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第三章:歩き種
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「京さん! おい、聞こえるか!? 聞こえたら、応答せよ!!! どーぞ!」
「無線機じゃないんじゃから……」
うう
うむうう
うむううおうううお
お、おお、ん? あ、ああ、なんだこりゃ?
えー、テステス。マイクテス。聞こえますか?
「おお、意識を取り戻した!」
「いや、一般的に言うと意識不明の状態なんじゃが……ああ、もう面倒な。恵子、今どうなってる? 裕子は?」
ああ、うーん、その事なんだけど、説明が難しいなあ。どうも、今あたしは御霊桃子の記憶を追体験しているような――
「なんじゃと!」
「おいおいおい、京さん、そんな面白いことになってるのか!」
「お前は黙っとれ! ん? 待て。今『ような』と言ったか? どういう意味じゃ?」
それよ。えー、あたくしは今、山の中を走っております。
「……もしや、裕子の記憶が流れ込んできたのか!?」
多分ね。いやあ、あたしの意識ははっきりしてるんだけど体が勝手に動く……いや違うか、ヘッドセットモニターで一人称のマラソンゲームをやってるってとこかな。いや、やっぱ違うか、操作できないから、映画みたいなもんかな。
うーん、それにしても……こいつ足が遅いな。
「京さん、時間は判るかい?」
夕方で、山道を登ってる。あ、今、自分の荷物を開いたぞ。頭に装着するタイプのカメラを出して、バッテリーを確認して、水筒を出して、なんか飲んでる。味は――紅茶かな? うーん、多分だけど、さっき見た動画の場所だな。草木一本生えてないわ。
「この裏の山という確証は?」
そんなもん、わかるわけないだろ。ただ、この禿山っぷりが似ているから――お、走り出した。……なんだありゃ? 洞窟かな?
「大きな岩に挟まれるように、縦に長い亀裂がある……そうじゃな?」
そうそう、それだ。ん? 穴の向こうは夕日が見えるぞ。
「あの馬鹿、御山の胎蔵界に種を埋めたのか」
「御老人、胎蔵界とは? 金剛界と対のアレですか?」
「いや、そういう意味ではない。博人が信者ウケがいいからとそう名付けただけじゃ。ただ、まあある意味では的を得ているのだがな。地脈が集中しているのだ」
「……それは正しい儀式なのですか?」
「ある意味ではな。つまり、あそこで発芽した神虫は、力が強すぎるんじゃ」
ええっと、洞窟に入った。あー、胎蔵界ね。わかる。つまり子宮だろ? 成程、出口が女性器の形をしてるな、この洞窟。
「これ、はしたない!」
婆ちゃん勘弁! あ、えーと潜り抜けました。あれを。
お? 洞窟の向こうは――ちょっとした広場みたいになってるな。崖の上の棚みたいな感じかな? うーん、端の方へは行かないみたいだから、よく判らんな……ん?
「恵子、広場の真ん中に何がある?」
穴だ。今近寄ってる。
ええっと、直径三十センチくらいの穴。深さは、同じくらいかな?
「何も埋まっていないんじゃな?」
ああ。こいつ、辺りを見回してるな。うろうろし始めたぞ。焦ってるな。
「京さん、穴の縁の土はどうだった?」
あ? ああ、わかったわかった。おお、今穴に戻ったぞ。うん、掘り起こした感じじゃない。縁に丸い凹みがいっぱいついてる。足跡だな。這いだした感じだわ。
「やはりか……『歩き種』になってしもうたか」
「御老人、それは?」
あ、入口に戻ってリュックを開けた……さっきのカメラ? おいおい、装着したぞ。撮影する気か?
「さっきも話したが神虫は土中に埋め、種から芽になる。その後に人の手によって掘り起こされ、人の体に移され、体内にて成長し開花する。
だが、バランスが崩れた場合、例えば地脈が不安定で霊力を過剰に吸い込んだ場合、本来の式神としての役目を外れ、荒魂、いや外道である『歩き種』として顕現してしまうと伝えられておる」
「式神……。で、その『歩き種』はまずいと?」
「まずいな。本来ならば芽が入った人間は開花するまで意識が無い。だが、『歩き種』に入られると、『魔』になると伝えられておる。つまりは、開花まで意識があるのじゃろうな」
ってことは――もしかして、自分の意志で爆発できるって事か?
「そうじゃ。よいか、人造神虫は自然の物ではない。神虫を真似て作られた式神なのじゃ。式とは誰かが打つものだ。コントロールできる。だが、『魔』になったものはどうか? 果たして自分で自分を制御できるのか? それともできないのか?」
真木の溜息が聞こえた。
「どちらにしても最悪なわけだ」
最悪どころか、大事じゃねえか! これはもう……テロだろ!
「その通りだ。さて、京さん、今はどうなってる?」
え? あ、い、今は例のあそこから出て山を下り始めたな。後ろを何度も見ながら走ってる……あ、これって――
「そうだ。恐らくはさっき見た動画を撮影した時の記憶だ」
……実はさっきアパートの中で御霊桃子とやりあったけど、ありゃあ、もう人間じゃなかった。泥の塊って感じだったよ。
「裕子……馬鹿な子じゃ」
婆ちゃんの溜息が聞こえた。
「京さん、そろそろ君の視界に歩き種が見えるはずだ。気をつけてくれたまえ」
いや、気をつけろったって、これ、最後は襲われて入りこまれるんだろ? どうしろと?
あ。
やばい。今振り返ったら、見えた。
うわっ、見えた見えた見えた! まずい、これまずい!
婆ちゃん、あたしを体に戻してよ! これ、マジでまずい!
「今やっとる! ええい、遠くまで飛ばし過ぎて、こんがらがっとる……」
「京さん、実況とぎれているぞ!」
うるせえ、できるか! うわ、怖っ!
「実況! 実況! そうやって自分を保つんだ! 戻れなくなるぞ!」
あー、もう! ええっと山道を走ってる! 時々後ろ売り向くと、道の端とか崖の向こうに真っ黒い塊がウネウネしてるのが見える! ああ、うーんと、今、崖を滑り降りた!ショートカット? ぎゃっ! 着地に失敗。足ぐねった! 前に進む。後ろにはいない! ああ、なんか藪が見えてきた! 荒れ地から脱出! やった!
「よし! 今捕まえた! 恵子、戻すぞ。尻に力を入れて頭を抱えろ!」
どうやんだよ、今あたし体がわかんねーんだけど!
あ! やばい! 藪が揺れて! 揺れがどんどん近づいて!
「京さん、窓はないぞ!」
窓に! 窓に! って、お前、この状況でボケさせんなよ! ぜってー、ぶん殴る!
うわっ!?
うわわわわわわわわわおごえろうけいあっつうううううううううううう――
「京さん、どうした!」
後ろから、圧し掛かられた! なんか入ってくる! 体全部から入ってくる! 毛穴に入ってくる! ぎややあああああいいいあああああああああ――
「喝!」
「無線機じゃないんじゃから……」
うう
うむうう
うむううおうううお
お、おお、ん? あ、ああ、なんだこりゃ?
えー、テステス。マイクテス。聞こえますか?
「おお、意識を取り戻した!」
「いや、一般的に言うと意識不明の状態なんじゃが……ああ、もう面倒な。恵子、今どうなってる? 裕子は?」
ああ、うーん、その事なんだけど、説明が難しいなあ。どうも、今あたしは御霊桃子の記憶を追体験しているような――
「なんじゃと!」
「おいおいおい、京さん、そんな面白いことになってるのか!」
「お前は黙っとれ! ん? 待て。今『ような』と言ったか? どういう意味じゃ?」
それよ。えー、あたくしは今、山の中を走っております。
「……もしや、裕子の記憶が流れ込んできたのか!?」
多分ね。いやあ、あたしの意識ははっきりしてるんだけど体が勝手に動く……いや違うか、ヘッドセットモニターで一人称のマラソンゲームをやってるってとこかな。いや、やっぱ違うか、操作できないから、映画みたいなもんかな。
うーん、それにしても……こいつ足が遅いな。
「京さん、時間は判るかい?」
夕方で、山道を登ってる。あ、今、自分の荷物を開いたぞ。頭に装着するタイプのカメラを出して、バッテリーを確認して、水筒を出して、なんか飲んでる。味は――紅茶かな? うーん、多分だけど、さっき見た動画の場所だな。草木一本生えてないわ。
「この裏の山という確証は?」
そんなもん、わかるわけないだろ。ただ、この禿山っぷりが似ているから――お、走り出した。……なんだありゃ? 洞窟かな?
「大きな岩に挟まれるように、縦に長い亀裂がある……そうじゃな?」
そうそう、それだ。ん? 穴の向こうは夕日が見えるぞ。
「あの馬鹿、御山の胎蔵界に種を埋めたのか」
「御老人、胎蔵界とは? 金剛界と対のアレですか?」
「いや、そういう意味ではない。博人が信者ウケがいいからとそう名付けただけじゃ。ただ、まあある意味では的を得ているのだがな。地脈が集中しているのだ」
「……それは正しい儀式なのですか?」
「ある意味ではな。つまり、あそこで発芽した神虫は、力が強すぎるんじゃ」
ええっと、洞窟に入った。あー、胎蔵界ね。わかる。つまり子宮だろ? 成程、出口が女性器の形をしてるな、この洞窟。
「これ、はしたない!」
婆ちゃん勘弁! あ、えーと潜り抜けました。あれを。
お? 洞窟の向こうは――ちょっとした広場みたいになってるな。崖の上の棚みたいな感じかな? うーん、端の方へは行かないみたいだから、よく判らんな……ん?
「恵子、広場の真ん中に何がある?」
穴だ。今近寄ってる。
ええっと、直径三十センチくらいの穴。深さは、同じくらいかな?
「何も埋まっていないんじゃな?」
ああ。こいつ、辺りを見回してるな。うろうろし始めたぞ。焦ってるな。
「京さん、穴の縁の土はどうだった?」
あ? ああ、わかったわかった。おお、今穴に戻ったぞ。うん、掘り起こした感じじゃない。縁に丸い凹みがいっぱいついてる。足跡だな。這いだした感じだわ。
「やはりか……『歩き種』になってしもうたか」
「御老人、それは?」
あ、入口に戻ってリュックを開けた……さっきのカメラ? おいおい、装着したぞ。撮影する気か?
「さっきも話したが神虫は土中に埋め、種から芽になる。その後に人の手によって掘り起こされ、人の体に移され、体内にて成長し開花する。
だが、バランスが崩れた場合、例えば地脈が不安定で霊力を過剰に吸い込んだ場合、本来の式神としての役目を外れ、荒魂、いや外道である『歩き種』として顕現してしまうと伝えられておる」
「式神……。で、その『歩き種』はまずいと?」
「まずいな。本来ならば芽が入った人間は開花するまで意識が無い。だが、『歩き種』に入られると、『魔』になると伝えられておる。つまりは、開花まで意識があるのじゃろうな」
ってことは――もしかして、自分の意志で爆発できるって事か?
「そうじゃ。よいか、人造神虫は自然の物ではない。神虫を真似て作られた式神なのじゃ。式とは誰かが打つものだ。コントロールできる。だが、『魔』になったものはどうか? 果たして自分で自分を制御できるのか? それともできないのか?」
真木の溜息が聞こえた。
「どちらにしても最悪なわけだ」
最悪どころか、大事じゃねえか! これはもう……テロだろ!
「その通りだ。さて、京さん、今はどうなってる?」
え? あ、い、今は例のあそこから出て山を下り始めたな。後ろを何度も見ながら走ってる……あ、これって――
「そうだ。恐らくはさっき見た動画を撮影した時の記憶だ」
……実はさっきアパートの中で御霊桃子とやりあったけど、ありゃあ、もう人間じゃなかった。泥の塊って感じだったよ。
「裕子……馬鹿な子じゃ」
婆ちゃんの溜息が聞こえた。
「京さん、そろそろ君の視界に歩き種が見えるはずだ。気をつけてくれたまえ」
いや、気をつけろったって、これ、最後は襲われて入りこまれるんだろ? どうしろと?
あ。
やばい。今振り返ったら、見えた。
うわっ、見えた見えた見えた! まずい、これまずい!
婆ちゃん、あたしを体に戻してよ! これ、マジでまずい!
「今やっとる! ええい、遠くまで飛ばし過ぎて、こんがらがっとる……」
「京さん、実況とぎれているぞ!」
うるせえ、できるか! うわ、怖っ!
「実況! 実況! そうやって自分を保つんだ! 戻れなくなるぞ!」
あー、もう! ええっと山道を走ってる! 時々後ろ売り向くと、道の端とか崖の向こうに真っ黒い塊がウネウネしてるのが見える! ああ、うーんと、今、崖を滑り降りた!ショートカット? ぎゃっ! 着地に失敗。足ぐねった! 前に進む。後ろにはいない! ああ、なんか藪が見えてきた! 荒れ地から脱出! やった!
「よし! 今捕まえた! 恵子、戻すぞ。尻に力を入れて頭を抱えろ!」
どうやんだよ、今あたし体がわかんねーんだけど!
あ! やばい! 藪が揺れて! 揺れがどんどん近づいて!
「京さん、窓はないぞ!」
窓に! 窓に! って、お前、この状況でボケさせんなよ! ぜってー、ぶん殴る!
うわっ!?
うわわわわわわわわわおごえろうけいあっつうううううううううううう――
「京さん、どうした!」
後ろから、圧し掛かられた! なんか入ってくる! 体全部から入ってくる! 毛穴に入ってくる! ぎややあああああいいいあああああああああ――
「喝!」
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