彼の妹にキレそう。信頼していた彼にも裏切られて婚約破棄を決意。

佐藤 美奈

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「なんか急かしてるみたいで悪いな」
「でもそのために来たんでしょ?」
「まあそうだけどね……」

イブリンに事前に知らせることなく彼が来訪した理由はケーキでした。イブリンが話していた最高のケーキが早く食べたくて我慢できなかったのです。

彼はケーキを食べる気満々で来たくせに、申し訳ない顔で催促するみたいで悪いねと言ってきます。イブリンがケーキが目的で訪れたのでしょう?と尋ね返すと気まずそうに答える。

「じゃあ今から作るよ」
「えっ?イブリンが作るの?」
「そうだよ」
「大丈夫なの?」

イブリンからの意外な返事にホークは驚いて不安そうな顔で聞く。貴族の家には料理人がいますから貴族が料理をすることは基本的にはありません。

まして上級貴族である公爵令嬢のイブリンがケーキを作ると言い出すなんて想像もしない。当然ながら使用人のパティシエが作るとばかり思っていました。

だけどイブリンは普通に自分が作ると余裕のある声で答える。何を隠そうイブリンは以前からお菓子作りを習っていたのです。

イブリンも相当なスイーツ好きで自分も作ってみたいと思うようになり、情熱を込めて学んで気がついたらお菓子作りの魅力にすっかりハマっていました。今では結構な腕前で家族からも好評です。

「それは楽しみだな」
「期待しててね」

彼がオーシャンブルーの瞳を輝かせて屈託のない笑顔になる。イブリンも楽しみにしていてねという風に愛嬌を感じる澄み切った声で答えました。

「その間休ませてもらうよ」

ケーキを作るには準備にも手間取りますし、ケーキが完成するまである程度は時間がかかるので、出来上がるまで彼には部屋で休息してもらうことに。彼も疲れていたようでじきに眠りに落ちた。

数時間後、ケーキが仕上がる。イブリンが今できる最大限の力を発揮して作ったケーキ。思っていたよりも出来栄えも凄く良い。

彼がケーキを食べた時の喜ぶ顔を頭の中で描くと、希望で頬が緩み思わず笑みがこぼれる。早速彼のいる部屋に持って行こうと心が弾む気持ちでした。

あれ?部屋の中から楽しそうに喋っている男女の声が聞こえる。イブリンは不思議な顔になり、行儀の悪い事ですがつい聞き耳を立ててしまう。

「お兄様こちらはいかがですか?」
「とても美味しいよ」
「日頃からお兄様が気に入っているお菓子をたくさん持ってきましたの」
「本当に気が利くなあ」

ドアを開けたイブリンはやっぱりという残念な気持ちで無念の表情を浮かべました。

何という事でしょう……そんな事は絶対にあってはならないのに……イブリンが神経を集中させてケーキを作っている間に、彼の妹のフランソワが来ていたのです。
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