美人な姉を溺愛する彼へ、最大の罰を! 倍返しで婚約破棄して差し上げます

佐藤 美奈

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第28話

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「ギルフォード殿」

「はい」

「……マリアを、泣かせたら承知せんぞ」

まるで地獄の底から響くような、低い声。外交官としての彼の顔だ。
それに対して、アレスターは少しも臆することなく、にやりと笑って返した。

「ご心配なく。俺が彼女を泣かせるとしたら、それは嬉し涙だけにするつもりです」

男同士の間に、静かな火花が散る。でもそれは、敵意ではなく、マリア・フォン・アルンハイムという一人の女性を大切に思う者同士の、固い誓いのようなものに見えた。
ヒューゴ様は、ふっと息を吐くと、かすかに口元を緩めた。

「……ならば、いい」

血の繋がりだけではない。傷つき、壊れて、それでも必死で繋ぎ止めようとした先に生まれた、新しい家族の温かい形が、確かにそこにはあった。



そして、結婚式の三日前。
私は、どうしても自分の手で過去にけじめをつけたくて、意を決して、一人で離れの塔を訪れた。アレスターとの未来へ、本当の意味で進むために。

重い扉を開けると、そこにいたのは、私の記憶の中にいる姉とは全く違う姿の女性だった。

質素な、修道女が着るような灰色の簡素なワンピース。そして――なによりも、その頭。かつて、太陽の光を集めてきらめいていた、自慢の金色の髪は、すべて綺麗に剃り落とされ、青々とした坊主頭になっていた。
その衝撃的な姿に、私は言葉を失った。

「……姉様……? その、頭は……」

窓辺に座り、静かに本を読んでいた姉様は、私の声に気づくと、ゆっくりと顔を上げた。
やつれてはいるけれど、その顔立ちは、やはり驚くほどに美しかった。むしろ、すべての装飾を削ぎ落としたことで、神聖さや、気高さのようなものまで感じさせる。

彼女は、穏やかに、本当に穏やかに微笑んだ。

「ああ、マリア。来てくれたのね」

「……ええ」

「驚いたでしょう、この頭。私の、覚悟なのよ」

彼女は、そっと自分の頭に触れた。

「この髪は、私の虚栄心や、傲慢さの象徴だったから。全て捨てて、一から……ううん、ゼロからやり直そうと思ったの。……どうかしら。似合う?」

悪戯っぽく笑うその顔は、遠い昔の、私が大好きだった姉様の顔と、少しだけ重なった。

「……ええ。すごく、綺麗よ、姉様。とても、似合ってるわ」

それは、偽りのない私の本心だった。

私たちは、しばらくの間、他愛のない話をした。そして、私が帰ろうと立ち上がった時、ずっと言えなかった言葉を、ようやく口にした。

「姉様。私、あなたのことが、ずっと許せなかった。今でも、完全に許せたわけじゃないと思う。でもね、憎み続けるのは、もうやめにしたいの。私は、前に進むから。幸せになるから」

私の言葉に、姉様の瞳から、一筋の涙が静かにこぼれ落ちた。
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