驚いたが、中でも特に俺を驚愕させたのは、俺に男の婚約者がいるってことについてだ。
どうやらこの世界、同性同士の恋愛や結婚が普通に受け入れられているらしい。同性間で子供だって作れるっていうんだから、俺の驚きも当然だろう。
ちなみに、俺の婚約者は同い年のステファン・メルケンスという。公爵家の嫡男で、俺が嫁入りする形での婚姻になるという。
あー、はいはい、嫁入りね。つまり俺が子供を産む側なのね。
はい、なるほど、分かりました、う、うーん……。
自分の記憶をたどってみると、どうやら俺とステファンとの婚約は政略的なものらしく、二人の間に恋愛感情は一切ない……と言いたいところだけれど、残念ながらそうじゃない。
前世の記憶が戻る前の俺ーーつまりディノは、婚約者のステファンに惚れまくっていた。メロメロだった。まるで発情期の雌犬のようにステファンにいつもすり寄り、媚びへつらい、 煽て上げ、ゴマをすり、付きまとっていた。
ストーカーかよっ、と自分にツッコミを入れたくなるくらい最低な行動をしていた。
けれど、そうせずにはいられないくらい、ディノは婚約者に惚れて惚れて惚れ込んでいたのだが、それもまあ仕方がないと思う。
だって、婚約者のステファンはめちゃめちゃすごい人なんだ。
次期公爵に相応しく、とても高潔な性格をしている彼は、一度見たら忘れられないくらいの男前だ。
きりっとした眉は凛々しいし、鼻筋はすっと通っている。蜂蜜色の髪に翡翠の瞳はうっとりするほど綺麗だし、剣術により鍛え抜かれた肉体は、肩幅が広くて胸板は厚く、背も高ければ足も長い。
そんなステファンは当然ながら人気者で、男にも女にもモテていた。そして俺は、悲しいことに彼から毛嫌いされているのである。
そりゃまあそうだろう。だって俺、かなりしつこいストーカーだもんな。迷惑行為ばかり繰り返していたんだから、嫌われるのも当然だ。
俺たちは貴族が通う王立学園の生徒なんだけど、そこでも俺はステファンにストーキングしまくっていた。それだけでなく、ステファンに近寄ろうとする人間を敵として認定し、威嚇して罵詈雑言を浴びせて怒鳴りつけ、追い払ったりしていた。
ステファンの友達にも嫉妬の目を向けていた。彼がクラスメイトの令嬢や、親友のルッツと話しているのを見ただけで、キーキーギャーギャーと金切り声で罵った記憶さえあるのだから大概である。
俺は見てくれだけは最高級で、社交界の百合と呼ばれる美しい母にそっくりだ。プラチナブロンドにスカイブルーの瞳をした、輝かんばかりの美青年である。
その母だけど、実は現国王陛下の溺愛する年の離れた末妹で、俺は王太子や王女のイトコであり、高貴なる血統を持つ由緒正しき存在である。俺の髪や瞳の色も、まさに王家の色を表しているそうだ。
母は臣籍降嫁したわけでなく、あくまでも王女として父に嫁いだ。母が父に一目惚れしたことで、二人は結婚することになったらしい。母が今も王族なため、順位は低いものの俺は王位継承権だって持っている。
ステファンと俺の婚約も、王家との繋がりを欲したメルケンス公爵家から、強く請われて成ったものだった。
以前のディノは努力が嫌いな怠け者だから、成績は悪いし運動神経も良くなかった。けれども見目と要領だけはピカイチで、ずる賢いところのある人間でもある。
その才能を生かして上手く取り入ったおかげで、ディノは国王夫妻にめちゃくちゃ可愛がられていた。溺愛されていると言っても過言ではない。そのこともあって、ディノはいい気になって増長し、調子に乗ってやりたい放題してたというわけだ。我儘放題に育ってしまったのである。
でもさ、いくら綺麗でもさ、これじゃ周囲の人間に嫌われるよな。俺だってディノみたいな婚約者がいたら、絶対に毛嫌いするに決まってるもの。
正直、前世を思い出した俺は、現世の自分のあまりのやらかしっぷりに、穴があったら入りたいって気持ちでいっぱいになった。
もう、本当に恥ずかしい。羞恥心で死ねる。まさに黒歴史!
そんな風に自分の愚行を恥じる俺は、一番の被害者であるステファンに対し、申し訳ないと思う気持ちでいっぱいだった。これまで迷惑かけまくったことを、本当に本当に心苦しく思う。
でも、もう大丈夫だ。俺はもう二度とステファンを 煩わせたりしない。だから、どうかこれまでの暴挙を許して欲しい。
俺は前世の記憶が蘇ったとはいえ、以前のディノと同じ人間だ。だから今でもやっぱりステファンを好きな気持ちはなくならない。だからこそ、今後は彼に迷惑をかけないようにしようと思った。
だって、これ以上嫌われたくないし。
元日本人の俺は空気が読める分、自分がいかにステファンに嫌われていて、邪険にされていたのかを十二分に理解できている。
好きな人から蛆虫を見るような目を向けられて、ディノはよく平然としていられたな。ある意味、尊敬に値する。
けれども、まあ、それも終わりだ。今後、俺は必要以上にステファンには近付かないようにするつもりでいる。
家同士の決めた婚約だから、いずれ俺たちは結婚するのだろう。どんなにステファンが嫌がっても、恐らくこれは覆らない。だったらせめて学生の間だけでも、ステファンには自由恋愛を満喫して欲しいと思う。
俺もこれからは日本にいた頃を思い出し、もっと学生生活を楽しむつもりだ。
これまでずっとステファン一筋で、他にまったく目を向けなかった俺には、友人と呼べる相手が一人もいない。
性格も悪かったしね。皆から嫌われていて、遠巻きに陰口を叩かれてばかりいた。
でも、こんなのは寂しいし、楽しくない。
だから俺は、これからは一人でもたくさんの友人を作って、学生生活の思い出作りをしようと思う。
俺、実は前世ではかなりの陽キャで、友達作りは得意中の得意だったりする。
自分の方から皆に歩み寄り、これまでの失礼な態度を謝って、許しを得て友達になってもらおう。
プライド?
そんなもの気にしない。
だって友達作りは貴族としての人脈作りにもつながって、それは次期公爵であるステファンのためにもなるはずだ。
そう考えれば、俄然やる気がみなぎってくる。
今後は心機一転、生まれ変わった気持ちでーーいや冗談じゃなく本気でーーがんばろうと、俺はそう思ったのだった。
思い出した記憶によると、前世の俺は地球という星の日本という国に生まれていて、高校生の時に死んだようだ。
特にこれといって突出したところのない、平凡な人間だったと思う。
生まれ変わったこの世界は、前世でいうところの中世ヨーロッパ的な世界観をもっていて、驚いたことに俺は貴族として存在していた。
ローアン伯爵家三男ディノ。十七才。
これが今の俺だ。
前世を思い出したキッカケは特にない。伯爵邸の自室でまったりお茶を飲んでいた時、なぜか突然思い出した。飲んでいたお茶を思わず吹き出しそうになるほど、本気で驚いた。
なにに驚いたかって、そりゃあ色々なことに驚いたが、中でも特に俺を驚愕させたのは、俺に男の婚約者がいるってことについてだ。
どうやらこの世界、同性同士の恋愛や結婚が普通に受け入れられているらしい。同性間で子供だって作れるっていうんだから、俺の驚きも当然だろう。
ちなみに、俺の婚約者は同い年のステファン・メルケンスという。公爵家の嫡男で、俺が嫁入りする形での婚姻になるという。
あー、はいはい、嫁入りね。つまり俺が子供を産む側なのね。
はい、なるほど、分かりました、う、うーん……。
自分の記憶をたどってみると、どうやら俺とステファンとの婚約は政略的なものらしく、二人の間に恋愛感情は一切ない……と言いたいところだけれど、残念ながらそうじゃない。
前世の記憶が戻る前の俺ーーつまりディノは、婚約者のステファンに惚れまくっていた。メロメロだった。まるで発情期の雌犬のようにステファンにいつもすり寄り、媚びへつらい、 煽て上げ、ゴマをすり、付きまとっていた。
ストーカーかよっ、と自分にツッコミを入れたくなるくらい最低な行動をしていた。
けれど、そうせずにはいられないくらい、ディノは婚約者に惚れて惚れて惚れ込んでいたのだが、それもまあ仕方がないと思う。
だって、婚約者のステファンはめちゃめちゃすごい人なんだ。
次期公爵に相応しく、とても高潔な性格をしている彼は、一度見たら忘れられないくらいの男前だ。
きりっとした眉は凛々しいし、鼻筋はすっと通っている。蜂蜜色の髪に翡翠の瞳はうっとりするほど綺麗だし、剣術により鍛え抜かれた肉体は、肩幅が広くて胸板は厚く、背も高ければ足も長い。
そんなステファンは当然ながら人気者で、男にも女にもモテていた。そして俺は、悲しいことに彼から毛嫌いされているのである。
そりゃまあそうだろう。だって俺、かなりしつこいストーカーだもんな。迷惑行為ばかり繰り返していたんだから、嫌われるのも当然だ。
俺たちは貴族が通う王立学園の生徒なんだけど、そこでも俺はステファンにストーキングしまくっていた。それだけでなく、ステファンに近寄ろうとする人間を敵として認定し、威嚇して罵詈雑言を浴びせて怒鳴りつけ、追い払ったりしていた。
ステファンの友達にも嫉妬の目を向けていた。彼がクラスメイトの令嬢や、親友のルッツと話しているのを見ただけで、キーキーギャーギャーと金切り声で罵った記憶さえあるのだから大概である。
俺は見てくれだけは最高級で、社交界の百合と呼ばれる美しい母にそっくりだ。プラチナブロンドにスカイブルーの瞳をした、輝かんばかりの美青年である。
その母だけど、実は現国王陛下の溺愛する年の離れた末妹で、俺は王太子や王女のイトコであり、高貴なる血統を持つ由緒正しき存在である。俺の髪や瞳の色も、まさに王家の色を表しているそうだ。
母は臣籍降嫁したわけでなく、あくまでも王女として父に嫁いだ。母が父に一目惚れしたことで、二人は結婚することになったらしい。母が今も王族なため、順位は低いものの俺は王位継承権だって持っている。
ステファンと俺の婚約も、王家との繋がりを欲したメルケンス公爵家から、強く請われて成ったものだった。
以前のディノは努力が嫌いな怠け者だから、成績は悪いし運動神経も良くなかった。けれども見目と要領だけはピカイチで、ずる賢いところのある人間でもある。
その才能を生かして上手く取り入ったおかげで、ディノは国王夫妻にめちゃくちゃ可愛がられていた。溺愛されていると言っても過言ではない。そのこともあって、ディノはいい気になって増長し、調子に乗ってやりたい放題してたというわけだ。我儘放題に育ってしまったのである。
でもさ、いくら綺麗でもさ、これじゃ周囲の人間に嫌われるよな。俺だってディノみたいな婚約者がいたら、絶対に毛嫌いするに決まってるもの。
正直、前世を思い出した俺は、現世の自分のあまりのやらかしっぷりに、穴があったら入りたいって気持ちでいっぱいになった。
もう、本当に恥ずかしい。羞恥心で死ねる。まさに黒歴史!
そんな風に自分の愚行を恥じる俺は、一番の被害者であるステファンに対し、申し訳ないと思う気持ちでいっぱいだった。これまで迷惑かけまくったことを、本当に本当に心苦しく思う。
でも、もう大丈夫だ。俺はもう二度とステファンを 煩わせたりしない。だから、どうかこれまでの暴挙を許して欲しい。
俺は前世の記憶が蘇ったとはいえ、以前のディノと同じ人間だ。だから今でもやっぱりステファンを好きな気持ちはなくならない。だからこそ、今後は彼に迷惑をかけないようにしようと思った。
だって、これ以上嫌われたくないし。
元日本人の俺は空気が読める分、自分がいかにステファンに嫌われていて、邪険にされていたのかを十二分に理解できている。
好きな人から蛆虫を見るような目を向けられて、ディノはよく平然としていられたな。ある意味、尊敬に値する。
けれども、まあ、それも終わりだ。今後、俺は必要以上にステファンには近付かないようにするつもりでいる。
家同士の決めた婚約だから、いずれ俺たちは結婚するのだろう。どんなにステファンが嫌がっても、恐らくこれは覆らない。だったらせめて学生の間だけでも、ステファンには自由恋愛を満喫して欲しいと思う。
俺もこれからは日本にいた頃を思い出し、もっと学生生活を楽しむつもりだ。
これまでずっとステファン一筋で、他にまったく目を向けなかった俺には、友人と呼べる相手が一人もいない。
性格も悪かったしね。皆から嫌われていて、遠巻きに陰口を叩かれてばかりいた。
でも、こんなのは寂しいし、楽しくない。
だから俺は、これからは一人でもたくさんの友人を作って、学生生活の思い出作りをしようと思う。
俺、実は前世ではかなりの陽キャで、友達作りは得意中の得意だったりする。
自分の方から皆に歩み寄り、これまでの失礼な態度を謝って、許しを得て友達になってもらおう。
プライド?
そんなもの気にしない。
だって友達作りは貴族としての人脈作りにもつながって、それは次期公爵であるステファンのためにもなるはずだ。
そう考えれば、俄然やる気がみなぎってくる。
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