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219話 「醤油の焦げた匂い」
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夕方になりダンジョン帰りの冒険者達が宿への帰路を進んでいく。
宿まであと数分といったところまで来た所でガイが不意に足を止めすんすんと鼻をならし始める。
「何か嗅いだ事の無い食べ物の匂いがするっす」
「そうか?」
匂いがすると言うガイに対し、他の者も匂いを嗅ぐ仕草をするが特に変わった匂いはせず首をかしげてしまう。
ガイは獣人特有の優れた嗅覚により匂いを察知できたが他の者はそうはいかないのだ。
「たぶんこれ宿からじゃないっすかねー」
「と言う事は新しいメニューでも作っているのかの」
「どんな匂いなんです?」
匂いの漂ってくる方向から宿ではないかとあたりを付けたガイ。
このあたりで嗅いだことの無い食べ物の匂いを出す所といえば彼らが泊っている宿ぐらいなものだろう。
嗅いだ事の無い匂い、つまり新メニューと言う事で皆の興味が匂いに向かう。
「んんー……香ばしい感じっすねえ、鶏肉なのは確かなんすけど、それに知らない匂いが加わってる感じっす」
鶏肉と言う事はデザートではない、香ばしいと言う事で焼いたものだろうと理解した男達の顔に笑みが浮かぶ。
女性陣は先に帰っていた為宿で新メニューの事を知ることになるだろう、デザートではなく多少がっかりはするかも知れないが、新メニューが増える事は彼女らにとっては嬉しい事ではあるのできっと喜んでいるに違いない。
「へぇ、まあ楽しみにしとくべかね」
宿に帰る楽しみがまた一つ増え先ほどまでよりも大分軽い足取りで宿への帰路を急ぐのであった。
そして彼らが宿へと戻ると何やら食堂から騒がしい声が聞こえてきた。
「シェイラさんだめですー」
「加賀っちのいけずー! ちょっとだけ、ちょっとだけからー」
何事かと食堂へと入った彼らの視線に厨房へと繋がる扉の前で何やら押し合いしている加賀とシェイラの姿が飛び込んできた。
「何しとんのだお前さんは」
その光景を見た彼らは大きくため息を吐き呆れた視線を二人へと向ける。
「クソ兎に蹴られても知らねーぐっほぉっ!?」
クソ兎といった瞬間うーちゃんの蹴りがヒューゴの腹へとめりこむ。
何で俺がと息も絶え絶えに口にするヒューゴをスルーし加賀とシェイラの押し合いは続く。
「だってー、なんかもうすごい良い匂いするんだもん。気になってしょうがないんだもん」
「ふむ……確かにどこか食欲を誘う匂いではありますが……」
「もうすぐ出来るから席で待っててー……ぐぅ、全然動かない」
厨房を覗き込もうとするシェイラを腕を突っ張って抑える加賀。その光景は猫が飼い主の顔面を押し退けるあれに見えなくもない。
その様子を見かねたアルヴィンがシェイラの襟をぐいと引っ張り加賀から引きはがす。
「もう出来るそうですし戻りますよ、シェイラ」
「ぶー」
ぶーたれながらも渋々引き下がるシェイラ。
加賀はアルヴィンに軽く会釈をしすぐに厨房へと戻り料理の完成を急ぐ。
別に普段であれば料理を見せるだけなら別に構うものではない、だが今回は初めて使う醤油がある。あの真っ黒い液体を見せると先入観から実際料理に手を付けてもらえない可能性もある、なので加賀は出来るだけ見せないようにしていたのだ。
「お待たせです」
そして新作メニューは先ほどのやり取りから10分と立たずに探索者達の前へと運ばれてたい。
もう鶏肉は焼きあがっており、あとはパンに他の具材と一緒に挟むだけであったのだ。
「おー、見た目は普通のサンドイッチだな。ソースが何か違うかな?」
「ボク達が良く使ってた調味料手に入ったんで早速使ってみたんですよー、じゃごゆっくりー」
ぱっと見は焼いた鶏肉を挟んだサンドイッチであるが、使われているソースが違う事にはすぐに気が付いた様である。
加賀はソースに対して新しい調味料を使っている事を告げてそそくさと厨房へと引っ込んでいく。
見せてーと言われるのを回避する為だ。
「あーこれこれ、この匂いが気になってもうね……むぐっ!?」
どうも醤油の焦げた匂いはシェイラにとってかなり良い匂いであった様である。
にこにこと笑顔を浮かべたままサンドイッチに被りつき、そのまま固まる。
「……お、おい? どうした」
「え、そんなすごい味なんですかこれ?」
突然変な声を出して固まったシェイラと手元にあるサンドイッチを不安げな表情で交互に見る周りの者達。
当のシェイラはサンドイッチを持って固まったまま……ではなく、良く見ると口だけ動いているのが分かる。
「うっま!! 甘辛でこれすっごい好き!」
そしてごくりと飲み込んだ瞬間満面の笑みを浮かべ美味しいと叫ぶのであった。
匂いだけではなく味もシェイラの好みとするものであったらしい。
「オーバーなやっちゃ……甘辛か、どれどれ」
「ああ、これはいけますね」
「いけるの。わしゃもうちょい甘さ控えめがええが……うむ。うまい」
ほかの探索者達もそのオーバーなリアクションに呆れながらもサンドイッチを口にする。
シェイラの反応から決して不味いものでは無いと分かったので特に躊躇う様子はなく食べ、感想を述べて行く。
味付けの好みはあれど今のところ概ね好評ではある。
「ねーねー加賀っち。このソース?って日持ちとかするのかなあ、するなら遠出する時用にちょっち欲しいんだけど」
「ん……そのソースの元は日持ちするんだけど、そのソース自体はどうかなー。ただその前にまだ量がなくてちょっと分けれないかな……ごめんねぇ」
よほど気に入ったのかダンジョンに潜る際にも持っていきたいと言うシェイラであるが、加賀は在庫が少ないのを理由に断ってしまう。
「そっかー、在庫に余裕出来たらお願いねっ」
(……完全に慣れるまでは現物見せないでおこ)
在庫が無いのは事実であるがそれよりもあの見た目を知られるのが怖かったのだ。
シェイラのお願いに笑顔でつつも皆が完全に醤油の虜になるまで見せないでおこうと密かに思う加賀であった。
宿まであと数分といったところまで来た所でガイが不意に足を止めすんすんと鼻をならし始める。
「何か嗅いだ事の無い食べ物の匂いがするっす」
「そうか?」
匂いがすると言うガイに対し、他の者も匂いを嗅ぐ仕草をするが特に変わった匂いはせず首をかしげてしまう。
ガイは獣人特有の優れた嗅覚により匂いを察知できたが他の者はそうはいかないのだ。
「たぶんこれ宿からじゃないっすかねー」
「と言う事は新しいメニューでも作っているのかの」
「どんな匂いなんです?」
匂いの漂ってくる方向から宿ではないかとあたりを付けたガイ。
このあたりで嗅いだことの無い食べ物の匂いを出す所といえば彼らが泊っている宿ぐらいなものだろう。
嗅いだ事の無い匂い、つまり新メニューと言う事で皆の興味が匂いに向かう。
「んんー……香ばしい感じっすねえ、鶏肉なのは確かなんすけど、それに知らない匂いが加わってる感じっす」
鶏肉と言う事はデザートではない、香ばしいと言う事で焼いたものだろうと理解した男達の顔に笑みが浮かぶ。
女性陣は先に帰っていた為宿で新メニューの事を知ることになるだろう、デザートではなく多少がっかりはするかも知れないが、新メニューが増える事は彼女らにとっては嬉しい事ではあるのできっと喜んでいるに違いない。
「へぇ、まあ楽しみにしとくべかね」
宿に帰る楽しみがまた一つ増え先ほどまでよりも大分軽い足取りで宿への帰路を急ぐのであった。
そして彼らが宿へと戻ると何やら食堂から騒がしい声が聞こえてきた。
「シェイラさんだめですー」
「加賀っちのいけずー! ちょっとだけ、ちょっとだけからー」
何事かと食堂へと入った彼らの視線に厨房へと繋がる扉の前で何やら押し合いしている加賀とシェイラの姿が飛び込んできた。
「何しとんのだお前さんは」
その光景を見た彼らは大きくため息を吐き呆れた視線を二人へと向ける。
「クソ兎に蹴られても知らねーぐっほぉっ!?」
クソ兎といった瞬間うーちゃんの蹴りがヒューゴの腹へとめりこむ。
何で俺がと息も絶え絶えに口にするヒューゴをスルーし加賀とシェイラの押し合いは続く。
「だってー、なんかもうすごい良い匂いするんだもん。気になってしょうがないんだもん」
「ふむ……確かにどこか食欲を誘う匂いではありますが……」
「もうすぐ出来るから席で待っててー……ぐぅ、全然動かない」
厨房を覗き込もうとするシェイラを腕を突っ張って抑える加賀。その光景は猫が飼い主の顔面を押し退けるあれに見えなくもない。
その様子を見かねたアルヴィンがシェイラの襟をぐいと引っ張り加賀から引きはがす。
「もう出来るそうですし戻りますよ、シェイラ」
「ぶー」
ぶーたれながらも渋々引き下がるシェイラ。
加賀はアルヴィンに軽く会釈をしすぐに厨房へと戻り料理の完成を急ぐ。
別に普段であれば料理を見せるだけなら別に構うものではない、だが今回は初めて使う醤油がある。あの真っ黒い液体を見せると先入観から実際料理に手を付けてもらえない可能性もある、なので加賀は出来るだけ見せないようにしていたのだ。
「お待たせです」
そして新作メニューは先ほどのやり取りから10分と立たずに探索者達の前へと運ばれてたい。
もう鶏肉は焼きあがっており、あとはパンに他の具材と一緒に挟むだけであったのだ。
「おー、見た目は普通のサンドイッチだな。ソースが何か違うかな?」
「ボク達が良く使ってた調味料手に入ったんで早速使ってみたんですよー、じゃごゆっくりー」
ぱっと見は焼いた鶏肉を挟んだサンドイッチであるが、使われているソースが違う事にはすぐに気が付いた様である。
加賀はソースに対して新しい調味料を使っている事を告げてそそくさと厨房へと引っ込んでいく。
見せてーと言われるのを回避する為だ。
「あーこれこれ、この匂いが気になってもうね……むぐっ!?」
どうも醤油の焦げた匂いはシェイラにとってかなり良い匂いであった様である。
にこにこと笑顔を浮かべたままサンドイッチに被りつき、そのまま固まる。
「……お、おい? どうした」
「え、そんなすごい味なんですかこれ?」
突然変な声を出して固まったシェイラと手元にあるサンドイッチを不安げな表情で交互に見る周りの者達。
当のシェイラはサンドイッチを持って固まったまま……ではなく、良く見ると口だけ動いているのが分かる。
「うっま!! 甘辛でこれすっごい好き!」
そしてごくりと飲み込んだ瞬間満面の笑みを浮かべ美味しいと叫ぶのであった。
匂いだけではなく味もシェイラの好みとするものであったらしい。
「オーバーなやっちゃ……甘辛か、どれどれ」
「ああ、これはいけますね」
「いけるの。わしゃもうちょい甘さ控えめがええが……うむ。うまい」
ほかの探索者達もそのオーバーなリアクションに呆れながらもサンドイッチを口にする。
シェイラの反応から決して不味いものでは無いと分かったので特に躊躇う様子はなく食べ、感想を述べて行く。
味付けの好みはあれど今のところ概ね好評ではある。
「ねーねー加賀っち。このソース?って日持ちとかするのかなあ、するなら遠出する時用にちょっち欲しいんだけど」
「ん……そのソースの元は日持ちするんだけど、そのソース自体はどうかなー。ただその前にまだ量がなくてちょっと分けれないかな……ごめんねぇ」
よほど気に入ったのかダンジョンに潜る際にも持っていきたいと言うシェイラであるが、加賀は在庫が少ないのを理由に断ってしまう。
「そっかー、在庫に余裕出来たらお願いねっ」
(……完全に慣れるまでは現物見せないでおこ)
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