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第7話
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数日後、大神官フレッド様から、正式に謝罪をしたいとアルンハイム家に申し入れがあった。
応接室のソファに、私は針のむしろの心地で座っていた。隣にはカミーユ姉様、そして私の正面には、まるで護衛のように腕を組んで立つヒューゴ様。その銀灰色の瞳は、これから現れるであろう男を射殺さんばかりの鋭い光を放っている。心強いけど、怖い!
やがて扉が開き、フレッド様が姿を現した。
私は息を呑んだ。数日前の傲慢な男の姿はなく、目の下に隈を作り、ひどくやつれた、疲れ果てたような男がそこにいた。彼は、私たちの前に進み出ると、黙って深々と一礼した。
「マリア……いや、マリア嬢。そして、カミーユ様、ヒューゴ殿。先日は、私のあまりに未熟で、品位に欠ける言動により、皆様を深く傷つけてしまった。心より、お詫び申し上げる。本当に、申し訳なかった」
絞り出すような声は、震えていた。顔を上げた彼の瞳は赤く充血している。まさか、泣いたのだろうか。
「……大神官殿、頭をお上げください。それで、具体的に何に対しての謝罪ですかな?」
ヒューゴ様が、一切の温度を感じさせない声で問う。容赦ない。
「すべてです。私は……私はどうかしていた。大神官という立場におごり、カミーユ様のあまりの美しさと気品に舞い上がり、そして……最も大切にすべき婚約者であるマリア嬢の心を、踏みにじるようなことをしてしまった。嫉妬、だったのかもしれません。彼女が、私以外の家族に愛されているという事実に。なんと愚かで、醜いことか……」
彼はそこまで言うと、再び顔を覆った。
「マリア嬢を失うかもしれないと思ったこの数日間、私は生きた心地がしなかった。眠れず、食事も喉を通らず……そこでようやく、自分がどれほど彼女を大切に想っているか、愚かにも気づいたのです。マリア、本当にすまなかった」
彼の必死の謝罪に、私の心はぐらぐらと揺れた。
あの態度は許せない。絶対に。でも、こんなに憔悴した彼を見ると、過去の好きだった気持ちが亡霊のように蘇ってくる。神殿の庭で笑い合った、穏やかな日々が。
「大神官様」
冷たい沈黙を破ったのは、カミーユ姉様の柔らかい声だった。
「あなたの反省のお気持ち、確かに伝わりましたわ。もう十分です」
「カミーユ姉様……」
「マリア。誰にだって過ちはあるものよ。大神官様も、これほどまでに深く反省していらっしゃるわ。許してあげてはどうかしら」
姉様が、私に微笑みかける。その慈愛に満ちた瞳に見つめられると、私は『嫌だ』と言えなくなってしまう。どうして? なぜ姉様は、こんなに簡単に許そうとするの? 私があれほど傷つけられたのに。
「カミーユ……」
ヒューゴ様が、不満げに呟くのが聞こえた。
でも、姉に促され、そしてフレッド様の訴えるような目に気圧されて、私はわずかに首を縦に振った。
「……わかり、ました。謝罪を、お受けします」
その瞬間、フレッド様の顔がぱっと輝いた。不安が和らいだ様子。でも、その瞳の奥に、ほんの一瞬だけ、計算高い光がよぎったのを、私は見逃さなかった。
「ああ、マリア! ありがとう、本当に……! これからは、必ず君を大切にすると、神に誓うよ!」
そう言って私の手を取ろうとするフレッド様を、ヒューゴ様がすぐに釘を刺すような態度を取った。
「誓う相手は神ではなく、マリア嬢ご本人に直接なさるべきですな。そして、言葉だけでは信用できかねる。今後のあなたの行動で、その誓いが真実であることを証明していただきたい」
「……もちろんです」
釘を刺すヒューゴ様の言葉に、フレッド様は一瞬顔をこわばらせたが、すぐに力なく頷いた。
嵐のようにフレッド様が帰っていった後も、私の心には黒いモヤモヤとしたものが、しこりのように残っていた。
許す、と口では言った。でも、理屈では説明できない引っかかりがある。まるで、大きな舞台の上の、出来の悪い芝居を見せられたような、そんな後味の悪さだけが、いつまでも消えなかった。
応接室のソファに、私は針のむしろの心地で座っていた。隣にはカミーユ姉様、そして私の正面には、まるで護衛のように腕を組んで立つヒューゴ様。その銀灰色の瞳は、これから現れるであろう男を射殺さんばかりの鋭い光を放っている。心強いけど、怖い!
やがて扉が開き、フレッド様が姿を現した。
私は息を呑んだ。数日前の傲慢な男の姿はなく、目の下に隈を作り、ひどくやつれた、疲れ果てたような男がそこにいた。彼は、私たちの前に進み出ると、黙って深々と一礼した。
「マリア……いや、マリア嬢。そして、カミーユ様、ヒューゴ殿。先日は、私のあまりに未熟で、品位に欠ける言動により、皆様を深く傷つけてしまった。心より、お詫び申し上げる。本当に、申し訳なかった」
絞り出すような声は、震えていた。顔を上げた彼の瞳は赤く充血している。まさか、泣いたのだろうか。
「……大神官殿、頭をお上げください。それで、具体的に何に対しての謝罪ですかな?」
ヒューゴ様が、一切の温度を感じさせない声で問う。容赦ない。
「すべてです。私は……私はどうかしていた。大神官という立場におごり、カミーユ様のあまりの美しさと気品に舞い上がり、そして……最も大切にすべき婚約者であるマリア嬢の心を、踏みにじるようなことをしてしまった。嫉妬、だったのかもしれません。彼女が、私以外の家族に愛されているという事実に。なんと愚かで、醜いことか……」
彼はそこまで言うと、再び顔を覆った。
「マリア嬢を失うかもしれないと思ったこの数日間、私は生きた心地がしなかった。眠れず、食事も喉を通らず……そこでようやく、自分がどれほど彼女を大切に想っているか、愚かにも気づいたのです。マリア、本当にすまなかった」
彼の必死の謝罪に、私の心はぐらぐらと揺れた。
あの態度は許せない。絶対に。でも、こんなに憔悴した彼を見ると、過去の好きだった気持ちが亡霊のように蘇ってくる。神殿の庭で笑い合った、穏やかな日々が。
「大神官様」
冷たい沈黙を破ったのは、カミーユ姉様の柔らかい声だった。
「あなたの反省のお気持ち、確かに伝わりましたわ。もう十分です」
「カミーユ姉様……」
「マリア。誰にだって過ちはあるものよ。大神官様も、これほどまでに深く反省していらっしゃるわ。許してあげてはどうかしら」
姉様が、私に微笑みかける。その慈愛に満ちた瞳に見つめられると、私は『嫌だ』と言えなくなってしまう。どうして? なぜ姉様は、こんなに簡単に許そうとするの? 私があれほど傷つけられたのに。
「カミーユ……」
ヒューゴ様が、不満げに呟くのが聞こえた。
でも、姉に促され、そしてフレッド様の訴えるような目に気圧されて、私はわずかに首を縦に振った。
「……わかり、ました。謝罪を、お受けします」
その瞬間、フレッド様の顔がぱっと輝いた。不安が和らいだ様子。でも、その瞳の奥に、ほんの一瞬だけ、計算高い光がよぎったのを、私は見逃さなかった。
「ああ、マリア! ありがとう、本当に……! これからは、必ず君を大切にすると、神に誓うよ!」
そう言って私の手を取ろうとするフレッド様を、ヒューゴ様がすぐに釘を刺すような態度を取った。
「誓う相手は神ではなく、マリア嬢ご本人に直接なさるべきですな。そして、言葉だけでは信用できかねる。今後のあなたの行動で、その誓いが真実であることを証明していただきたい」
「……もちろんです」
釘を刺すヒューゴ様の言葉に、フレッド様は一瞬顔をこわばらせたが、すぐに力なく頷いた。
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許す、と口では言った。でも、理屈では説明できない引っかかりがある。まるで、大きな舞台の上の、出来の悪い芝居を見せられたような、そんな後味の悪さだけが、いつまでも消えなかった。
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