異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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291話 「そう言えばそんな時期5」

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屋台へと近付くと二人に気付いたオージアスは笑顔のまま二人へと顔を向け、見知った顔であると分かりおやっといった表情を浮かべた。

「お、加賀ちゃん……とシェイラさんだったかな?いらっしゃい」

「中央で店出してたんだね、これは……ケーキ?パン?」

いらっしゃいと二人を迎えるオージアス。
近所なのとたまに顔を合わす機会があった為、オージアスはシェイラの顔と名前は覚えていたようだ。
加賀は並んでいる商品を見る。
一見するとチョコと何かがぎっしり詰まったパンを輪切りにした様に見えるが、生地の部分は普段見慣れたパンとは違いやや黄色掛かっている.

「中間かな……うちで一番人気の菓子パンなんだよ。チョコはアイネさんの使ってるし、うまいぜ」

一番人気と聞いて二人の表情が変わる。

「それじゃー……」

「5個くっださいなー!」

加賀としては一人1個として2個頼もうとしていたが、シェイラとしてはそれで足りる訳もなく、加賀の言葉を遮って手を開き5個頼んでしまう。

「お、ありがとよー」

注文を受けたオージアスは本人としてはにこやかなつもりの笑顔を浮かべ、袋に菓子パンを詰めていく。

「ほい、こぼさないようにな」

「ありがと、んじゃ早速……」

袋を受け取るなりゴソゴソと菓子パンを取り出し口に運ぶ二人。

「え、これむっちゃ美味しい!」

「中身はチョコとクルミだね、サクサク香ばしくて美味しい……生地も回りパリッと中はしっとりで……」

一番人気と言うだけあって味はかなり良い様だ。

「ほひぇ、やどへ……」

モゴモゴと口を押さえたまま喋るシェイラであるが、加賀はさっぱり理解できて無い。首を傾げる加賀を見てシェイラは口に含んでいた藻のを飲み下すと再び喋り始める。

「ごめん、これ宿でも食べたいなー」

「ちょっと数確保するのが……無理だよね?」

宿で出すパンはオージアスの店から購入したものであるが、それらは他の品と一緒に食べるためシンプルなパンがほとんどであり、今二人が食べている様な菓子パンの類は購入していないのだ。
ただ別に購入してはいけないと言う訳では無い。宿で出すとなると最低でも人数分は確保する必要があり、その余裕がオージアス側にあれば可能ではあるが、

「無理だなあ……これ、すぐ売り切れちまうんだよ」

人気商品と言う事もあり、店で出す分と宿に卸す分の両方を確保するのは難しい様だ。

「確かに美味しいしねー……」

そう言って屋台の周囲へと視線を向ける加賀。
周りの屋台には途切れることなく客が入っていた。

「ああ、言いたい事は分かる。客がさ、来ないんだよな……それでもそこそこ売れちゃいるが、下手すると売れ残りが出るかも知れん……何でなんだかなあ」

「……何でだろうね」

「んー」

何でだろうと肩を落とすオージアス。その顔をちらりと見て視線をそらす加賀とシェイラ。

「じゃー、そこの席で食べよっか? うちら二人が食べてたら宣伝になるよー?」

「む……宣伝か、そうだな……すまんがよろしく頼む。これ、礼と言っちゃなんだが食ってくれ」

肩を落とすオージアスに自分達が宣伝代わりをする事を提案するシェイラ。
加賀はもとよりエルフであるシェイラも人目をひく外見である。そんな二人が美味しそうに食べていれば宣伝にはなるだろう。オージアスはその提案を受け入れ、お礼代わりにと菓子パンの詰まった袋を二人へと渡す。

「んー、やっぱ美味しい」

「うまうま」

取りあえず食べていれば宣伝になると言うことで、袋を受け取った二人は手近なテーブルへと向かい、そこで袋の中身を広げ食べ始める。
すると程なくして二人の食べる様子を見ていた子供が物欲しそうな目をしながら親の裾をぐいぐいと引っ張りだした。

「ママーあれ買ってー!」

二人が食べる菓子パンとぐずりそうな子供を交互に見た母親であるが、軽くため息を吐くとオージアスの店へと向かっていく。

「もう……1個だけよ? すみま……っ」

「……」

「……」

そして屋台からオージアスの強面がこんにちはをする。
身を竦ませ固まる母親の姿を横目で観察する加賀とシェイラの二人。

「あ、ちゃんと買えたね」

「ん、よかった」

一瞬どうなるかと思われたが、母親は無事菓子パンを購入する事が出来たようだ。
母親から菓子パンを受け取った子供は椅子に座ると大喜びで食べ始める。

「そろそろ良いかなあ」

「そだね……オージアスさん、ごちそーさま。そろそろ他見てくるよー」

それから暫くして、オージアスの屋台には周りの屋台と同じぐらい客が来るようになっていた。
リピーターもいるようで、もう自分達が居なくても平気だろうと考えた二人はそっと席を立ち、オージアスへと声を掛ける。

「お、二人ともありがとな!助かったよ」

礼を言うオージアスに応え、二人は次のお店を目指して再び歩き始めた。


「つっぎはー。どこ行こうねー?」

軽快な足取りで道を進むシェイラ。
5個以上菓子パンを食べたのにも関わらずまだまだ食うつもりの様だ。

「甘い物は食べたし……おう? すっごい人集り」

そして先を行くシェイラは前方に人集りがあるのを発見する。
周りに店がこれだけある中、一カ所だけ人が集まっているのだ、一体どんな店だろうかと二人は足早に人集りの方へと向かっていった。

「おんや、また見覚えのある姿があるよー」

「ほへ……あ、バクスさん……母ちゃんも居るんだけど」

人集りの隙間から見えた見覚えのある姿。それはバクスと加賀の母親である咲耶であった。

「なるほどね、売り子さんかー……オージアスさんも売り子雇えば良かったのにね?」

「んむん」

シェイラの言葉にウンウンと頷いて同意する加賀。
加賀は見慣れているが、初対面の人にとってあの強面は中々近寄りがたいものがあるだろう。
もう一人接客を担当する者がいればオージアスの店も最初から繁盛していたはずである。

「それじゃーあの人集りじゃすぐには食べられないだろうし……ん?あれってもしかして……あっち行ってみよか」

最初は人集りの店で食べようかと思っていた二人であったが、そのあまりに多さにすぐ食べるのは無理だと判断する。
バクスの店からやや離れた所にある、同じ様な商品を扱う店へと向かうのであった。
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