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龍の父の部屋
しおりを挟む祖母から案内された部屋に入る桜也。櫻子を連れ入ると、日当たりの良く広い部屋だった。本棚には医学書が並べられ、都内でも医学部の有名な大学の入試問題集もあった。
「桜太はね………おじいさんに憧れて医者を目指したの……だけど、厳し過ぎたのね……少し成績が落ちただけで衝突するようになって、桜太はプレッシャーに押しつぶされて、家出してしまった………大学受験目前でね……」
「……………」
「そして、桜也を妊娠させたお嬢さんを連れて帰って来た桜太に激怒したおじいさんは、もっと頑固になってしまって………いつか許してもらおうと、桜太は桜也の写真を何枚も送ってきたわ…………嬉しそうでねぇ……初孫なんだ、と写真迄持ち歩いたぐらいよ………」
「…………桜也……」
祖母の話を聞くと涙が溢れてしまう櫻子。桜也は黙って聞いている。
「でもね………もう、桜太を許そう、とおじいさんが言った頃に、桜太は死んでしまった……それが駄目だったのよね………暴力団を一切許せず、そこに身を投じた桜太を許せなくなってしまった後に、蒼太も………雪さんは悪くないのに、責任感ある人だから籍に入らなくてもいい、と言ってね………でも孫は違うでしょう?何も知らないわ………櫻子がうまれて、その愛らしさで頬が緩むのに、中国で誘拐されて………」
「……………ひっく……ぐすっ……ごめ……な……さ……」
謝る必要も無いのに謝る櫻子。そんな櫻子の手を握ってくれた祖母は優しい目を櫻子に向けた。
「おじいさんが何もかも、許さなかったからよ………あなた達は、悪くないの………窓から大きな桜が見えるでしょう?………桜太が産まれた時に植えたのよ………私の名前にも桜が付いてるのもあってね、桜を子供に付けたい、と桜太と付けたんだけど、まさか桜太も息子に桜を付けるとはねぇ………そして、櫻子もなんて…………雪さんから聞いたのよ?櫻子の由来は何?て………雪さんは、桜太をとても愛してくれたのね……あんなに愛してくれていたのに………死んでしまったのが本当に悔しかったわ」
「そうしたら、櫻子も蓮も菫も産まれてないですよ、おばあさん」
桜也は言う。長い沈黙を破り。
「桜也………」
「それに、櫻子が産まれてくれたおかげで、俺は極道から足を洗う決心も付けたんですから………そっか………親父はあの桜があったから、俺に桜を付けたのか………」
大きな1本の見事な桜の木。春になれば桜色の花が咲き誇る事だろう。
「お花見、したいね…………皆で」
「…………そうだな」
♤♤♤♤♤
高嶺の全員で食卓を囲む事になり、リビングに戻った櫻子と桜也。相変わらず、思い出に浸る蒼太や雪、蓮、菫を眺める祖父。
祖父は、なかなか輪に入れずにいた。
「まぁまぁ………相変わらず頑固なんだから……雪さん、手伝って下さいな……櫻子も菫も、料理作って頂戴」
「あ!すいません!今お手伝いします!!菫!あんたも手伝って!!」
「えぇ~~!まだ見たい!!」
「…………菫は見てればいい……俺が手伝うから」
「え!?桜也さん料理出来るの?」
「菫、桜也の料理美味しいよ?」
「菫は料理下手だからなぁ」
「お兄ちゃん!バラすな!!」
賑やかな雰囲気は久しぶりなんだろう、祖父の涙腺はゆるゆるだった。
菫が料理下手だと言った蓮の言葉通り、本当に手際悪く、櫻子も桜也も呆気に取られ、人数分の料理を仕上げる。
暫く食事を続け、終わりに差し掛かると、桜也は口を開いた。
「櫻………」
「ん?」
「…………いや……何でもない」
桜也の考えている事は櫻子には伝わっていない。だが、桜也には今はこれで良かった様な気がしていた。両親と再会出来て、その穴埋めも必要だろう、と。しみじみと、この団欒を見つめる桜也。しかし、突如菫が気になっていた事を聞き始めた。
「お母さんさぁ、初恋だったんでしょ?桜也さんのお父さんだった叔父さんに」
「…………まぁ、ね…」
「もし、生きてたら如何なってたかな?」
雪は箸を置き、食べるのを止める。
「何も変わらないわ………私は桜太に何度もフラれてるしね………目の前で亡くなった時、『極道を捨てろ』と言われた……もし、生きていてもそう言ってた気がするし………今わの際に『桜也を頼む』て言われてたら人生変わったかもしれないけど………意地になってがむしゃらで極道に身を置いてたでしょうね」
「…………そうしたら、櫻子も蓮も菫も産まれてないな」
「…………ゔ……それは嫌だな……」
その言葉を聞いた祖父は、席を立つ。暫くして戻ってくると、手紙の束を持って来た。
「………雪さん………桜也……これを渡しておく………桜太からの手紙だ………あんたの事や龍虎会の事………桜也の事が書いてある………今迄すまなかったな………桜太は、医者になれずに謝ってばかりだったが、龍虎会に身を寄せる様になってからは、龍虎会の事ばかり書いてたよ……だからと言って、極道を擁護はしないがな………」
「…………ありがとうございます……お義父さん………それは桜也に渡して下さい………私は思い出だけで充分………桜也が成長してこうして会えて、櫻子が無事帰ってきてくれただけで、胸がいっぱいなんです」
「雪お嬢…………」
「…………だから、もうお嬢はやめなさい!桜也…………う~ん、これからは………叔母さん?もしくは…………お義母さん?」
この一言で、場はシーンとなる。
「あれ?違った?櫻子と付き合ってるんでしょ?桜也」
「……………お、お母さん…」
「え~~~~!!そうなの?お姉ちゃん!!」
「……………折角なので、言いますが………櫻子と共に生きていけたらな、と思っているのは事実です………だが……26年の時間を埋めさせたいとも思ってる………櫻子が納得する迄は、まだプロポーズはするつもりはないですよ」
「…………桜……也……」
櫻子の為の言葉。桜也なりの心遣いだ。
「…………阿呆なの?桜也」
しかし、雪は阿呆扱いだ。
「…………は?阿呆、て今言いました?お嬢……」
「結婚したからって、親子の絆は変わらないし、離婚したからって変わらない………死んだってね…………26年?穴埋め?じゃあ何?更に26年待つ訳?」
「い、いや………そこ迄は流石に……」
「なら、あなた達のいい時期を選びなさい………桜也もずっと龍虎会に縛られてた生き方したでしょ……自由にしなさいよ………蒼太は嫌かもしれないけど」
「せ、雪!!」
「…………分かりました……でもここではしませんから」
「「ちぇっ」」
雪と菫は見たかった様だった。親子というのはここまで似るのか、と思わざる得なかった櫻子だった。そして、少し櫻子もホッとする。流石に家族の前で言われると照れ臭いからだった。
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