16 / 21
16.
しおりを挟む
彼方や色んな人から逃げて、2ヶ月が経とうとしていた。
そんな僕は今ーー
「大和くん、これもお願いしていいかな?」
「あ、はい!」
「いやぁ、大和くんが来てくれてからウチは大助かりだよ。是非ともこのまま就職して欲しいなぁ!」
「あはは、お世辞はいいですよ。ありがとうございます」
「お世辞なんかじゃないけどな…手強い」
奏多さんの職場でアルバイトをしている。
アルバイトと言っても、やる事は極々簡単な作業だけれど楽しくて僕は毎日笑っていられる。
職場の人も皆明るい人達ばかりで、奏多さんには感謝しかない。
あの日…彼方の前から消えた日。
僕が思わず縋ってしまったのは奏多さんだった。
奏多さんからの電話に泣きながら出てしまって、心配した奏多さんに良ければウチに来ないかと誘いを受けなんやかんやと言いつつ言葉に甘えてしまった。
だけど僕は時々考えてしまう。
こうやってこのままみんなに甘えてばかりでいいのだろうか、と。
勿論ダメな事も分かっているけど、まだ自分一人だけになるのは、怖い。
「…大和くん、今日の夜暇かい?」
「へ?そう、ですね…特に予定は入ってないです。何かありました?」
「やっと落ち着いたからね。折角だし大和くんの歓迎会をしようって話してて」
「ぼ、僕のですか!?でも僕はただのアルバイトで…」
「いいからいいから!じゃあ今日は大和くんの歓迎会だ!」
奏多さんにそう言い切られてしまっては僕はもう首を振る事は出来なくて、その夜みんなで居酒屋に来ていた。
「ふぅ…暑い…」
「大和くん大丈夫か?少し、外に出よう」
「すみません…」
「はは、いいんだよ」
ちょっと出てくる、と近くにいた人に告げて奏多さんと2人外に出る。まだ少しひんやりとした風が暑い頬に当たって気持ちいい。
人通りは少なく辺りはシンっと静まり返っている。
…こんなに静かなのにここに居酒屋があって、クレームがきたりはしないんだろうか。と疑問に思ったけれどお酒の入った頭では深く考える事が出来ず、すぐに消えていった。
目を閉じて涼んでいると奏多さんが僕の隣に腰を下ろした事が気配でわかった。…付き合わせてしまって、悪いことしちゃったな。
先に戻ってもいいですよ、と伝えようとした時不意に唇に柔らかい何かが触れ、驚いて目を開けると視界一杯に奏多さんの端正な顔が広がっていた。
「…ごめん」
それは、何に対してのごめんですか…。
そう聞きたいのに混乱している僕は言葉にする事が出来ずはくはくと口を動かすだけだった。
そんな僕を見て奏多さんは小さく笑うと僕を抱きしめた。
「か、奏多さんっ」
「…大和くんが、好きだ。…付き合って欲しい…」
「ぅ、あ…!?」
「…ずっと、好きだった。今でも好きだ……俺じゃあ、ダメか?」
いつも自信があり、余裕そうな奏多さんの声が今は震えていて、本気なんだと僕は固まってしまった。
奏多さんが、僕を、好き…?なんで、いつから…?
「俺は、君を泣かせたりしない。どうか、どうか…俺と幸せになってほしい」
「奏多さん……ぼく…僕は…」
真剣な奏多さんを僕は見つめて、口を開いた。
そんな僕は今ーー
「大和くん、これもお願いしていいかな?」
「あ、はい!」
「いやぁ、大和くんが来てくれてからウチは大助かりだよ。是非ともこのまま就職して欲しいなぁ!」
「あはは、お世辞はいいですよ。ありがとうございます」
「お世辞なんかじゃないけどな…手強い」
奏多さんの職場でアルバイトをしている。
アルバイトと言っても、やる事は極々簡単な作業だけれど楽しくて僕は毎日笑っていられる。
職場の人も皆明るい人達ばかりで、奏多さんには感謝しかない。
あの日…彼方の前から消えた日。
僕が思わず縋ってしまったのは奏多さんだった。
奏多さんからの電話に泣きながら出てしまって、心配した奏多さんに良ければウチに来ないかと誘いを受けなんやかんやと言いつつ言葉に甘えてしまった。
だけど僕は時々考えてしまう。
こうやってこのままみんなに甘えてばかりでいいのだろうか、と。
勿論ダメな事も分かっているけど、まだ自分一人だけになるのは、怖い。
「…大和くん、今日の夜暇かい?」
「へ?そう、ですね…特に予定は入ってないです。何かありました?」
「やっと落ち着いたからね。折角だし大和くんの歓迎会をしようって話してて」
「ぼ、僕のですか!?でも僕はただのアルバイトで…」
「いいからいいから!じゃあ今日は大和くんの歓迎会だ!」
奏多さんにそう言い切られてしまっては僕はもう首を振る事は出来なくて、その夜みんなで居酒屋に来ていた。
「ふぅ…暑い…」
「大和くん大丈夫か?少し、外に出よう」
「すみません…」
「はは、いいんだよ」
ちょっと出てくる、と近くにいた人に告げて奏多さんと2人外に出る。まだ少しひんやりとした風が暑い頬に当たって気持ちいい。
人通りは少なく辺りはシンっと静まり返っている。
…こんなに静かなのにここに居酒屋があって、クレームがきたりはしないんだろうか。と疑問に思ったけれどお酒の入った頭では深く考える事が出来ず、すぐに消えていった。
目を閉じて涼んでいると奏多さんが僕の隣に腰を下ろした事が気配でわかった。…付き合わせてしまって、悪いことしちゃったな。
先に戻ってもいいですよ、と伝えようとした時不意に唇に柔らかい何かが触れ、驚いて目を開けると視界一杯に奏多さんの端正な顔が広がっていた。
「…ごめん」
それは、何に対してのごめんですか…。
そう聞きたいのに混乱している僕は言葉にする事が出来ずはくはくと口を動かすだけだった。
そんな僕を見て奏多さんは小さく笑うと僕を抱きしめた。
「か、奏多さんっ」
「…大和くんが、好きだ。…付き合って欲しい…」
「ぅ、あ…!?」
「…ずっと、好きだった。今でも好きだ……俺じゃあ、ダメか?」
いつも自信があり、余裕そうな奏多さんの声が今は震えていて、本気なんだと僕は固まってしまった。
奏多さんが、僕を、好き…?なんで、いつから…?
「俺は、君を泣かせたりしない。どうか、どうか…俺と幸せになってほしい」
「奏多さん……ぼく…僕は…」
真剣な奏多さんを僕は見つめて、口を開いた。
300
あなたにおすすめの小説
僕は今日、謳う
ゆい
BL
紅葉と海を観に行きたいと、僕は彼に我儘を言った。
彼はこのクリスマスに彼女と結婚する。
彼との最後の思い出が欲しかったから。
彼は少し困り顔をしながらも、付き合ってくれた。
本当にありがとう。親友として、男として、一人の人間として、本当に愛しているよ。
終始セリフばかりです。
話中の曲は、globe 『Wanderin' Destiny』です。
名前が出てこない短編part4です。
誤字脱字がないか確認はしておりますが、ありましたら報告をいただけたら嬉しいです。
途中手直しついでに加筆もするかもです。
感想もお待ちしています。
片付けしていたら、昔懐かしの3.5㌅FDが出てきまして。内容を確認したら、若かりし頃の黒歴史が!
あらすじ自体は悪くはないと思ったので、大幅に修正して投稿しました。
私の黒歴史供養のために、お付き合いくださいませ。
白花の檻(はっかのおり)
AzureHaru
BL
その世界には、生まれながらに祝福を受けた者がいる。その祝福は人ならざるほどの美貌を与えられる。
その祝福によって、交わるはずのなかった2人の運命が交わり狂っていく。
この出会いは祝福か、或いは呪いか。
受け――リュシアン。
祝福を授かりながらも、決して傲慢ではなく、いつも穏やかに笑っている青年。
柔らかな白銀の髪、淡い光を湛えた瞳。人々が息を呑むほどの美しさを持つ。
攻め――アーヴィス。
リュシアンと同じく祝福を授かる。リュシアン以上に人の域を逸脱した容姿。
黒曜石のような瞳、彫刻のように整った顔立ち。
王国に名を轟かせる貴族であり、数々の功績を誇る英雄。
その日君は笑った
mahiro
BL
大学で知り合った友人たちが恋人のことで泣く姿を嫌でも見ていた。
それを見ながらそんな風に感情を露に出来る程人を好きなるなんて良いなと思っていたが、まさか平凡な俺が彼らと同じようになるなんて。
最初に書いた作品「泣くなといい聞かせて」の登場人物が出てきます。
※完結いたしました。
閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。
拙い文章でもお付き合いいただけたこと、誠に感謝申し上げます。
今後ともよろしくお願い致します。
【完結済】どんな姿でも、あなたを愛している。
キノア9g
BL
かつて世界を救った英雄は、なぜその輝きを失ったのか。そして、ただ一人、彼を探し続けた王子の、ひたむきな愛が、その閉ざされた心に光を灯す。
声は届かず、触れることもできない。意識だけが深い闇に囚われ、絶望に沈む英雄の前に現れたのは、かつて彼が命を救った幼い王子だった。成長した王子は、すべてを捨て、十五年もの歳月をかけて英雄を探し続けていたのだ。
「あなたを死なせないことしか、できなかった……非力な私を……許してください……」
ひたすらに寄り添い続ける王子の深い愛情が、英雄の心を少しずつ、しかし確かに温めていく。それは、常識では測れない、静かで確かな繋がりだった。
失われた時間、そして失われた光。これは、英雄が再びこの世界で、愛する人と共に未来を紡ぐ物語。
全8話
彼の理想に
いちみやりょう
BL
あの人が見つめる先はいつも、優しそうに、幸せそうに笑う人だった。
人は違ってもそれだけは変わらなかった。
だから俺は、幸せそうに笑う努力をした。
優しくする努力をした。
本当はそんな人間なんかじゃないのに。
俺はあの人の恋人になりたい。
だけど、そんなことノンケのあの人に頼めないから。
心は冗談の中に隠して、少しでもあの人に近づけるようにって笑った。ずっとずっと。そうしてきた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる