美人な姉を溺愛する彼へ、最大の罰を! 倍返しで婚約破棄して差し上げます

佐藤 美奈

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第21話

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世界は、私が思っていたよりもずっと速く、そして容赦なく動いていた。私の人生を根底から揺るがしたあの事件は、今や王都中の誰もが知る一大スキャンダルとして、人々の記憶に新しい。

元凶であるフレッドの裁判は、異例の速さで進められたという。判決は、終身刑。
それも、ただの牢獄ではない。魔力を完全に封じる特殊な鉱石でできた、北方の極寒の地にそびえる監獄塔。かつて彼が最も軽蔑していただろう、粗野で凶悪な犯罪者たちと共に、生涯をそこで過ごすのだ。

屋敷も財産もすべて没収され、サザーランド侯爵家からも勘当された彼は、何の支えもないまま、地獄の底へと送り込まれた。信奉者たちから贈られた金銀財宝は、彼を飾るどころか、その罪の重さを証明するだけのガラクタになった。護送される馬車に、民衆から罵声と石が投げつけられたと聞いた時も、私の心は不思議なほど静かだった。自業自得。その四文字が、すとんと胸に落ちただけ。

そして、私の姉、カミーユ。
ヒューゴ様は、海のように広い心で、カミーユ姉様を許した。

『カミーユもまた、あいつの被害者だった。判断としては甘いのかもしれない。けれど、それが俺の出した答えだ。彼女を愛していたから、見捨てることなどできなかった』

あの日、彼が私に語った言葉。それは情けではなく、ただの事実なのだと。

その言葉を思い出すたびに、私の胸はちくりと痛んだ。
なんて心の強い人なのだろう。それに比べて私はどうだ。

浴室での『妹は、昔から地味で、いつも私の引き立て役でね』という言葉を、未だに根に持って、時々思い出しては腹を立てているというのに。

ヒューゴ様と比べると、自分の度量の狭さを思い知らされる。
実の姉であるにもかかわらず、まだどこかで許しきれない自分がいる。
そのたびに、私はなんと小さな人間なのだろうと、恥ずかしくなる。

もちろん、ヒューゴ様だって、心の底からすべてを水に流したわけではないはずだ。きっと、私には想像もつかないほどの思いを抱えて、彼は懸命に踏ん張っているのだと思う。そう思うと、彼のその強さが、あまりにも気高くて、そして切なかった。

姉様は、ヒューゴ様に許されても、自分自身を許すことができなかったらしい。
それは、魔道具の被害者であることとは別の、彼女自身が犯した罪――夫と妹を裏切り、母親としての役目を放棄した罪――に対する、姉なりのなのだろうと聞いた。
私の心も、もちろん痛む。血を分けた、たった一人の姉なのだから。でも、これが、歪んでしまった物事を元に戻すための、最善の道なのだと、私も思った。

そんなある日、父様が、書斎で本を読む私の顔をじっと見て言った。

「マリア、お前は少し休んだ方がいい。顔色が優れんぞ。……旅にでも出たらどうだ?」

父様の言葉に、私は読んでいた本から顔を上げた。

「……そうね。少し、風の匂いを変えてみたいわ」

一連の出来事に、心身ともに疲れ果てていたのは事実だった。
両親と話し合い、私は数週間の“気晴らしの旅”に出ることを許された。目的地は、南方の港町ラ・セリーヌ。青い海と広い空、そして誰も私の素性を知らない、自由な場所。

「気をつけて、マリア。無理はしないでちょうだいね」

「ええ、大丈夫よ、母様」

「……お土産、期待してるぞ」

父様が、いつもの仏頂面でぼそりと言ったとき、私は久しぶりに心の底から笑った。

出発の日の朝、荷物を積んだ馬車の前で両親との別れを惜しんでいると、そこにヒューゴ様が来てくれた。レオンとセリアの手を引いて。

「マリア嬢。……いや、マリア。達者でな」

「ヒューゴ様。わざわざ、ありがとうございます」

レオンとセリアが、私の足元に駆け寄ってくる。

「マリアおばさま、行っちゃうの?」

「ええ。でも、お手紙書くわ。だから、寂しがらないで」

私は二人の頭を優しく撫でた。この子たちの笑顔が、今の私にとっての何よりの救いだ。

「マリア。君は、本当に強くなったな」

子供たちを見つめる私の横で、ヒューゴ様がぽつりと言った。

「いいえ」

私は微笑んで首を振る。

「ヒューゴ様のほうが、私よりもずっと強く、優しいです。私など足元にも及びません」

「……そうか」

彼は少しだけ寂しそうに笑うと、まっすぐに私を見た。

「ラ・セリーヌで何か困ったことがあれば、誰よりも先に、俺に知らせてくれ。今度こそ、必ず君を守る。……友として」

「はい」

彼の真摯な言葉に、私は心の底から頷いた。
この傷だらけの関係の先に、いつか、友として笑い合える日が来るのかもしれない。

馬車に乗り込み、窓の外を見る。
遠ざかっていく屋敷。手を振る両親と、ヒューゴ様、そして子供たち。
悲しみも、怒りも、後悔も、すべてあの場所に置いていこう。

私は、馬車のステップを軽やかに踏みしめた。

「カミーユ姉様。もう、私はあなたの影じゃない」

そう小さく呟いた言葉は、風の中に溶けていった。

この旅の終わりに、私は誰と出会うのだろう。
どんな自分になっているのだろう。

“幸せになってやる”

胸の奥で、決意がぽんと弾けた。
馬車が、ゆっくりと動き出す。
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