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前世の君と今の君
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「――で、俺がその黒木って人の生まれ変わりってことですか?」
〝俺の死んだ友人が俺を好きで、俺と結ばれるために生まれ変わったかもしれない〟なんて話、よくよく考えれば、そんな馬鹿げた妄想話を本気で語る大人なんか、かなり痛いしキモい。
腹は立つけど、佐藤の反応が世間一般では正しいことのように思うし、ダイチだって佐藤みたいに引くかもしれない。
自意識過剰で妄想癖のあるキモいおっさん。そう思われるのも仕方がないし、そのせいでお別れとなったとしたら、それはそれで諦めがつく。
そんな覚悟で打ち明けたんだけど、ダイチの反応は予想外なものだった。
「君が黒木の生まれ変わりだという確信はない。でも、あの事故の日からすぐに生まれ変わったとして、年齢的にもあっているし、その……俺みたいなおっさんを、君みたいな若い人が好きになってしまった理由も、そう考えれば納得できる」
「俺がユウジさんを好きになったのはその黒木って人の影響であって、俺自身がユウジさんを好きになったわけじゃない。そう考えているってことですか」
「……ああ」
全ては黒木が仕組んだことであり、ダイチは前世の影響を受けているだけ。それさえなけれは、ダイチだって俺になんか興味を持たないはずで、もっと似合いの子をみつけて真っ当な恋愛の道を歩むだろう。
だけどダイチはいかにも解せないといった顔で、「それの何が問題なんですか」と言い放った。
「……え?」
「俺がその黒木さんだって確証はないですよね」
「え、あ、まあ……そうだけど」
「もし仮にそうだったとして、黒木さんのユウジさんを好きだって心が俺に受け継がれているなら、それこそ運命じゃないですか?」
「え」
「だってそうでしょう。魂に刻まれた愛なんて、そうそうないですよ」
ダイチは自分が言ったセリフに照れたのか、少しはにかんだ。
「でも、それがなければ君は俺じゃなくて……」
「他の人を好きになる?」
俺が頷くと、ダイチは首を振った。
「そんな〝かもしれない〟こと、どうでもいいです。それなら、もしかするとユウジさんよりもっと年上の人を好きになったかもしれないし、誰かを好きになることなんか、なかったかもしれない」
「……」
「ただひとつ言えるのは、俺に前世の記憶やら自覚なんかないってことです。だからユウジさんを好きな気持ちは、誰の影響でもない俺だけのものです」
「ダイチ……」
もう俺は何も言い返せなかった。
ダイチのやつ、「運命だ」なんて切り返し、どこで覚えてくんだよ。
でも考えてみればそりゃそうか。
前世の影響って言っても、そんなの前世の夢を見るとか、急に自分が黒木だったことを思い出すとか、そういう転生ものの漫画にありがちなはっきりとした自覚でもない限り、当事者にだって分かるはすないよな。
俺はただ、自分の自信のなさを、無理やり黒木のことで納得させようとしてたのかもしれない。
そうか、俺。ダイチと付き合ってもいいんだな。なんだか憑き物が落ちた気分。
「ダイチ、変なことを言ってごめん。俺、ダイチから告白されて、本当は舞い上がるほど嬉しかった。でもダイチからの好意に応える自信がなくて……。いろいろ変な理屈つけて、自分の気持ちに蓋をしようとしていたのかもしれない」
「ユウジさん……。じゃあ」
「うん。ダイチ、ありがとう。俺もダイチのこと好きだ。だから、これからもよろしく」
「ユウジさん!」
目をキラッキラに輝かせたダイチが、俺に抱きつこうとするのがわかり、俺もロッシュから手を離し、飛び込んでくるダイチを迎えようと手を広げた。
ところがその瞬間、それまで大人しく俺の膝に座っていたロッシュが、一瞬低い唸り声を上げ、勢いよくダイチの腕めがけて飛びついた。
〝俺の死んだ友人が俺を好きで、俺と結ばれるために生まれ変わったかもしれない〟なんて話、よくよく考えれば、そんな馬鹿げた妄想話を本気で語る大人なんか、かなり痛いしキモい。
腹は立つけど、佐藤の反応が世間一般では正しいことのように思うし、ダイチだって佐藤みたいに引くかもしれない。
自意識過剰で妄想癖のあるキモいおっさん。そう思われるのも仕方がないし、そのせいでお別れとなったとしたら、それはそれで諦めがつく。
そんな覚悟で打ち明けたんだけど、ダイチの反応は予想外なものだった。
「君が黒木の生まれ変わりだという確信はない。でも、あの事故の日からすぐに生まれ変わったとして、年齢的にもあっているし、その……俺みたいなおっさんを、君みたいな若い人が好きになってしまった理由も、そう考えれば納得できる」
「俺がユウジさんを好きになったのはその黒木って人の影響であって、俺自身がユウジさんを好きになったわけじゃない。そう考えているってことですか」
「……ああ」
全ては黒木が仕組んだことであり、ダイチは前世の影響を受けているだけ。それさえなけれは、ダイチだって俺になんか興味を持たないはずで、もっと似合いの子をみつけて真っ当な恋愛の道を歩むだろう。
だけどダイチはいかにも解せないといった顔で、「それの何が問題なんですか」と言い放った。
「……え?」
「俺がその黒木さんだって確証はないですよね」
「え、あ、まあ……そうだけど」
「もし仮にそうだったとして、黒木さんのユウジさんを好きだって心が俺に受け継がれているなら、それこそ運命じゃないですか?」
「え」
「だってそうでしょう。魂に刻まれた愛なんて、そうそうないですよ」
ダイチは自分が言ったセリフに照れたのか、少しはにかんだ。
「でも、それがなければ君は俺じゃなくて……」
「他の人を好きになる?」
俺が頷くと、ダイチは首を振った。
「そんな〝かもしれない〟こと、どうでもいいです。それなら、もしかするとユウジさんよりもっと年上の人を好きになったかもしれないし、誰かを好きになることなんか、なかったかもしれない」
「……」
「ただひとつ言えるのは、俺に前世の記憶やら自覚なんかないってことです。だからユウジさんを好きな気持ちは、誰の影響でもない俺だけのものです」
「ダイチ……」
もう俺は何も言い返せなかった。
ダイチのやつ、「運命だ」なんて切り返し、どこで覚えてくんだよ。
でも考えてみればそりゃそうか。
前世の影響って言っても、そんなの前世の夢を見るとか、急に自分が黒木だったことを思い出すとか、そういう転生ものの漫画にありがちなはっきりとした自覚でもない限り、当事者にだって分かるはすないよな。
俺はただ、自分の自信のなさを、無理やり黒木のことで納得させようとしてたのかもしれない。
そうか、俺。ダイチと付き合ってもいいんだな。なんだか憑き物が落ちた気分。
「ダイチ、変なことを言ってごめん。俺、ダイチから告白されて、本当は舞い上がるほど嬉しかった。でもダイチからの好意に応える自信がなくて……。いろいろ変な理屈つけて、自分の気持ちに蓋をしようとしていたのかもしれない」
「ユウジさん……。じゃあ」
「うん。ダイチ、ありがとう。俺もダイチのこと好きだ。だから、これからもよろしく」
「ユウジさん!」
目をキラッキラに輝かせたダイチが、俺に抱きつこうとするのがわかり、俺もロッシュから手を離し、飛び込んでくるダイチを迎えようと手を広げた。
ところがその瞬間、それまで大人しく俺の膝に座っていたロッシュが、一瞬低い唸り声を上げ、勢いよくダイチの腕めがけて飛びついた。
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