彼女よりも幼馴染を溺愛して優先の彼と結婚するか悩む

第28話

彼は何の前触れもなく言った。私は驚きで言葉を失って思わず彼の顔を見つめた。どうしてこんなことを言うのか意味が分からなかった。彼が私に対してこんなことを聞くなんて、あり得ないことだと思っていたからだ。しかし、アンドレの目には真剣さがあり、冗談で済ませられるような雰囲気ではなかった。

「キャンディが、愛を誓ってくれというから、ニーナだけに愛を誓ったら不公平だろう？」

アンドレは、婚約者である私と、幼馴染のキャンディを同じように扱っているのだろうか。私にとって、婚約者であるアンドレの愛は唯一無二のものであり、何ものにも変えがたい大切なものであるはずだった。その事実が、私の胸に深く響き、複雑な思いが込み上げてきた。

「アンドレ、ありがとう！　ニーナ様、どうぞお構いなく」

「え……？」

その言葉に、私は呆然としたまま、どう返していいのかわからなかった。話は私の意志を無視して進んでいく。アンドレには感謝の言葉を言うが、私には気にしないでくださいというキャンディの言葉を口にするのを聞き、私はただ立ち尽くしていた。

そして、ふと気づく。このまま私は彼女と並んで、アンドレに愛を誓われることになるのだろうか。胸の中には混乱と戸惑いが広がって考えれば考えるほど、二人の心情が私には全く理解できなくなっていった。

アンドレとキャンディが何を考え、何を望んでいるのか全く見当がつかない。どうして、私にとっては信じられないような行動をとるのか。その理由を探ろうとするたびに、ますます二人の感覚が遠く感じられ、私自身が迷子になったような気分になった。

「ニーナ様、どうぞ遠慮せずに」

「ちょっと、どうしていいのか……」

「アンドレの愛の誓いを、私たち一緒に分かち合いましょうね」

「あ、はい……」

その言葉が耳に届いたとき、私は一瞬何も考えられなかった。ただ、素直に言われるままに動いてしまった。キャンディは、遠慮という言葉を知らないかのように、厚かましい態度でぐいぐいと迫ってきた。

彼女の目は、何もかも自分のものだと言わんばかりに輝き、あっという間に距離を縮めてきた。その無神経な自信が私の心をざわつかせ、どうしてもその勢いに押されてしまう自分が情けなく感じられた。

頭の中はぼんやりとしていて、心の中に浮かぶのは混乱と不安だけだった。そんな自分が夢の中のようで、どこか遠くで現実が進んでいくのを見守るしかできなかった。

気がつくと私とキャンディは、神木の祭壇の前に並んで立っていた。周囲の空気はひんやりと冷たく、時間がゆっくりと流れているかのように、重々しく神聖な雰囲気が広がっている。祭壇に差し込む柔らかな光が、祝福のように私たちを包み込み緊張感が漂っていた。

神官の声が響き、私たちを導くように促すと、アンドレがゆっくりと口を開いた。

「この紅葉が毎年深く色づいていくように、キャンディへの愛も、ニーナへの愛も、また年々深く鮮やかになっていくことを、ここに誓います」

アンドレの言葉は、自然の営みが刻むかのように力強く美しく響いた。彼の声には揺るぎない決意と深い愛情が込められており、その言葉が祭壇の空気を震わせるように伝わってきた。

私の心は、複雑な思いで揺れ動き、何とも言えないさまざまな感情が交差し、胸が締め付けられるような気がした。隣に立つキャンディが嬉しそうに顔を輝かせ、息を弾ませながらアンドレの言葉を受け入れている姿が、私にはどこか遠く感じられた。

「アンドレ、心が震えるほど感動したわ！」

キャンディはアンドレに嬉しそうに駆け寄り、勢いよく彼に抱きついた。その様子を見て、アンドレは優しく彼女を抱きしめて誇らしげに微笑んだ。彼らのラブラブな雰囲気に、ひとりぽつんと立っている私の心は少しだけ寂しさを感じていた。