異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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304話 「ダンジョンと温泉と8」

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「いいですね? 今回だけですからね??」

宿の従業員にそう言われ、しょんぼりと肩を落とす男一同。
額に青筋浮かべた従業員が出て行くのを見送り、はあと大きなため息が部屋に響く。

「次やったら出禁だってよ」

口をへの字にして、そう口にするヒューゴ。
反省してなさそうである。

「まあ、そうなるよねー」

髪を手櫛で流し、そりゃそうだと言いたげな表情を浮かべる加賀。
魔道具の効果が切れ、もう人の姿に戻っている。
覗こうとした連中に対し憤慨してはいたが見事に流されるのを見て今はすっきりしているようだ。

「あったりまえじゃん!! 覗こうとするとかもう死ねばいいのに」

だが、覗かれそうになった側はそう言うわけにもいかない。
歯を剥いて今にも噛みつきそうな様子のシェイラ。

「別にお前の裸みたくてぶぎゅるっ」

「温泉にはいったのに逆に疲れましたよ……」

つま先が顔面にめり込みのたうち回るヒューゴはスルーされ、一同は疲れた様子で部屋へと戻っていく。
温泉に入ってのんびりするどころか、やったのは大乱闘である。


「そろそろ夕飯の時間かな?」

お腹を押さえながらそう口にするアイネ。
気が付けばあたりはすっかり暗くなっていた。

「ん、そだね」

「お、飯か! 運動したし腹減ってたんだよな」

運動……つまりは大乱闘の事である。
一同がなんとも言えない表情を浮かべていると部屋の扉がノックされる。

「お食事の用意が出来ましたので、皆さん大部屋のほうに……」

「噂をすればなんとやら」

皆お腹が空いていたようで、丁度良いタイミングで来てくれたと一同の顔に笑みが浮かぶ。

「蒸し料理が多い?」

「うん。蒸気吹き出てるとこがあってそれ利用して作ってるんだー」

出てきた料理は素材こそ海のものに山のものとさまざまであったが、調理法に関しては蒸しているものが多かった。
だだっ広いダンジョンの1Fの中には温泉ではなく、蒸気が吹き出ている箇所がありそれを利用しているらしい。
熱湯をあびた後だけあって加賀の説明にも納得できるところがあったのだろう、うんうんと頷きながら食べているものがちらほら居る。

「……なんかアイネさんとうーちゃん、今日はがっつり食いますね」

男共ががっつり食べるのは運動の後だからであるが、なぜかアイネとうーちゃんも今日はがっつり食べていた。
加賀が手を加えるそばから二人の口へと料理が収まっていく。

「温泉で食べられなかったから……」

「あー……なるほどなるほど。追加で注文しましょっか」

「ん」

うー(おおもりでー)

二人は加賀が手を加えなければ料理を食べることが出来な……くはないが、おいしく頂けない。
調味料を温泉に持ち込むんであれば話は別であるが、さすがに温泉に持ち込むのは憚られたのだろう。

「この魚おいしいね」

「美味しいねー、新鮮だし」

程よい火の通り具合で蒸された魚料理に舌鼓を打つ。
火の通り具合はもちろんのこと、素材が新鮮ということもあってかなり満足のいく出来栄えであった。

「えぇ……なんで新鮮なんですか?」

「なんでってそりゃおめー、獲れたてだからだべよ」

糸目をうっすらと開き疑問を口にするチェスターに対し、何言ってんだ?いった様子で答えるヒューゴ。
チェスターはいやいやと軽く手を振ると言葉を続ける。

「そうではなくてですね……ここ山の中ですよ? これ、海の魚だったと思いましたが」

「……あれ?」

「いや、俺は知らんすよ」

言われてみれば確かに海の魚であった。
ここは海から馬車で数日掛かる山の中であり、新鮮な魚が手に入るというのは距離的に可笑しいことである。
皆の視線が八木へと向かうが八木は知らない様子である。

「んー、ダンジョンってもう入れるのかな?」

「いや、一応入れるけど……まさかこれダンジョンで?」

「2Fでとれるよ。明日時間あるなら見に行こうか? 2Fも魔物いないし、罠もないしー」

加賀曰く1Fは温泉で、2Fでは食材が手に入るとのこと。
まさかダンジョンで採れるとは思っていなかったようで、皆目を丸くして驚いている。

「本当に変わったダンジョンだな、多分初めてじゃないか? こういったダンジョンは」

フォークをぶっ刺した魚を繁々と眺め、そう口にするギュネイ。

「聞いたことないのお」

「噴水置いてあったり、小さな温泉ぐらいはあるんですけどね。 ここまで大きいのと……それに食料がとれるんですか? それこそ聞いたことありませんよ」

その言葉に他の探索者達も同意する。
このダンジョンのように複数のフロアが何らかの施設なりになっている、丸々罠もなく、魔物も出ないというのは他には存在しないのだ。

「山の中だし、この手の用意しておかないとお客さんが来ないと思ったんでなーい?」

「ダンジョンが頑張る方向としてそれでいいのか……?」

ダンジョンの目的は人に入ってもらって攻略してもらうことだ。
それから考えればこの仕様は人を集めるには良い方法だろう。だがギュネイは何となく納得いってなさそうである。

「いいんじゃないー? だって下手に辺鄙なところに出来てもいくの大変だしー、野宿しか出来ないうえに食料は現地調達とかなるかもよ?」

「まあ、そりゃそうだ」

もちろん山の中であろうと食糧の調達はできるだろうが、探索者達は一人ではないし、食料集めに時間を食ってしまっては本来の目的であるダンジョン攻略が出来なくなる。
そういった訳で辺鄙な地のダンジョンは不人気だったりする。

「観光地としても成り立つだろうなあ……ちょっと遠いが」

「それな。 温泉は広いし、飯も美味い。でもちょっと来るのが面倒いな」

温泉もあり食糧事情もばっちり、それでダンジョンもある。
ダンジョン産のアイテムを入手できる場として観光地としてもやっていけそうだ。
ただ、やはりと言うかちょっと遠いのがネックになりそうではある。

「うー腹きっつい」

「食べ過ぎだねー」

食事を終え、椅子にだらりと身を投げ出す八木と加賀の二人。
二人そろってお腹をさすり辛そうにしている。

「この後どーする? 他の皆はトランプはじめたけど」

「あー……ちょっと外で涼んでから参加するかな。確かバルコニーあったよな」

元気なことに食事を終えた探索者達は酒を飲むものは大部屋に、それ以外のものは中部屋に集まってトランプを始めたようだ。
二人はすぐには参加せず、休憩する事を選んだようだ。

「加賀もくんの?」

「ごはん食べてちょっと暑いー」

風呂の後に食事をとった為、少し体が火照っている。
二人はガラス張りの扉を開けバルコニーに出ると、設置されていた椅子へ腰をかける。

「おー、涼しい。 でもずっと居ると風邪ひきそう」

外は火照った体にはちょうど良いが、そのままずっと外にいれば湯冷めして風邪をひいてしまいそうな気温であった。

(タスケテッ)

「……? 何か聞こえたような」

脚をぶらぶらしていた加賀であったが、ふと聞こえた既視感のある声に首をかしげる。
そしてその直後、がちゃりと背後の扉が開く音が聞こえる。

「お、うーちゃんも涼みにきたのか? って、何か食ってる?」

うー(おちてた)

扉をあけて入ってきたのはうーちゃんであった。
その頬は何故かこんもりと膨らんでおり、時折ゴリゴリと何かを削り取るような音が聞こえてくる。
うーちゃんは飴はかじる派であるらしい。

「いやいや、拾い食いしちゃだめだぞ? ……加賀? 急に真顔なってどした?」

うーちゃんの頬にあるのが何であるか察した加賀。
思わず真顔になるのであった。
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