偽物の僕は本物にはなれない。

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「そっか。もう、ダメなのか」

ある日、僕は唐突に理解した。

「…じゃあ、消えなきゃね」

眠っている君の顔を笑って見ているはずなのに、何故かぼやける視界。目が悪くなったのかな。
嫌だなぁ。最後くらい、君の顔をちゃんと見たいのに。

ボタボタと落ちていく水滴を見て見ぬ振りして、彼の顔にかかる前髪をサラリと避けた。
微かに身動ぐ彼に手をピタリと止め起きたのかな…なんて顔を覗きこんだけどまた規則正しい寝息へと変わっていく。

「…起きるわけ、ないか。いつも朝までぐっすりだもんね」

ゆっくりとベッドから抜け出し、彼がいない間に纏めていた荷物を手に取って彼を起こさないように扉を閉めた。
…もう二度と、ここに来ることはない。

「……大好きだったよ」

さよなら。

その言葉は声にならずただ息が漏れただけになったけど。

君は、君が本当に好きな人と幸せになるべきだ。
それが僕じゃないのは凄く悲しいけど、仕方ない事なんだよね。きっと。

カタン…と付き合う事になった頃に貰って、一度も使うことのなかった合鍵をポストへといれる。
…合鍵を貰っていたのに勝手に家に入る事もなく、毎回インターフォンを押す僕をどう思っていたのかなんて今更聞けないけど少し気になるなぁ。

「…多分、どうも思ってないんだろうけど」

はぁ…と白い息を吐いて誰もいない静かな住宅街を歩く。



「寒いなぁ」





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