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慈しむ心
しおりを挟むラメイラはリハビリも兼ねて、散歩をしていた。
ナターシャの事は気にしてはいたが、あれから数日経っている。
悲しそうな顔をしたナターシャに声が掛けれなかったのだ。
おめでたい事なのに、嬉しそうにはしていなかったナターシャが心配だった。
「………ふぅ……ちょっと休憩しよ……。」
皇女宮から、王宮の庭のベンチに座るラメイラ。
そのベンチから皇子宮が見えた。
「タイタス?」
窓から顔を見せるタイタス。
恐らく自室だろうが、遠目から見ても暗い表情だった。
そのタイタスの目線が気になり、目線を追うと、リュカリオンにエスコートされながら歩くナターシャを見つける。
「ナターシャ………リュカ………あ、あれ?何であんなに明るい表情なんだ?」
数日前のナターシャは妊娠を嬉しそうにはしていなかったのに……。
「あ、こっちに来るけど……ちょっと隠れよ……。」
数日前の表情が2人とも違うのが気になり、隠れたラメイラ。
「大丈夫か?ナターシャ、疲れてないか?」
「…………もう………数歩歩く度に聞くの止めて下さい……。」
「し、しかし……。」
「妊娠は病気ではないのですから。」
クスクスと笑いが漏れるナターシャを労うリュカリオン。
「ナターシャ……無事にこの子が産まれるのが待ち遠しい……。」
「リュカ………待ってて下さいね。」
リュカリオンはナターシャのお腹を擦る。
聞いているラメイラでさえ、照れてしまう程の甘い言葉。
「ナターシャは何方が欲しい?」
「………気が早いですわ。」
「…………あぁ、早く会いたい。」
「………もう……リュカったら。あなたのお父様は親バカですね~………ふふふ。」
「ナターシャ………どうしよう……ヤキモチ妬きそうだ。」
「は?」
「この子にナターシャを取られそうで……。」
「プッ!」
(ブッ!!リュカ…………面白い!!)
茂みに隠れているラメイラは笑いを堪えるのが必死になっていた。
「皇女だったら、きっとリュカは泣くでしょうね………ふふふ。父がそうでしたから。」
「さ、宰相が!?」
「『娘を持つものではなかった』と泣かれました………ふふふ。」
「そ、それは………結婚相手が俺だからか?」
「いいえ、多分他の方であろうとも、娘を取られた気になるからではないでしょうか。」
「そうなのか?」
「そうみたいです。母が申しておりました。慈しんでわたくしは育てて頂いたのだな、と結婚式の時に思いましたわ。」
「では、俺達もこの子にも、また次に産まれてくるかもしれない子にも……何人産まれるか分からないが、慈しむ心を大事に育てていこう、ナターシャ。」
「はい。リュカ。」
リュカリオンとナターシャは抱き締めあい、言葉なく唇を合わせた。
(………慈しむ心か………。ん?タイタスが2人をじっと見てたな…………!!)
タイタスは涙を流していた。
タイタスはナターシャがまだ好きでいながら、ロレイラに癒やしを求めていただけなのだ、と改めて突き付けられる。
人の気持ちは如何にもならない。
本人の踏ん切りがあって、はじめて次に進むのだ。
(タイタスはナターシャが妊娠した事知っているのかな?)
もうタイタスもトーマスも間に入る隙はないのだ。
そして、ラメイラもタイタスの心をまだ手に入れられない事も。
ガサッ。
「あれ?リュカ?ナターシャ?」
「!!」
ラメイラは、リュカリオンとナターシャのキスを止めさせた。
「見てたな、ラメイラ。」
「何の事?たまたま居たら、イチャイチャし始めたから出て来たんだよ。」
「ラメイラ、皇女宮から歩いて大丈夫なのですか?」
「身体鈍るから動かないとね。」
「でも、距離ありますわ?」
「私の事よりナターシャの悪阻が心配だよ。」
「食べ物のニオイで気持ち悪くなるだけのようで、この数日は野菜と果物だけ食べてますけど、ヴァン子爵もそれでも食べないよりかはいい、と言って頂いたので、それが良かったみたいです。」
「良かったな、ナターシャ。あの後暗い顔をしていたから、心配してたんだ。『リュカが嬉しそうにしてない』から、て落ち込んでたし。」
「…………。」
お互いを見つめ合う。
しかし、直ぐに笑顔が漏れた。
「まぁ、俺が労いの言葉を掛けれてなかったから、悲しませてしまった。」
「じゃあ、嬉しいんだ?リュカも。」
「当たり前じゃないか。」
「………プッ………。」
「………ナターシャ言うなよ?」
「さぁ?………クスクス……。」
「…………ごちそうさま……。」
何をしたかは分からないが、しっかりと心は通じ合ったようで安心したラメイラだったが、ラメイラが皇太子邸に遊びに行くとその意味は直ぐに分かる。
皇太子邸内が薔薇の香りが充満していたのだ。
「うわっ!薔薇がいっぱい!!」
「ラメイラ、少し持って行ってくれます?クスクス。」
「リュカ………可愛過ぎる………。」
「でしょ?………凄い量で……。」
だが、幸せのお裾分けの気がして、ラメイラはナターシャの嬉しそうな顔を見て、また安堵したのだった。
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