異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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224話 「ちゃっかりチョコゲットするやつ」

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3人が向かった先の建物の一室。そこで今回の依頼について話を進める事となる。部屋の中には既に業者側の人間が待機しており、加賀とアイネが部屋へと向かうと二人を歓迎するように待ち構えていた。

「アイネ殿、それに加賀殿。よくぞおいで下さった……ところでそちらの大きな兎殿は……」

業者を代表する様に真ん中にいた少しお腹の出た中年の男性が二人の姿を確認すると一歩前へ出て会釈をする。
そして二人の後ろにでんと存在感を放つ巨大な兎をみて、にこやかな表情を一切崩さずに何者なのかを二人へと尋ねる。

「宿の兎でうーちゃんといいます。チョコ使ったお菓子があるって聞いて付いてきちゃいまして……」

「なるほどそうでしたか。なに、我々は食が細いですからな丁度良いと思いますぞ」

申し訳なさそうに説明する加賀に対し、終始にこやかに対応する男性。
彼としては自分たちは二人に対してお願いする立場である、無関係のものならともかく宿の関係者とあれば無下に扱うことは絶対にしないだろう。
それに何となく視線がうーちゃんのお腹に向いているあたりちょっとした親近感でも覚えているのかもしれない。にこやかな表情と同じくその視線も優しいものだ。

「では、こちらに。言われた調理器具は揃えてありますぞ」

そういって部屋の奥へと3人を案内する男性。
向かった先にはがっしりしたテーブルの上にいくつもの調理器具などが並べられていた。
部屋の片隅に設置された箱はおそらく小型の冷蔵庫だろう、中身は本日使用する食材が入っているに違いない。

「おー、本当だいっぱいある。こっちは蒸し器で……これ小型のオーブンかな? ちっさくて可愛いねー」

「どうですかな? 足りないものがあれば言ってくだされ、すぐ用意しますぞ」

大量に並んだ調理器具を見てウキウキしながら手に取り眺めていく加賀。
特に小型のオーブンが気になったのかしきりにぺたぺたと触っている。
その様子を見ていた男性の鼻の穴がぷくっと膨らむ。割と気合いれて用意してたところを誉められちょっとうれしくなったのだ。

「ん、問題は無さそう……それじゃ早速だけど始めるね」

だが、アイネはそれらを見ても通常運転である。二人のやり取りを軽く流すと冷蔵庫に入れてあったココアを取り出しテーブルへと持ってくる。

「まずココア?」

「うん。牛乳温めておいて貰える? 私はお湯沸かして溶いておくね」

「あいあい」

分担するほどの作業量でもないが、加賀が手を加えないとうーちゃんは食えない。
とりあえず二人は簡単なものでも作業を分担し進めていくのであった。


「これはたぶん一番簡単なやつ」

テーブルに並べられたココア入りのコップを指さしそう説明するアイネ。

「はい、確かにそうですな……」

「……美味しいわね、くどくない」

「前に似たような飲んだ事はあるけど大分違うのね」

ココアは単純だが美味しいものである。
特に油脂を分離する前のココアを飲んだ事がある者にとってはより美味しく感じる事だろう。
少しお腹の出た中年の男性以外の二人は分離する前のココアを飲んだ事があるのだろう。以前飲んだ際の味を思い出し、表情が若干曇っていたが一口飲めばすぐに明るい表情へと変わる。

「簡単だけど美味しいよね。冷たくしても美味しいから冬以外でもいけると思いますよ」

うっ(つめたいのがすきー)

毛皮で覆われている分うーちゃんは寒さに強いのかもしれない。
それもあってか温かいココアよりも冷たいココアの方が好みの様である。

「確かに確かに。実は我々もこれが一番手軽で良いとは考えておったのですがな……これだけだと少し物足りないかなとも思いまして」

どうやってコップを持っているのか分からないうーちゃんの手元をガン見しつつそう話す中年の男性。
彼は事前にココアを作って飲んでいたのだろう、ただそれ一品では足らずココア以外の使い方も知りたくなったのだ。

「次はチョコ。カカオマスとカカオバターは確保出来てるよね?」

「ええ、有難い事に南の方で生産に成功したようで、手に入れるのは問題ありませんな……そちらの中に入ってます」

次いでアイネが作るのはお馴染みの固形のチョコレートである。
シグトリアでカカオの油脂を分離する事に成功しており、材料はアイネが居なくても用意出来るようにはなっている。
実際冷蔵庫に入っていた物を手に取ったアイネがそれを見て少し満足そうに頷いた事から、アイネが作ったものと遜色ない物なのだろう。

「そう、ならいいの。……チョコを作る際は温度管理をきっちりやる必要がある。これから説明しながら作っていくから一度見て。その後もう一度作るから、その前に疑問点があれば聞いて……じゃ、作るよ」

ココアを作るのはそう難しくはないが、チョコとなるとそうでもないらしい。
アイネは温度の管理方法やチョコの混ぜ方など割と細かく説明しながら作業を進めていく。

「……チョコは果物やお酒とも合う。さっきのパウンドケーキにはイチジクのワイン漬け、こっちにはドライフルーツのラム酒漬けが入ってる、今から作るのは変わり種だけどこれも美味しい」

チョコの説明が終われば次はそのチョコを使った別のお菓子の説明に入る。
アイネがよく作るパウンドケーキや、変わり種としてチョコフォンデュ等も作るようだ。

「これもチョコだけど、少しこって作ってる。中心部分のチョコには香りづけでお酒も入れてあるよ」

固形のチョコも中身を少し凝った物も作っていたりする。
それらを美味しそうに皆が味見する中、一人ぼーっと口を開けその光景を眺める加賀の姿があった。

「……どうしたの?」

「うぇっ?」

それに気が付いたアイネが加賀へと声をかける。
突然話しかけられた事に驚く加賀であったが、自分がぼーっと眺めていたことに気が付くとパタパタと手を振り口を開く。

「やー、美味しそうだなーと思って」

うー(うまうま)

ぼーっと眺めていたのは単に美味しそうだったから。
加賀はお酒がダメな為それらのチョコに手を出せないでいたのだ。

「……えい」

うー(むぎゃー)

そしてそんな加賀の前でチョコを見せびらかす様に食べるうーちゃん。
本人にはそのつもりはなかったのかも知れないが、見せつけられた加賀はうーちゃんの頬を手で挟み込むとぐいぐいと揉みしだく。

「加賀はお酒だめだものね」

「お菓子に使う分には好きなんだけどねー」

そのまま飲むのは苦手だがお菓子に使うにはその香りなど、割と加賀の好みとする所ではあった。
だが今の体になってから少しでもアルコールを摂取すると酔っぱらってしまうのだ。
バクスに飲酒禁止令を言い渡されて以降、加賀はお菓子でもお酒を使っているものは口にして無かったりする。
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