異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
176 / 332

174話 「夜食」

しおりを挟む
時刻は真夜中、討伐隊の面々は各々に割り当てられた狼の発見の知らせが来るまで休息の最中である。
討伐隊の内何名かは外に出て狼の群れがやって来るのを監視している、今は真冬であり担当する者の負担が大きいため交代制で行っているようだ。

「さっみぃー! おう、時間だ。交代たのまあ」

「あ? もうそんな時間かよ……」

体中に雪をつけ養鶏場の中へと戻ってきた見張り役の男が手近に待機していた者へ声をかける。
渋々立ち上がり、外套を羽織って外に出ていくのを見送り、雪を払い見張り役は暖かな部屋の奥へと進んでいく。

「おかえりなさい」

部屋の奥では暖炉に薪を火にくべ鍋の様子を見るアイネの姿があった。
見張り役の男たちが戻ってきたのを見て鍋の蓋を開けるアイネ、途端に部屋の中に漂うスープの匂いが男のすきっ腹を刺激する。

「さっそくだけど一杯貰えるかな」

「どちらが良い?」

どちらと言われ視線を鍋に向ける男たち、よくよく見ると手前の鍋の後ろにもう一つ鍋が置かれている。

「え、中身違うの? うお、まじだ」

鍋の中身は鶏肉と根菜類たっぷりのクリームシチューとバクス特製のソーセージを入れたポトフであった。
さらにはスープと一緒に食べるようとして切ったパンも用意されている。こちらは乾き気味であるが暖炉の火を使ってトーストすれば美味しく頂けるだろう。

「俺はこっちの白いやつ……まあ、あとでもう片方も食うんだけどな」

「違いねえ。俺はこっちの腸詰入ったので」

こくりと頷き器にスープを装い、パンを網に乗せるアイネ。

「どうぞ」

割と火力が高いのかすぐに焼けるパン。スープと共に出されたそれを受け取ると見張り役の男たちは各自適当なところに腰掛け食事を開始する。

「あー……温まる。むっちゃうまいし本当この仕事受けて当たりだったぜ……女の子可愛いし」

「鼻水垂れてきた……あぁ~……うめえ。……ま、確かに受けて良かったよ。戦闘もラヴィさん先陣切ってくる見たいだし、実入りも悪くないし飯うまいし……兎かわいいし」

「お前……そっちかよ」

スープとパンをがっつき口々に美味いと感想をもらす男たち。
小声で誰それが可愛いと話しているが聞こえてないつもりでもとうの本人には丸聞こえだったりする。
もっともうーちゃんはもとよりアイネもその様な事は気にはしないが。

「俺ニも、モラエルか」

蓋を開けた事で漂った匂いに誘われたのかラヴィが尻尾をゆらしながら鍋へと近づく。
器へスープをよそうアイネを見て、ついであたりをきょろきょろと見渡す。

「他ノ者は?」

「そこ」

作業をしているアイネ以外の2人はどこか探すラヴィにすっとそばにあったソファーを指さすアイネ。
ソファーに寝ているのかと除きこんだラヴィであるが覗き込んだ瞬間びくりと身をすくませる。
確かにソファーには加賀とうーちゃんの2人が寝ていたが、問題はその恰好である。
仰向けに寝るうーちゃんのお腹から加賀の下半身が生えているのだ。

「びびったー! むっちゃびびった!」

もちろん実際に生えているわけではなく、単にふかふかした毛皮に加賀の上半身が埋もれているだけだ。
予想外の光景に驚いたラヴィ、自然と声が大きくなりその音で加賀が目を覚ましたのか身じろぎをする。

「ふぁ……ねむ。 ……ラヴィ? もう朝……じゃないね、夜食取りに来たのかな」

もぞもぞと身を起こしアイネのほうへと向かう加賀。交代するよーとアイネに告げ鍋のそばに立つ。

「討伐のほうはどんな感じー?」

「ん……今のところ養鶏場に近づいてくる気配はないなあ。たぶん俺らがいること気づいてるんだろうさ」

ラヴィ曰く狼は鼻が利くらしく、養鶏場に大量に人が集まっているのはおそらく気付いているそうだ。

「ありゃ……それじゃどうするの?」

それじゃ討伐完了することが出来ないのでは、と思いラヴィに尋ねる加賀。
シチューに浸したパンを手に心配ないと答えるラヴィ。ひょいとパンを口に放り込むと数回咀嚼しただけで飲み込んでしまう。

「今時期は食いもん少ないからあいつらも飢えてんのよ。こんだけうまそうな料理の匂い漂わせておけばそのうち我慢出来なくなってくるさ」

「なるほど。鼻がいいとその辺まで嗅いじゃうもんねえ……っと、お代わりかな」

用意した食事をぺろりと平らげたラヴィ。だが巨体な彼にとってはまだまだ食い足りない、加賀からお代わりを受け取るとすぐ様食べ始める。

「……ボクらの夜食もつくっちゃおっか」

うっ(ごはんっ)

すさまじい勢いで夜食を食べ進めるラヴィを見ていると加賀達もお腹が空いてきた様だ。
ごはんと聞いて光速で向かってきたうーちゃんを手で押さえ食事の用意を始める加賀。

「加賀ちゃんそれなーに?」

加賀が作り出したものにラヴィの視線が釘付けとなる、正確にはパンの上にのった目玉焼きらしきものにだが。

「ちょっと豪華な目玉焼きトースト」

ラヴィの言葉に答える加賀。
ただのトーストでは少し寂しいのでパンの縁を卵フィリングで囲み刻んだベーコンと生卵を乗せ焼いたちょっと豪華なトーストに仕上げたのである。

「もちろんラヴィのもあるよー」

「ありがてえ、ありがてえ」

焼きあがったトーストを4人そろってぱくついていると、先ほど入れ替わりで見張りに行ったものが養鶏場へと戻ってくる。
加賀達のトーストを羨ましそうに見ながらも彼が伝えたのは狼の群れの襲来であった。
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...