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第29話
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「……ありがとう、マリア。本当に……本当に、ごめんなさい……」
感情のすべてを込めて、彼女は静かに頭を垂れた。
「そして、結婚おめでとう。素敵な方ね。心から、あなたの幸せを祈っているわ」
私たちは、静かに手を取り合った。
それは、完全な雪解けではないのかもしれない。でも、凍てついていた氷の大地に、確かな陽の光が差し込んだ、そんな瞬間だった。
部屋の片隅には、ヒューゴ様が持ってきたのであろう新しい本が何冊も積まれ、壁には、レオンとセリアが描いたであろう、拙い家族の絵が飾られていた。
姉様は、一人ではなかった。
◇
式の前夜、私は自室の窓辺に立ち、月明かりに照らされた庭を見下ろしていた。
ガラスに映る自分の顔は、とても穏やかに微笑んでいる。
「ありがとう、あの時の私」
私は、ガラスの中の、絶望の淵にいた自分に、そっと語りかけた。
「泣き崩れずに、よく、踏みとどまってくれたわね。あなたの勇気があったから、今の私がいるのよ」
ガラスの中の私が、そっと頷き返したような気がした。
明日、私はまた一歩、前へ進む。
新しい名前と、新しい人生を、愛する人と共に。
結婚式当日。
教会は、私が望んだ通り、純白のカサブランカで埋め尽くされていた。気高く、甘い香りが、祝福の調べのように満ちている。
父様の腕に導かれ、ゆっくりとバージンロードを歩く。
その先には、見たこともないほど緊張した顔で、でも、最高の笑顔で私を待っている愛しい人がいた。
神父様の前で、私たちは向かい合う。
アレスターが、そっと私のベールを上げる。彼のヘーゼル色の瞳が、熱っぽく私を見つめていた。
「アレスター・フォン・ギルフォード。あなたは、このマリア・フォン・アルンハイムを妻とし、健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しき時も、これを愛し、これを敬い、これを慈しみ、死が二人を分かつまで、その操を守ることを、神の御前に誓いますか」
「はい、誓います」
彼の、迷いのない、力強い声が響く。
「では、マリア・フォン・アルンハイム。あなたは――」
神父様の言葉に、私は、今までで一番の笑顔で、はっきりと答えた。
「はい、誓います」
誓いのキスは、カサブランカの甘い香りと、幸せな涙の味がした。
鳴り響く鐘の音と、鳴り止まない拍手と祝福に包まれながら、私は思う。
この物語のヒロインは、もう誰かの影に隠れる地味な令嬢じゃない。
私は、マリア・フォン・ギルフォード。
私の物語の、正真正銘の、主人公だ。
そして今度こそ、私は本当の意味で幸せになる。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
この物語を、皆さまと共有できたことが何よりの幸せです。
またどこかの物語でお会いできますように。
感情のすべてを込めて、彼女は静かに頭を垂れた。
「そして、結婚おめでとう。素敵な方ね。心から、あなたの幸せを祈っているわ」
私たちは、静かに手を取り合った。
それは、完全な雪解けではないのかもしれない。でも、凍てついていた氷の大地に、確かな陽の光が差し込んだ、そんな瞬間だった。
部屋の片隅には、ヒューゴ様が持ってきたのであろう新しい本が何冊も積まれ、壁には、レオンとセリアが描いたであろう、拙い家族の絵が飾られていた。
姉様は、一人ではなかった。
◇
式の前夜、私は自室の窓辺に立ち、月明かりに照らされた庭を見下ろしていた。
ガラスに映る自分の顔は、とても穏やかに微笑んでいる。
「ありがとう、あの時の私」
私は、ガラスの中の、絶望の淵にいた自分に、そっと語りかけた。
「泣き崩れずに、よく、踏みとどまってくれたわね。あなたの勇気があったから、今の私がいるのよ」
ガラスの中の私が、そっと頷き返したような気がした。
明日、私はまた一歩、前へ進む。
新しい名前と、新しい人生を、愛する人と共に。
結婚式当日。
教会は、私が望んだ通り、純白のカサブランカで埋め尽くされていた。気高く、甘い香りが、祝福の調べのように満ちている。
父様の腕に導かれ、ゆっくりとバージンロードを歩く。
その先には、見たこともないほど緊張した顔で、でも、最高の笑顔で私を待っている愛しい人がいた。
神父様の前で、私たちは向かい合う。
アレスターが、そっと私のベールを上げる。彼のヘーゼル色の瞳が、熱っぽく私を見つめていた。
「アレスター・フォン・ギルフォード。あなたは、このマリア・フォン・アルンハイムを妻とし、健やかなる時も、病める時も、富める時も、貧しき時も、これを愛し、これを敬い、これを慈しみ、死が二人を分かつまで、その操を守ることを、神の御前に誓いますか」
「はい、誓います」
彼の、迷いのない、力強い声が響く。
「では、マリア・フォン・アルンハイム。あなたは――」
神父様の言葉に、私は、今までで一番の笑顔で、はっきりと答えた。
「はい、誓います」
誓いのキスは、カサブランカの甘い香りと、幸せな涙の味がした。
鳴り響く鐘の音と、鳴り止まない拍手と祝福に包まれながら、私は思う。
この物語のヒロインは、もう誰かの影に隠れる地味な令嬢じゃない。
私は、マリア・フォン・ギルフォード。
私の物語の、正真正銘の、主人公だ。
そして今度こそ、私は本当の意味で幸せになる。
最後までお付き合いいただき、本当にありがとうございました。
この物語を、皆さまと共有できたことが何よりの幸せです。
またどこかの物語でお会いできますように。
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