私を大切にしなかった貴方が、なぜ今さら許されると思ったの?

佐藤 美奈

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皇帝陛下が土下座する

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「ここにいらっしゃるお方こそ、至高の王であられるクロイツベルク陛下、神々しきシャーロット御主、そしてその御子であられる、永遠に輝かしきエリザベート姫君」

皇帝レオニードの声は、玉座の間の空気を一層引き締める。彼の一言に、広間に集う全ての者が息を呑んだ。その目の前に立つのは、ただの貴族ではない。まさにこの世界の全ての国を統べる威光を放つ存在。

「皆の者! 速やかに跪き頭を深く下げよ! クロイツベルク陛下に敬意を示せ!」

その命令は、雷のように広間を轟かせた。レオニードの眼差しは鋭く、家臣たちは大慌てで一斉に膝をつき、深く頭を下げる。その場にいる家臣が、言葉に尽くせぬほどの畏敬の念を抱いて、ただ静かにその姿勢を守り続けた。

皇帝レオニードは、額に冷や汗を浮かべながらも、その視線を一瞬も外さずに慎重に続けた。

「クロイツベルク陛下、御前にてご挨拶申し上げることこそ、私たちの栄光でございます。帝国の繁栄はすべて貴方様のご尽力によるものでございます」

言い終わるやいなや、レオニード自身も深く跪き、頭を下げた。心からの忠誠を込めて、その姿勢を保ち続けた。皇后クローディアと皇太子レオポルトも、すぐに皇帝の後に続いた。

それぞれが、慎ましやかにかしこまる。神のような存在を前にして、己の責務を果たしているかのようだった。全てが静寂に包まれ、時の流れさえも、しばしその場で止まったかのように感じられた。

だが、その中で一人だけ、思考が完全に混乱していた。困惑した表情を浮かべているのは、マリーヌ皇女だった。

「くろいつ……べるく……?」

マリーヌ皇女は、涙の痕が残る顔で呟いた。その言葉は、彼女の混乱をそのまま映し出すかのように、しどろもどろに響いた。周囲の者たちは、膝をつきながらも、呆れた表情を浮かべた。皇女にしてはあまりにも無様で、どこか痛々しさすら漂うその姿は、まさに自らの愚かさを露呈しているかのようだった。

(マリーヌは、いったい何をしているのだ?)

皇帝レオニードは、頭を低くしながらも、心の中で混乱していた。一瞬視線を向けると、娘はぼんやりと立ち尽くしていた。

クロイツベルク。その言葉は、マリーヌもどこかで耳にしたような気がした。いや、違う。こんなことがあるはずがない。この帝国、いやこの世界に生きる者で、その名を知らぬ者などいないはずだ。

「あっ……あ、ああ!? ひゃあぁぁぁぁ……」

マリーヌは突然、頭の中で何かがひらめいた。その瞬間、喉を絞りながら、声にならない叫びを発した。クロイツベルク家。帝国の財務の要で影の支配者。世界の経済を背後で操り、伝説となっている大富豪一族。

「そ、そんな……だって、この親子は、フェルナンド……男爵家、の……」

言いかけた言葉は、震えに飲み込まれて途中で止まった。マリーヌ皇女の体が小さく震え始め、その手はかすかに震えを抑えようとしているようだった。混乱と恐怖が入り混じった表情を浮かべている。まだ信じたくないという思いが強く、頭の中では現実と幻想がごちゃ混ぜになる。目の前の光景に、ようやく恐ろしさを理解し始めた。

クロイツベルク家の名、それはもはや単なる家名ではなかった。帝国の支配者でさえ、その前にひれ伏すべきその威光。その名が、今まさに目の前に現れたのだ。

「――レオニード陛下、どうか、顔をお上げくださいませ」

シャーロットの声は、澄んだ泉の音のように清らかで、耳に優しく響いた。重苦しい雰囲気が、次第に和らいでいった。跪いている家臣たちも、緊張が解けたように穏やかな顔つきになった。

「昨日は、皇女様のおかげで、非常に『貴重な』経験をさせていただきましたわ」

シャーロットは、わずかに口元を引き上げ、気品ある微笑みを浮かべた。その女神のような微笑みは、今のマリーヌにとっては、死神の微笑みにしか見えなかった。
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