異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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134話 「Beer,Beer」

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ダンジョンの入り口が増えた、中身も別物らしい。そんな話を宿の探索者が食事時にしている様子をチラチラと伺う加賀。
断片的に聞こえる情報からは否定的な話は無いようで心の中でコアに礼を言うのであった。


「やっと仕事が出来るぞい……おお、加賀の嬢ちゃんや。多分今日辺り儂宛ての荷物届くと思うでな、届いたら冷やしておいてくれるんかの」

ゴートンが宿に来てからおよそ一月ほど立つ頃、宿の余った土地にゴートン専用の鍛冶屋が出来上がる。
ゴートンはそれに合わせて荷物の配達を頼んでいたようで何かが届くらしい。十中八九ビール樽あたりだろうが。

「まずはメンテナンスだけで済むのを終わらせてと……随分溜まったもんだわい」

鍛冶屋に併設された倉庫内で自慢の髭を扱きながら探索者達から預かった装備を眺めるゴートン。
口調こそうんざり言った感じであるが、その顔には笑みが浮かんでいる。
根っからの職人ということだろう、彼も久しぶりに仕事が出来そうで嬉しいのだ。

「命、そろそろお風呂にお湯張ってもらってもいい?」

「ほいほい」

夕飯の準備も大体終わった頃、厨房にひょこっと顔をだした咲耶が加賀に声をかける。
風呂の掃除が終わったので加賀を呼びにきたのだ。
咲耶に言われ風呂場へと向かう加賀、精霊との仲も良い……未だに話したことはないが、とにかく普段から精霊と関わることの多い加賀が風呂場のお湯張りの担当をしているのだ。

「精霊さんお湯おねがーい、今日は何時もより3度高めで」

アルヴィンやシェイラが聞いたら白目を剥きそうなぐらい実に大雑把な指示であるが、それでも精霊はきっちりと仕事を来なしてくれる。これは日々加賀からご飯を貰っている、そのお礼もあるのだろう。大量のお湯を出しても魔力の消費がないのもその辺りが理由だと思われる。

「ん、ばっちりだね。ありがと精霊さん」

お湯に手をつけすぐに引っ込める加賀。普段より3度高く設定された湯は慣れるまで触れるのも厳しそうである。
当然入るのも熱い、だが今日の夕飯には良く冷えたビールが出る。熱い風呂に入ったあとのビールはとても美味しいものになるだろう。

「お風呂にお湯張っておいたよー」

「ありがと、休んでてー」

咲耶に報告し食堂に戻る加賀。
すると食堂の椅子に腰かける見慣れた姿があった。

「あれ八木帰ってたん……だ?」

「おう、今日は早めに上がったんよ」

八木であるがどうも様子がおかしい。
きている服はびちょびちょで絞れはきっと大量の水が滴り落ちる事だろう。
ここで加賀はあたりに漂う妙に汗臭い匂いに気が付いた。当然発生源は目の前の男である。

「……そのキモイぐらい大量の汗はなに。くちゃい」

「キモイくちゃい言うなし……てか何気に傷つくからやめろおっ」

「だってさー……」

じとっとした目で八木を見つつゆっくりと距離置く加賀。
八木はショックを受けた様子で服のにおいをくんくん嗅いでいる。

「どうせビール目当てなんだろうけど……さっきお湯張ったからお風呂はいって着替えなよー」

「お、ほんとか? 助かるわ。さすがにあんだけ走ると疲れてな……のんびり浸かってくらぁ」

加賀が八木を風呂場に追い立てていると今度はゴートンが玄関から入ってくる。
こちらはこちらで服を厚めに着込み顔を真っ赤にし非常に暑そうな状態となっていた。
八木と違うのはなぜか汗がほとんど出ていないという点だろうか。

「ぉお……加賀ちゃんや、ビールは届いとったかの」

「え、ええ……冷やしてますので安心してください……お風呂用意出来てるのでよければどうぞ」

「うむ、ありがたく入らせてもらうよ……」

妙にかすれたゴートンの声で加賀はゴートンが限界まで水分の摂取を制限している事に気が付いた。
きっと朝から鍛冶に打ち込み水分をあまり取らないようにしたのだろう。
ふらふらとした足取りで風呂場へと向かうゴートンを見てだいじょぶかなと漏らす加賀。
鍛冶師だし、汗をかくのは慣れているだろうと思い、料理の仕上げをしに厨房へと向かうのであった。

せっかくのビールと言う事で今日は燻製の盛り合わせに揚げ物と、ビールに合いそうな献立となっている。

「ビール……ビール……きりっと冷えてて喉越し爽やか」

厨房から聞こえるぱちぱちと油のはぜる音と漂う香ばしい匂い。
出来るのはまだかまだかと待つ八木であるが、ついには限界が訪れたのかブツブツと何やら呟き始める。

「…………」

そしてゴートンはと言うともはや喋るのも億劫なのかひたすら無言でテーブルを見つめていた。
その鬼気迫る様子にゴートンの周りには人が寄らずぽっかりと空間が空いてしまってすらいる。

「はい、お待たせ。まずは燻製セットと……はいビール」

テーブルの上にゴトッと音を立て置かれる、キンキンに冷えた巨大なジョッキ。
黄金の液体としゅわしゅわとはじける泡をみたゴートンはもうがまん出来んとばかりにジョッキを一気に煽る。
ゴッゴッゴッと喉をビールが通る音があたりに響く、呼吸する事すら忘れ喉へと流し込まれるビール。500cc以上入りそうな巨大なジョッキは一瞬にして空となっていた。

「っっくっはああああああ!! たまらん!」

ゴンッと空になったジョッキをテーブルに置くゴートン。途端に渇いた体がビールの水分を吸収、体から一気に汗が噴き出す。

「お代わり頼むぞい!」

「はーい、どうぞ」

きっとすぐにお代わりするだろうと思っていた咲耶はゴートンが飲み始めると同時に次のビールを用意していたのだ。
間髪置かずに置かれたジョッキを見たゴートンは顔に笑みを浮かべると再びジョッキの中身を煽り出す。

「どれ……うむ、うむ……うまい!」

喉も渇きもある程度癒え落ち着いてきたゴートンは燻製へと手を伸ばす。
上手い具合にボイルされたソーセージをかじればパキリと皮がはじけ肉汁があふれ、それを一噛み、嚙みしビールで流し込む、ゴートンはこの瞬間がたまらなく好きであった。

「ぶっふぅうううぅぅ……やべえ、たまらん」

そしてそれは八木も同様であった。皿の上に乗ったソーセージはもはや一本も残ってなくジョッキも空となっていた。

「おう、たまらんのう。こいつは」

「まったくだね、がんばって走った甲斐があったってもんよ」

同じビール好き同士通じ合う所があるのか、二人はその後も燻製やビールを語りつつ飲んで飲んで飲みまくった。
ゴートンが今日のために用意したビールはおよそ30リッター。そのうち半分が二人の胃に納まる事になる。

なお、当然他の人も飲むので早々にビールは品切れとなり、バクスは空になった樽を見て一人涙を流しいたとか何とか。
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