偽物の僕は本物にはなれない。

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その日、彼方に今どこ?と聞かれて自分の家にいるよと伝えたら今から来て欲しいと言われ、冷やしたものの少しだけ腫れた目のまま彼方の家へと向かった。

合鍵は、ある。
けれど使いたくない。だって、僕、偽物だし。
ピンポーンと軽やかな音を立ててインターフォンが鳴り、彼方が鍵を開けてくれる。

「…また鍵忘れたのか?」
「慌てて出てきちゃったから…一回も使う事なかったね」
「次は気を付けろよ~折角渡したんだから」
「…うん」

毎回鍵忘れちゃった、と言って誤魔化す僕を仕方ないなと笑ってくれる彼方。

「あ、そうだ。何か用事あったの?呼び出したりなんかして…」
「なんだよ。用事なきゃ呼んじゃダメなのかよ」
「えぇ?そんな事言ってないよ…こんな夜に呼ぶ事って、なかったから」

いつも朝に連絡がきて夜は泊まったり、帰ったり…まあ、泊まる事の方が多いんだけど。行為をした後僕はへろへろで立ち上がる事はおろか、起き上がる事も出来なくなる。だから、遅くに呼び出す事なんて本当に珍しい。いつもは危ないからって言って自分が来るのに。

そう思って聞けば少し間が空いた後に「明日になったら、わかる」と言って部屋の奥へと進んでいった。
…明日、か。
なんだろう。水無月さんと付き合う事になった、とか?
やだなぁ…そんなの聞きたくないや。

それからは特に何もなく、いつものようにたわいのない話をして……いつものように、身体を繋げた。

「声、出して…聞きたい…」

と荒い息の中言われるけれど僕は頑なに口を閉じて、恥ずかしいからと首を振った。
何がなんでも出したいのかいつもより激しかった気がする。
なんでだよ…と不満気にする彼方に僕は心の中で「僕なんかの声を聞いて欲しくない。愛のない行為に、感じているなんて思われたくない」と思っていた。
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