異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
140 / 332

138話 「結局はそうなったらしい」

しおりを挟む
そして中々結論が出ないまま約束の時間が迫る。

「もうさ、エルザさんに相談しちゃいなよ。お昼はともかく夜だと宿はちょっとあれだって、正直に話してエルザさんお勧めの所にでも行ってきたら?」

最終的にそう加賀が話した内容で行くことになり。八木はとぼとぼと肩を下ろしながらギルドへと向かっていた。

そして八木を見送ったあと宿の厨房では何時もの通り夕食の準備が始まる。
とは言え今日はリザートマン達がお魚を届けてくれた日であり、海から離れたこの街では贅沢と言える新鮮な魚介類を使ったメニューではあるが。

「ぁー……すっごい出汁でてる、おいしー」

うっ(うまうま)

小皿に味見にしては少々多めによそられた魚介たっぷりのトマトベースのスープ。
スープと言うよりメイン料理と言っても差し支えないぐらい具沢山のそれは濃厚な出汁がスープに溶けだし恐ろしく旨味たっぷりに仕上がっていた。

「うん……おいしい、けど。味見しすぎには気を付けてね」

「客に出す分無くなっても知らんぞ」

本格的に食べだしそうな雰囲気のうーちゃんを見てそうこぼすアイネとバクスの二人。

「そういうバクスさんも……燻製は数そこまで多くないですし、危ないですよ」

「む……そうだな、やめておこう」

名残惜しそうに皿を片付けるバクス、彼が食べていたのは魚介類の燻製、その試作品である。
試作品とはいえそれはかなりの出来栄えだったようで、一通り全ての種類を食べ終えた彼は二週目に入ろうとしていた所であった。

「皆、ちょっといいかしら?」

「ん? どったの母ちゃん」

「実が八木ちゃんがねえ……」

咲耶に言われ玄関へと向かう4人。
玄関に向かうとそこには八木、それに一緒にご飯を食べにいったはずのエルザが二人そろって立っていた。

「あっれ、八木どしたの?」

「いやぁ、それがさ──」


とぼとぼと肩を卸しギルドへと向かった八木であるが、そんな八木を出迎えたエルザはあっさりと言い放つ。

「別に宿でいいですよ、元から多分そこで食べるんだろうなと思っていましたし」

これに驚いたのは八木である。
エルザには宿に探索者は大量に泊まっているのは何度か話のネタにしたため伝わっている。
戸惑いつつもエルザへ確認しようと口を開く。

「え、いいの? むっさい男連中いっぱいよ?」

「慣れていますので」

「そうだった。うちの連中全部むっさい男じゃん! てかモヒカンしかいないし!」

確かにエルザの言う通り、彼女の職場にはむっさい男しかいない。
そういう事なら問題ないだろうと八木は考えエルザを連れ宿へと向かったのである。

「──と言う訳で」

「八木様の同僚のエルザと申します。今日はお招き頂きありがとうございます」

「お、おう……ま、ここじゃ何だし上がってくれ」

丁寧な口調に加えきっちりとお辞儀をするエルザに少し戸惑いつつ食堂へと案内するバクス。
食堂には夕食にするにはちょっと時間が早い事もあり探索者連中はまだ居ない。

「ん、そうだアイネさんちょっといいか?」

「なに?」

食堂に人が居ないのを確認し、アイネを手招きするバクス。そしてエルザに聞こえないよう小さな声でアイネに要件を伝える。

「探索者共に変な事すんなと言っておいてくれるか……? 夕食の準備は俺らで進めておくから」

「わかった。いいよ」

あっさりと了承し探索者達が泊まる部屋へと向かうアイネを見て少し安心した様子を見せるバクス。
バクスが知る限り八木が女性と二人でまともに食事なぞするのは初めての事だ、出来るだけ無事終わるようにしたかったのだろう。

「それじゃ、席に着いててくれ。少し早いが準備しちまうよ」

少し緊張した様子を見せる八木に見送られ厨房へと戻った3人。
誰となく顔を見合わせ、ひそひそと話を始める。

「ねえねえ、あれが例の八木ちゃんの?」

こっそり厨房についてきた咲耶が目を輝かせて話始める。
こういった話が割と好きらしい。

「うん、エルザさんだね。ギルド受付嬢のはず……」

「あらあらまあまあ……すごくしっかりしてそうだし良いんじゃない?」

ちらちらと食堂の方へと視線を向ける咲耶。
とても楽しそうである。

「まあ今までがあれだったからな……うまく行くと良いが」

「皮剥ぎ事件は衝撃だったね。……メニューどうしよ? 何か特別なのだす? と言っても出せるの限られてるけど」

とりあえず二人の関係は置いておいて、メニューについて話を振る加賀。
宿に来るとは思っていなかったので特別なメニューの用意などしていなかったのだ。

「……普段通りで良いと思う。普段のメニューでも食べた事ない人にとっては特別なメニューだよ……一応デザートだけちょっと種類増やしておく」

「そだね……じゃ、それでいこっか?」

とりあえずは普段のメニューでとのアイネに意見に特に反対する者もおらず、3人はいつも通り食事の準備を始めるのであった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...