異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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248話 「春の陽気」

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酔っ払いも部屋に戻りだし、人がまばらになった宿の食堂。
そろそろ良い時間であり、眠くなってきたのだろう、八木が顎が外れそうなぐらい大きく口を開け欠伸をしている。

「くぁ……そろそろ寝るかねえ……加賀も部屋戻ってねろよ?」

そう言って立ち上がる八木。
うーちゃんもそろそろ寝ようと思ったのだろう、加賀をお腹にはり付けたまま立ち上がる。

「おいおい引っ付いたまま行く気……加賀?」

それを見て横着しとんなーと笑いそうになった八木であったが、ふとその姿に違和感覚え眉をひそめる。
普通張り付くとしたらうーちゃんのお腹に対し俯せになるはずである。だが加賀は俯せではなく仰向けになっていたのだ。

にゃがー(とれない……)

う゛っ!?(なぬ)

「どゆこと……」

どうも加賀は好きで張り付いていた訳ではなく、単にくっついて取れなくなっていただけの様だ。

「見事に絡まってるね」

うーちゃんにはりついた部分を指で突くアイネ。
そこはうーちゃんと加賀の毛が見事に絡まり合い団子になってしまっていた。

「刈るのは……分かってる、嫌だよね」

刈ると聞いて二人揃って首を振るうーちゃんと加賀。
そこに咲耶が櫛を手にし食堂へと入ってくる。

「はいはい、櫛持ってきたよ……まったく、猫の姿になったかと思えば……」

にゃあ(すまぬ、すまぬ……)

少しずつ櫛を入れうーちゃんとぶんりできたのおよそ30分後。
当分猫の姿にはならない、そう思う加賀であった。


家から外に出ればぽかぽか陽気。街を一歩出れば緑は溢れ花が咲き乱れている。
そんな春のある日の事、設計室に篭もり陰鬱な表情を浮かべ図面と向き合う男共の姿があった。

「あー……天気いいなあ」

「そこ、窓じゃないですよ」

眩しそうに手で傘を作り、そう呟く八木をばっさりと切り捨てるオルソン。

「暖かいし外で過ごしたら最高だろうなあ」

「……」

だが八木はその程度ではへこたれない。
と言うより突っ込みが聞こえてないのかも知れない。

「そう思わんかね? 諸君」

「八木さんってたまにおかしくなるよな……」

「しっ、ばか……疲れてんだよ」

口調がどこかおかしい八木を可哀想な目で見るのはニコルとチャールの二人だ。
ここ暫くとある国からの依頼に掛かり切りになっていた八木であったが、先方からの度重なる仕様変更にそろそろ限界が近付いていた。

「こんな部屋にこもってひたすら図面かくなんて不健康な事はやるべきじゃ無い。そう、今こそ我々は外へ出て――」

「外に出て、なんです?」

「――ご飯でも……食べに……行こうかな、なんて……」

要約すると外で遊びたい、である。
勢いに任せて外に行こうと考えていた八木であるが、背後から投げかけられた言葉に至大に尻すぼみになっていく。

「それは良い考えです。ただまだお昼には少し早すぎるかと……」

「あ、はい。すんません」

「別に謝る必要は……ええと、皆様にお知らせがありまして」

謝る八木を見て首を傾げるエルザであったが、皆に伝えなければいけないことが有るのを思い出し、言葉を続ける。

「今受けて頂いている案件ですが、あまりにも先方からの仕様変更が多いので仕様をきっちりと決めて頂くまで作業を停止すると決まりました」

内容は今まさに八木が思い悩んでいた仕様変更の件であった。
仕様変更する、それはつまり設計をやり直すと同じ様なものである。そうすると余計時間が掛かり、本来出来たはずの他の仕事へ手が回らなくなる。時間が掛かった分の代金を貰えるのであれば心情はどうあれ話は別であるが……実際そうはならないのが現実である。
ギルドとしてもそう何度も仕様変更されるのはたまったもんじゃない、と言うことで今回の決定に至ったらしい。

「なので連絡が来るまで皆様には休みと別の仕事を……八木様?」

「はっ……な、何でも無いっす。つい嬉しさのあまり……」

床に膝をつき天井を見上げ両手を突き上げる八木。
よほど我慢が貯まっていたのだろうか、取りあえず皆のこの後の予定を確認した八木は急ぎ宿へと戻るのであった。
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