偽物の僕は本物にはなれない。

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彼方や色んな人から逃げて、2ヶ月が経とうとしていた。
そんな僕は今ーー

「大和くん、これもお願いしていいかな?」
「あ、はい!」
「いやぁ、大和くんが来てくれてからウチは大助かりだよ。是非ともこのまま就職して欲しいなぁ!」
「あはは、お世辞はいいですよ。ありがとうございます」
「お世辞なんかじゃないけどな…手強い」

奏多さんの職場でアルバイトをしている。
アルバイトと言っても、やる事は極々簡単な作業だけれど楽しくて僕は毎日笑っていられる。
職場の人も皆明るい人達ばかりで、奏多さんには感謝しかない。

あの日…彼方の前から消えた日。
僕が思わず縋ってしまったのは奏多さんだった。
奏多さんからの電話に泣きながら出てしまって、心配した奏多さんに良ければウチに来ないかと誘いを受けなんやかんやと言いつつ言葉に甘えてしまった。

だけど僕は時々考えてしまう。
こうやってこのままみんなに甘えてばかりでいいのだろうか、と。
勿論ダメな事も分かっているけど、まだ自分一人だけになるのは、怖い。

「…大和くん、今日の夜暇かい?」
「へ?そう、ですね…特に予定は入ってないです。何かありました?」
「やっと落ち着いたからね。折角だし大和くんの歓迎会をしようって話してて」
「ぼ、僕のですか!?でも僕はただのアルバイトで…」
「いいからいいから!じゃあ今日は大和くんの歓迎会だ!」

奏多さんにそう言い切られてしまっては僕はもう首を振る事は出来なくて、その夜みんなで居酒屋に来ていた。

「ふぅ…暑い…」
「大和くん大丈夫か?少し、外に出よう」
「すみません…」
「はは、いいんだよ」

ちょっと出てくる、と近くにいた人に告げて奏多さんと2人外に出る。まだ少しひんやりとした風が暑い頬に当たって気持ちいい。

人通りは少なく辺りはシンっと静まり返っている。
…こんなに静かなのにここに居酒屋があって、クレームがきたりはしないんだろうか。と疑問に思ったけれどお酒の入った頭では深く考える事が出来ず、すぐに消えていった。

目を閉じて涼んでいると奏多さんが僕の隣に腰を下ろした事が気配でわかった。…付き合わせてしまって、悪いことしちゃったな。
先に戻ってもいいですよ、と伝えようとした時不意に唇に柔らかい何かが触れ、驚いて目を開けると視界一杯に奏多さんの端正な顔が広がっていた。

「…ごめん」

それは、何に対してのごめんですか…。
そう聞きたいのに混乱している僕は言葉にする事が出来ずはくはくと口を動かすだけだった。
そんな僕を見て奏多さんは小さく笑うと僕を抱きしめた。

「か、奏多さんっ」
「…大和くんが、好きだ。…付き合って欲しい…」
「ぅ、あ…!?」
「…ずっと、好きだった。今でも好きだ……俺じゃあ、ダメか?」

いつも自信があり、余裕そうな奏多さんの声が今は震えていて、本気なんだと僕は固まってしまった。
奏多さんが、僕を、好き…?なんで、いつから…?

「俺は、君を泣かせたりしない。どうか、どうか…俺と幸せになってほしい」
「奏多さん……ぼく…僕は…」

真剣な奏多さんを僕は見つめて、口を開いた。


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