異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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329話 「バクスのお願い4」

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レプラのお肉を求めて縄張りである雪山へと向かった一行であったが、真冬の雪山の寒さはさすがにこたえるようで寒そうに身を震わせる者がちらほらとみられる。

「さみぃー!」

「やはり地上と比べて寒いな」

ヒューゴあたりはその代表であろうか、寒さに弱いわけではないだろうが声がでかいため目立つのだ。
一方彼らと同行することになったバクスはというと至って平気そうである。

「バクスさん平気そうっすね」

「あれ? 耐寒装備だったっけー?」

灰狼族であるガイはその特殊能力を使い全身に毛皮を生やして寒さを耐えている。
シェイラは全身にもこもこした装備を着込んでおりそれで寒さに耐えている、だがバクスはというとぱっと見は鎧を着込んでいるだけで特別寒さ対策はしていないように見える。
宿で聞いた話によれば魔法ダメージ半減などの効果はついていたが寒さに関係するものはなかったはずであり、平気そうにしているバクスを不思議そうに眺めている。

「インナーがそうだ」

「あ、なるほど……」

インナーが寒さ対策……おそらくこれも魔道具だろう。
バクスが全身に身に着けているものは服から装備に至るまですべて魔道具なのだ。
長年探索者のトップをひた走っていたバクスだからこそここまで装備を整えることが出来たのであって、通常の探索者はそこまで装備を整えることは出来ないだろう。

現に一度ダンジョンを踏破している宿の探索者達であってもそこまで揃ってはいないようだ。

「あー……くそ、あの糞エルフめ。 今日に限って休むとか言いだしやだって……」

「耳が冷たいんだってさー」

いつも行動を共にしているアルヴィンであるが、今日は参加していないようだ。
どうもエルフの尖った耳は寒さに弱いらしく、それを理由に休んだようである。

「あぁ? 耳当てでもすりゃいいじゃねーか」

「音聞こえにくくなるからねー」

「おめーはどうなんだよ。 耳当てしてんじゃねーか」

「私のはこれ魔道具だし、ちゃんと聞こえるもん」

「ああ、そーかい」

実際シェイラがそうであるのだから耳が寒いのなら耳当てをすればよい。
そう思ったヒューゴであったがシェイラのは魔道具であり、アルヴィンはおそらく持っていないのだろう。
そういうことなら仕方がないかとヒューゴは軽く息を吐いて歩を進める。


山に入って3時間ほど経っただろうか、あたり一面真っ白な雪に覆われた緩やかな斜面で且つ、開けた場所を彼らは歩いていた。
尾根は滑落が怖いのと、傾斜が急なところは雪崩が怖いのでそういったところを歩くことにしたのである。
これが相手に遠距離攻撃の手段があれば悪手かもしれないが、レプラは突進してからの牙による突き上げか、発達した腕での薙ぎ払いがメインの攻撃手段であり、その辺りの心配は不要だ。

「そろそろ縄張りに入るはずだが」

「ぬ……地響きっす!」

「来るぞ、構えとけ」

「魔法で足止めするからそこ狙ってねー!」

縄張意識が強いというのは本当であった、レプラはバクス達が縄張りに入ると同時に彼らのもとへと一直線で向かってきていたのだ。
それは近づくにつれて地響きとなり、やがて遠目に雪煙が迫ってくるのが見えた。

雪煙の中心に見える、黒っぽいものがレプラなのだろう。
このままバクス達に突っ込もうと加速したところで、そうはさせまいと放ったシェイラの魔法がレプラの足を巨大な氷塊に閉じ込める。

火系の魔法は雪が蒸発して酷い事になるので今回は封印しているようである。

「おっし、でかした! っうおりゃぁぁえええええっ!?」

脚を封じられたレプラは盛大に転び、そしてそのままズザザザッと雪上を滑り出す。
それをみてヒューゴはチャンスとばかりに切りかかるが、だがその瞬間レプラを封じていた氷塊が砕け、レプラの2対の長大な牙がヒューゴを襲い、ガゴンッと鈍い音があたりに響き渡る。

レプラは巨大な氷塊を力にまかせて砕いてしまったのである。
そんな恐ろしい力を持つレプラの一撃を受けたヒューゴであるが……。

「あっぶねえ!」

「うわ、思ってたよりパワーある」

「前衛は回避に専念しろ、避け切れなければ盾でいなせ。 間違っても正面から受けようとするなよ?」

きっちり盾で受け止めていたため無事であった。
盛大にすっ飛ばされはしたが幸か不幸か下は雪原である、落下によるダメージなども無いようだ。
だが受け止めた腕が痛むのか、盾をもつ腕がブラブラしている。

こうしてレプラとの戦いの火ぶたが切って落とされた。



「くっそ、ラヴィ無理やりでも連れてくりゃ良かったぜ」

腕を治療し、戦線に復帰したヒューゴが愚痴をこぼす。
自分ではまともに受けることも出来ないレプラの攻撃もラヴィならばかなり対抗できるはずだ。
だが、今日の戦いにラヴィは参加していない。

「さすがにこの寒さは無理だろ」

以前卵のために狼と追いかけっこをしたラヴィであるが、さすがに真冬の山中は無理だったようだ。
今頃ストーブの前で燻たまでも食べていることだろう。

「皮膚はそこまで硬くないね、矢は通るよ」

「槍は刺しっぱなしにしとけ、血抜きになる」

レプラの毛皮は分厚く硬いが、竜種ほどではない。
探索者達が普段使っている弓矢であれば易々と貫ける硬さであった。
槍も同様だ、戦闘開始してからものの数分でレプラの体には無数の槍が突き立っている。
穂先に特殊な加工をしているようで、槍からは大量の血液が垂れ流しとなり湯気が立っている。

「お腹はなるべく狙わない……首いける?」

「無理言うなっつーの!」

「なるべく狙うが、難しいな。 頸動脈切れれば一発なんだが」

肉が目当てなので毒を使うわけにはいかない、それに内臓の下手な部分を傷つけると肉がダメになる可能性がある、よってそれ以外の部分を狙わなければいかないのだが、レプラの脚は非常に発達しておりダメージを与えるには相当な手間がかかるだろう。
首を狙えればいいのだが、それをするにはレプラの腕を掻い潜り、さらには横に広がるように伸びた牙の一撃も避け、さらには本体の体当たりにも対処する必要がある。 難易度はかなり高いだろう。


「おっしゃ、牙折れた!」

探索者達はまずレプラの攻撃手段を奪うことにしたらしい。
牙を執拗に狙い続け、ついにヒューゴのカウンター気味にはなった一撃がレプラの長大な牙を打ち砕く。

「っずああぁぁっ!!」

牙がなくなればある程度首も狙いやすくなる。
バクスは腕の一撃を盾でいなすと、下から振り上げるように剣を一閃した。
雪原にレプラの血が盛大に舞った。

「首いったあ!」

「やった! あとは無理しないで距離とってこー」

首への一撃は間違いなく太い血管を切断していた。
致命傷だろう。

あとはレプラが力尽きるまで守りに徹するのみである。
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