23 / 29
ダイチの本心
6
しおりを挟む
「あー……集中しすぎて、ちょっと疲れちゃったわ。今日はこれでおしまい。あ、そうだ、佐藤ちゃんに今度遊びに来てって言っといてね」
「わかりました。ありがとうございます。なんだか少しすっきりしました」
「そう? じゃあよかったわ」
結局のところ、本人と話し合わないことには何も解決しないってことだよね。
わかりきってたことだけど、こうして相談したことで、考えも整理されたし、覚悟もできた。
それにロッシュのことも。
「サイさんに背中を押してもらえた気分です」
「その彼氏が、もしもよ? 『おっさんには欲情しない』なんてことをほざいたら、ここに連れてらっしゃい。私が締めてやるわ」
サイさんが机の脇からタバコの箱を取り出し、1本口に咥えた。カチッとライターで火をつけた後、フーッと紫の煙を吐き出しながら片腕を上げて力こぶを作り、ニッと笑った。
そのムキムキな腕で締め上げられたら、さすがのダイチでも悲鳴をあげるだろう。
でも、サイさんにそう言ってもらえると、なんだか心強い。
サイさんにお礼を告げ、俺は店を後にした。
帰り道、電車の中で窓の外を流れる景色をぼんやり眺めながら、サイさんに占ってもらったことを反芻する。
サイさんは、ダイチは俺のことを性的な意味で好きだと言った。でもそれは占いでは、ということであり、本当のところは本人にしか分からない。
もう少し俺のほうから積極的にアプローチして、ダイチの反応を見ようかなと思う。
電車が最寄り駅に着き、俺は慣れた道を歩いて、マンションへと帰る。オートロックを解錠し、ドアを開けると、ロッシュが俺の足元に突進してきた。
真っ白でフサフサの尻尾をちぎれんばかりに振り、キャンキャンと鳴きながら俺の足元をくるくると回っては足にタッチする。そんなふうにロッシュは、俺の帰りを大げさなほど喜んで迎えてくれる。
「ロッシュ! ただいま! 寂しかったねー」
抱き上げると、まるで俺に笑いかけるかのように、ロッシュはハッハと口を開けて舌を出した。
黒木がロッシュ、もしくはダイチに影響しているかどうかについて、サイさんは無関係だと占った。
(サイさんの言ったとおり、ドッグスクールに通わせてみようか)
こんな小さなロッシュに、しつけなんかと思ったりもする。でもトレーニングで改善される程度のものなら、ロッシュが黒木に影響されたわけではないという証明にもなる。
ロッシュにごはんをあげた後、俺はサイさんから手渡されたドッグトレーニングスクールのフライヤーに記載されたURLにアクセスした。
「――で、今日ロッシュはドッグスクールに預けているんですか」
「そう。犬の幼稚園ってやつ。俺初めてでさ、預けるのなんかかわいそうかと思ってたんだけど、やっぱりダイチを噛んじゃったワケだし、一度は訓練させないとだめだなって。今は初級クラスで、慣れたらもっと高度な訓練ができるクラスに変更しようと思ってる」
「――俺のせい、ですか?」
ダイチが、ロッシュのいないソファに座って、申し訳無さそうな顔で俺を見ている。
もちろんサイさんに会った話は、ダイチには言っていない。
ロッシュは俺の思いつきで、ドッグスクールに通っていることになっている。まああながち嘘じゃない。
「ダイチのせいじゃないよ。ダイチを噛んだのは、ロッシュを甘やかしていた俺のせいだから」
「でも……」
いつもロッシュがいるはずの俺の隣を、ダイチが見た。
俺が椅子に座ると、いつも膝に飛び乗ってくるはずのロッシュがいないのは、やっぱりちょっと寂しい。でも夕方にはスクールから帰ってくるんだから。
「ロッシュはスクールで、トレーナーの女の人にすっごく懐いててさ。その人にすごく可愛がって貰っているから大丈夫だよ。……それで今日はさ、ダイチに聞きたいことがあって」
「俺に聞きたいことってなんですか」
不安な心をダイチに悟られないよう、なるべくさりげなく話を振ると、ダイチが人懐っこい笑顔を見せた。
俺はダイチの座るソファの横に尻をずらし座り直すと、ダイチの手を両手で包んだ。
……そうここまではいい。勇気を出せ、俺!
「ダイチはさ、俺と……その、手をつなぐ以上の関係になりたいとかって思わないのかな」
「え……」
俺の握ったダイチの手がピクリと動いた。
「わかりました。ありがとうございます。なんだか少しすっきりしました」
「そう? じゃあよかったわ」
結局のところ、本人と話し合わないことには何も解決しないってことだよね。
わかりきってたことだけど、こうして相談したことで、考えも整理されたし、覚悟もできた。
それにロッシュのことも。
「サイさんに背中を押してもらえた気分です」
「その彼氏が、もしもよ? 『おっさんには欲情しない』なんてことをほざいたら、ここに連れてらっしゃい。私が締めてやるわ」
サイさんが机の脇からタバコの箱を取り出し、1本口に咥えた。カチッとライターで火をつけた後、フーッと紫の煙を吐き出しながら片腕を上げて力こぶを作り、ニッと笑った。
そのムキムキな腕で締め上げられたら、さすがのダイチでも悲鳴をあげるだろう。
でも、サイさんにそう言ってもらえると、なんだか心強い。
サイさんにお礼を告げ、俺は店を後にした。
帰り道、電車の中で窓の外を流れる景色をぼんやり眺めながら、サイさんに占ってもらったことを反芻する。
サイさんは、ダイチは俺のことを性的な意味で好きだと言った。でもそれは占いでは、ということであり、本当のところは本人にしか分からない。
もう少し俺のほうから積極的にアプローチして、ダイチの反応を見ようかなと思う。
電車が最寄り駅に着き、俺は慣れた道を歩いて、マンションへと帰る。オートロックを解錠し、ドアを開けると、ロッシュが俺の足元に突進してきた。
真っ白でフサフサの尻尾をちぎれんばかりに振り、キャンキャンと鳴きながら俺の足元をくるくると回っては足にタッチする。そんなふうにロッシュは、俺の帰りを大げさなほど喜んで迎えてくれる。
「ロッシュ! ただいま! 寂しかったねー」
抱き上げると、まるで俺に笑いかけるかのように、ロッシュはハッハと口を開けて舌を出した。
黒木がロッシュ、もしくはダイチに影響しているかどうかについて、サイさんは無関係だと占った。
(サイさんの言ったとおり、ドッグスクールに通わせてみようか)
こんな小さなロッシュに、しつけなんかと思ったりもする。でもトレーニングで改善される程度のものなら、ロッシュが黒木に影響されたわけではないという証明にもなる。
ロッシュにごはんをあげた後、俺はサイさんから手渡されたドッグトレーニングスクールのフライヤーに記載されたURLにアクセスした。
「――で、今日ロッシュはドッグスクールに預けているんですか」
「そう。犬の幼稚園ってやつ。俺初めてでさ、預けるのなんかかわいそうかと思ってたんだけど、やっぱりダイチを噛んじゃったワケだし、一度は訓練させないとだめだなって。今は初級クラスで、慣れたらもっと高度な訓練ができるクラスに変更しようと思ってる」
「――俺のせい、ですか?」
ダイチが、ロッシュのいないソファに座って、申し訳無さそうな顔で俺を見ている。
もちろんサイさんに会った話は、ダイチには言っていない。
ロッシュは俺の思いつきで、ドッグスクールに通っていることになっている。まああながち嘘じゃない。
「ダイチのせいじゃないよ。ダイチを噛んだのは、ロッシュを甘やかしていた俺のせいだから」
「でも……」
いつもロッシュがいるはずの俺の隣を、ダイチが見た。
俺が椅子に座ると、いつも膝に飛び乗ってくるはずのロッシュがいないのは、やっぱりちょっと寂しい。でも夕方にはスクールから帰ってくるんだから。
「ロッシュはスクールで、トレーナーの女の人にすっごく懐いててさ。その人にすごく可愛がって貰っているから大丈夫だよ。……それで今日はさ、ダイチに聞きたいことがあって」
「俺に聞きたいことってなんですか」
不安な心をダイチに悟られないよう、なるべくさりげなく話を振ると、ダイチが人懐っこい笑顔を見せた。
俺はダイチの座るソファの横に尻をずらし座り直すと、ダイチの手を両手で包んだ。
……そうここまではいい。勇気を出せ、俺!
「ダイチはさ、俺と……その、手をつなぐ以上の関係になりたいとかって思わないのかな」
「え……」
俺の握ったダイチの手がピクリと動いた。
42
あなたにおすすめの小説
学院のモブ役だったはずの青年溺愛物語
紅林
BL
『桜田門学院高等学校』
日本中の超金持ちの子息子女が通うこの学校は東京都内に位置する幼少中高大院までの一貫校だ。しかし学校の規模に見合わず生徒数は一学年300人程の少人数の学院で、他とは少し違う校風の学院でもある。
そんな学院でモブとして役割を果たすはずだった青年の物語
平凡な男子高校生が、素敵な、ある意味必然的な運命をつかむお話。
しゅ
BL
平凡な男子高校生が、非凡な男子高校生にベタベタで甘々に可愛がられて、ただただ幸せになる話です。
基本主人公目線で進行しますが、1部友人達の目線になることがあります。
一部ファンタジー。基本ありきたりな話です。
それでも宜しければどうぞ。
美人王配候補が、すれ違いざまにめっちゃ睨んでくるんだが?
あだち
BL
戦場帰りの両刀軍人(攻)が、女王の夫になる予定の貴公子(受)に心当たりのない執着を示される話。ゆるめの設定で互いに殴り合い罵り合い、ご都合主義でハッピーエンドです。
【完結】僕がハーブティーを淹れたら、筆頭魔術師様(♂)にプロポーズされました
楠結衣
BL
貴族学園の中庭で、婚約破棄を告げられたエリオット伯爵令息。可愛らしい見た目に加え、ハーブと刺繍を愛する彼は、女よりも女の子らしいと言われていた。女騎士を目指す婚約者に「妹みたい」とバッサリ切り捨てられ、婚約解消されてしまう。
ショックのあまり実家のハーブガーデンに引きこもっていたところ、王宮魔術塔で働く兄から助手に誘われる。
喜ぶ家族を見たら断れなくなったエリオットは筆頭魔術師のジェラール様の執務室へ向かう。そこでエリオットがいつものようにハーブティーを淹れたところ、なぜかプロポーズされてしまい……。
「エリオット・ハワード――俺と結婚しよう」
契約結婚の打診からはじまる男同士の恋模様。
エリオットのハーブティーと刺繍に特別な力があることは、まだ秘密──。
⭐︎表紙イラストは針山糸様に描いていただきました
無能の騎士~退職させられたいので典型的な無能で最低最悪な騎士を演じます~
紫鶴
BL
早く退職させられたい!!
俺は労働が嫌いだ。玉の輿で稼ぎの良い婚約者をゲットできたのに、家族に俺には勿体なさ過ぎる!というので騎士団に入団させられて働いている。くそう、ヴィがいるから楽できると思ったのになんでだよ!!でも家族の圧力が怖いから自主退職できない!
はっ!そうだ!退職させた方が良いと思わせればいいんだ!!
なので俺は無能で最悪最低な悪徳貴族(騎士)を演じることにした。
「ベルちゃん、大好き」
「まっ!準備してないから!!ちょっとヴィ!服脱がせないでよ!!」
でろでろに主人公を溺愛している婚約者と早く退職させられたい主人公のらぶあまな話。
ーーー
ムーンライトノベルズでも連載中。
身代わりになって推しの思い出の中で永遠になりたいんです!
冨士原のもち
BL
桜舞う王立学院の入学式、ヤマトはカイユー王子を見てここが前世でやったゲームの世界だと気付く。ヤマトが一番好きなキャラであるカイユー王子は、ゲーム内では非業の死を遂げる。
「そうだ!カイユーを助けて死んだら、忘れられない恩人として永遠になれるんじゃないか?」
前世の死に際のせいで人間不信と恋愛不信を拗らせていたヤマトは、推しの心の中で永遠になるために身代わりになろうと決意した。しかし、カイユー王子はゲームの時の印象と違っていて……
演技チャラ男攻め×美人人間不信受け
※最終的にはハッピーエンドです
※何かしら地雷のある方にはお勧めしません
※ムーンライトノベルズにも投稿しています
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる