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第9話 遠くへ行きたい
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「はぁ……」
アンナは貴族が暮らす高級住宅街を出てから平民街に入って、数時間あてもなく街の中をあちこち歩き回っていた。疲れたアンナは目についた木製のベンチに座ってため息をついた。これからどうしよう……頭の中にはそれしかなかった。
「まもなく出発します! まだ席は空いてますから乗り遅れないようにお願いします!」
乗合馬車の御者として働く男性の声が聞こえた。アンナの座っているベンチは馬車の待合所として設置されていた。
「あの、私も乗ります」
とっさに出てくる気持ちの言葉だった。アンナは辛い思いを味わわされたこの国にいたくなかった。悲しいので誰も自分のことを知らないどこか遠くへ行きたいと、衝動にかられてアンナは馬車に乗る。
途中休憩を兼ねて停車して食事をとったり、その時に乗り降りする客は何人かいた。大型の馬車なので引っ切りなしに客が入れ替わっていた。アンナは目的地もないので、邪魔にならない場所で体を丸く小さくして顔を伏せて座っていた。
馬車に乗っている間は、他の客と会話を交わすこともなくうつろな気分でぼんやりしていた。たまに気抜けしたような表情でしばらく風景を黙って眺めた。アンナが馬車に乗ってから十日以上経過していた――
「お嬢さん、起きてください」
御者の声だった。どうやらこの馬車の終点停留所に到着したらしい。客は誰もいないだろうと思ったが、一応確認しようかと馬車の中を見ると女性が隅っこでぽつんと一人座っていた。少し驚いて声をかけた。
小さい馬車なら印象に残った客のことは覚えているが、大型の馬車なので乗っている客のことを覚えていないのが普通だった。基本的に客と短い会話を交わす程度でアンナのことも特に印象はなく、どこから乗ったのかさえ分からなかった。
「すみません。私いつの間にか寝てしまって」
声が頭の中に直接響いてきたような気がして目を覚ます。アンナは知らないうちに眠ってしまったようだ。と言っても馬車の中ではいつも無表情でぼーっとしていて、これからどうしようかと心の中で呟いていた。うつむいていたアンナは顔を上げて目の前に立っていた男性を見た。
(なんて綺麗な顔なんだ……)
御者の男性は目が合った瞬間に、こんな美しい女性がこの世にいるのかと息を呑んだほどだった。
「あの、ここはどこですか?」
この人は、どうして黙ってるのかなと、アンナは男性と目を合わせたまましばらくじっと考え込んでいたが、いくら頭を回転させても答えは見つからないので決心して言葉を口にする。
「あ、すまない。ここはカルディア王国です」
瞬きすら忘れて、目の前にいる現実離れした美貌の女性を凝視していた男性は、アンナの声に取り乱した気持ちで目が泳いでしまった。心苦しく思って謝ってからアンナの質問に答える。
カルディア王国だという。ずいぶん遠くまで来ていた。アンナは昔の思い出が頭に浮かんでくる。成人の儀で職業が与えられる前のまだ十歳の子供だった頃、この国には来たことがあった。確か国王と王妃の結婚二十年記念パーティーに出席するために訪れて公爵家として出席した。
(あの頃は幸せだったな……アンドリュー様とプリシラ様は元気かなぁ?)
公爵家を追放されて平民として来るとは想像すらしなかった。アンナは懐かしそうな表情になって自分の孤独さがしみじみと感じられた。カルディア王国の容姿端麗な若き現国王アンドリューと、誰よりも兄を慕う妹のプリシラと子供の頃に一緒に遊んだことを思い出していた。
アンナは貴族が暮らす高級住宅街を出てから平民街に入って、数時間あてもなく街の中をあちこち歩き回っていた。疲れたアンナは目についた木製のベンチに座ってため息をついた。これからどうしよう……頭の中にはそれしかなかった。
「まもなく出発します! まだ席は空いてますから乗り遅れないようにお願いします!」
乗合馬車の御者として働く男性の声が聞こえた。アンナの座っているベンチは馬車の待合所として設置されていた。
「あの、私も乗ります」
とっさに出てくる気持ちの言葉だった。アンナは辛い思いを味わわされたこの国にいたくなかった。悲しいので誰も自分のことを知らないどこか遠くへ行きたいと、衝動にかられてアンナは馬車に乗る。
途中休憩を兼ねて停車して食事をとったり、その時に乗り降りする客は何人かいた。大型の馬車なので引っ切りなしに客が入れ替わっていた。アンナは目的地もないので、邪魔にならない場所で体を丸く小さくして顔を伏せて座っていた。
馬車に乗っている間は、他の客と会話を交わすこともなくうつろな気分でぼんやりしていた。たまに気抜けしたような表情でしばらく風景を黙って眺めた。アンナが馬車に乗ってから十日以上経過していた――
「お嬢さん、起きてください」
御者の声だった。どうやらこの馬車の終点停留所に到着したらしい。客は誰もいないだろうと思ったが、一応確認しようかと馬車の中を見ると女性が隅っこでぽつんと一人座っていた。少し驚いて声をかけた。
小さい馬車なら印象に残った客のことは覚えているが、大型の馬車なので乗っている客のことを覚えていないのが普通だった。基本的に客と短い会話を交わす程度でアンナのことも特に印象はなく、どこから乗ったのかさえ分からなかった。
「すみません。私いつの間にか寝てしまって」
声が頭の中に直接響いてきたような気がして目を覚ます。アンナは知らないうちに眠ってしまったようだ。と言っても馬車の中ではいつも無表情でぼーっとしていて、これからどうしようかと心の中で呟いていた。うつむいていたアンナは顔を上げて目の前に立っていた男性を見た。
(なんて綺麗な顔なんだ……)
御者の男性は目が合った瞬間に、こんな美しい女性がこの世にいるのかと息を呑んだほどだった。
「あの、ここはどこですか?」
この人は、どうして黙ってるのかなと、アンナは男性と目を合わせたまましばらくじっと考え込んでいたが、いくら頭を回転させても答えは見つからないので決心して言葉を口にする。
「あ、すまない。ここはカルディア王国です」
瞬きすら忘れて、目の前にいる現実離れした美貌の女性を凝視していた男性は、アンナの声に取り乱した気持ちで目が泳いでしまった。心苦しく思って謝ってからアンナの質問に答える。
カルディア王国だという。ずいぶん遠くまで来ていた。アンナは昔の思い出が頭に浮かんでくる。成人の儀で職業が与えられる前のまだ十歳の子供だった頃、この国には来たことがあった。確か国王と王妃の結婚二十年記念パーティーに出席するために訪れて公爵家として出席した。
(あの頃は幸せだったな……アンドリュー様とプリシラ様は元気かなぁ?)
公爵家を追放されて平民として来るとは想像すらしなかった。アンナは懐かしそうな表情になって自分の孤独さがしみじみと感じられた。カルディア王国の容姿端麗な若き現国王アンドリューと、誰よりも兄を慕う妹のプリシラと子供の頃に一緒に遊んだことを思い出していた。
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