異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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135話 「依頼されていたもの」

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「俺は……どうやら、ここまでのようだ」

ベッドの上で力無くそう零す八木。
彼の顔は土気色になり、体調に異変があるのは明らかであった。

「ただの二日酔いが何いってんの、ほらお水だよ」

「すまぬ……すまぬ……」

昨日しこたまビールを飲んだ八木は予想を裏切らず見事なまでに二日酔いとなっていた。
加賀から受け取った水を飲み干し、幾分顔色が戻ったようすであるがまだ暫くは動けないだろう。

「その様子じゃだめそうだね、午前中は休んでるといいよ。んじゃ、買い物いくからまたねー」

八木からコップを受け取り部屋を出て行く加賀。それを見送った八木は静かに目を瞑る。
食堂へ戻る途中玄関でアイネとうーちゃんと出会う、二人は加賀に気が付くと手をあげ声を掛ける。

「八木の調子はどう?」

「午前中はだめそーですね、ゴートンさんに付き合ってしこたま飲んでましたからねー」

次やったらしばらくお酒禁止かな、と苦笑する加賀。

うー(酒のめばなおるらしいぞい)

「……誰が言ってたか想像つくけど、ぜったいやっちゃダメだからね?」

うーちゃんのほっぺをむにむにと押さえ言い聞かせる加賀。
二日酔いならまだしも倒れられるとさすがに困ってしまう。

「んし、今用意するんでちょっと待っててください、すぐ戻りまーす」

そう言ってコップを置き加賀は部屋へと走って行く。これから3人で屋台に行く予定なのだ。
もっともアイネは屋台よりも例の他のノーライフキングと会うのが目的のようであるが。

「めんどくさいけどやらない訳にはいかないもの……」

「はは……屋台のお客さんにいるんでしたっけ?」

「たぶんね、それ以外に加賀の料理食べる手段がないもの」

どうも彼らは屋台の客に紛れ込み加賀の料理を食べていたらしい。
言われてみればとお客さんの顔を思い浮かべる加賀、中には最初のころはフードを被っていて顔がよく見えない客が数名いたのを思い出す。
途中からはフードを取っていたのであまり気にしていなかったのだ。

「言われてみるとそれらしい人がいましたねー」

「やっぱり、今日もいたら教えてくれる? ああ、でも直前までは言わないでね、逃げられると困るから」

「はーい」

3人が屋台の準備を進めていると次第に常連の客が集まってくる。
人々は屋台前に徐々に列を形成していき、そしてアイネの探し人と思わしき人物もちゃっかり列に加わっていたりする。

「それじゃ開店しまーす、先頭の方ご注文どぞ」

なるべくいつも通りな感じで接客を始める加賀。
屋台で売っているものはスープに軽食がいくつか、いずれも保温してあるのを器に注いで渡すだけであり次々に客をさばいて行く。

「はい、次の方ご注文どぞ」

そう言って作業をしつつアイネの袖をくいとひっぱる加賀。
それに気が付いたアイネはすっと今屋台の前にいる客へと目を向ける。
ぱっと見は優しそうなどこにもで居そうなおじさん、それが彼の印象であった。
加賀と入れ替わる様に客の前に立ったアイネは料理を渡すふりをしつつしっかりと腕を確保する。

「少しお話いいかしら。スカーさん」

「っ……移動しようか」

さすがに屋台の傍で話すつもりにはなれなかったのだろう、男は移動する事を提案する。
アイネもそのつもりだった様で承諾すると屋台が見えるか見えないかと言ったところまで二人で移動する。
二人は軽く辺りを見回してから話を始めた。

「ひさしぶり、元気そうでなにより」

「君も……お互い様だが元気そうでなにより」

やはりその人物はアイネの探し人で正しかったようである。

「それで要件は?」

「伝言と説得。お城に戻ってほしいそうよ」

それを聞いて苦々しい表情を浮かべるスカーと呼ばれた男。
あからさまに帰りたくないと言う気持ちであるのを表情が物語っている。

「君なら分かると思うが、正直帰りたくはない」

「わかってる、加賀……あの子の料理だけど、食料を……例えば調味料でも何でもいいのだけど。食料をもらって。それを使って料理を作ればあの子の料理を食べたのと同じ効果が得られる」

「それは……そうなら、だが」

加護の説明を聞いたスカーであるが、どうも歯切れが悪い。
アイネは少し眉をひそませ何か問題があるのかと尋ねる。

「あの子の料理はわりと気に入っててな、それにこの街での生活も……ずっと城に使えてきたんだこんな生活も悪くはない」

「そう……」

そう言われると思いっきり同感出来るだけにアイネも強く言いにくい。
さて、どう説得したものかとアイネが思案していると横から声を掛けるものがいる。

「主、彼らならその気になれば一日あればここまで来れるのでは?」

「あ……そうね、もう魔力は気にしなくていいんだもの、失念してた」

こっそり姿を消していたデーモンである、彼は加賀に言われアイネの後をつけていたのだ、何かあれば自分たちに知らせるようにと。

魔力が枯渇しずっと飢餓状態だった昔ならいざ知らず、今は体に魔力が満ちている。
国間の移動程度であれば問題ない範囲であろう。

「と、言う訳ならどう?」

「……ええ、問題ないでしょう。他の者にも声を掛けておきます。では、私はこれで……」

そう言いながら料理を大事そうに抱えさっていくスカー。
終わってみれば実にあっさりした交渉であった、アイネはちらりとデーモンを見るとぽつりと呟く。

「ご飯抜き」

「なんでぇえええ!?」

「冗談よ、ありがとう助かったよ」

冗談とほほ笑むアイネであるが若干目がまじであった。
なんとなくデーモンがドヤ顔しているように見えたのである。

「デザートぐらい追加でつけてあげるよ」

まだ屋台の営業は終わっていない、アイネは残りの手伝いをすべく加賀達の元へと戻るのであった。
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