異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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178話 「カロリーしゅごい」

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深々と雪が降り積もるある日の夜中、そろそろ寝る時間だというのに加賀の部屋をたずねる者がいた。

「なあ加賀、ちょっといいかなあ」

「……なに?」

たずねて来たのは八木であった。
別に八木が夜中に加賀の部屋に来るのはそう珍しい事でもない、借りていたPCを返しに、明日の予定を話すため等々様々な理由でちょくちょく部屋に来ていたのだ。
だが今日の八木は何時もと様子が違った。顔には愛想笑いを浮かべ、猫なで声で話しかける八木。
それに対する加賀の反応はと言うと警戒したまなざしを八木に向け、今にもうーちゃんをけしかけそうな雰囲気であった。

「これ、食べたいなーなんて……」

「…………」

食べたいものがあるなら普通に言えばいいのに、口には出さないが加賀の顔に浮かぶ表情がその事をありありと語っていた。

「……どれ?」

「これこれ」

八木がPCに映る画像を指で指し示す。
そこに映っていたのは今の時期おいしいグラタンであった。だが普通のグラタンではない。

「パングラタン……」

それはパン一斤を器代わりに使用した巨大なグラタンであった。
八木は加賀が画面を見たのを確認し嬉しそうに語り出す。
一目見たときから食べて見たかった。一斤ぐらいなら余裕で食える。グラタン好きな人も多いし、きっと皆喜ぶはずだ等々。

「別にいいけど」

「えっいいの!?」

よほど意外だったのかあっさりと承諾した加賀を目を瞬かせ見つめる八木。

「やーまじか、絶対断られると思ってたぜ」

「八木はボクをなんだと思ってるのさ……よっぽどじゃなければ別に却下したりしないよ」

幼なじみの心外な言動に頬を膨らませつつ答える加賀。
確かに八木が変なことをしたりすればピーマンのピーマン詰めを食べさせたりはしたが、変なことをしなければ何もしないし。意地悪で断ったりはしないのである。悪戯はするが。

「そんじゃまーお願いするよ。あ、半斤じゃなくて一斤でお願いね?」

「へいへい」

部屋を出ていく八木に手を振り布団にもぐり混む加賀。
八木も部屋に戻り寝るのだろう、なんだかんだで二人共朝は早いのである。


「そんなわけでグラタンつくるよー」

うー(ぱんいっぱい)

「……パンいっぱいね」

翌日、おやつを食べ終えた加賀はうーちゃんとアイネを連れ厨房へと来ていた。
グラタンを作ると聞いて厨房にきた二人だがそこにあったのは大量のパン。
うーちゃんは大量のパンをみてはしゃいでいる様だがアイネは恐ろしいほどに大量にあるパンを見て首を傾げている。

「今日はこれ使ってグラタンつくるよー」

「……?  パンを具材にするの?」

「うにゃ、器にするの」

パンを使うと聞いて不思議そうな顔をするアイネに見せるようにパンを一斤手に取り包丁を入れて行く加賀。やがて中身をくりぬき側だけ残ったパンが出来上がった頃にはアイネも何をするか理解したようで目を輝かせている。

「それを器代わりにするのね……うんおいしそう」

「おいしいと思うよー器も食べれるしね。 んでくりぬいた中身はー……あ、あれ?」

サンドイッチにすると言おうとしてまな板を見る加賀であるが、先ほどくりぬいたパンの中身が無くなっていた。

「……」

うー(ふかふか)

視線を横に向ければそこには頬を膨らませたうーちゃんの姿があった。
中身の部分だけのパンはふかふかしていて美味しかったのだろう、うれしそうに手に持ったパンを頬張っている。

「しょーがないなあ……残りはサンドイッチになるからもう食べちゃだめよ?」

うー(おー)

とりあえずうーちゃんが食べたパンはなかった事として、くり抜いたパンにグラタンを詰め込んでいく加賀。さすがにパン一斤とあってかなりの量が中に入っていく。

「すごいボリュームだね」

「パン一斤だからねー……これボクじゃ絶対食べきれないけど……まあ皆ならだいじょぶよね」

ずっしりとした重みのあるパンを見て食べきれるのかと不安を覚える加賀であるが、よくよく考えなくても宿の客は皆大食らいであり常人の数倍は軽く食べる彼らであればこのぐらいのボリュームはむしろ丁度良いと言えるだろう。そう思い残りのパンもくり抜き始める。


「うん……やっぱみんなあっさり食い切ったね。けどお代わりするとはさすがに思わなかった」

「グラタンおいしいもの」

そして夕飯時、パングラタンはその見た目のインパクトもあってかなりの高評価を宿の皆から得ていた。
中には八木をはじめ何名かお代わりする者が出たほどである。

「これ1個で1日分のカロリーまかなえちゃうと思うんだけど、あんなに食べて太らないのかな」

「……これ、そんなに栄養あるの?」

1日分のカロリーと聞いてしげしげとパングラタンを眺めるアイネ。
ちなみにいま食べているのは2個目だったりする。

「うん……だから太ると……まあ、アイネさんはデーモン召喚すればだいじょぶだろうけど」

栄養を取りまくっても体の一部にしかいかない上、デーモン召喚すればいつでも消費出来るアイネは別として普通であればこれだけカロリーを取れば太ってもおかしくはない。だが、宿の探索者達に太り始めた者は居ない様に加賀には思えた。

「……じっくり見た訳じゃないから分からないけどね」

とは言え体が資本の彼らである、もし太ってダンジョン攻略に支障が出たりするとなればそれはまずい事である。次はちょっとだけ注意して見てみようと思う加賀であった。

「でもってデーモンさん、器用な事してるね……」

「なれると……いけるもの……ですよ」

加賀の視線の先ではアイネが取りすぎた栄養を消費するべく召喚陣から浮き沈みさせられているデーモンが器用にもタイミングよくグラタンをぱくつく姿があった。
いい加減彼?も慣れてきた様である。
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