「神に見捨てられた無能の職業は追放！」隣国で“優秀な女性”だと溺愛される

第31話 貧しい家庭の事情

「鉱山だ。今は廃鉱状態だけどな」
「ルークさんの所有する土地なんですか？」
「そうだ。正確には伯爵家が所有してる土地ということになる」
「ルークさんって貴族だったんですね」
「まあ、これでも伯爵家の当主だ」

ルークはアンナを鉱山に連れてきた。と言っても十数年前から廃鉱になっている。アンナは何となしに聞いたらルークが所有しているという。さらに貴族で今は伯爵家当主を務めていた。

ルークはカルディア王国でも有数の名門貴族の家に生まれ、恵まれた環境で育ち何一つ苦労することもなく贅沢な生活を送っていた。若い頃から容貌が優れて美男子ともてはやされた。成人の儀では魔法戦士という価値の高い職業を神に与えられて人生のすべてが順調に進む。

頭もよく明るい性格と良いルックスを持って職業は魔法戦士。そのため縁談の申し込みはひっきりなしだった。そんな人気のルークだが、学生時代から恋愛には基本的に奥手なほうで今も恋人はいない。

「それなのにお金に困ってるんですか？」
「借金があるんだ」

アンナは納得できないような顔をしていた。爵位というのは国によって違うので一概にはいえませんが、伯爵家という貴族が金銭的に苦しい状況にあるのが理解できなかった。借金があるとルークは、もの思いに沈んで苦しみの表情で言う。

借金の原因は父のアレクサンダーだった。ルークと同じく容姿端麗で、若い頃から魅力あふれる美少年だと言われて誰もから可愛がられた。だが成長すると、将来はヒモになって女性に養ってもらいたいなどと、頭のおかしい事を言ってルークの祖父を困らせていた。大人になっても子供っぽい性格は変わらなかった。さらに浪費家で酒好きになって、お金を湯水のように使って飲み歩くようになる。

それでも一人息子ということで伯爵家当主になる。アレクサンダーは異性関係も派手で褒められる人間ではなかった。結婚してから隠し子がいることが発覚したことは何度もある。父の愛人で子供がいるという女性が突然現われて、生活の面倒を見てほしいと言われたり、お腹に子供を妊娠中であることを報告に来る女性が息つく間もなく次から次へとやってくる。

ルークの母のサーシャは情けがあって思いやり深く、たくさんの人に好かれる女性であった。かわいそうに大変だったわねと訪れた女性を気遣って大事にする。優しく理解するような目で、親身になって話しを聞いて女性たちを支えた。サーシャは女性たちに申し訳ない気持ちで金銭的援助を惜しまなかった。そのため伯爵家の生活は日増しに質素になっていく。

慈愛深いサーシャは、夫のアレクサンダーを厳しく責めるようなことは言わず、お金を工面しようと家の金目の物を片っ端から売ったり、希少価値のある宝石類はオークションに出品して高値で売却した。それでも伯爵家の財産は大きく減少し続ける。

「――それから父が病気になって、長男の僕が伯爵家の当主になったんだ」

ルークは、あまり言いたくなかった家庭の事情を打ち明けた。ほんの数週間前、アレクサンダーは体を壊した。五十歳になる誕生日の前日だった。父は酒好きで毎日のように飲み歩いて、朝から晩までうまそうにたばこをふかしていた。健康意識が低く非常に不健康な生活を送っていた。

それが原因だと医者にも言われた。ルークとサーシャもアレクサンダーに酒とたばこを控えるように何度も注意したが、甘やかされて育った父は我慢できない性格で暴言を吐いて聞く耳を持たなかった。

アレクサンダーは子供の頃から吸血鬼に強い憧れを抱いていたらしく、自分は吸血鬼の生まれ変わりだと思い込み、体は人一倍丈夫で健康だと口癖のように言っていた。当然ながら彼の妄言で、不健康な生活を続けていたので体を壊して病気になった。

多くの愛人がいて金遣いが荒く、借金まみれと救いようのないアレクサンダーだったが、サーシャも悪く言わなかったし、ルークも父のことはあまり憎んでいなかった。