14 / 29
前世の君と今の君
5
しおりを挟む
「ダイチ。そこに座ってていいよ」
マンションに戻ってリビングに入るなり、二人がけのソファを指さした。俺しか座る人がいなかったそこは、今ではダイチの定位置。
「……すみません、ロッシュの散歩途中やめにしてしまって」
ソファに座るダイチの足元では、ロッシュがまるで河川敷まで辿りつくことができなかったことを抗議するかのように、キャンキャンと吠えている。それをダイチがなだめるために頭を撫でようとするが、ロッシュはくるくると体の向きを変え、抵抗していた。
いつもならロッシュを優先する俺も、さすがに道端で修羅場を演じる気はなく、結局お散歩は途中やめにして、ダイチを連れて帰ってきた。
一応帰りながらロッシュも道路をお散歩したけど、いつもの河川敷からの道路じゃないからロッシュは気に入らなかったみたいだ。
お詫びのおやつで機嫌をとらなきゃと思いながら、先にダイチに出すコーヒーを用意する。
「謝らなくていいよ。それより、ご機嫌ななめなロッシュの相手していてくれると嬉しいな」
「……はい」
2人分のコーヒーを淹れて、ついでにロッシュのおやつを持ってダイチのところに戻ると、まだロッシュが抗議中だった。
「ロッシュ、おまたせ。はいはい、お散歩できなくてごめんね」
犬用の野菜ビスケットを見せると、ロッシュはすぐに機嫌を直して、尻尾を振りながら俺の元に走り寄る。
「よしよし、ごめんねロッシュ、ほら、いい子だね。ダイチもコーヒーどうぞ」
ビスケットを入れた小さなお皿に、ロッシュが飛びつくようにして顔を突っ込むのを見ながら、俺はコーヒーをダイチに勧めた。
ダイチは黙ったまま、ペコッと頭を下げてからコーヒーを手に取る。
そしてしばしの沈黙。
引き止めたものの、どう切り出そうか。
ダイチの座るソファの斜向いにある木製の椅子に座り、コーヒーをすすりながらずっと考えていた。
『好きになってほしくないけど、嫌われたくもないって、そりゃ虫のい話だって』
佐藤の言葉が頭を巡る。
そんなことは俺だって分かってる。
でもこんないい子、あとにも先にももう出会えないだろう。
そして何より、もういいおじさんで干からびた生活をしていた俺に、ダイチは久々に俺にそういう潤った気持ちを与えてくれた貴重な存在なのであって。
(でも黒木のこともあるし、それに年齢的なことを考えるとなぁ)
俺が断れば、すべては万事丸くおさまる話だ。
そもそも50手前のおっさんと20歳そこそこの若者とじゃ、完全に釣り合わないわけだし。
……でもなんて言えばいいだろう。
俺がそんなふうに悶々として悩んでいる間に、ロッシュはおやつを食べ終わり、キャンキャンとご機嫌な自分をアピールしながら、俺の足にまとわりついてきた。
「おやつ食べたのか。美味しかったか~。よかったなー。ん~はいはい、分かった、わかったから。ロッシュ、おすわり」
コーヒーをテーブルに置いてロッシュを抱き上げると、もうそれだけでロッシュは大はしゃぎで、俺の顔をベロベロと舐めてこようとするのを阻止しながら、なんとか膝の上で大人しくさせた。
温かいロッシュの体温が膝に伝わってくる。柔らかい毛を撫でていると、心が落ち着いてきて、ちょっとだけ緊張が解けて、話を切り出す勇気が出た。
「ダイチ、さっきの話だけどさ」
声をかけると、手に持ったコーヒーをじっと眺めるダイチの体が、ピクリと動いた。
「……はい」
「ダイチが俺のこと好きだって言ってくれて、俺は嬉しかったよ」
ダイチが跳ねるように顔を起こして、俺を見た。
「え、じゃあ……!」
「あ、いや、ごめん、期待させるような言い方した」
「……やっぱり、俺じゃだめってことですか」
「だめというか……その……」
はっきり言え! 年下とは考えられないって。そう言えば話は早いんだから。
「あの男の人――佐藤さんのことが好きなんですか」
「え!? 佐藤!? 佐藤は本当に違う。マジで違うから。大学からの友達で、付き合い長いってだけの間柄。この前は佐藤が酔っ払ってて、調子にのってふざけてただけで……。佐藤とそんな関係とか、絶対に違うから」
やっぱりさすがにね。あいつとそういう仲だって、嘘でも人にそう思われるのはちょっと勘弁してほしい。
俺がきっぱりと否定すると、ダイチが少しホッとしたような顔をした。
「……じゃあ、他に好きな人が」
「今はいないよ」
「それなら……!」
「さすがに誰とでもいいってわけにはいかないよ」
「……俺のこと、嫌いですか」
安堵の表情から一転して思い詰めた表情のダイチに、俺の心はグラッとくる。ただでさえ揺らいでいるというのに、こんな顔されて、嫌いだなんて言えるわけがない。
マンションに戻ってリビングに入るなり、二人がけのソファを指さした。俺しか座る人がいなかったそこは、今ではダイチの定位置。
「……すみません、ロッシュの散歩途中やめにしてしまって」
ソファに座るダイチの足元では、ロッシュがまるで河川敷まで辿りつくことができなかったことを抗議するかのように、キャンキャンと吠えている。それをダイチがなだめるために頭を撫でようとするが、ロッシュはくるくると体の向きを変え、抵抗していた。
いつもならロッシュを優先する俺も、さすがに道端で修羅場を演じる気はなく、結局お散歩は途中やめにして、ダイチを連れて帰ってきた。
一応帰りながらロッシュも道路をお散歩したけど、いつもの河川敷からの道路じゃないからロッシュは気に入らなかったみたいだ。
お詫びのおやつで機嫌をとらなきゃと思いながら、先にダイチに出すコーヒーを用意する。
「謝らなくていいよ。それより、ご機嫌ななめなロッシュの相手していてくれると嬉しいな」
「……はい」
2人分のコーヒーを淹れて、ついでにロッシュのおやつを持ってダイチのところに戻ると、まだロッシュが抗議中だった。
「ロッシュ、おまたせ。はいはい、お散歩できなくてごめんね」
犬用の野菜ビスケットを見せると、ロッシュはすぐに機嫌を直して、尻尾を振りながら俺の元に走り寄る。
「よしよし、ごめんねロッシュ、ほら、いい子だね。ダイチもコーヒーどうぞ」
ビスケットを入れた小さなお皿に、ロッシュが飛びつくようにして顔を突っ込むのを見ながら、俺はコーヒーをダイチに勧めた。
ダイチは黙ったまま、ペコッと頭を下げてからコーヒーを手に取る。
そしてしばしの沈黙。
引き止めたものの、どう切り出そうか。
ダイチの座るソファの斜向いにある木製の椅子に座り、コーヒーをすすりながらずっと考えていた。
『好きになってほしくないけど、嫌われたくもないって、そりゃ虫のい話だって』
佐藤の言葉が頭を巡る。
そんなことは俺だって分かってる。
でもこんないい子、あとにも先にももう出会えないだろう。
そして何より、もういいおじさんで干からびた生活をしていた俺に、ダイチは久々に俺にそういう潤った気持ちを与えてくれた貴重な存在なのであって。
(でも黒木のこともあるし、それに年齢的なことを考えるとなぁ)
俺が断れば、すべては万事丸くおさまる話だ。
そもそも50手前のおっさんと20歳そこそこの若者とじゃ、完全に釣り合わないわけだし。
……でもなんて言えばいいだろう。
俺がそんなふうに悶々として悩んでいる間に、ロッシュはおやつを食べ終わり、キャンキャンとご機嫌な自分をアピールしながら、俺の足にまとわりついてきた。
「おやつ食べたのか。美味しかったか~。よかったなー。ん~はいはい、分かった、わかったから。ロッシュ、おすわり」
コーヒーをテーブルに置いてロッシュを抱き上げると、もうそれだけでロッシュは大はしゃぎで、俺の顔をベロベロと舐めてこようとするのを阻止しながら、なんとか膝の上で大人しくさせた。
温かいロッシュの体温が膝に伝わってくる。柔らかい毛を撫でていると、心が落ち着いてきて、ちょっとだけ緊張が解けて、話を切り出す勇気が出た。
「ダイチ、さっきの話だけどさ」
声をかけると、手に持ったコーヒーをじっと眺めるダイチの体が、ピクリと動いた。
「……はい」
「ダイチが俺のこと好きだって言ってくれて、俺は嬉しかったよ」
ダイチが跳ねるように顔を起こして、俺を見た。
「え、じゃあ……!」
「あ、いや、ごめん、期待させるような言い方した」
「……やっぱり、俺じゃだめってことですか」
「だめというか……その……」
はっきり言え! 年下とは考えられないって。そう言えば話は早いんだから。
「あの男の人――佐藤さんのことが好きなんですか」
「え!? 佐藤!? 佐藤は本当に違う。マジで違うから。大学からの友達で、付き合い長いってだけの間柄。この前は佐藤が酔っ払ってて、調子にのってふざけてただけで……。佐藤とそんな関係とか、絶対に違うから」
やっぱりさすがにね。あいつとそういう仲だって、嘘でも人にそう思われるのはちょっと勘弁してほしい。
俺がきっぱりと否定すると、ダイチが少しホッとしたような顔をした。
「……じゃあ、他に好きな人が」
「今はいないよ」
「それなら……!」
「さすがに誰とでもいいってわけにはいかないよ」
「……俺のこと、嫌いですか」
安堵の表情から一転して思い詰めた表情のダイチに、俺の心はグラッとくる。ただでさえ揺らいでいるというのに、こんな顔されて、嫌いだなんて言えるわけがない。
45
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
美人王配候補が、すれ違いざまにめっちゃ睨んでくるんだが?
あだち
BL
戦場帰りの両刀軍人(攻)が、女王の夫になる予定の貴公子(受)に心当たりのない執着を示される話。ゆるめの設定で互いに殴り合い罵り合い、ご都合主義でハッピーエンドです。
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる