異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

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プロローグ

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 青々とした木々が鬱蒼と生い茂る森の中、開けた場所に不意に二つの人影が現れる。

 一人はかなり小柄で体格的に恐らく子供だろう。
 その人物は自分の手足を見つめていたかと思うとあたりキョロキョロと見渡す。そして近場に手ごろな大きさを岩を見つけるとそこに腰を掛けた。
 どうやらその場から動く気は無いように見える。

 もう一人は先ほどの人物よりもかなり大柄である。
 こちらも自分の手足をまじまじと見つめていたかと思うと何やらポーズを取り、そのまま動かなくなる。しばらくして再起動したかと思うとどこかに向け歩き出した。

 不意に現れた二人は一体何者なのか、時点は二人が現れる数時間前に遡る。


 ◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇


 時刻はちょうどお昼過ぎ、夏の日差しが照りつける中二人の男性が歩道を歩いていた。

 一人の名は『八木隆志』職業は建築デザイナー。
 もう一人の名は『加賀命』職業は料理人、近くの洋食店で働いている。

 二人は昔からの知り合いでいわゆる幼馴染と言う奴だ、今日はたまたま二人の都合が合った為一緒に昼食を食べに行く所である。
 そんな良くある昼時の光景。だが二人が信号で立ち止まり、ふと太陽の方に顔を向けた所で二人の意識は途絶える事となる。

 二人が気づいた時、辺りの景色は一変していた。
 そこは先ほどまでいた歩道の上ではなく、ぎらつく太陽も歩道を行き交う人々の姿も無い。ぼんやりと明るい白い霞のかかった不思議な空間に二人は存在していた。

「へっ!?」

「え、なに。何ここ?」

 急に周りの様子が変わったことに驚きの声を上げる二人。
 二人が驚くのも無理はない、つい先ほどまで彼らは昼食をとるべく二人で歩道を歩いていた、それが気づいた瞬間この異様な空間の中にいたのだから。

「あー、気が付いた?」

 驚き固まる二人の後ろから話しかける者がいた。
 まるで鈴の音のような綺麗な声ではあったが、二人は急にかけられた事に驚き反射的に振り返る。彼らの視線の先に居たのは一人の非常に整った顔立ちの女性であった。

「驚かせちゃった? ごめんねー、私はイリア。神様やってます」

 君たちの世界のじゃないけどねーと笑いながら二人に手を振る女神を名乗る女性。
 突然変わった周りの様子と女神と名乗る女性の出現に二人は頭の処理が追い付かないのか固まったままだ。そんな二人を尻目に女神はここが何なのか、そして二人がなぜここに来てしまったのかを語りだす。

「ここはねー、魂の集う場所。君たちに分かりやすく言うと死後の世界だね」

 死後の世界と聞いてあたりを見渡す二人、周りには白い靄が漂っておりあまり視界は良くない。だがよくよく目を凝らすと二人の頭上に帯状の物が存在するのを見てしまった。それは数えきれないほどの人の群れがゆっくりと動いている姿であった。

「君達はもう死んでいる」

 何となくそうではないかと思っていた二人であったが、改めて言葉にされるとやはりショックは大きい。
 茫然自失となった二人へとイリアはある取引を持ち出す。

「二人はの経歴見せてもらったよー。建築家と料理人なんだってね。ほんと二人ともちょうど良いタイミングで来てくれたよ。私たちが管理する世界に神の落とし子として……あ、神の落とし子ってのは私達みたいな神が地上に住む人々に恩恵を与える為に遣わす存在の事ね」

「はぁ」

「なるほどー?」

 まだまだショックから立ち直れていない二人、イリアの話に対する反応もどこかうわの空だ。
 二人の様子を見てイリアは少し時間を置いて話を続ける事とする。落ち着いてから話を聞いて貰わなければ困るのだ。

「落ち着いたかな? それで話の続きだけどー、私達の管理する世界に行って技術を広めてほしいの。報酬は……異世界とは言えもう一度人生をやり直せる。これが報酬って事でどう?」

「どうするよ、加賀」

「どうするって……受けるよ、まだ未練あるもん」

 加賀の回答にそうだよなあと呟く八木。
 突然の提案に悩むがやはり八木も未練があると言う事で二人とも女神の提案を受ける事になった。

「お、ありがとー助かるよ。また丁度良い魂探すのも手間だしねー」

 さてさてと呟き何も無い空間に腰かけるイリア。
 脚を組み何やらボードの様なものを手に取ると二人へと笑いかける。

「これからちょっとお話するから二人ともそこらに座ってよー。あ、何もないけど座ろうと思えば座れるから」

 イリアの言葉を本当だろうかと思いつつもとりあえず座ってみる二人。
 すると彼女の言った通り何もない空間に座る事ができた。

「座れたね。それでまず君達に行ってもらいたい世界についてなんだけど、ここって君たちの住んでいた地球の兄弟星みたいらしいんだよね。違いとしては魔力が存在するのと種族が多いのと、あと私達みたいな神が地上に住む人たちと実際関わり合いを持ってる。大雑把に言うとこんな感じだね」

 イリアはここでいったん言葉を切り、二人が話について来ているのを確認する。
 二人とも異世界と言った言葉にはそれなりになれがあったのだろう、ここまでは問題なくついて来ていた。

「ん、ただ魔法があるせいか技術面で地球に対して遅れがちでね、君達みたいな子を地球の神に頼み込んで派遣して貰ってるんだ」

「神様が直接伝えたりはしないんですか? 物によっては完成品渡してしまうとか」

「……そうだねぇ」

 八木の言葉に頬を掻きつつそれが出来れば手っ取り早いんだけどね、と呟くイリア

「神は何柱も居てね、みんな自分のところに出来るだけ恩恵与えたいと思う訳で……下手すると歯止めが効かなくなりそうなんでどこまで介入するか決めてるんだよね。で、落ち着いたのが記憶持たせた人を現地に送るって方法」

「なるほど、進んだ文明の人送っても現地でそれを再現する術がなければ意味無いし、だから入ってくるとしても少し進んだ文明の技術ぐらいになると」

「まあ、そんな感じ……じゃ、決めなきゃいけない事がいくつかあるからそれ片付けて行こうか」

 そう言ってイリアは先ほど取り出したボードをじっくりと眺めて行く。
 ふむふむと頷きながら眺める様子をじっと見つめる二人。

「ん、ああこれね。君たちの経歴みたいの書いてあるんだよ」

 ボードを手に持ち軽く振って見せるイリア。
 ちらりと書いてある内容がみえるが、細かい文様がびっしりと書き込まれており残念ながら二人には理解できなかった。

「大体わかったよ。まず向こうに転生してもらうにあたって加護をあげるんだけど、それの内容を決めちゃうよ。あ、あまり強力なのは上げられないからね? 以前は強力なのあげてたんだけど現地で大規模な戦争が始まっちゃって、技術云々よりもその加護が利用されるようになって……結果的にしばらく魂派遣して貰えなくなってしまってねえ」

「それって最近のお話ですか?」

「うんにゃ、50年以上前の話だよ。君たちは再開して初となる神の落とし子ってわけ、結果が良ければ追加で魂派遣してもらえるようになるし、ぜひがんばって欲しいねー。それで加護の話に戻るけど、どんなものを希望するかな? とりあえず思いついたの言ってみてよ」

「んー、それじゃあ──」

 加護について何度かやりとりし結果としては貰える加護はかなり大人しめなものとなった。
 内容は八木が身体能力の向上、加賀が魔力の小向上と種族特有の食中毒をさける為の謎能力をそれぞれ貰った。

「それで種族特有の食中毒とかは避けれるはず、簡単に言うと君が作ったものは誰が食べても人が食べたのと同じ状態になる……はず」

「はず?」

「それ私が作ったわけじゃないから……たぶん、前任の神だとは思うけど。じゃ次は外見だね、これは趣味で……趣味で用意してある奴を使う事になるから簡単な希望あればそれに合う奴にするよ?」

「趣味なのは否定しないんですね……」

 希望と言われ思わず顔を見合わせる加賀と八木の二人。
 趣味と聞いてどこか不安を覚えたのだろう、加賀はおずおずと手を上げイリアに向かい話しかける。

「あの、今と同じと言うのは……」

「だめ、目立つよ。もう戦争やって無いし加護も強力じゃないから戦力として徴用される事はないだろうけど、生活安定するまでは危ないよ」

 危ないと言われれば従うしかないだろう。
 八木も加賀も転生して即死亡なんて言うのは御免被るわけで。

「20歳前後でイケメンでお願いします!!」

「…………」

 自分の欲望に忠実に要望を出す八木。
 加賀はそんな八木をみてまじかーと言った表情で固まっている。

「ほい了解。加賀ちゃんは?」

「ぇ……10代でイケ……外見は良いほうで、八木と被らないのでお願いします」

 なんだかんだで加賀も欲望に忠実ではあるようだ。
 イリアは加賀の要望もあっさりと承諾するとそうだと呟き言葉を続ける。

「体のどこかに神の落とし子って判別する様の紋様が出来るから、これは神の落とし子ってばれるまで見せないほうが良いよ。 誰かがその紋様を描こうとすると描いたそばから消えるようになってるから、もし神の落とし子だって証明しないといけなくなったら見せてね」

 紋様の説明を聞いて頷く二人を見てイリアは満足げに頷くと次いで転生先の説明に移る。

「最初は神の落とし子ってのは大々的に言いふらさないようにしたほうが良いから普通に暮らす事になると思うけど、転生先は治安も良い方だし景気も良いから仕事もすぐ見つかると思うよ。あ、出現場所は街から少し離れた森の中にするね、混ざると困るし。そこ、危険な生物もいないから安心して」

「混ざるとか何それ怖い」

「あー、じゃあ俺がそっち行くから加賀は動かないで待っててくれるか?」

「ほいほい」

 とりあえず話を聞いてちゃんと理解してくれてそうな二人を見てイリアは再び満足げに頷くとあ、そうだと呟く。

「もうちょっとしたら転生して貰う訳だけど、二人とも他に何かある? お願いでもなんでもいいよ」

 叶えられるかどうかは別だけどね、と笑うアイネ。
 二人とも転生するにしてもどうしても心残りが一つあった、それはもう会う事のない肉親や友達などだ。
 二人は可能であれば別れの挨拶をしたい旨をイリアに伝える。

「いいよ、夢枕に私が立って伝える感じになるけど……そうそう手紙書いてもらってもいい? もしどうしてもうまく伝えられない時は渡してしまうから」

 手紙を書いてと言われた二人は少し時間を取りそれぞれ手紙を書き終え、イリアへと渡す。
 イリアは手紙の内容をちらりと一瞥し頷くと懐に手紙をしまい込む。

「ああ、そうもう一つ注意事項があった。 魔法の中に精霊魔法と言うのがあってね、これって様は精霊に頼み事をして魔力と引き換えに現象起こして貰うって魔法なんだけど、精霊の言葉理解できるのが少なくてね、実質使えるのはエルフと神の落とし子だけだから使うときは気を付けて。神の落とし子は誰とでも会話出来ちゃうからねー」

 頷いた二人に他には何かあるかと聞くイリア。
 八木はまだ聞きたい事があったようで口を開く。

「ネット見れる様にする事って出来たりしますか? と言うのもですね、俺たちの記憶は完璧じゃないですし、いずれ忘れる事もあると思うんす。そういった時ネット使えるとかなり助かるんです……」

「いいよ、そっちは後で対応する事になると思うけど。宿とか泊まれたらその時点で使えるようにするね」

 そして準備も終わりいよいよ転生する時となった。
 緊張した面持ちの二人をみてイリアは安心させる様に優し気な笑みを浮かべ、二人へと話しかける。

「あ、そうそう言い忘れてたけど、君達って寿命ないから。転生したまま年取ることもないよー」

 そんな笑顔からしれっと放たれた最後の一言。
 八木と加賀が驚きの声をあげる間もなく、二人の意識は暗転した。
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