彼女よりも幼馴染を溺愛して優先の彼と結婚するか悩む

佐藤 美奈

文字の大きさ
19 / 59

第19話

しおりを挟む
ダンスが終わり、私たちは二人で静かなバルコニーに出て夜風に身を任せていた。彼がふと口を開くと、優しい声で言った。

「あなたの瞳を見ていると、わかります。あなたは、とても傷ついている。でも、それと同じくらい、あなたは強い」

彼は私の手を取ると、その手の甲にそっとキスをした。その動作は、優雅で私の心を揺さぶった。

「もし、あなたを傷つけている男がいるのなら、私がこの剣で斬り捨てて差し上げましょう」

その真剣な声に、私の胸はドキリとした。この人なら、本当にそうしてくれるような気がした。彼の言葉には、揺るぎない決意が込められているようで私は思わず息を呑んだ。

そして、運命の深夜零時が訪れた。舞踏会の終わりを告げる鐘の音が響き渡り、仮面を外す時がついにやってきた。

「さあ、お互いの顔を見せましょうか、女神様」

彼はゆっくりと、黄金の仮面を外し始めた。その瞬間、私は一瞬息が止まった。驚きと混乱で、目の前が真っ白になり、言葉を失って立ち尽くしてしまった。

そこに現れたのは、信じられないほどよく知っている顔だった。アンドレだった。

「……あなた」

「……ニーナ。君だったのか」

彼は少し驚いたように目を見開き、少し遅れて呟いた。招待所で渡された魔道具を使うと、私の声質は別人のように変わり、その変化にアンドレも誰なのか全くわからなかった。お互いに、声を変えて顔も仮面の下で隠されたまま言葉を交わしていた。

私も震える手で仮面を外し、彼の顔を改めて見つめた。目の前にいる彼が本当にアンドレなのか、少しの間疑ってしまった。アンドレは、驚きとともに歓喜の表情を浮かべて、私を見つめ返していた。

その目の中には、久しぶりに見るあの温かさと深い思いがこもっていた。心臓が高鳴り、何か言おうとしても言葉がうまく出てこなかった。

「やっぱり、俺は君に惹かれるなんだ」

彼はゆっくりと一歩、私に近づいて情熱的な声で言葉を紡いだ。

「仮面をかぶっていなければ、こんな気持ちを伝えられなかった。収穫祭のことは、本当に悪かったと思っている。けれど、どう謝ればいいのかも分からなかったんだ。ただ一つだけ言いたいことがある。君なしでは生きられない。君以外の誰も愛せないんだ!」

素性を知らずに惹かれたという事実。その言葉は演技のようでありながらも、嘘だとは到底思えない情熱的な言葉。彼の目には、確かに真剣な思いが映っている。

「あの幼馴染との関係、私に隠していることはありませんか? どうしても気になってしまうのです」

「キャンディはただの昔からの友達に過ぎないよ! 彼女のことなんて、何も気にする必要はないんだ!」

しかし、頭の中では分かっている。こんな男に振り回されてはいけないと。それでも、心はどうしようもなく揺れ動いていた。ああ、どうして私はこんな人を選んでしまったのだろうと少しだけ胸が痛む。

「ニーナ……」

彼の手が私の腰を引き寄せ、次の瞬間、その唇が私の唇に触れる。冷たく凍りついていたはずの心が、彼の熱でゆっくりと溶けていく。こんなはずじゃないと頭では分かっていても、どうしても彼を許してしまう自分が悲しかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

幼馴染と仲良くし過ぎている婚約者とは婚約破棄したい!

ルイス
恋愛
ダイダロス王国の侯爵令嬢であるエレナは、リグリット公爵令息と婚約をしていた。 同じ18歳ということで話も合い、仲睦まじいカップルだったが……。 そこに現れたリグリットの幼馴染の伯爵令嬢の存在。リグリットは幼馴染を優先し始める。 あまりにも度が過ぎるので、エレナは不満を口にするが……リグリットは今までの優しい彼からは豹変し、権力にものを言わせ、エレナを束縛し始めた。 「婚約破棄なんてしたら、どうなるか分かっているな?」 その時、エレナは分かってしまったのだ。リグリットは自分の侯爵令嬢の地位だけにしか興味がないことを……。 そんな彼女の前に現れたのは、幼馴染のヨハン王子殿下だった。エレナの状況を理解し、ヨハンは動いてくれることを約束してくれる。 正式な婚約破棄の申し出をするエレナに対し、激怒するリグリットだったが……。

これ以上私の心をかき乱さないで下さい

Karamimi
恋愛
伯爵令嬢のユーリは、幼馴染のアレックスの事が、子供の頃から大好きだった。アレックスに振り向いてもらえるよう、日々努力を重ねているが、中々うまく行かない。 そんな中、アレックスが伯爵令嬢のセレナと、楽しそうにお茶をしている姿を目撃したユーリ。既に5度も婚約の申し込みを断られているユーリは、もう一度真剣にアレックスに気持ちを伝え、断られたら諦めよう。 そう決意し、アレックスに気持ちを伝えるが、いつも通りはぐらかされてしまった。それでも諦めきれないユーリは、アレックスに詰め寄るが “君を令嬢として受け入れられない、この気持ちは一生変わらない” そうはっきりと言われてしまう。アレックスの本心を聞き、酷く傷ついたユーリは、半期休みを利用し、兄夫婦が暮らす領地に向かう事にしたのだが。 そこでユーリを待っていたのは…

最近彼氏の様子がおかしい!私を溺愛し大切にしてくれる幼馴染の彼氏が急に冷たくなった衝撃の理由。

佐藤 美奈
恋愛
ソフィア・フランチェスカ男爵令嬢はロナウド・オスバッカス子爵令息に結婚を申し込まれた。 幼馴染で恋人の二人は学園を卒業したら夫婦になる永遠の愛を誓う。超名門校のフォージャー学園に入学し恋愛と楽しい学園生活を送っていたが、学年が上がると愛する彼女の様子がおかしい事に気がつきました。 一緒に下校している時ロナウドにはソフィアが不安そうな顔をしているように見えて、心配そうな視線を向けて話しかけた。 ソフィアは彼を心配させないように無理に笑顔を作って、何でもないと答えますが本当は学園の経営者である理事長の娘アイリーン・クロフォード公爵令嬢に精神的に追い詰められていた。

とある伯爵の憂鬱

如月圭
恋愛
マリアはスチュワート伯爵家の一人娘で、今年、十八才の王立高等学校三年生である。マリアの婚約者は、近衛騎士団の副団長のジル=コーナー伯爵で金髪碧眼の美丈夫で二十五才の大人だった。そんなジルは、国王の第二王女のアイリーン王女殿下に気に入られて、王女の護衛騎士の任務をしてた。そのせいで、婚約者のマリアにそのしわ寄せが来て……。

私が、良いと言ってくれるので結婚します

あべ鈴峰
恋愛
幼馴染のクリスと比較されて悲しい思いをしていたロアンヌだったが、突然現れたレグール様のプロポーズに 初対面なのに結婚を決意する。 しかし、その事を良く思わないクリスが・・。

《完結》愛する人と結婚するだけが愛じゃない

ぜらちん黒糖
恋愛
オリビアはジェームズとこのまま結婚するだろうと思っていた。 ある日、可愛がっていた後輩のマリアから「先輩と別れて下さい」とオリビアは言われた。 ジェームズに確かめようと部屋に行くと、そこにはジェームズとマリアがベッドで抱き合っていた。 ショックのあまり部屋を飛び出したオリビアだったが、気がつくと走る馬車の前を歩いていた。

心の傷は癒えるもの?ええ。簡単に。

しゃーりん
恋愛
侯爵令嬢セラヴィは婚約者のトレッドから婚約を解消してほしいと言われた。 理由は他の女性を好きになってしまったから。 10年も婚約してきたのに、セラヴィよりもその女性を選ぶという。 意志の固いトレッドを見て、婚約解消を認めた。 ちょうど長期休暇に入ったことで学園でトレッドと顔を合わせずに済み、休暇明けまでに失恋の傷を癒しておくべきだと考えた友人ミンディーナが領地に誘ってくれた。 セラヴィと同じく婚約を解消した経験があるミンディーナの兄ライガーに話を聞いてもらっているうちに段々と心の傷は癒えていったというお話です。

【完結】前世の恋人達〜貴方は私を選ばない〜

恋愛
前世の記憶を持つマリア 愛し合い生涯を共にしたロバート 生まれ変わってもお互いを愛すと誓った二人 それなのに貴方が選んだのは彼女だった... ▶︎2話完結◀︎

処理中です...