異世界宿屋の住み込み従業員

熊ごろう

文字の大きさ
7 / 332

6話 「お礼は大事」

しおりを挟む
「落ち着いたか?」


「……はい」

男の問いに頭のてっぺんをさすりながら答える八木。
その顔は今度は痛みの為涙ぐんでいる。

思わず男に抱きついた八木、その八木に対する男の対応は剣の石突での一撃であった。
石突でどつくなんて、抱きつかれただけなのにちょっと酷くないかと思い恨めしい目で男を見る八木であったが

「いきなりパンツ一丁の男に抱きつかれたんだ、しょうがないだろう」

若干顔をひくつかせながらそう答える男に、確かにパンツ一丁のムキムキに抱きつかれたらそりゃ当然か……と納得するのであった。
ちなみに八木のズボンは猪の牙で無残にも引き裂かれ再び履くことは不可能である。

「まぁ良い……怪我してるんだろ、これ塗っておけ」

そう言うと男は腰に下げた袋から何やら緑色の液体が入った瓶をとりだすと八木へと放り投げた。

「これは?」

「回復薬だ、知らんのか?」

首を横にふる横に振る八木をみて一瞬怪訝そうな顔をする男であったが、すぐに元の表情に戻ると八木に薬を使うよう言った。

「まあ、ぬっておけ。打撲あたりならすぐ治る」

「へぇ~……」

回復薬は少し……いやかなり色が毒々しく八木は使うのを少しためらうが、助けてくれた上に薬までくれたんだ。使わないと失礼だろうと思い瓶に手を突っ込み液体を手に取るとそれを患部に塗りこんでいった。
そして薬は八木に劇的な効果をもたらす。

「おぉ、痛みがどんどん引いてく」

猪の突進をうけ赤くはれ上がっていた足だが薬を塗ると痛みと赤みが一気に引いていく。
ものの30秒ほどで猪からのダメージは無くなっていた。

「そっちの子は魔力切れだろうから1時間もすれば目を覚ますだろう。おきたら念の為その回復薬飲ませておけ」

「あぁ……すまない」

どうやら魔力切れは時間経過で回復するようだ、それならば大丈夫そうだと八木はほっと胸をなで下ろした。

安心したところで一つ疑問が八木の頭に浮かぶ。
この男は何者だろうか、と

八木は改めて男を良く観察してみることにした。
年齢は40前後、くすんだ金髪は後ろで束ねられ顔には無精ひげが生えている。
目つきはやや鋭く無精ひげも合わさりなかなかに精悍な顔つきをしている、何より圧巻なのはその体だ、全身くまなく鍛え上げられた筋肉、無駄な脂肪は一切無い、日に焼けた肌に所々見える傷跡これら全てが男が優秀な戦士であることを物語っている。

「まるでオ○バだな」

「俺がどうかしたか?」

「ああ、いやなんでも……知り合いにちょっと似てたもんで」

この男が何者かは置いておいてまずは礼を言わなければ、そう考え八木は改めて男へと向き合った。

「先ほどは失礼しました。どこのどなたかは存じませんが本当にありがとうございます、貴方が助けてくれなければ私達は死んでいたでしょう。私は八木、こっちの倒れてるのは加賀と言います、今は大したお礼も出来ませんが後でかならず恩は返します」

「何だ急に改まって……たまたま近くを通ったついでに助けただけだ。運が良かったとでも思っておけばいいさ。」

そう男そっけなく答えるとふいと横を向いてしまった。
……若干顔が赤い所を見るに、お礼言われるのになれてないのだろうか
それをみた八木の感想はおっちゃんの照れ隠しとかみても嬉しくないな、などと大変失礼なものであった。

「偶然でも。わざわざ危険を冒してまで助けて頂いたんです、本当貴方には感謝してもしきれません……そうだ、まだ名前を伺っていませんでしたね、宜しければ教えて頂けないでしょうか?」

「ああ、自己紹介がまだだったな。俺はバクスという。……あとな無理して敬語使わんでいいからな? さっきから背中がぞわぞわしてしゃーない」

バクスの言葉に八木は普段あまり敬語使ってなかったからなーと苦笑いを浮かべるしかなかった。

「それじゃ無理しない程度に……バクスさんはもしかして探索者なので?」

「こう見えて宿屋の店主だ」

「うっそお!?」

バクスのあまりに予想外な回答に八木は思わず素で突っ込んでしまう。

「宿屋をやる前は探索者だったんだよ。多少なまっちゃいるがなあれぐらいならわけないさ」

バクスは猪の指差しこともなげにそういった。

「それでなまってるって……うそやん」

男の体躯はどうみても訛っているようには見えなく、鍛え上げられたそれである。
ここで八木はふとイリアが言っていたことを思い出す。

「向こうの人ってムキムキな人多いからね」

なるほど、つまりはバクスのような者もこの世界では普通の存在……?
街中を闊歩する筋肉粒々の男たち、そんな光景が思い浮かび八木の背中に寒いものが走る。

「ところで君達はなんでこの森に?」

「いやそれがな、この辺りに街あるだろ? そこに行こうと旅してたんだけど……まあぶっちゃけ迷子だ」

「そうか……」

バクスは八木の言葉を怪しいと思ったのか。何やら胡散臭そうな目で八木を見ている。
それに気が付いた八木は失敗した、という表情を浮かべた。

旅をしている、それにしては二人共まともな荷物を持っていない、街から街への移動だけでも徒歩ならそれなりにかかり、野宿する事もあるだろう。
なのにこの荷物の少なさ……胡散臭そうに見られるのも仕方がない。
八木がどう言い訳しようかと悩んでいるとバクスはさらに言葉を続けた。

「他人の趣味をとやかく言うつもりはないが……その格好で街に入るつもりだったのか?」

「そっちかい!」

思わず突っ込んでしまう八木。
どうやらバクスは荷物よりも八木の格好のほうが気になったようだ。
パンツ一丁で旅するムキムキな男、街の入り口で御用になるのは間違いないだろう。

「いやいやいや、違うって! ズボンはこいつの牙でやぶかれちまったんだって……ほら、もう腫れ引いちゃったけど足腫れてたデショ!?」

「そうか……わかった。で、上着は?」

「……」

「他人の趣味をとやかく言うつもりはないが……」

「誤解ですってばあ!?」

八木の叫びがあたりにこだました。 
しおりを挟む
感想 27

あなたにおすすめの小説

ナイナイづくしで始まった、傷物令嬢の異世界生活

天三津空らげ
ファンタジー
日本の田舎で平凡な会社員だった松田理奈は、不慮の事故で亡くなり10歳のマグダリーナに異世界転生した。転生先の子爵家は、どん底の貧乏。父は転生前の自分と同じ歳なのに仕事しない。二十五歳の青年におまるのお世話をされる最悪の日々。転生チートもないマグダリーナが、美しい魔法使いの少女に出会った時、失われた女神と幻の種族にふりまわされつつQOLが爆上がりすることになる――

やさしい異世界転移

みなと
ファンタジー
妹の誕生日ケーキを買いに行く最中 謎の声に導かれて異世界へと転移してしまった主人公 神洞 優斗。 彼が転移した世界は魔法が発達しているファンタジーの世界だった! 元の世界に帰るまでの間優斗は学園に通い平穏に過ごす事にしたのだが……? この時の優斗は気付いていなかったのだ。 己の……いや"ユウト"としての逃れられない定めがすぐ近くまで来ている事に。 この物語は 優斗がこの世界で仲間と出会い、共に様々な困難に立ち向かい希望 絶望 別れ 後悔しながらも進み続けて、英雄になって誰かに希望を託すストーリーである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

【完結】乙女ゲーム開始前に消える病弱モブ令嬢に転生しました

佐倉穂波
恋愛
 転生したルイシャは、自分が若くして死んでしまう乙女ゲームのモブ令嬢で事を知る。  確かに、まともに起き上がることすら困難なこの体は、いつ死んでもおかしくない状態だった。 (そんな……死にたくないっ!)  乙女ゲームの記憶が正しければ、あと数年で死んでしまうルイシャは、「生きる」ために努力することにした。 2023.9.3 投稿分の改稿終了。 2023.9.4 表紙を作ってみました。 2023.9.15 完結。 2023.9.23 後日談を投稿しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

転生小説家の華麗なる円満離婚計画

鈴木かなえ
ファンタジー
キルステン伯爵家の令嬢として生を受けたクラリッサには、日本人だった前世の記憶がある。 両親と弟には疎まれているクラリッサだが、異母妹マリアンネとその兄エルヴィンと三人で仲良く育ち、前世の記憶を利用して小説家として密かに活躍していた。 ある時、夜会に連れ出されたクラリッサは、弟にハメられて見知らぬ男に襲われそうになる。 その男を返り討ちにして、逃げ出そうとしたところで美貌の貴公子ヘンリックと出会った。 逞しく想像力豊かなクラリッサと、その家族三人の物語です。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

処理中です...