異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
190 / 332

188話 「お雑煮たべたい」

しおりを挟む
容器に入れられたお餅は小さく千切られ丸められて行く。
小皿に並べたお餅の上に餡子がぺたっと乗り、とりあえず味見用の餡団子?が完成したのであった。

「んじゃいただきますっと」

「おーつきたては良く伸びるなあ……うんっうまい」

箸……はないのでフォークで突き刺した餅を持ち上げると途中で途切れることなく良く伸びる。
餡子の乗った餅を頬張り付きたての触感を楽しむ八木。

「ん、面白い食感……だからもちなのね」

「どーなんだろね。名前の由来とかはちょっとわからないや」

アイネは初め餅の食感に戸惑ってはいたようだがすぐに慣れもくもくと食べ進める様になる。

うー(のびー)

「うーちゃん食べ物で遊んじゃいけません」

そしてうーちゃんはと言うと餅が伸びる様が楽しいのか、餅を咥えると端っこをフォークで抑え思いっきり引っ張って遊んでいるようだ。
そして加賀が注意したその瞬間、伸び切った餅はぷつりと千切れうーちゃんの頭をぐるりと一回りすると鼻面にぺちんとへばりつく。

「ぶふぉっ」

「う、うーちゃん……っ」

その光景をみた八木の口から餅が飛び出した。
加賀はすんでのところで堪えたようだが今にも笑い出しそうである。

うー(うらぎられた)

「何言ってるの……あー、こりゃだまになっちゃいそうだね」

うーちゃんについた餅をとってあげる加賀であるが、どうも毛に絡みついて全てをとるのは無理そうであった。
ある程度とった所で諦め手を止めると食べ終わったらお風呂に行こうと言い、とりあえず変わりの餡団子をうーちゃんに差し出す。

うー(うまし)

「そりゃよかった」

顔に張り付いた餅のせいで餅が苦手になるかと思われたが一度食べてみればすぐにお気に入りなったようだ。
うーちゃんの頭をなでる加賀の顔に少しほっとした表情が浮かぶ。

「そういや」

「うん?」

餅を一気に平らげた八木がぽつりとつぶやく。
お茶を一口飲み一息つくと加賀へ話しかける。

「残った餅はどうすんの?」

「あー」

残った餅と聞いて視線を作った餅へと向ける加賀。

「大福にするつもりだったけど……」

ただ、そう呟いて頬をかく加賀。
作った餅は数キロ分に及ぶ、これをすべて大福にすればとんでもない数が出来るのは明らかである。

「全部大福にするのはいくらなんでも多いかなー……何かリクエストある? なければ切り餅にしちゃおうかなと思うけど」

「んー……雑煮食べたい」

「醤油ない……八木のとこも醤油だよね?」

雑煮はもちろん加賀も食べたいなーとは思っていたが、あいにくと醤油などはまだ手に入っていない。ギルドに調べて貰ってはいるがあるのかもまだはっきりしてない状態である。
そして八木も加賀も雑煮の汁は醤油ベースらしい、醤油がないと聞いた瞬間八木の眉がへにゃりと八の字にゆがむ。

「そっかー……なら醤油手に入るまで待つよ」

「ごめんねー、ほかに何かあるかな?」

暫く頭を捻って考えていた八木であるが出てきたのは揚げ餅食べたいという一言であった。

「揚げ餅……いいかもね、あれなら餅独特の食感もまぎれるし、胡椒きかせてお酒のおつまみでもいいし。うんとりあえず大福作って余った分は切り餅。でもって夜に揚げたのつまみ替わり出しちゃおう」

「だな、それでいいんでね」

うん、それがいいと納得した様子の加賀。
八木も雑煮は残念であるがもち米はまだあるし、ほかのレシピも色々ある。それに餅もとりあえずは食べれたので少し待つぐらいなら問題ない、そう考えたようだ……が。


「とはいえ……」

大福に変わっていく餅を少し悲しげな視線で見つめる八木。
時間が経つにつれだんだん故郷の味が恋しくなってきたのだ。

「あまり考えないようにはしてたけど、やっぱ欲しくなるよなあ……」

普段から加賀が作った飯を食べている分、故郷の味への執着はさほどでもなかった八木であるが、1年2年と経つと次第にその思いも強まってきたらしい。

「まーねえ……たぶん、作ろうとした人は間違いなくいると思うんだ」

加賀の言葉に同意するように頷く八木。
過去に来た神の落とし子が残したであろう食物がいくつかあるのは八木も確認済みだ。
その地方限定でほかの国に広まると言ったことはほぼ無いようだが。醤油や味噌もおそらく作ろうとした人はいるだろう。

「ただ……作れたか分んないんだよねー。とりあえず調べて見るからもうちょっと待っててよー」

「おうよ、期待してまってる」

「んっ……よし、これで全部完成っと、切り餅は夕飯前に切ればいいかな」

二人が話してる間にも大福づくりはちゃくちゃくと進んでいたようで、お皿いっぱいに大福が並んでいる。
切り餅は固まってから切るのでこのまま冷蔵庫行きのようだ。

「んじゃ、ちょっとうーちゃんお風呂いれてくるね。ほい」

「いっふぇらー」

八木の口に大福を押し込んで席を立つ加賀。そのままうーちゃんの手を引きお風呂へと向かったようだ。
夜は揚げ餅をつまみとして出す、食感を受け入れてもらえるかどうかが不安な所ではあるが、おそらく揚げ餅であれば大丈夫だろう。



「思ってた以上に取れないんですけどー……刈る?」

うー!(やだぁー!)
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...